高校生の時、『りっくん』という友達がいた。
身長170センチほどの痩せ型、塩顔のイケメンで、将棋部かテニス部に入ってそうな感じなのに、なぜか柔道部に入っていて、クラスではいつも気怠そうにしていて、学校もサボりがちで、だからといってヤンキーというわけでもなく、正義感が強くて、陽キャがイジメてる子の机を教室の外に出してクスクス笑ってると、無言で立ち上がってその机を教室の中に戻すことができるような不思議なヤツだった。
イジメられてる子を助けて、陽キャから「かっこいい~」と、からかわれても、「だせーことすんなよ」とボソっと返すのがかっこよかった。
記憶が正しければ、りっくんに話しかけたのは俺からだ。
「俺も空手やってたんだ」みたいな感じで。
りっくんは柔道部なのに、なにが『も』なのかは不明だが、とにかく、それをきっかけに仲良くなったのを覚えている。
りっくんは不思議なヤツで、見た目はそれなりに良くて、陰キャがつけないヘアーワックスをつけてバシっと髪をキメてたし、なんかダルそうな感じもヤンキーぽかったし、学校の校則で禁止されているにも関わらず関係ねぇよってロックな感じで原チャで通ってきてたけど、ヤンキーじゃなくて、陽キャグループにも入ってなくて、俺みたいな陰キャグループにも入ってなくて、かと言って一匹オオカミ!って感じで尖ってるワケでもなくて、休み時間はいつも寝たフリしてるような人だった。なのに、二人きりで話す時は芸人みたいに面白いヤツだった。
だから好きだった。変な意味じゃなくて、個性的でカッコいいなぁと思ったのだ。
なにより前述したように、陽キャ連中がイジメられてる子の机を教室の外に出してニヤニヤした時、俺だって「こいつら……!」と思ったけど、助けてからかわれたり、バカにされるのが怖くて、なにもできず見てみぬフリをして友達とどうでもいい会話をして気づいてないフリして、あえて知らんぷりしたのに、りっくんは動いた。
今になって思う。りっくん、彼は大人だった。
この歳になって思うのが、後になって後悔して、自分を嫌いになるくらいなら、やれることをやるべきなのだ。誰に嫌われようが恥をかこうが馬鹿にされようが、そんなものは過ぎ去ってみれば本当にどうでもいいことなのだから。
……で、本題。
今日のテーマ『放課後』
あれはたしか、文化祭だか体育祭だかが終わった後の放課後だったか。
陽キャ主催の、クラスの男子全員参加の腕相撲大会が開かれた。と、いうのも、その時の担任の先生が、なんか分からないけど皆頑張ったので、全員にお弁当を奢ってくれるという話になって、一人500円までで好きな弁当を選べということになったのだが、陽キャがそれだけじゃつまらないと言って、腕相撲をして優勝者はどれだけ高い弁当でも頼んでもいいことにしようというミニゲームが催されたのだ。
こういう時、やっぱり強いのはヤンキー連中だ。たぶん普段、喧嘩してるからだろう。
いっぽう、陽キャはあんまり強くない。なんなら恰幅のいい陰キャに一瞬でのされることもある。しょせんヤツらは勢いだけだ。いや、ベツに俺が陽キャを嫌ってるとかそういうわけではなく、真実として。
そして、俺も、それなりに強かった。なにせ中学までは伝統派空手を習っていて、こう見えて黒帯もとっているのだ。現にクラス19人の男子のうち、11位という高成績を納めた。
そんで散々、書き連ねてきた『りっくん』の成績は、ここまで書いたのだから当たり前というか一位だった。
陽キャも陰キャも女子も関係なく、皆が応援する中、勝ち残った『りっくん』とクラスのヤンキーの一騎打ち。あの時じゃないだろうか、文化祭や体育祭より、クラスが一丸となった感じがあったのは。
結果は『りっくん』の圧勝だったけど、ヤンキーも「つえーわ」とか言って笑ってたし、陽キャも陰キャも盛り上がってて、女子も楽しそうで、先生も笑ってて、そこにイジメやからかいなんか1ミリもなくて凄く良い雰囲気だった。
腕相撲大会が終わって、弁当を先生が買ってきてくれた、すっかり夜の学校の放課後。物凄い非日常感があった。
「楽しかったな」
一人だけ1000円近くする、すき焼き弁当みたいなのを喰いながらりっくんが言う。
普段そんな気配りなど絶対しないくせに、陽キャ連中がペットボトルのお茶を皆に配ってくれる。もちろん、ふだんイジメられてる子にも。女子が「お疲れ」と笑顔で声をかけてくれ、飴やお菓子をくれる。ヤンキーが「結構やるやん」と俺の肩を叩いて笑う。
「うん、楽しかった」
あの頃、300円いくかいかないかくらいだった高菜弁当をくらいながらりっくんに答える。
こんなふうにクラス全員、仲良い日がずっと続けばいいと素直に思った。皆、普段、かっこつけたり大きく見せようとしたり、子供ながらに駆け引きしたり、いろいろあるけど、一皮むけば子供で仲良くなれるのだ。
だけど楽しいのは今日だけだ。明日から、また日常が始まる。
陽キャは、やはり誰かをからかってイジメるだろうし、ヤンキーもフンって感じで冷たくなる。俺達もそちら側に関わろうとはしない。
楽しかったけど、無性に切なくなった。
……と、いうような昔話を、一昨年のお正月に帰省した時に久しぶりに会った『りっくん』に居酒屋で飲みながら話して聞かせた。
俺としては、あの時の『りっくん』の心情などを聞きたかったのだが……
「はは、あったなぁ、そんなこと」
そう言って笑うと、りっくんはスマホの画面を俺に見せた。
「これ、こないだうちの妻と子供とお義母さんで旅行に行ってきたんだけど、ゴーカート乗ってさ……」
俺の話はさらっと流され、幸せな画像を見せつけてきて、なにか、自分語りまで始まってしまった。
まったく、大人の放課後はつらいぜ……
10/13/2024, 9:15:04 AM