本日のテーマ『願い事』
仕事終わり、スーパーに寄った。ホールにある休憩スペースに笹と短冊が飾られていた。それを目にして俺はようやく気がついた。
昨日は七夕だった。
そうはいっても歴史について詳しく知っているわけではない。民俗学に明るいわけでもない。俺が知っているのはせいぜい、ヒコボシ様とオリヒメ様というなにか神様的な存在の人たちが一年に一回会える日という事実だけだ。
まぁ、おめでたい日なのであろう。だからこそ皆もその一年に一回だけ会える二人の再会にあやかってお願い事を短冊に書いて笹につるすのだろう。実際、俺がヒコボシ様だったらその日は浮かれてるだろうから少しくらいのお願いなら「いいよ、叶えてあげるよ」って感じで聞いてあげると思う。
と、くだらない余談はここまでにして……
俺は短冊に書かれた願い事を見つめながら思った。
(みんな、結構、現金だな)
書かれていた願い事の多くは具体性を帯びたものだった。それはたとえば「幸せになりたい」だとか「健康でありますように」って願い事ではなくて、「ユーチューブの登録者が1万人にいきますように」とか「今年中に目標額まで貯められますように」とか、そういう感じの願い事が目についた。
もちろん俺が意図してそういう変わったものを拾っていた可能性はあるが……
断っておくが文句を口にするつもりはない。俺がそれらを見て思ったのは、「そんな感じでもいいの?」って感想だけだ。
俺的には神様にお願いするのだから建前というか、ここは嘘でも「皆が健康にいられますように」ってな感じで欲を出さないほうが、神様側としても「あー、じゃあ、まあ、片手間だけど君らのこと注視しとくよ」って気にかけてくれるような気がしていたからだ。
すこし邪な気持ちが湧いた。
短冊が置いてあり、「ご自由にどうぞ」と書かれていて、皆が思い思いの願い事を書いているのならば俺だって好きに書いていいはずだ、と。匿名なのだから誰になにの気を遣う必要もない、と。
しかし俺は結局、何も書かずに立ち去った。立ち去り、スーパーでカットサラダとお惣菜のヤンニョムチキンとハイボールを買って帰った。
ベツに何か心を震わせる出来事があったわけではない。短冊の願い事の中に俺の心を揺さぶる純粋無垢な子供の願い事があったとか、誰かに声をかけられて諭されたとかではないのだ。
単純に、休憩ホールに飾ってある短冊を近くによって見ているだけで、皆からめっちゃ見られるのだ。もうそりゃ、あいつなにやってんだ?って感じで。
逆に聞きたい、皆はあの状況で願い事を書いて短冊を笹に飾ったのか?どんなメンタルしてるんだ。
本日のお題「青い風」
昔、俺は曲がったことが許せなかった。
大人は全員、汚いと思っていた。お金持ちは全員、悪いことをやっていると根拠もなく信じこんでいた。
そんな俺だから当然、大人に反発した。
お世話になった先生方に「うるさい!なにもわかってないくせに!」
いつも優しかった母さんに対して「しったふうなこというなよ!」
ううん、青い。青い風が吹いているのを感じる。
そして俺は大人になった。
職場の後輩から時たま言われるのだ。「この会社は〇〇がおかしい」と。
俺もそう感じる。
俺個人の意見はこうだ。
「嫌なら辞めればいいじゃない。そういうもんだよ」
そう伝えようとした時にふと頭の中に出てくるのは、かつての恩師たちや母さんの言葉だ。
俺は頭の中に浮かんだその言葉を彼らにそのまま伝えている。
「そんなこといわないで、もう少し頑張ってみよう」
当時はなにも響かなかった言葉だ。なにいってんだこいつらとすら思っていた。だが、今ならわかる。
きっと若い彼らにも伝わらないだろう。なにいってんだコイツ?と思われるだろう。
だが、いつの日か彼らにも伝わってほしい。青い風の伝播ってやつだ
本日のテーマ『夢を描け』
描く。夢を。ノートに。
最初の1ページ目に『ケーキ屋さんになりたい』と書いた。
母さんが毎年誕生日に買ってきてくれるイチゴの乗ったショートケーキが好きだったから。
でも皆から男のくせに変なのと馬鹿にされて恥ずかしかったので破り捨てた。
2ページ目に『宇宙飛行士になりたい』と書いた。
俺が小学生の頃に人気だった職業だから。
本当はたいしてなりたくなかったし興味もなかったのですぐに破り捨てた。
3ページ目に『漫画家になりたい』と書いた。
自分より遥かに絵を描くのが上手い同級生がいて、その人の描いた絵を見た時にページを破り捨ててノートごと踏みつけたくなったがなんとか我慢した。
4ページ目に『インテリアデザイナーになりたい』と書いた。
専門学校にまで通ったのに普通になれなかったので破り捨てた。
5ページ目に『お金持ちになりたい』と書いた。
通帳の残高を見ると悲しくなってくるので考えるのをやめた。
なんだこれは……俺にどうしろっていうんだ……!夢も希望もなにもないぞ!
夢を描くノートに残っているページの枚数も中盤くらいに差し掛かってきている。
ここらでなんとか軌道修正しないと、チラシの裏に書いた感想文のまま俺の人生は終わってしまうかもしれない。
なにか、なにかないのだろうか、俺にはもう夢がないのか……
そんなふうに考えながら、どこに持ち込むでもない、誰に見せるでもない漫画を一人で描いている。
6ページ目には加えられない。漫画でいうところの外伝ってやつだ。
目まぐるしく過ぎた4月も終盤に入った。
もうすぐ皆が心待ちにしていたGW(ゴールデンウィーク)がやってくる。
直訳すると黄金週間。
今年のソレは最長で11連休もあるそうだ。それだけ休みがあれば何でもやり放題で、その気になれば徳川の隠された埋蔵金を求めてトレジャーハンティングに時間を費やすことも可能である。
上手く事が運べば大判小判がザックザクでウハウハの、まさしく黄金週間といった感じだ。
まぁそんな簡単に妄想が現実化するわけない。
だいたい一般の人は11連休も休みを与えて貰えない。そこまでたくさん休めるのは大手の企業に務めている人とか経営者の人くらいのものである。
実際、俺だってちょっと無理して無理やり5連休作るので精一杯だったし。
休み明けに連勤になるのを加味して考えると、黄金週間っていうより休日を前借りしてるだけの借金週間って感じだ。
それでも連休は連休である。じゅうぶんにGWの気分を味わえることだろう。
…と、いうわけで、さてGWは『どこへ行こう』
ここで大事なのは出来るだけ具体的に行き先を思考することである。
ぼんやりと、どっか行きたいなぁ、と考えている程度だと結局、何もせずに家に閉じこもって連休を無為に消化してしまう。
たとえば皆さんも今日は仕事の日だから仕事に行く、洗剤のストックが切れたから買い物に行く、余裕を持ってこう考えていると必ず仕事に行くし必ず買い物にいくはずだ。
そう、大事なのは、やれるかやれないかではなく、好きか嫌いかでもなく、目的を事前に決めているかどうかだけなのだ。
なのでせっかくだしココで目的を決めてしまおうと思う。
目的……GWにやるべきこと……草津温泉に行く。
数珠繋ぎのように直ぐに答えは出た。
というのも、知ったこっちゃないだろうが俺は無類の温泉好きである。
これまで俺は数えきれないほどの温泉地やスーパー銭湯を湯めぐりしてきている。その過程で右足の小指と薬指の間に水虫までうつされているのに、それでもやめられないくらい好きなのだ。
そんな俺が温泉マニアのメッカといっても差し支えない草津温泉に足を運んだことがない。屈辱でしかない。
草津町公式ユーチューブチャンネルをチャンネル登録しているこの俺が。
行く必要がある。現地名物の銘菓、花いんげん甘納豆も食べてみる必要がある。
GWの5連休という好条件を前にして行かない理由はどこにもなかった。
しかし草津温泉は遠い。
行くとしたら泊まりになる。
旅館を今から予約するのは難しいので、ネカフェやビジネスホテルで宿泊することになるだろうが、まぁそれはべつにいい。
それに幸い、金はある。
もちろん散財できるほどはないけど、人生経験のために使用する費用なので、ソシャゲに課金したり使いもしないクレープ製造マシーンや綺麗な丸い氷を作れる製氷機を通販サイトで買うよりかは有益なお金の使い方であるはずだ。
とにかく。
今年のGWは草津温泉に行こう。決定だ。
どうか皆、今年のGWは草津温泉「湯畑」湯滝前のライブカメラの映像から目を離さずチェックしていてくれ。
馬鹿でかいリュックを背負って帽子を被った変なヤツがカメラ目線で手を振っていたら、ソイツが俺だ。
『物語の始まり』を目にした時、俺はいつも目を輝かせて食い入るように画面を見つめている。
いくつか例を挙げる。
たとえば映画。
目が覚めると病室。辺りはシーンと静まり返っている。長い眠りから覚めた状態で意識が混濁しているのもあって、何がなんだか分からないといった表情で病室から出てあたりの様子を覗う主人公…
周辺に転がっている半壊した車椅子や散らばった書類、それに血塗れの脱ぎ捨てられた白衣…自分が眠っている間に暴力的な出来事が病院内であったのは確かだ。その原因を探るべく不穏な雰囲気に臆しつつも光が差す方向へ歩を進めていく主人公…『物語の始まり』として完璧だ。
たとえばゲーム。
近未来的な工業コンビナートのような情景の一部分に画面がズームアップされていく。
そこに走っているのは電車。ホームに停車した電車の中、ではなく、なんと上から飛び降りてきた謎の集団が『なにやってんだお前ら!?』と駆け寄ってきた駅員を蹴り飛ばして気絶させる。
駅員を一蹴した謎の集団が走り去って行った後、一呼吸おいて電車の上から飛び降りてきた謎の集団のリーダーと思われる筋骨隆々な浅黒い肌の男が最後に降りてきた金髪ツンツン頭の男に向かって言う。
『行くぞ新入り! 俺に続け!』
そこでイベントは終わり、プレイヤーは金髪の男を操作できるようになる。何がなんだか分からないままそれでもとりあえずリーダーの後を追うしかない。隠された謎を解明するために前に進む。『物語の始まり』として最高の導入だ。
たとえば現実。
目が覚めるとボロアパートのベッドの上。
仕事が休みなので電車に乗って近くのショッピングセンターでやっているフリーマーケットを覗きに行く。
茶碗の良し悪しなんてなんにも分かってないくせに、青色の綺麗な飯茶碗を手に取って眺める。つけられている値札を見たら800円もしたので壊さないようにソっと定位置に戻す。
フリマの催しに伴って出店している屋台でたこ焼きでも買って食べようかと思ったけど、お金がもったいないと思い直して往復の電車賃だけ使って何も買わず何も発せぬままアパートに帰宅して酒を飲む。
『物語の始まり』において最悪の始まり方だ。何かが始まる気配すらない。酒を飲んでしまっているので今日一日が無駄に終わるだけまである。
それでも俺とて出来る限り家に閉じこもらないことを心がけている。
それは自分から動かなければ何も始まらないのを俺は知っているからだ。まぁ動いてみたところで事態は好転しないので結局一緒なのだけれど。
俺が取っている行動は仰向けになってしまったセミが起き上がろうと必死にもがいているのと同じで、やってみたところで無駄な足掻きなのと同義なのかもしれない。
しかし映画やゲームで例えたのだからそれらにならうと、俺の人生なんて視聴やプレイを始めてからまだ30分を過ぎたくらいのはずだ。
30分間なんてグダグダでしょうもない日常を延々と描写されていたとしても、そこから一気に面白くなってきたり、どんでん返しがあったりするのを期待できる微々たる時間である。まだ慌てる時間ではないのだ。
……そうだよな?
誰にともなくたずねてみる。