『忘れられない、いつまでも。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#81 人生ビール
忘れてしまいたい苦い記憶を
忘れてしまったことにしたくて
とりあえず瓶詰にしていたが
とうとう部屋が瓶で埋まってしまった
これでは、忘れたいのに忘れられない
瓶だらけの部屋で途方に暮れた
中身が入っていては町のごみ収集に出すこともできない
産業廃棄物としてなら処理できるのだろうか???
と悩む毎日
ある満月の夜
結局、忘れられないものなのだ
いつまでも。
....と諦めのような
割り切りのような
開き直りのような
ともかく、
そういう記憶とも共にあることを決め
栓抜きで瓶をかたっぱしからあけはじめた。
瓶の中身がシュワシュワとあふれだし
月夜に溶けはじめる。
長い間、瓶詰にされていた大半の忘れてしまいたい記憶は
すでに時間に溶かされ、ただの炭酸水になっていたけれど
溶け切らなかった多少の記憶が苦く濁りながら胸の中にしまわれた
これも時間とともになくなっていくかもしれないし
そうではないかもしれないし....
でも、もうどちらでもいいことだ
これからは人生の苦味もビールのように
味わって飲み干していくのだから_
お題「忘れられない、いつまでも。」
「キミの隣にずっといたい。結婚してください」
そう言った俺に
「…はい」
口を手で覆い、瞳を潤ませキミは笑顔で答えてくれた。キミが俺の想いを受け止め、プロポーズを承諾してくれたときの笑顔。その笑顔を俺は、忘れられない、いつまでも。
【忘れられない、いつまでも】
姑に言われた言葉の数々、忘れられない。なのに本人は平気な顔して何もなかったかのように頼みごとをしてくる。
「あの時あなたはこう言ったでしょ」と言ってやりたいのに耳が遠くなり、都合の良いことだけ聞こえるなんて…ストレスがないから卒寿を過ぎても元気ハツラツでいられるのだろう。こちらの体力、気力が吸い取られているような気さえしてくる。
姑からの言葉を忘れられるのは私が認知症になったときかも、と思うと忘れられる時がくるのも恐ろしい
#1
#44 忘れられない、いつまでも。
降りしきる眼前の情報
静かな森に閉じ込められた
忘れたくない記憶の淵に
流れ込んできては
様々なものと絡み合って風化させる
あなたは白い掌だ
わたしにそっと触れてきて
石碑の文字を慈しむように
湿った緑の覆いを払ってくれる
涼しく、孤独で、密やかな深淵に
植物を気にしながらも
知りたいという欲望に駆られて
立ち入ってくる
死体は実のところ、どこか
掘り返されたがっているのかもしれない
だからわたしは
安らかに埋葬された記憶を
忘れることができないのだ
いつまでも、ずっと
君と共に過ごした青い春。
あの3年間はきっと走馬灯にも出てくると思う。
君と共に過ごした甘酸っぱい青い春。
【忘れられない、いつまでも】
いつまでも忘れられないこと。
そう聞かれて、とっさに何か思い浮かぶわけではない。
ただ、思い当たる“忘れられないこと”は多少あるけど、それが“忘れられないこと”だと思いたくないだけだ。
私は、忘れたくないことを、いつか忘れてしまうのに、絶対に忘れたいことをいつまでも忘れられない。
人間の脳は、「思い出」という名の記憶と「トラウマ」という名の記憶という区別は可能であるにも関わらず、忘れたい記憶と忘れたくない記憶の区別は困難らしい。
都合よくトラウマが消えることもなければ、いつまでも思い出を鮮明に振り返ることもできない。
まぁ、私には、どうしようもないことだ。
そんな惨めさと物悲しさが、いつまでも私にはある。
ずっと記憶に残る物。
人の優しさ。
何個か忘れられない優しさがある。
何でそこまでしてくれるのか分からない。
ただ、感謝してる事。
忘れられない、いつまでも。
きっとその反対に人への憎しみも記憶に残るんだろうな。
忘れたくても忘れられない、いつまでも。
【忘れられない、いつまでも】
※なお、私は霊感まったくありません。
俺の上にのしかかった女の、真っ赤な唇が囁く。
「忘れられない体験にして、あ、げ、る」
「そりゃ誰だって忘れられないでしょうよ令和の時代にボディコン幽霊に襲われたら。後日SNSで愚痴っちゃいますよ誰も信じてくれないだろうけど」
俺はただいまパンツ一丁の格好で自宅のベッドに横たわり、女の幽霊――たぶん色情霊とかいうたぐいのやつに襲われている。深夜二時、草木も眠る丑三つ時。草木が眠るんだから俺も眠りたい。なんでいい感じに寝入ったところを、恋人でもないやつに起こされねばならんのだ。
一応、俺の名誉のために言っておくが、べつに幽霊女に脱がされたわけではない。夏はパンイチで寝る習慣があるだけだ。そのせいで、初っ端から絵面がとんでもないことになってしまった。読者の皆様には謹んでお詫び申し上げます。
「あれ、金縛りになってるわけじゃないのか」
俺は幽霊女をすり抜けてあっさり身を起こした。
「中途半端に霊感がある人には、効かないのよね」
幽霊女がふいっと浮かんで、悔しそうに舌打ちする。
たしかに俺にはちょっとした霊感があって、余計なものを見てしまうことが稀によくある。今日もうっかり目が合ってしまったから、こうなる予感はあった。まあ、どこぞの潰れたスナックの前で退屈そうに佇む時代錯誤のボディコン女に、つい目が釘付けになったというかなんというか、そこは男のサガでして、決してやましい気持ちで見ちゃったわけではないんです。だから夜這いは勘弁してください。
いや、幽霊相手にしたてに出る必要はない。体を動かせるならすでに勝負はこっちのもんだ。俺にはインターネットで学んだ歴戦の幽霊撃退法がある。
俺はやにわにパンツを脱ぎ捨て、全裸になった。剥き出しのケツを両手でバンバン叩き、白目を剥きながらベッドを忙しなく昇り降りする。
「びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!」
「な、なにそれ……おったまげー……なんですけど……」
目を丸くした幽霊女が、天井付近で硬直する。俺も硬直した。
「も、もしかして、ご存知ない? そして、効かない!?」
今までの幽霊は、みんなこれで撃退してきたのに!?
唖然とする俺を、首を傾げてふしぎそうに見つめる幽霊女。
真夜中の二時。カーテン越しの街灯でうっすら照らされた部屋。床に投げ捨てられたパンツ。ベッドに片足をかけた全裸の俺。白目がちに天井を見上げている。両手はまだケツの上。
できることなら、今すぐ記憶を消し去りたい。過去に遡ってインターネットの知識ごと葬りたい。
ふいに、幽霊女が噴き出した。
「ふふっ、ナウいじゃん、おもしろい男」
「ウワーッ建ってはいけないフラグが建った!」
幽霊女と青春ラブロマンスを繰り広げるつもりは毛頭ない! これはもう一刻も早く成仏していただかねば! 毛頭のない寺生まれのTさん、都合よく助けに来てくれ! 俺は国分寺生まれのイニシャルTでニアミスなんだよ!
俺はパニックに陥り、思わず全裸で土下座を決行した。
「すみませんが、ただちにお引き取りください。俺には十年間片想いしてる子がいて、その子のために純潔を守り通してるんです」
「えっ、キモ……。でももう、あなたに取り憑くって決めちゃったのよね。四十年ぶりぐらいにあたしを見つけてくれた、唯一の人だから」
俺の目の前まで降りてきた幽霊女が、気だるそうにワンレンをかきあげる。
「あなた、あたしがこの世を移動するための、アッシーにならない?」
「古っ……いや、アッシー目当てならいちいち襲う必要はないだろ! 憑いてまわられるのもごめんだけど!」
「あなたのしょうゆ顔、けっこう好みなのよね。せっかくだから生気を吸い取って、一緒に成仏するのもありかな、なんて」
「成仏する気はあるんだな!? 俺はないけど!」
「そりゃまあ、できるもんなら成仏したいわね。ずっと幽霊ってのも退屈だし」
「よしわかった、俺があんたの成仏に全面協力しよう。幽霊がこの世にとどまってるのは、未練があるからだ。あんたはいにしえのバブリー時代から残ってるようだが、いったいなにがそんなに未練なんだ? アッシーが欲しかったのか? まだバブル期を遊び足りないとか、男とデートしたかったとか? それとも、男にフラれた恨みでもあるのか? まさか、誰かがまだあんたのことを想ってて、この世に縛り付けてるパターンか?」
「そういうパターンの幽霊もいるだろうけど、あたしは正反対よ。あたしのことを覚えてる人が誰もいなくなって、世界のすべてに忘れ去られてしまったことが未練で、こっちにとどまってるの。幽霊になってれば、いつかは誰かにあたしのことを見つけてもらえるでしょ。あなたみたいに」
「幽霊の未練も多様性の時代かよ」
この世から忘れ去られた人間がどれだけいると思ってるんだ。そんな理由でいちいち残られてちゃ、幽霊の人口密度が人間より多くなってしまう。人間より六倍羊が多いニュージーランドかよ。
「じゃあ、俺があんたのことをずっと忘れずに覚えてたら、あんたは心置きなく成仏できるってわけだな?」
俺にのしかかってきたとき、忘れられない体験がどうのと言っていたのも、未練のせいか。
「そうねぇ。あなた、あたし好みのハンサムだし、あなたが墓場に入るまであたしのこと覚えてるって約束してくれるなら、成仏してやってもいいわ。もし忘れられたらすぐに戻ってきて、思い出させて、あ、げ、る」
ちくしょう、なんてたちの悪い呪いだ。
これで俺は幽霊女のことを、正真正銘、本当に忘れられなくなってしまった。それも、一生。
仕方ない、あとでSNSに愚痴って、筆記による記憶の定着を図るか。いっそ、最近始めた書く習慣アプリに、愚痴と一緒につらつら書き残しておこうか。
「生きてるあいだも、幽霊になってからも、すっごく退屈な人生だったけど、最後に忘れられない素敵な思い出ができたわね。あなたのおかげよ、ハンサムさん」
本当にもう成仏する気らしい。彼女の姿は薄れつつあった。えっ、早っ。こんなスピーディ成仏ができるなら、これまでのグダグダなフリは、俺の全裸土下座は、なんだったんだ。
「俺たち、この十数分のあいだに、そんな素敵な思い出になるような友好を結びましたっけ……?」
もうほんのり影を認識できる程度になっていた彼女から、クスクスと笑い声が聞こえる。
「びっくりするほどユートピア」
「それは忘れてくれー!」
俺の深夜の叫びは、誰もいない天井に吸い込まれていった。翌日、大家さんからしこたま怒られましたとさ。どっとはらい。
「感謝」
子供は、生まれつき低緊張がありなかなか
動けなかった
少しずつ色々な、人達と関わりながら
リハビリをしたり療育に通ったり
して動けるはばも増えてきた
皆さんは、あまりご存知ないかも知れませんが
小児用車椅子があります。
一見するとベビーカーに見えたりしますし
ほとんどの方がベビーカーと思われていると
思います
電車に乗るにも気を使い目線を感じたりもします
ベビーカーなのに畳まないと思われているかも
とも思います。
病院の受診には、必ず電車が必要です
駅員さんの介助も必要です
でも、いつも笑顔で対応していただきます。
また、来てね。待ってるよ
乗車後も手をふり頭を下げて見送ってくれる
感謝しかないです。
名前は、分かりませんがどのスタッフの方も
みんな親切でそのお陰で病院に通えます
本当に本当にありがとうございます。
感謝しかありません。
いつかは忘れていく。いつかは生きる速度が忘れる速度に追い越されてしまう。
忘れられない、いつまでも
忘れられないことがある。
それはいつだったか、春から夏にかけてのことだった気がする。
当時小学生だった私は、周りに馴染めず浮いていた。
見た目も気にせず服のセンスも悪いし、隅っこで絵を描くのだけが大好きな暗い子だった。
男子にはバカにされたし、しょっちゅう先生のもとで泣いていた。
だけど、その時に妙に仲が良かった子がいる。
その子も私と同じように浮いていた子で、今思うとなんで一緒にいたのかわかんないような子だったけど、仲良く絵を描いたり、ゲームしていたような気がする。
ある日、その子が転校することになった。
今思うとその子はわりと家庭に問題のある感じで、まあなんか色々と訳アリな転校だった。
でも私は嫌だった。また一緒にゲームしたい。また遊びたいという想いもあったが、母からはあまり触れないでほしいと言われ、結局最後のお別れの時も何もできなかった。
私はあの時の後悔が少し残っている。ありきたりだけど、これが私の忘れられない思い出。
そしてネットが跋扈してるこの時代に、少し彼女のことを調べてみた。
mi◯iの身内向けページに一個だけあったアイコンの写真。
懐かしさに目が潤むが、彼女の見た目はすっかり変わってしまっていたようだった。
会いたい気もするけど、思い出は思い出のままでいても良いのかな、という想いも少しある。
放課後。
課題を出しに職員室に向かった友達を待ちながら、
廊下の掲示スペースに張り出された先月の川柳大会の作品を見ていた。
うちの学校では、テーマに沿った川柳を作る大会が月イチで開催されているのだ。
初代校長の趣味が川柳だったとかなんとかで(よく覚えてない)開校以来続いているらしい。
大会といっても賞や景品が出るわけではないのだが、意外と参加者は多い。
文系の教育に力を入れている学校なので、意識の高い生徒が多いのだろう。
ちなみに私は読む専の文系女である。
それにしても、今月も3人に1人は好きな人が死んでいる。誰が決めているのか、最近はなんだかポエミーなテーマばかりなせいだろう。
先月は世界が終わるとしたらとかなんちゃらで、今月は初恋。
毎月毎月、なんだか湿った作品が多い。ちょっと食傷気味だな、なんて読み専のくせに好き勝手な感想を抱きながら目線を動かしていく。
いつまでも 忘れられない 五十音
(……?)
なんとなく足を止めた。
なんだか気になって作品の解説欄を見たが、空白だった。
誰の作品だろう。ワンチャン知り合いだったら色々聞けるかな、と続いて名前欄に目をやると、見覚えのある名前だった。
確か、去年同じ学年に転校してきた女の子。
顔を全然覚えて無いし話したこともない。マジで他人だ。良くも悪くもなんか暗いし影が薄い印象だったのは覚えてる。
一応同学年という繋がりはあったけど、コンタクトは無理そうだ。
でもやっぱりなんか、作品が気になる。
……話しかけるの、アリかなあ。
入学してから2年半、今の友達関係にはそれはもう満足してるし、毎日楽しく過ごしている。
今更新しく友達を作りたい、なんて気は全然なかった。むしろ受験控えてるのに今から友情育んでどうすんだよ、って感じだし。
でも、ちょっとだけ。本当にちょっとだけだけど、彼女と話をしてみたい、なんて柄にもないことを思った。
とりあえず、数年ぶりに初対面の人への話しかけ方を復習しよう。
忘れられない、いつまでも
母親は忘れているだろうけど、
幼少の頃、夫婦喧嘩から離婚の話になり、多分、父の愛人と思われる、綺麗な人の家に数日いた記憶がある。
昔、炭鉱の町で育ち、流れ者が多かったけど、大人の人は、面白くて、個性的な人が多かった。
そして、組合幹部の娘だったので、周り可愛がってもらった。
愛人の人は、母親と違い、ヒステリックではなく、本当の意味で大人だったから、むしろ、その人の元で育ちたかった。
しばらくして、家に戻ったけど、
言ってはいけないと子供ながらに思い、口に出さないで今に至る。
うちの母親は、中卒だけど
ヒステリックは学力には関係なく、
その人の問題だと思う。
私が男性なら、母親みたいな女性は嫌だなって思い、育ったけど、結婚した旦那がヒステリックになる事があって、ウンザリする。
結局、これか。
と思う。そして、そのたびに、綺麗な愛人の人を思いだす。
忘れられない、いつまでも
幾年もの時が過ぎた。
街はすっかり元の活気を取り戻しつつあった。
これから、人間はまた
愚かに繰り返していくのだろうか。
かつてを忘れて
今を愚直に開拓していく。
それでも
悠久を生きるこの体を
幾万もの命を見送ろうと
忘れられない出来事
数えきれない恨みと感謝を
背負って
活きていく。
かつて敬愛したあなたの
教えに背を向けて
自分の信じるものを
見つけたのでしたが
大人になることの淋しさに
今もまだ慣れません
いつの間にか
あんなに手の届かなかった
あなたという高みが
平行に 横に並んで見えた
そのときの驚きを
なんと言えばよいでしょう
感謝の言葉だけで
過去と決別したわたしを
どうか
許してください
あなたはいつまでも
わたしの先生です
#忘れられない、いつまでも。
「『忘れられない』。……わすれられないか」
コロナ禍初期、封鎖された公園と、一台も駐車場に車が無い大型ショッピングセンターは、強烈過ぎて今でも覚えてるわな。当時を想起する某所在住物書きは、茶を飲みチョコを口に放って、小さく息を吐いた。
「少なくとも2通りある気がすんの。
バチクソ強烈で消したくても頭から消えないか、
覚えて忘れそうになって再発して覚えて忘れそうになって再発してをずっと繰り返すか」
ガチャ爆死の事例は、前者後者双方あるだろな。物書きは唇を噛みしめ、忘れ得ぬ○万円の散財を思う。
――――――
忘れそうになった頃に思い出す香りがある。
職場の先輩のアパートで、先輩がたまに焚いてる香りだ。アロマポットみたいな焼き物から出る香りだ。
それが何か昔聞いたことがある。先輩は、ほうじ茶製造器と言いかけてすぐ、茶香炉、と言い直した。
キャンドルの熱で茶葉――主に緑茶の茶葉を温めて、ほうじ茶にするついでに香りが出るとか。
大抵甘くて、たまに甘くなくて、そのいずれも優しくて。要するにほうじ茶製造器だ。
先輩の家にご飯をたかりに、ゲホゲホ!……食事ついでに仕事の手伝いをしに行くと、数回に1回エンカウントするので、いつまでも覚えてる。
別に、嫌いでもない、穏やかな香りだ。
大抵その香りがする日は先輩低糖質スイーツとお茶出してくれるから、良い香りとして記憶してる。
「先輩今日茶香炉キメる予定無い?」
「『キメる』……?」
職場でクッタクタに疲れることがあったりすると、数回に1回、無性にあの香りを思い出す。
正確に言うならあの香りと先輩のご飯を。
「例の課長にゴマスリしてばっかりの、ゴマスリ係長から仕事丸投げされたの。頑張って終わらせたの」
多分、香りが優しくて、珍しいからだ。
ミントでもサンダルウッドでもない、グリーンティーのオイルともちょっと違う香りが、優しいからだ。
あと多分先輩の塩分&糖質控えめご飯が心と健康の味方だから。
「いつでもまず相談しろと、言っているだろう」
「先輩ゴマスリから別件押し付けられてるでしょ」
「それは、……まぁ。ごもっとも」
「私お肉とお野菜出すから。なんなら先輩の仕事手伝うから。今日茶香炉キメる予定無い?」
「肉も野菜もこっちにある。……少しだけ、こちらの案件を手伝ってもらえれば」
「やった先輩愛してる」
香って、覚えて、おぼろげになって忘れかけて、
また香って覚えて、おぼろげになる。たまにこっちから香りを迎えに行く。
それが繰り返される、先輩の部屋の茶香炉の香り。
「パスタと豚肉の何かと、実家から届いた根曲がり竹の予定だったが。変更のリクエストは?」
「ネマガリダケ?」
「ホイル焼きで、一味か七味にマヨネーズを」
「ねまがりだけ、いず、なに……?」
これからもきっと、思い出して忘れかけてが続くだろうから、多分いつまでも忘れられない、と思う。
空想が好きだった
叶わない願いも、度胸の伴わない夢も、存在しないものも何もかもそこにはあって良いから
そこに等身大のスケールは無いから
でも、いつしか気付いてしまう
その空想に意味はないこと、意味のないことに時間を割けるほどの余裕が自分には残されていないことに
空想が嫌いになった
日々に刻まれた数字が自分の形を痛いほどに写してしまうから
型取られた自分の直径が限界の距離だと知ってしまったから
やがて切削された形は1/1すら失った。
自身の定義を簒奪した破片の塊がそこにはいた。
その頃には空想は失われていた。
それでも忘れられない
いや、忘れたくない
辿り着けないほどの遠大な宇宙は、
その実、
自身と形を同じくする等身大の実像であったことに気付いたから
だから、願って歩くのだ。
最早叶わぬ願いと知っていても、
この骸はそのためだけに動いているのだから。
皆さんは、
「扇風機をつけっぱなしで寝たら凍死する」
という話を聞いたことはないだろうか?
わたしは子どもの時に聞き、ずっと信じていた。
大人になってから、それが海外にはない噂であり、迷信であると知った。
そもそも冷房はつけっぱなしで寝る。
しかし扇風機をつけっぱなしで寝たことは未だにない。勇気がない。
#忘れられない、いつまでも
「行ってきます」
きみはそう言って、わたしに手を振る。
わたしは手を振り返して、答えた。
「行ってらっしゃい」
いつもの風景。
けれど、なんだろう。なにか引っかかる。
きみを、行かせてはいけないと。なぜかそう考えている。
きみを引き留めようと、手を伸ば——せない。体が動かない。
どうして、声も出ない。きみを、なんだか、止めなくっちゃあいけないのに。
なんで、なんで、これじゃあきみを、
「っ!! 、……」
夢。古い記憶が元の、夢。
それを理解して、深く、深く、溜息をつく。
あの日から——きみが帰って来なかった、あの日から。
「……一体、何十年経ってると思ってるんだか」
——――――――――――――
忘れられない、いつまでも。
そうとう前の話だけど、恵比寿の中華料理店で食べた冬瓜の餡掛け料理の味が忘れられない。冬瓜てこんなに美味しかったのかと刮目した。あれからだいぶ長いこと生きてきたけどあれ以上に驚愕したものを食べていない。そこで松本零士に会えたのも記憶を強化している要因かも。本当に星のマークの帽子をかぶってた。