「行ってきます」
きみはそう言って、わたしに手を振る。
わたしは手を振り返して、答えた。
「行ってらっしゃい」
いつもの風景。
けれど、なんだろう。なにか引っかかる。
きみを、行かせてはいけないと。なぜかそう考えている。
きみを引き留めようと、手を伸ば——せない。体が動かない。
どうして、声も出ない。きみを、なんだか、止めなくっちゃあいけないのに。
なんで、なんで、これじゃあきみを、
「っ!! 、……」
夢。古い記憶が元の、夢。
それを理解して、深く、深く、溜息をつく。
あの日から——きみが帰って来なかった、あの日から。
「……一体、何十年経ってると思ってるんだか」
——――――――――――――
忘れられない、いつまでも。
5/10/2023, 1:33:34 AM