『忘れたくても忘れられない』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「忘れたくても忘れられない」
小学校三年生のとき、ひとつの都道府県について1枚のレポートを作成する課題がでた。
家に秋田県に関する本があったので、特産品や祭りなどの行事について調べて書きまとめた。
少しスペースが余ったので、本に載っていた秋田県の火災件数のグラフを書き写して提出した。
すると、担任の先生から「どうしてこのグラフを載せたの?載せた意味はあるの?」と聞かれた。
怒ると非常に怖い先生だったため、恐怖に怯えた私は、スペースを埋めるために書いたことを正直に話した。
先生曰く、グラフや表を載せるなら、何を伝えたいか、そこから何が分かるかをきちんと考えて載せなさい、とのこと。
社会人となり、業務に関する資料づくりをするようになってから、この言葉の意味を痛感している。
恐怖とともに甦る師からの助言は、忘れたくても忘れられない私の宝物である。
( 思いつき次第 。 )
- 忘れたくても忘れられない
- 未定
姉が小学校二年生の時、二つ下の私は来年小学校に上がる頃の話。
夏休みに姉が描いた絵が、ナントカ子供展に入賞した。
駅近くのビルで展示してるということで
母は姉と私を連れて見に行った。
ま、その辺は私の記憶にはない。
その帰り道、駅に向かう途中で交通事故を目撃した。
バイクに車が衝突したらしい。
前に通行人がたくさんいたし、小さかったので
衝突の瞬間は見えなかったが
大きなヒトガタが信じられない位の高さまで跳ねられて
落ちていくのが見えた。
翌朝、姉が新聞の地元の記事欄を見ても載ってなかったと
言ってたので命は助かったのだろうか。
あの光景は忘れたくても忘れられない。
その後だいぶたっても、例えが不謹慎かもしれないが
数学の授業で二次関数の山型グラフを見ただけでも
ゾッとする程だった。
例えば、
初めて君を見た時の吸い込まれそうな瞳とか、
鼻をくすぐった君の髪の香りとか、
それこそ鈴が鳴るような君の笑い声とか、
握った時の君の手の柔らかさとか、
抱き締めた時の君の小ささとか、
白い箱の中で眠る君の穏やかな顔とか。
食器洗いの最中に、よく思い出す。
あと、洗髪中。
詳細がよみがえる前に、ごめんね、って何度も言う。
もう許されているかもしれないけど。
ごめんねの印象の友人が数人。きっと、今後も会わないね。
【忘れたくても忘れられない】
※BL要素がありますので苦手な方はお気をつけください。
お互い忙しくて、実に二ヶ月ぶりの彼との逢瀬だった。
といっても、本当は会うつもりはなかった。声だけで伝わってくる迫力に押されて、半ば諦めで交わした約束だった。
「あれ、この場所……」
仕事帰り、俺の会社の近くで落ち合い、短い夕食を取ってから彼の車に揺られて三十分近く。
車から降りて、彼の背中を追いかけるうち、記憶の隅で眠っていた光景が徐々に鮮明さを取り戻していく。
「思い出してくれた?」
足を止めた彼は、わずかに目を細めてどこかほっとしたように告げた。
夜景が素晴らしいわけでもない。恋人との定番デートスポットなわけでもない。自然が多く遊具はほぼない、中規模な公園というだけだが、頭の中をからっぽにしたいときにうってつけの隠れ家だと彼に教えてもらった。
それ以上に彼にとっては、あの日から一番大事な場所なのだろう。
けれど、俺にとっては大事だけでなく、とんでもなく恥ずかしくて、両手で壊れないように包み込みたくて、ある意味目を背けたくて、苦しくて……喜怒哀楽が乱暴に混ぜられたような、簡単に形容できない感情がこみ上げる場所。
なぜ、彼はここに連れてきた?
「なんで、ここに?」
「……お前さ、ここで俺に好きだって言ってくれたよね」
喉の奥が詰まる。
あのときのことは、今でも鮮明に思い出せる。
彼への想いを自覚してしまっても、親友のままでいなきゃいけないと足掻いていた。
最初はうまくいっていたのに、恋情というのは全然言うことを聞いてくれない厄介者で、制御を外れて暴走しそうになるのを何度か繰り返していた。
そのたびに、心がひどく、疲弊した。
「お前がすげえやつれてるから、仕事でなにかあったのかと思って無理やり吐かせたらまさかの俺が原因ってな。本当にびっくりしたっけ」
彼は逃がしてくれなかった。内心をうまく吐き出せない俺の性格を熟知した彼なりの優しさだとわかってはいたけれど、仇になる日が来るとは想像すらしていなかった。
今思えば、心のどこかで楽になりたいと願っていたのかもしれない。
『もう、もうほっといてくれ! これは俺の問題なんだ、お前は関係ないんだよ!』
『……それじゃ、俺はもう用済みか』
『っは、なに』
『俺はお前のこと一番の友達だと思ってたし、お前もそう思ってくれてるって思ってたけど、違うみたいだな。俺の自惚れだった』
『ち、ちが』
『違わないだろ。お前は俺になんでも力になるって言ってくれるけど、お前はそうやってひとりで抱え込もうとしてるし』
『……っ言えるわけないだろ! お前が好きなんて、言えるわけ……っ!』
まるで漫画みたいな話だけれど、本当にぽろっと表に出てしまった。
それでも、いわゆる「怪我の巧妙」みたいな話で、実は両思いだったことがわかって、そのときは素直に喜びに浮かれていた。
「気づいてるか? 今のお前、そんときと一緒の顔してるぞ」
半分、予想はしていた。
思わず苦笑が漏れる。
「笑ってるなよ。お前、また無駄なことひとりで考えてんだろ」
一歩、彼が距離を詰める。反射的に後ずさろうとして、腕を掴まれた。
「なんで避ける? 俺、お前になんかしたか?」
やっぱり、会おうとしていないことに気づいていた。
――あのときと同じ。彼自身はまったく関係ない。いや、ある意味関係していると言える。悪い意味ではない。
一番は、俺自身の弱さ。俺がもう少し強い人間だったら。
あるいは、嘘がうまかったら、自然に友達に戻れていたのかな。
「……まさかとは思うけど、馬鹿なこと考えてない?」
普段から細めな彼の瞳が、一層細まる。
「い、痛いって」
「お前変なとこでネガティブだからな。ある程度想像つくけど、一応言ってみ?」
痛い。痛いけれど、俺への想いを強く感じる視線。怒りだけでなく、こちらの身を本気で案じているのがわかる。
彼の想いはまったく揺るぎない。それなのに、俺は。
「……俺とじゃ、これから先、君を幸せなままにできないんじゃないかって」
続きの言葉は、彼の肩口に消えた。
「やっぱり馬鹿なことだった。なんだよそれ」
背中に回った腕に力が加わる。
「なんでお前が勝手に決めてんの。だいたい俺たち付き合ってまだ半年も経ってないじゃん。普通ならまだ幸せオーラばらまいてるときじゃないの?」
彼らしい軽口だったけれど、笑うより泣きそうになる。
「誰かになにか言われた? それともそういう情報かなんか見て勝手に不安になった?」
違う、違うよ。
本当は、付き合えるようになったその日から、芽吹く準備は始まっていたんだ。
途中で枯らすことだってもちろんできた。できなかったのは俺の弱さのせい。世間的にはまだ物珍しい目を向けられる関係を、この先続けていけるのかわからなくなってしまった。
「で、距離を置いてどうだったんだ? 俺は情緒不安定で散々で、お前がいなきゃやっぱ無理ってなったけど、お前は違うのか?」
違う、つもりだった。
でも、どう頑張っても、一度生まれた想いが完全に消えることはなかった。
幸せにできる保証なんてどこにもないのに。彼が傷つく姿をなによりも恐れているのに。
「俺……俺、ごめん。身勝手すぎるけど、でも、俺も君じゃないと無理だって、改めて思った、よ」
もっと強くならないといけない。こんな俺を好きになってくれた彼の隣に並ぶにふさわしい人間だと、自他ともに認められるようにならないといけない。
「自覚するの、遅すぎ」
明らかに、声音が変わった。そういえば意外と素直なんだと気づいたのは、付き合うようになってからだった。
「お前みたいなネガティブ人間、俺くらいしか腰据えて付き合えるのいないんだぞ。それ、自覚してくれる?」
ただ、頷く。
「この際だから言うけど、俺は告白される前からお前のこと好きだったし、そのうち告白しようと思ってたくらいなんだ。そこで断られても、時間かけて好きにさせるつもりだったんだぞ」
初耳だ。どのみち俺は彼と付き合う運命だった、ということなのか。
抱擁を解いた彼が、少しびっくりしたように目元を拭った。
「まったく、泣くぐらいなら最初からすんなよな」
「……ごめん。だって、俺、君がはじめての恋人だから」
「だったら突っ走る前に言えって。いいか、今度から隠し事禁止な」
もう頷くしかなかった。
今日初めて心からの笑顔を見せてくれた彼は、触れるだけのキスをくれた。
お題:忘れたくても忘れられない
「響くんただいま~」
いつもの癖で言ってしまう
もちろん返事は帰ってこない
あぁ、もう君はこの家にいないんだった
君が別れを告げてから約3ヶ月……
未だに忘れられない君の香り・話し方・口癖
忘れられるもんならとっくに忘れてるよ、
ばーか……
#忘れたくても忘れられない #3
連続殺人事件を解決した探偵の勇姿を
忘れたくても忘れられない
解決後、探偵が助手に見せた微笑みを
忘れたくないのに忘れてしまう
滝壺に落ちてしまった探偵のすべてを
助手は忘れたいと思った
忘れたくても忘れられない#6
ある日、今日は星降りの夜
君の笑顔輝いてる
星の見える美しい空
今日はなぜか浴衣の君いつしか言っていた「いつか浴衣で星を見よう」ってね
あれから何年経ったのだろう
あの時の僕はいつも楽しくて浮かれていた
流れ星も流れるふたりの世界
ある日、今日は星降らぬ夜
いつだってそうだった
夏になれば無意識に空を見上げる星のない空
あの時の記憶忘れたくても忘れられないよ
あの時の君はいつも笑顔で僕も自然と笑顔になって
あの時の僕たちはいつも楽しくて
でもさ、ほら今の僕を見てよ流れ星なんて捕まえられない
流れ星は流れない独りの世界
あの時の僕たちはもう何処にもいないの
僕があの頃好きだったあの子は?ねぇ教えてよ
流れ星は?浴衣の君は?あの頃の星空
全て虚像の世界 僕の記憶は全て夢の中
それは忘れたくても忘れらない光景だった。
家中に響いた両親の悲鳴で目が覚めた。まだ五歳だった私はなにも考えず、両親の部屋へ向かっていた。走り回る音や、物が落ちる音などが響いていたのに、突然音が止んだ。両親の部屋のドアをノックしても反応はない。恐る恐る開けてみると、部屋中に血が飛び散っていて、両親は床に倒れていた。父が母を庇うようにして死んでいた。
そして、窓際にはレインコートを着た高校生ぐらいの男の人が今にも飛び降りようと構えていた。
「なんだよ、終わったと思ったのに。てか、ガキがいるなら先に言えよな」
直感で自分も両親みたいに殺されるのだと思った。だが、彼は「まぁいいや」とだけ言って出て行った。
そこからどうなったのかはあまり覚えていない。気づけば、あの顔を忘れらないまま、あの時の男と同じくらいの年齢になっていた。
そして、高校の帰り道。二十代半ばぐらいの男に声をかけられた。俺を覚えているか、と。当然、記憶になく否定すると彼は笑った。
「じゃあ、これでも見れば思い出すか?」
そう言って取り出したのは、亡き両親の死体の写真だった。暗いせいもあり、鮮明には映っていないが、それでもあの時の光景だとわかる。激昂してその首を捕えようとしたが、すぐさまかわされて後ろから締め上げるように両腕を掴まれた。
「なにがしたいの! 今度は私を殺しにでも来たわけ!?」
「そうじゃねぇよ。お前を誘いに来たんだ」
そう言って、私の腕を離すと今度は耳元に近づいてきた。
「俺を殺してくれよ」
状況が理解できないまま黙る。
「俺の代わりになる人材を探しているんだ。お前は俺に恨みがある。俺が特訓してやるから、強くなって俺を殺してくれよ」
この日から私は殺し屋として生まれ変わった。
『忘れたくても忘れられない』と思っていてほしい、と思っていてほしい。
今日という日は、いかがお過ごしでしょうか?私は今、授業中にもかかわらず、
『忘れたくても忘れられない』
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⤴︎︎︎書いている途中で、間違って投稿してしまいました。なのに、8個ほどハートがつきました。
そのおかげでハートが100達成しました!ありがとうございます。
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間違って投稿することも、神様が仕組んだ事なのかもしれません。これもまた、縁と言うのでしょうか。この出来事も、忘れたくても忘れられないものになりそうです。
この投稿は未完のままにしておきます。未完の姿が完成形、なんだかかっこいいでしょう?
五感の中で、最も強く記憶に残るものは『臭覚』です。
そう誰かが言っていた。
私はそれを信じて疑わない。
思わず口から溢れた「好き」に、目を丸くして、それから困ったように笑っていた。
ふんわり香る甘くて爽やかな香り。私の初恋。
【忘れたくても忘れられない】
忘れたくても忘れられないこびりついた記憶。
きっとそれは君を傷つけてしまった後悔。
嗚呼どうか神よ、私に罰を。
まさか人生で九死に一生を得る体験をするなんて思いもしなかった。海水を含みずっしりと重くなった服を引きずりながら身を起こすと、今しがた自分をコンクリートの上に載せてくれた「主」と向き合った。
「あの、ありがとうございます」
『……』
「今度から気をつけます。お礼とか、今何も持ってないんですけど必要なら」
『忘れろ』
でかい。こわい。そして響く声もひくい。如何とも言い難い「主」は簡単に忘れろなどと言うがこんな強烈なインパクト、忘れられるはずがない。
『難しいなら記憶を消すこともできる』
考えてることが筒抜けになっているかのように返事が来る。礼として命を要求されないだけマシかもしれないが、正直未知の生物に脳をいじくり回される方が怖い。
「忘れたくても忘れられないです。でも、忘れたいとも思わないです」
怖くて忘れられないのは本音だ。しかし、息を諦めて沈んでいく体を押し上げてくれた恩を忘れたくないとも思った。小銭すら入ってない上着のポケットを握りしめ目がどこにあるか分からない顔を真っ直ぐに見つめる。つるんとした表面に小さな細波が広がったのは、何の感情だろうか。
今思えばあれは隕石だとか落雷だとかの類で、人の尺度で測ってはいけない存在だったのだ。
記憶というものは儚くまた薄情なもので、過ぎ去った過去も苦い思い出も、かつて友人と呼んでいたものの顔すらも今では薄れてしまっている。
放っておけばそうやって勝手に消えていくというのに、どうして僕は
今日には春雨の中にいるみたいに掠れてしまった輪郭をなぞって、わざわざ明瞭に直そうとしているのだろう。
【忘れたくても忘れられない】
【忘れたくても忘れられない】
忘れたい記憶ほど忘れられない
そんな経験は無いだろうか
それはもう二度とその失敗を繰り返さないようにするためだって聞いたことがある
だからそんなに思い出して悲しんでまた思い出さないように心の奥底にしまい込むなんて事する必要はないよ
それは君を強くするものだから
ほら過去が無ければ未来はないって言うでしょ
その失敗の積み重ねで今の君がいるんだから
だから・・・
だからそんなに悲しまないで
君は僕が眠る石の前で泣いていた
忘れたくても忘れられない
私が忘れたくても忘れられないことは 子どもや犬に
酷いことをしたことです。
推し選手のインタビュー記事が載っているらしい。
公式SNSのお知らせで本屋に買いに走った私は、残り一部となっていた件の雑誌を抱き締めてセルフレジに向かった。表紙まで彼なんて聞いてない。雑誌コーナーで奇声をあげかけた。
彼のことについて少し説明しよう。
テレビに出ても見劣りしない綺麗な顔立ちと、そのスポーツに対する真摯な姿勢。普段はのんびりとどこを見ているのか分からないのだが、一度集中すれば観客に目を向けることもなく真っ直ぐ前だけを見つめている。試合中は休憩時間にファンサービスなんてしないので残念がられているが、そこが良い。
早速インタビューページを開く。青い椅子に座った彼の全身の美しさを浴びてしまって十秒ほど時が止まった。
ハッ。
意識を取り戻して、文字をおう。
内容は挨拶から始まり、今シーズンの優勝を祝うもの。身体が弱かった幼い頃の話や、高校時代の思い出話。その競技では強豪と言われる高校での生活はやはり普通とは違うもので、本当にそんなことが?と不審に思うような内容ばかり。けれど彼は話を盛るような人ではないので(逆に全てを感じたまま喋りだす)、全て本当のことなんだろう。
「今までで忘れたくても忘れられないことですか?」
―はい
「(熟考)……高校のとき、ですかね?」
インタビューも終盤というところで、インタビュアーが問いかけた内容が目に入った。高校時代、今はプロの選手となり優勝を掻っ攫っているものの、当時は伸び悩んでいたときく。彼がプロとなった後に彼を知った私は、興味本位で過去の戦績を見て、高校三年間夏の大会で一度も優勝していないことに驚いてしまった。あんなに実力のある彼が、と思うと、やはり夏の大会は他とは雰囲気とか全然違うのだろう。
そして、彼のような人でも、敗北は忘れられないことなのだろう。少し、読むの怖いな。けれど怖いものみたさで先に目を向ける。
「キラキラして、オレの視界に突然入ってきて、あれは忘れられないかなあ(笑)」
―どのような状況だったんですか?
「オレ少しメカトラ起こしちゃったんです。その時競ってたのがあの人で。フツー、先に行くんですよ、偶然のキセキで勝てるなら、そっちを選ぶ。でもあの人、待ってて。結局勝ったのはオレだけど、なんだろう、怖かったんですよね」
―試合に勝って勝負に負けた?
「そう!それ!!全然忘れられなくて、ずっとあの背中が離れない」
「もちろん、皆と戦うのは好きですよ。どんなスタイルなんだろう、とか、どんな性格なんだろう、とか、どんな進化を遂げたんだろう、とか。忘れないって意味じゃ、たくさんあります」
「忘れたいこともたくさんありますよ。色々切羽詰まって空回りしたこととか。でもそれは別に忘れても忘れなくてもどっちでもいいな」
「でも、忘れられないのはあの人だけ。あの背中は鮮明で、オレの視線を過去に戻しちゃうから」
「高校のとき競った人の中で唯一二度と本気の勝負しなかったってのもありますけどね(照)」
きっと、カメラマンは咄嗟にシャッターを押したんだろう。注釈はついていないけれど、なんとなく思う。忘れたくても忘れられないものを語る彼の表情は驚くほど輝いていて、それはまるで。
「うわ、✕✕じゃん」
じっくり見ていた私の前に座った同級生の声がする。もしかしてそろそろゼミの時間だろうか。私は顔をあげて目の前の男を見る。あいかわらず線が細いのか中性的な印象の抜けない男。
有名人を敬称無しで呼ぶ人は多いから、そういうやつだろうと軽く考えてインタビュー記事を見せてやる。
「こういう有名人のさ、忘れられない人になるにはどうすればいいんだろうね?」
「ハァ?」
別になりたいわけじゃないけれど。一度の邂逅でここまで思われるなんて少し羨ましくもある。
顔をしかめる目の前の男に、件の内容があるあたりを指差した。文字を追っているらしく目が忙しなく動いている。
そしてどんどん、変な汗をかきだした。
「…………ねえ……どうしたの?」
「…………〜~~~ッッ」
そういえばこいつ、高校時代彼と同じ競技の部に所属していたと言っていなかったか。
…………あれ?
耳まで真っ赤にして突っ伏したやつを見下ろす。
私の予想が正しければ。
忘れたくても忘れられないのは、お互い様なのかもしれない。
お題「忘れたくても忘れられない」
忘れたくても忘れられない
辛かったこと、苦しかったこと、もう皆は忘れてしまっているか、気にさえしていないこと。私だけが忘れたくても忘れられない。
傷が治っても傷跡は消えないように。
文章を書くようになった時、思い出したくない出来事の一つ一つが、書く文章に影響していることに気がついた。あんな出来事でも無駄ではないのかもしれないとその時初めて思った。
書くことで傷は書くための材料に変換される。思い出すとあの頃がリアルに甦り、余計に苦しくなるのに、書くのをあきらめたくないのはなぜだろう。書けば癒やされるというのは本当なんだろうか? まだ実感はない。
それでも生きづらいと思ったことや、身が縮むような恥ずかしさ、悲しかった子供の頃の仲間外れも、あの頃の私が踏ん張ってくれたから今があるのだ。忘れなくていいのかもしれない。生きてて良かった。今の私は素直にそう思えている。
#60