『始まりはいつも』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『始まりはいつも』
始まりはいつも他人まかせ‥昔っから
でも最近 ちょっと「初めて」に挑戦してる
小さな勇気を育て始めました
「始まりはいつも」
始まりは、いつも君。
僕はその日も、殴られ蹴られ、家から閉め出された。
3月の寒い夜だった。家の前で体操座りをして、開けてもられるのを待つ。寒くて震えてきた。僕は目を瞑って、必死に寒さに耐えていた。
どれくらい経っただろうか。肩をトントンと叩かれた。顔を上げると、知らない少年が僕を見つめていた。僕は驚いて勢いよく身を引く。その行動に相手もビクリとする。
「何してんの?」
少年が怪訝な顔で聞いてから、僕の身体を見た。痣だらけの腕。少年は何かを察したようで、眉根を寄せた。
「ねぇ今暇?」
「え?」
「ちょっと来て!」
「わっ」
少年は僕の手を引いて、どこかに向かって走って行く。ひとつの家の前で90度に曲がったと思ったら、減速せずに玄関へと飛び込んだ。
「母さーん!」
少年が呼ぶ。少年の母親らしき人が現れた。おばさんは、どうしたのと言いかけて僕に視線を止めた。血相を変えて、「とりあえず中に入りなさい」と言って、家にあげてくれた。
おばさんに根掘り葉掘り聞かれて、全てをうちあけた。僕にとってはあったことを話しているだけで、特別なことなんて何も無かった。だけどおばさんは、それは虐待というのだと教えてくれた。僕は、
「でも、お母さんは悪くない、全部僕が悪いんだ。」
そう言ったけど、おばさんは悲しそうな顔をするだけだった。
警察が来て、あっという間に僕の家は崩壊した。それが、僕にとっては嫌だった。
どうして。助けなんて求めていなかったのに。
そう思った。でも僕が本気でおばさんを止めなかったのは、どこかおかしいことに気づいている自分が居たからなのかもしれない。
僕はその少年の家に引き取られることになった。彼は最近越してきた、転校生だそうだ。もっとも、僕は学校に行っていないので、関係の無い話だが。
「なー、今度の始業式から学校行くんだけど、一緒に行かね?」
彼は自然に振ってきた。
僕は学校に行くことを親に止められていた。お前は体が弱いから。学校なんて行かなくてもいい所だから。色々な理由をつけて休まされた。今考えてみれば、痣を見られたらまずいからだったんだろう。
僕は悩んだ。何分か経った頃、やっと口を開いた。
「行ってみようかな。」
「おー、じゃあ決まりな〜」
案外軽い返事をされた。これも彼の優しさなのだろうか。
登校日。彼について行った。学校に着くなり保健室に通されて、よく来たねとか、えらいねとか、よく分からないけどたくさん褒められた。きっと警察沙汰になったことで、僕の素性を知っているのだろう。学校なのだから、報告でもされているのかもしれない。保健室の先生は教室に案内してくれた。ドアの前に着くと、ちょうど転校生の挨拶をしているところだった。教室自体久しぶりに見たし、この学校の教室は初めて見た。注目を集めたくなくて後ろのドアから入ったのに、物音でみんなに気づかれてしまった。入学してから一度も来ていなかったせいで転校生よりも注目を集める。嫌な顔をすると思って少年を見たが、少年は面白そうにこちらを見てニヤニヤしていた。
外の世界と断絶された小さな世界で生きていた僕は、少年にたくさんのことを教えてもらった。人との関わり方、話し方、友達の作り方、本当に色んなことを教えてもらった。だんだんと人と話すことの楽しさを覚えた。始めは細すぎた腕も、おばさんの料理を食べていたら健康的な肉付きのある腕に変わった。痣も時間経過とともに確実に薄くなっている。
ある日、体育の授業で体力測定があった。50メートル走7.3秒、持久走1500メートル5分37秒。彼は僕の結果を見て驚いていた。
「お前足早くね!?一緒に陸上入ろうぜ!」と誘ってくれた。僕は部活が決まっていなかったし、彼が喜んでいたから入ろうと思った。
彼とは毎日ランニングや走り込みなどをしてトレーニングした。彼が「俺らで優勝目指そう」と笑うから、僕は彼のために頑張れた。
僕らは初めての大会で県大会出場。結果は10位と11位。悔しかった。
僕らの記録はぐんぐん伸びた。2回目の大会も県大会出場。結果は8位と7位。僕は嬉しさと悔しさが混在した、複雑な気持ちを味わった。
「なぁ、お前、陸上すき?」
ある時、彼に言われた。僕は長考した。彼に言われて入ったことで、いつも彼のためという気持ちがどこかにあったのだ。しかし、今振り返ってみると、純粋に陸上に打ち込む自分がいた。
「好きだよ。」
それは初めて僕が表現した自分の気持ち。
彼はすごく嬉しそうな表情を浮かべて、そっか。とだけ言った。
僕の人生を変えたのは君だ。
君に出会えて、心の底から良かったと思う。
ありがとう、僕の人生に価値をくれて。
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毎日毎日、今日こそは短いものを書こうと思うのですが、いつもこんなに長くなってしまいます。小説執筆楽しすぎます。
恋愛ものばかり書いていたので、たまには友情を書こうと思いました。あと珍しくハッピーエンドです。
始まりはいつも
世間の物差しで測る見た目や言葉や仕草
始まりはいつも誤解から
私の心に響いてくる感情
人の目より人の意見より
ただ好きの
2人だけの物差しで
〜始まりはいつも〜
何かを変えたいと思った時
それは始まっている
わくわくと不安が詰まっている
その瞬間
私たちは始まりを迎えるのだ
上手くいくとは限らないし
今より良くなるとも限らない
でもたしかに感じているものがある
大丈夫絶対進んでいける
微かな光でも大きな光となる
今踏み出した1歩
始まりはいつも少しの思いつきと
たしかな自信なのだ
始まりはいつも足が重くなる
真っさらで自由で楽しくあれたならと頭蓋の中身に、こひねがふ
・始まりはいつも
いつも私は電話中泣いてしまう。
私は人に相談するという事が、苦手なのだ。
その時貴方は言った。
"俺になんでも相談してよ。
俺は海月(仮)に支えられてるんだから、海月(仮)は俺に支えられなきゃね"
あ。
この人は、絶対に手から離してはダメだ、と思った。
親友のひかりが不登校になった。それから、連絡は取り合っていたけれど、会うことはなかった。
だから、少し緊張する。売店でひかりの好きなリンゴジュースを買って、うちはそんなに好きじゃないけど、同じのを買った。なんとなく、仲良しアピール?
先生に教えられた、校舎外れの部屋へ向かう。以前は漫画研究会ってのがあったけど、潰れてそっから倉庫と化しているらしい。ひかりが、教室以外でならうちと会ってくれるって、先生に言ったから、そこで会うことになった。
トントントン、就活で習った三回ノック。開けると、二ヶ月前と変わらないひかりがいた。
「おひさ。」
「おひさ〜。」
話すとき、ほのかに微笑むのも、のんびりとした口調も、変わらなかった。髪も肌もつやつやで、安心した。
向かいのソファに座って、まず、うちの近況報告から入った。彼とは二週間前に別れたこと、母さんと仲直りしたこと、メッセージでも伝えたけれど、口で伝えた。
でも、やっぱり、就職先が決まったことは伏せた。
次は、ひかりの番、という空気になった。うちはリンゴジュースを口に含んで、黙った。不自然になったら飲み込んで、うちが話題を提供してあげよう、と思った。
「あたしね、」
ひかりが話し始めてくれた。ジュースを飲み込んで、相槌を打った。
「怖くなったの。」
ひかりはそう言った。うちは慎重に、訊いた。
「なにが?」
そしたら、ひかりは人差し指と親指を重ねて、限界まで折り曲げて、とってもちいさな穴を作った。
「こうやって、いずれ無になるのが。」
「無?」
「そう。」
「……死ぬってこと?」
しまった、と思った。こんなこと訊かない方が良かったかな、と。でも、ひかりは首を縦に振った。
「うん。人間ってさ、生まれる前も、死んだ後も、無なのかな。すべての生命は、無から始まるのかな。」
ひかりは、遠くを見てた。その瞳は、夢見る子供のようにも、過去を懐かしむ老人のようにも見えた。うちには、追いていけそうになかったけれど、ひかりの考えは、頑張って理解したかった。
「ここにいるみんなも、あんたも、いずれ段々ちっちゃくなって、ぷちっと消えちゃう。そう思うとね、すっごく怖いの。」
ひかりは下を向いて震えた。うちは勉強より運動の方が得意だから、やっぱりわかんないけど、ひかりは頭が良くて、悩んでるんだって、辛いことだけは伝わってきて、だから、変なことでもいいから、何か言いたかった。
「ひかりの話だとさ、そうやって無になったらさ、いずれまた、命が始まるんでしょ?そしたらさ、」
膝の上で握られた拳を、包み込んだ。
「うちらまた、会えるじゃん。ラッキーだね。」
ひかりは、うちを見て、きらきらとした大きな瞳から、涙をぽろぽろと流した。
何か言おうとして、言えなくて、しゃくりあげるひかり。うちは、落ち着くまで、手を握り続けた。
それからすぐ、ひかりは無になった。うちは間違えたのかな。また、始まれば、会えるかな。
"始まりはいつも"
始まりにはいつも隣に君がいた。
そして、
終わりにもいつも隣に君はいる。
朝起きたらまず彼のことが頭に浮かんで、ふとした時に彼のこと考えて、何かLINE送りたいなと思って、でも特に話題はないからと何も送らないでまた考えてしまう。
会いたいけど、誘いすぎはうざいかなと思って1ヶ月に1回だけ連絡する。
これって恋なの?依存なの?
漫画やドラマ、友達の話から知る恋はこういう状況も楽しいらしいけれど、この悶々としている時間は別に楽しくない。
あぁまた考えてる…なんなんだろう…って思っちゃう。
でももし、もしもの話でね、彼と恋人になったシチュエーションを想像するのは楽しい。
でも相手が彼じゃなきゃだめって訳じゃないと思う。
彼がいいな、彼だったら嬉しいなって思うけどね。
今そのポジションにちょうどいいのが彼ってだけなんじゃないかなと思っちゃう。
私は彼に恋してるのか、依存してるのか、どっちなんだろう?
もしかして恋も依存も変わらない?
水色の空
やわらかな陽射し
犬の散歩
草の香り
刈られた田んぼ
早起き雀
犬の挨拶
朝のおしゃべり
始まりはいつも
こころ穏やかに
ここしばらくは
何事もなく
こんな平和な
場所にいること
それだってきっと
大切な宝物
始まりはいつも私からだった。あなたの目から出た糸の先。私の後ろを見渡す目。一体誰を見ているの?貴方といつも一緒に居たいのに、あなたと一緒に居ると寂しいの。
ひとりぼっちみたいよ。
あなたと目はあってるのに、あなたの視線の先は私じゃない。いつからだったっけ。いつからこうなっちゃったんだっけ。あぁ。そうか、5月。私の姉が亡くなった日。
そうね、そっか、そうだよね。変わったのは貴方じゃなくて私。あなたは私を愛してくれていたのにね。ごめん。
貴方のことを愛しているのに、一緒に居たいのに、今では貴方と一緒に居ると、一緒に痛い。
さよなら愛おしい人。さようなら。愛しているわ。愛しているけれど駄目なの。
もう私は貴方を愛していない。お願い。戻れないのよ。だから、私を見ないで。
始まりはいつも雨
孤独な空
私達は終わりに向かっているの
ただ雨雲の上には、希望が広がってるよ
始まりはいつも
雨ですかね。
終わりはいつも、なら嫌われて終わりなんですけど、始まりはいつも決まっていないと思います。
先週も、プライベートで少し考えることがありまして、あー話したいな、反応聞きたいな、そう思うことがありましたが、なんとか鎮めて諦めるがいつもです。
仕事以外で普段話せる相手がいたら、どんなに楽しいことかと想像しても、メル友さんすらできずにいるのは、わざわざ長期間接したくなるほどの魅力はないのでしょう。
せめて、始まりはいつも好印象な人であったなら、短期間だけでも仲良くなれているだろうに。
文字ひとつとっても、性分でこう長く書きがちで、LINEとかメールの返事は短めがいいと、指摘されてもやめられず。
見た目は論外として話も上手くないですしね。
こうして挙げていくと、わざとじゃなくてもダメ要素ばかりという大前提。
ましてや恋愛ではなく友人募集ひとつとっても、ネットで知り合うくらいしかないですからね。
始まりはいつも思うんです。
もしかして、この人は自分と気が合うんじゃないだろうか?
だから声掛けてくれたんだろう。
どうしよう、そのうち近くなら会って話したりできるんだろうか。
遠くても気にせず、友達だよと他に紹介しても大丈夫だろうか。
自分は楽しく接しているから、きっと相手も楽しんでくれているだろう。
始まりからいつもこうして勘違い。
でも、そのうちひとりくらい、現れるかもしれないじゃないですか。
そうなんだよ、お前と接してると楽しいんだよ。
そんなこと思ってくれる人が。
そんな人現れると思います?
きっと現れると思うぞと読んでいて思ったそこのあなた。
もしかしたら、あなたのことかもしれませんよ。
いつか私と知り合うかもしれません。
その時はお世話になると思いますからよろしくどうぞ。
始まりはいつも突然だった
じんわりと始まることはあったかもしれないけどそれでも突然だった
でも始まりが突然ってことは、、、、
終わりも突然だよ
始まりはいつも
始まりはいつも私から。
終わりはいつもあなたから。
あなたのことが大好きだった私は、大学時代から何度もあなたに「好きです。付き合って下さい」と告白した。あなたは、いつも「友達でいいだろ」と告白をはぐらかしてばかり。でも何度目かの告白で、私たちは恋人になった。
3年ほど付き合ったが、あなたからのプロポーズの言葉はない。
「俺たち別れないか」
あなたからの別れ話しをどこか他人事のように聞いていた。
あなたと別れてから3年。私たちは会社の取り引き先相手として再会した。やっぱりあなたは運命の人と勘違いした私。
何度目かのデートで「好き。もう一度付き合って欲しい」とあなたに告げた。
「ゴメン。付き合ってる人がいる。結婚するつもりだ。」とあなたは少しはにかみながら言った。
始まりはいつも私から。
終わりはいつもあなたから。
始まりはいつも、友人からの誘いだった。
遊び、本、映画、趣味。
自分が知らないことを友人から学ぶことや挑戦することは楽しかったし、さほど疑問には思わなかった。
でも時々、自分は友人に何をしてあげられるのだろうかと思う時がある。
始まりはいつも友人から。
でも今日は違う。今日は私から誘うのだ。
「一目惚れからじゃない」
「いい加減に顔で好きになるのやめたら?」
恋愛小説ならエモいラブコメ展開があってもおかしくない、男女の幼馴染という関係。
だが、私たちにはそういうことは起こらない。
「そうは言ってもなー、やっぱ女は顔だと思うんだよ」
「サイテー」
「そういうお前だって、イケメンは好きだろ」
「まあ、観賞用としては、ね。でも彼氏にしようとは思わない」
「へーえ」
「私は、あんたと違って中身重視なの!」
「中身なんて、見ただけじゃわかんねーだろ」
「だから、会話して、何度もデートして、知っていくんじゃん」
「そういうもんなのか」
「そうだよ」
彼はとても惚れっぽい。
それだけではない。
彼の恋は長く続かないのだ。
いつも彼の一目惚れから始まって、猛アタックして付き合う。
そして、二週間経たないうちに別れる。
原因は、毎回同じ。
性格や価値観の不一致。
「その言い方だと、何度もデートしてるのか、お前」
「……まぁ、誘われれば。生理的に無理な相手以外なら」
「マジかよ」
「なに、そんなに意外?」
「あーいや、その……俺以外にもお前のこと、可愛いって思うヤツいるんだと思って……」
「バカにしてんの?」
どうせ私は、あんたの元カレたちに比べたら地味で可愛くないよ!
「いや、だからその、他にもお前のこと好きなヤツがいるんだと思うと、ちょっと焦ったというか、嫌な気分になったつーか……」
見たこともない表情を浮かべる幼馴染。
私は彼と距離を取ろうと一歩下がった。
「な、なに言ってんの……」
なぜ、私の胸は高鳴っているんだろう。
こんなヤツ……違うのに。
私の好みではないのに。
「一目惚れからじゃない『お付き合い』してくれねーか?」
────始まりはいつも
初対面の人とは割かし仲良しな雰囲気を醸すことができる、と自負している。
問題は2回目からだ。
ハイテンションでいくと引かれる、かといってローテーションだと不気味がられる。
あれ、初めて会った時にはどんなノリだったかしら。
思い出せない、何も。
悲しいかな、これが大体私の人付き合いの癖でして。
はじまりはいつも、謎。
2024/10/21
本日は何かを始めたり、新しい物をおろすのにいい日です。
一粒万倍日です。
今日は新しい上着を着て出かけるつもりです。
買った事に満足して何年もしまい込んでいたのをひっぱりだして、この日の為に、一昨日洗って準備しておきました。
新しい衣類は洗える物なら一回洗ってから着用する派です。
早朝からうきうきしています。
「始まりはいつも」
始まりはいつも───誰かの死から。
一周目は、親兄弟。内戦に巻き込まれ死亡。
自分だけが生き残った。
二週目は、友人を。冒険にでた道中で、魔物に襲われ死亡した。
三週目は、師匠を。自分の修行が終えると、大岩の上に腰掛けたまま亡くなっていた。
四週目は、自分だった。仲間の裏切りによって死亡。
最後に見た仲間は泣きながら「ごめん」と言った。
そして五度目の人生。立川学として日本に生まれ落ちた。
またしても、神は学に優しくない。
五週目の始まりも、人の死から始まった。
突如、都内中心部に空いた、謎の大穴の中で両親が死亡。
学はまだ4歳だった。人の死を理解できるか微妙な年頃。
父親の妹である真紀は、学に寄り添い、両親の死を教えてくれた。
その時、断片的に前世の記憶が蘇る。
学は、瞳を閉じた
───これから、立川学の人生が始まる。
両親の死から───十一年が過ぎ、学は高校生になった。
私立曙(あけぼの)高校、特攻科に入学。
この学校で、学業と共に、戦闘術や魔法を学ぶことになる。
今から、5年前───学が10歳の頃に大穴の探索に成功。
そこは現代日本とは違う、別世界に繋がっていた。
既存の動植物とは、かけ離れた姿かたちをしている生物。
魔法と思わしき力を扱える人類。
見た目も様々。二足歩行する人型の獣。耳の尖った人型の美女。
ニュースでは、写真と共に、探索を行なった人が事細かく説明していた。
そのニュースで、学の感情を大きく揺さぶったのは、一枚の資料写真。
四週目の人生で、学を裏切り魔族側に寝返った、元仲間の写真だった。
その姿は、魔族の様で。黒く牛のような大きな角。魔族の特徴である黄色い瞳をしていた。
そこで、学は彼に会いに行くことを決心。
育ての親になってくれた伯母の真紀に伝え、探索成功から2年後に設立された学校───私立曙高校特攻科に入学を決意した。
探索成功を機に、急ピッチで研究が行われていた。
現代人にとって魔法は空想のものだったが、別の世界の技術により、魔力を持つためのワクチンを開発。曙高校が設立すると同時に、魔法を扱える現代人が増えた。
12歳の学もワクチンを打ちに病院へ訪れるが、15歳からという年齢制限により拒否を受ける。
そして、入学当日。特攻科、最初の授業はワクチンを打ち、適正属性を知るといもの。
今年の特攻科は、かなりの希望者により、倍率も高く受かるのも、ひと握りだと言われていた。
ちらほら見知った顔がいる。
剣道日本一になった、天城剛健(あまぎごうけん)。
お嬢様学校で有名な泉田女子中学校出身のインフルエンサー如月夢美(きさらぎゆめみ)。
推薦入学者でモデル業をしている谷田まもる(やだまもる)。
入試試験一位合格者の新田霞(にったかすみ)。
新入生たちで校舎前は人でごった返していた。
「おうおう、どこの誰かと思えば、電波くんじゃねぇか」
後ろから声をかけてきたのは、同じ中学出身の屋井夏哉(やいなつや)。大柄な体に横暴な性格の男子生徒だ。
彼の後ろには見知らぬ男子生徒が二人立っている。
中学のころと変わらず取り巻きをすでに作ったようだ。
「屋井くん、卒業式ぶりだね」
「まさか、お前もあけ高に入学してるとはなぁ」
ゲラゲラと三人は下品に高笑いする。
「まあね……。それより、クラス分け、君は見たの?」
「あぁ、俺様は一組。こいつらは二組だった」
「そっか。……じゃあ僕も見てくるよ。まだなんだ」
「おい、待てよぉ。でーんーぱーくーん?」
ぽんと肩に手を置かれる
「ん?」
「お前……退学しろよ?」
「あー」
学は一瞬悩むふりをした。にこりと笑い屋井を見る。
彼はニヤニヤしていた。
体も大きいが、顔も一般男性の二倍はある。分厚い唇から除く、歯にはのりが挟まっていた。
気持ち悪いなぁと学は心の中でつぶやく。
肩から彼の腕をどけ「気が向いたらね」といい、その場を離れた。
「おはよう。新入生、諸君。私が1年、特攻科の指導員───小金井飛鳥だ」
180cmはありそうな高身長の女性。黒のタンクトップに迷彩柄のつなぎを腰で縛って着ていた。
「これから、君たちには血液検査を受けてもらう」
「え? ワクチンだけじゃないんですか?」
「もちろんだ。君たちの、事前健康診断の資料はすでに確認済みだ。ここで確認するのは、適正ワクチンを調べる。適性がないワクチンを打つと、重篤なアレルギー反応を引き起こしたり、魔力暴走により死亡する。そのための血液検査だ。わかったなら、クラスごと男女別に名前順で並べ!」
はいっ! とみんなが一斉に声を上げ、学は3組の列に並び検査室に向かう。
ひとまず生徒は、無機質な白い大部屋に待機することになった。
左右に扉があり、左の男、右に女と紙に大きく太字で書かれてある。
「3組の諸君、全員いるな? よし、今から男女5名ずつ名を呼ぶ。返事をしたあと、扉の奥に進み血液検査を受けろ。数秒で検査結果が出る。結果の紙を受け取り、戻ってきたらワクチン摂取の部屋に案内する。わかったな」
はいっと生徒が一斉に返事をする。
小金井が、男女ともに前から5名の名前を呼びぞろぞろと中に入っていく。
待機中の生徒は、自分の適正属性を予想する話に花を咲かせていた。
「立川。立川学」
「はい」
小金井が男側の扉を親指で指し、学は中に進む。
中は先程の大部屋と同じく、無機質で白い。
5つのテーブルが横に並び、それぞれパーテンションが仕切られていた。
「立川くーん」
女性の甘ったるい声がする。
二番と書かれた旗を振る看護師が、ニコニコしながら呼んでいた。
「こんにちわぁ」
「あ、こんにちわ。立川です。よろしくお願いします」
そう言い、袖をまくり右腕を差し出す。
「うん、うん。いい腕だね。太くてぇ、男らしいう、で」
バンドで上腕部を縛り、つんつんと血管を探す。
「手を握っててねぇ。わぁ、血が取りやすそうな血管だぁ」
看護師はうっとりと学の血管を観察していた。
「あの……」
「あ、ごめんねぇ。今取るね。ちくっとするよぉ」
針が入り、血を採取していく。これは現代日本でよく見る医療のまま。
「採取完了。ちょっと待ってねぇ。すぐ結果出るからぁ」
卓上冷蔵庫のような機械に採血した容器を入れ、ボタンを押した数秒後、ビーッと長い紙が上から印刷される。
「結果出たよぉ。どれどれぇ……───ッ!」
看護師の目の色が変わる。学の顔を一度見ると、胸ポケットに入れていたPHSを操作しどこかに連絡を入れた。
その人物はすぐに現れた。小金井だ。
2人はひそひそと話し合い。小金井が学に向き直る。
「立川、正直に答えてくれ。君はワクチンを摂取したことがあるのか?」
数人がこちらに顔を向け、室内にいる人間がざわつく。
「いいえ。12歳の頃に受けようと病院に行きましたが、年齢の関係で断られたっきり、ワクチンは入学のあと決めていましたから。……ぼくの結果になにかありましたか?」
小金井と看護師は顔を見合わせ、眉間にしわを寄せる小金井は、結果の書かれた紙を差し出した。
「……ここを見ろ」
小金井が指す場所には、ワクチン非対象。魔力レベルが書かれていた。
「魔力レベル∞(カンスト)異常な数値……いやこれを数値と言っていいべきか。まだ設立して間もない組織ではあるが、君のような人間は初めてだ。本当にワクチンを打っていないのだな?」
「はい。打ってません」
小金井は納得いっていないような表情だが、二度頷き「わかった。信じよう」といい、学を退出させた。
───やっぱりな。
魔力があるのではないか、という予感は中学生の頃には感じていた。
幾度となく、感じる違和感。ふと見えるビジョンは予知の前触れ。
手のひらや体が熱くなるのは、火属性の前兆。
水を欲し一日に二L以上の水分を摂るのは、水属性の前兆。
髪の毛が逆立ち、静電気を感じるのは、雷属性の前兆。
頻繁にめまいを起こしたり、地の底からエネルギーを感じるのは、土属性の前兆。
くしゃみをしたときつむじ風ができたり、突風が歌に聞こえるのは、風属性の前兆。
草花にエネルギーを感じたり、傷や病気が治りやすいのは、草属性の前兆。
夢で暗闇の中にいる自分を、客観的に眺めていたり、他人からにじみ出る瘴気を感じるのは、闇属性の前兆。
人から一緒にいると楽になると言われたり、空の上から声が聞こえたりするのは、光属性の前兆。
予知も光属性の前兆である。
この違和感に覚えがあった。
三週目の人生のとき、修行中に感じたものと似ている。
あのときは魔法というものは存在しなかったが、それに近しい力が存在した。
火、水、地、草、風。それらの力を体内に宿し強くなるというもの。
火吹き山に何年もこもり、火を体に宿す。
氷結の滝に何年も打たれ、水を体に宿す。
地下の巣窟に何年も潜り、地を体に宿す。
永遠の森林に何年も住み、草を体に宿す。
恐山の旋風村の何年も通い、風を体に宿す。
体に力が宿るとき変化が訪れる。
火を熱いと感じなくなったり、体温が上昇したり、水と自分の境目がわからなくなったり、各力によって感じ方はまちまちだが、中学生の頃に感じたもの類似していた。
だが、困ったことが一つある。
魔力をコントロールできても、魔法が一切使えない。
魔力の使い方がわからない。ポンコツである。
それは四週目の人生でも同じだった。
魔力はあれど、使い方がわからない。
そのため、敵や魔物を倒すときは剣を使っていた。
魔導師の素質があり、魔力の経験値が上がりやすいため、魔法が使えないのに魔力だけが上がり続けていく。
その魔力が五度目の人生にそのまま移行されたのだろう。
採血後に配られた初心者の魔法書という教科書に目を通しても、魔力の使い方がわからなかった。