『夜明け前』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「夜明け前」
いちばん暗くて いちばん静か
夜明けの手前 その一瞬が
あなたもそうかも知れない
今がいちばん暗くて静かなら
そろそろ光りが射してくる
夜が明ける、陽が昇る。
水平線の彼方から、
眩しい明日が顔を出す。
風を興し、夢を覚ます。
地平線を踏み越えて、
新しい私に出会うため。
#78 夜明け前
「お母さーん!痛いけど深呼吸してー!
お母さんが酸素送らないと赤ちゃん苦しいよー!」
その言葉に、ちょっと正気を取り戻した。
なんとか息を深くする。
返事をする余裕なんてないけど、
モニター上の数値で応えられているはずだ。
悪阻に耐え、重くなる腹に耐え。
そして今私は痛みに耐えている。
夜明けまで、あと少し。
【夜明け前】
街が動き出すまで一瞬だけの
空の底にいる感じ
明けたって、きっといつも同じなんだけど
その時だけは
なんかいいこと、起きそうな気がする
夜明け前
夜が明ける。号砲は鳴らずとも
新しい一日がスタートした。
それが待ち遠しい者、こばむ者
一様に夜明けは訪れる。
せめて夜明け前の静寂が
穏やかな時でありますように。
妻がなくなって3年、この前、無事に三回忌を終えられた。
ずっと、明けない夜が続いているようだ。
妻の存在は僕の中で大きすぎた、何も出来ない自分が不甲斐ないよ。
けど、あの子が、、あの子がいてくれるんだ。
僕たちの宝物が。
明日は保育園の遠足のお弁当を作らなきゃ、、
可愛い僕たちの息子のために
夜が明けて、息子が目を覚ました時に僕がいないと
寂しがり屋のあの子は泣き出してしまうから
夜が明ける前に、あの子の元に帰るよ。
君のお墓の前で話が出来る時間が夜明け前のこの時間しか取れなくてすまないね。
最近残業が続いて晩御飯を作って寝かしつけてから来てるからどうしてもこんな遅くになってしまう。
今も思うよ。君がいてくれたらって。けどもう前を向いてるあの子を目の前にそんなふうに思っちゃいけないと思った。
だから僕も、前を向くよ。君と会うのはあと数十年先だけど待っててくれ。
「夜明け前」
・夜明け前
初日の出じゃなくていいから、日の出が見たいわ。
彼女がそう言ったから、二人で海に来た。
夜明け前の海は、ただただ黒々としていて、どうもいけない。
吸い込まれてしまいそうだ。規則正しく寄せる波が、誰かの悲鳴のようだった。
そのうちに、空が白み始めた。真っ黒だった空のキャンバスに、白い絵の具が溢れていく。滲むほどに、色が増す。
ただ純粋に、綺麗だと思ったけれど、心は晴れなかった。煌めき始めた海が憎かった。
ざぷん
底の擦り切れた靴は海を拒むに至らず、僕の足はひんやりと濡れ始める。もう一歩。もう一歩。
「おじいちゃんっ!!」
悲鳴のような声に、僕はハッと我にかえる。海はもう膝下まで迫っていた。
ざぶざぶ、声の主がこちらに向かってくる。今年高校に上がったばかりの、孫だ。学校でもないのに制服を着ているのは、彼女の葬式に出席するため。
僕の肩を掴んだ幼い少女は、泣きそうな表情で笑った。
「朝の海っていいよねぇ…でも危ないよ。おばあちゃんと違って、おじいちゃん泳げないでしょ」
何を言う。これでも昔は水泳部エースだってのに。そう反論すると、カラカラと笑われた。
彼女に…ばあさんにに似ている。どうにも…いけない。
「戻るか」
そういうと、また、花のような笑顔を浮かべた。
夜が深まるにつれて、街は静寂に包まれていく。
時計の針が進むたびに、
街灯の明かりが薄くなっていく。
風が吹き抜けるたびに、
木々がざわめきを漏らす。
夜空には、満天の星々が輝いている。
そんな中、ひとりの男が佇んでいた。
彼は、手に持ったコーヒーカップから
湯気が立ち上るのを眺めていた。
彼は、何かを考え込んでいるようだった。
彼の目は、遠くを見つめていた。
何を思っているのだろうか。
その時、
東の空がだんだんと明るくなっていくのを感じた。
夜明け前の、静かな時間だ。
彼は、コーヒーカップを置いて、歩き出した。
明日は新しい一日だ。
何が待っているのか、彼は知らなかった。
しかし、彼は前を向いて歩き続けることにした。
─────『夜明け前』
夜明け前
まだ夜のうちに家を出て仕事に行く。
ちょうど日の出と共に仕事が終わる。
仕事帰りに見る朝日はなにか特別で、
家に着くまでの毎日の楽しみにする。
そうすると仕事頑張ろうと思える。
あんなに苦痛だった仕事も
楽しみがあるだけでこんなにも違うのか。
皆もひとつ、毎日の楽しみを見つけてみては?
夜明け前
夜明け前には様々な色たちが
再び彩る準備をする
真実っぽい確からしさを
昨日が永遠の眠りにつく前に
可能性の本当の可能性を
暁の赤に飲み込ませる
全てが間違っていても
嘘のない夜の美しさと脆さを
夢の中に置き去りにして
遠くまで届くまで灯るまで
悲しみから一番遠い弦を押さえて
力いっぱい弾いていくから
明日に何が見えるのか
もう少しだけ夜明けを待って
【夜明け前】
しんと静まり返った夜の気配。空にはわずかばかりの白銀の星が瞬いている。大きく息を吸い込めば、凛とした冷ややかな空気が私の肺を満たした。
ちらりと背後を窺えば、君はまだ洞穴の中で身を小さく丸めて眠っている。その表情が穏やかなことに安堵した。どうやら悪夢に魘されてはいないらしい。
この夜が明ければまた、追っ手を撒きながら逃げなければならない。王族の生き残りである君が、革命軍の連中に見つかればどうなるか。民衆の大歓声の中で首を落とされた陛下の姿を思い出せば、想像にかたくなかった。
(大丈夫。君は絶対、私が守るから)
腰の刀に手を添える。異国の生まれである私を、決して差別することなく実力だけで正当に評価してくれた人。君が私に手を差し伸べてくれたから、私は異邦の地で生きてこられた。その恩は絶対に、裏切らない。
静寂に包まれた夜の森は、記憶の根底に焼き付いた郷里の景色にもどこか似ている。――君を必ず、私の故郷まで亡命させる。強固な覚悟を胸に、私は夜明け前の静穏なひとときに身を預けた。
「夜明け前」
今日も家族にバレないように起きて、家を出る。
日はまだ出てないものの、あたりが眩しく感じる。
寝起きだからだろうか。少しあたりをブラブラしながら目的の場所に向かう。
目的地につくと、ハニカムような笑顔をばらまきながら君は私を待っていた。私と君の二人だけの秘密の時間。
私が「感情がない。」っと言ってから始まった不思議な時間。
最近この時間がくると、嬉しくなる。
これが感情?分からない。でも、たしかに私の心の中には、新しい何かができている。それを君に伝えたい。でも言葉にするのは難しい。それでも君に伝えたい。
君は、私の話をしっかり聞いてくれるかな?驚いてくれるかな?不安はあるけど、君に伝えたい。伝えたい。
「あのさっ!」そう言って、私は震えた手をもう一度握り直した。
もうその頃には、日が出ていて、あたりを照らしていた。
#夜明け前
嫌な夢で目が覚める。
しばらく夢のことが頭から離れなくてうだうだ考えているけれど、ふと寝不足で仕事に出るのが心配になり時計を確認する。
夜が明けてたらアウト。
今から熟睡すると寝坊する可能性が高いので、ある程度うたた寝程度の浅い眠りしか許されない。あまり寝たっ気が得られない奴。…寝ないよりはマシだけど。
夜明け前ならラッキー。
むしろ一旦トイレに起きて、リラックスしてもう一度ぐっすり眠れる。よく寝た翌日は仕事も上手くいきがちだ。
夜明け前と後。
その時間差は僅かでも、心の楽さ加減が全っ然違うのだ。
夜明け前
夜が好きだから
夜中の街に繰り出した日は
まだ終わらないで、と
寂しく思ふ
夜ってのは何だかずっと続いているような気がして
どれだけ夜更かししても永遠に夜な気がして
何時間経っても寝ることをしなかった。
あんな夜に限って、すぐ明けてしまうのだから
夜が明ける前に、
ブラックコーヒーを啜りながら窓の外を見つめる。
なんの理由もなく、ただぼんやりと。
口内で苦味が泳ぐ。
気分は憂鬱。
そのせいで、もっと苦く感じられた。
〜夜明け前〜
夜明け前に私は起きて、ベランダへ出た。
ベランダにある椅子に腰掛けて、そこで朝と夜の境目の空を眺めている。
空や空気は静かで澄んでいる。
私は、この時間の空が何だが好きだ。
「………眠れなかったの?」
後から声をかけられた。
「宏和(ひろかず)、ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。何時もの温もりがないから自分でも起きたー」
「はぁ?(笑)何言ってんのよ」
「だって、あつみ、温かいじゃん。心地いいんだよ。その温かさ」
「夏だったら暑いだけじゃん」
「今は夏じゃありませんっ」
「……………………確かに」
宏和は、話し方がおちゃらけているようで、何処かまるさを持っている。
私は、そのまるさが好きだ。
「…………目が、スッて覚めちゃったの
本当は、もう少し寝ていたかったけど……休みだから。けど、何だが、目が覚めちゃった」
「だったら、もう一回布団にはいろ?
眠れなくても、横になろうよ。」
宏和にそう促され、手を取られ、私は寝室へと戻った。
「スッて目が覚めたのは、本当で嘘だね。
あつみ、何だか自分でも分からないけれど、心配になっちゃったんじゃないの?」
宏和は、何でわかるのだろう。全部正解だ。私、そんなにわかりやすい?
「………、うん。正解……」
「お、当たった?あはは、流石だな。俺、伊達に あつみの彼氏やってないわ」
「なんだそれっ」
宏和は宏和の近くにある方の私の手を優しく包んできた。
「………大丈夫だよ。平気。
あつみ、だけじゃないから。俺が居るから
だから、大丈夫。大丈夫だから、もう少し寝てな。………ね?」
宏和の手の温もりと声に、私は段々と落ち着き、眠りに落ちていく。
宏和だって、手が温い(ぬくい)。
宏和の温もりを感じながら、私はもう一度、眠りの世界へと入っていく。
夢にも出てきた宏和と、幸せな時間を過ごしている、そんな夢を見ながら。
夜が明けようとしている
心の痛みは
何も変わらず
流した涙は
乾かないままに
朝の光は
夜を追いやり
容赦なく
あなたがいない現実と
わたしの孤独を
晒しだすけれど
朝一番の風が
わたしに
少しの覇気を与え
今日も
歩き出させる
# 夜明け前 (276)
[タイトル:春に白いカーディガンを着たい]
[お題:夜明け前]
私の春が終わったのは、三月のことだ。
当時、高校三年生。第二志望の私立大学に合格し、第一志望不合格の悔しさもようやく薄れていた頃。
進学先は地方から地方への移動ではあったが、それでも初めての一人暮らしの始まりに変わりない。その事に胸を高鳴らせつつ、何かを忘れるために田んぼ道を征く。
その何かが何だったのか、今となっては思い出せない。私は見事に忘れることに成功していた。
白み出す前の空。消え去る前に、精一杯に輝く星の灯り。
夜明け前のこの時間に、外を歩くのが私の趣味だ。
大学受験のストレス。同級生のあの子のムカつく陰口。面倒くさい親の小言。うざいだけの親戚の集まり。
そうした日々の暗雲が、この田んぼ道を歩いているだけで陽炎のように揺らぐ。気がする。私の胸の奥底に沈んで、そこにある粉砕機にかけられて粉々になった上で、さらに奥にある無意識の海に不法投棄されている。気がする。
気がするだけだ。けれどこんな風に妄想をして、それで気が晴れるのだから、割のいい趣味だと思う。無料だし。ただ、カラオケで三時間、学生料金七〇〇円の田舎で、無料がストレス発散のセールスポイントになるのかは分からない。
春に指先がかかったようなこの時期はまだ肌寒く、私は防寒のために赤いカーディガンを着ている。
このカーディガンは、母が誕生日にプレゼントしてくれたもので、物持ちがよく、中学二年生に貰ってから未だに使っている。ただクラスメイトには、ずっと同じものをちみちみ使っている女だと思われたくないので、こうして誰とも出会わない時間にしか着ないことにしている。
思えば、この趣味を始めた当初から、カーディガンは使っていた。もちろん、寒過ぎず、暑過ぎずな、春先と晩秋だけ。それでも、このカーディガンには、死線を共に潜り抜けた戦友のような、不思議な信頼感があった。
実際、二度ほど死線があった。
例えば、この趣味が父親に見つかった時。カラッとした快晴の夏空に雷が降ったのを覚えている。
そんな暗い時間に、何かあったらどうするんだ!
私を想ってのことなんだと、今は理解できる。けれど当時の私にはこの趣味が全てで、酷く父親に反抗した挙句に、家を飛び出した。誰にも言わなかったが、実は学校でいじめられていて、気を紛らわす唯一の手段が、夜明け前の散歩だったのだ。だから、正しく死線だった。子供心特有の、死か散歩かの二元論に陥っていた。けれども、この通り、私は赤いカーディガンと共にこの死線を乗り越え──
いや、この死線は夏の出来事なので、赤いカーディガンは関係無かった。私は半袖半ズボンにサンダルで父親から逃げていたはずだ。私とカーディガンのハリウッドばりのミリタリーアクションは、去年の十一月に起きた。
人生で初めて、助けて! と、叫んだ。
私に抱きついてきたのは、近所でよく見かける爺さんだ。普段は優しそうな雰囲気を纏っており、子供たちからは名前をもじって『トト爺』と呼ばれていた。
トト爺は頬どころか、全身が紅潮しているように見えた。アルコールの匂いが鼻をつき、よく見ると、よれた白いシャツには吐瀉物の滓がついているようだった。
父親の言葉を思い出して、後悔を滲ませる。誰もが知り合いの田舎で、こんなことが起きるなんて思いもしなかった。
力では敵わず、もう一度叫ぶ。
すると、途端に背にのしかかっていた重量が消えた。
弱々しく前に倒れながら、振り向くと、そこにはトト爺と、彼が抱きつく赤いカーディガンがあった。私はカーディガンを身代わりにして抜け出たのだと、ようやく気づいた。
今しかない。そう思って走り出した。追いかける足音が、徐々に遠のくのを聞きながら、私は赤いカーディガンに別れを告げ──
そうだ。あの時、トト爺の手に渡った赤いカーディガンは後日戻ってきたが、不快感が優って捨てたのだ。つまり、今着ている赤いカーディガンとは別物で、この死線も越えていない。
何が戦友だ。
私はカーディガンに向かって悪態をつく。
死線なんて一つも越えていないじゃないか。
そんな記憶と妄想の狭間に耽るうちに、夜明けが訪れ始めた。東の空を日光が、淡いオレンジ色に染めていく。
そんな空を見ていると、ふと、首筋がほのかに汗ばんでいるのに気がついた。私はカーディガンを脱いだ。
もうすぐ、春だな。なんてことを思う。暦の上では既に春の只中だ。過去の日本人には、私の思慮はきっと笑われてしまうだろう。
春は出会いと別れの季節という。出会いだけなら、大学に入学する四月だけで十分だが、別れもとなると、高校を卒業する三月も含めるべきだろう。なるほど、過去の日本人は、中々にらしいことを言う。
それでも、私は三月を春とは認めない。私に別れなんて必要ないからだ。当然、別れるためには出会う必要がある。道端ですれ違っただけの人間を、出会ったとは言わないように、私はこれまでの人生で関わった人間と、出会ったとは思わない。
「すみません。少しいいですか」
当然話しかけられて、私は声のした方を振り向いた。
駐在さんだ。こんな朝早くから、ご苦労なことだ。
「何ですか?」
労いの意味を込めて笑顔を作る。今までも、この早朝徘徊を大人に注意されることはあったが、駐在さんにあったのは初めてだ。
「外岡俊樹さん、知ってますか?」
トのおかトしき、トト爺のことだ。
「はい。知ってますよ」
「いやー、そうですか。実はね、外岡さんがいなくなっちゃって。ほら、老人徘徊っていうんですかね。それで、今探してるんですけど。何か知ってますかね?」
私の脳内で、一瞬、暗い海に波紋が揺れる様子が立ち上がる。けれどすぐに霧散して、目の前に困ったように頬を掻く駐在さんが戻ってきた。
「ごめんなさい。知りません」
それを聞いた駐在さんは、明らかに気を落とした様子で「そうですか」と言うと、まだ暗い西の方へ消えていった。
「そっちにはいませんよ」
小声でそう言うと、自供は春の空気に消えた。
私は何を忘れていたのだろう。
私はトラウマなのに、どうして『赤い』カーディガンを再び使っているのだろう。
粉砕機は何を粉砕したのだろう。何が海に不法投棄されたのだろう。
例えばこの先、何らかの理由で私の大学進学が無かったことになるのなら。もっと言うと、どこかに拘束されて、誰にも出会うことができなくなるのなら。
いや、きっとそうなる。昔の日本じゃないのだから。現代の日本は、それを統治する警察は、きっと優秀だから。
だとしたら、別れの季節だけが私に残る。私の春は三月に終わる。
ああ、でもやっぱり、三月は春じゃない。認めるのが怖くて、私はまた歩き出す。忘れるために、夜明けを目指して歩き出す。
まだ夜明け前だ。夜明けを目指す限りは、夜明け前なんだ。
空が徐々に白んで、夜が明けようとしている。
この時間が好きで、目覚めた私はその様を目に焼き付ける。
夜明け前が一番暗い。という言葉がある。
まぁそれはこの風景の話ではなく、心の苦しみの話だけど。
苦しみだって、この明けようとしている瞬間はそんなでもなく、こうやって少しずつ光明が見えているはずだと思う。
光に手を伸ばす。
もうじき朝がやって来る。
『夜明け前』