【夜明け前】
しんと静まり返った夜の気配。空にはわずかばかりの白銀の星が瞬いている。大きく息を吸い込めば、凛とした冷ややかな空気が私の肺を満たした。
ちらりと背後を窺えば、君はまだ洞穴の中で身を小さく丸めて眠っている。その表情が穏やかなことに安堵した。どうやら悪夢に魘されてはいないらしい。
この夜が明ければまた、追っ手を撒きながら逃げなければならない。王族の生き残りである君が、革命軍の連中に見つかればどうなるか。民衆の大歓声の中で首を落とされた陛下の姿を思い出せば、想像にかたくなかった。
(大丈夫。君は絶対、私が守るから)
腰の刀に手を添える。異国の生まれである私を、決して差別することなく実力だけで正当に評価してくれた人。君が私に手を差し伸べてくれたから、私は異邦の地で生きてこられた。その恩は絶対に、裏切らない。
静寂に包まれた夜の森は、記憶の根底に焼き付いた郷里の景色にもどこか似ている。――君を必ず、私の故郷まで亡命させる。強固な覚悟を胸に、私は夜明け前の静穏なひとときに身を預けた。
9/13/2023, 10:36:26 PM