『力を込めて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
力を込めて押さえる。
力を込めて折る。
力を込めて押し込む。
力を込めて動かす。
力を込めて掘る。
力を込めて被せる。
最後の力を込めてキレイにする。
何も無かったかのように。
これで前へ進める。
あの日のように。
アイツのいない未来へ。
『力を込めて』
『ボイルフロッグ』
ローファンタジー弱動物ホラー
テーマ「直感を信じることは大切だ」
モチーフ「UMAハンターをしている孤独の中年」
素材
天 近未来
地 冬山
人 中年と老人
ストーリー「未知の生物から逃げのびようとする話。」
起 天地人解説 アンチテーゼ
地球温暖化で南極が溶けて大陸が剥き出しになる。
未知の生物の発見が相次ぐ。世界からUMAハンターが入り浸るようになる。
中年はビッグフットを探しに仲間と出かける。
中年は足手纏いで判断を常に仲間に委ね従うことだけにしている。
承 自分にしか見えないUMA、ボイルフロッグに困る。食べ物に困る。お金に困る。仲間に入るのに困る。仲間に困る。ビッグフットに困る。ボイルフロッグに困る。街でお尋ね者で困る。逃げるのに困る。老人に会って困る。雪山への道中困る。雪山の最中困る。ビッグフットに再び困る。ボイルフロッグに困る。ハンターの応援を呼ぶ。中年はボイルフロッグの存在を再び強く主張する。街の人たちは聞く耳を貸さない。ボイルフロッグは中年を困らせる。
転 中年は老人を思い出し自分の将来のストレスにとっても困る、だから、、話ても耳を貸さない気に入らないハンター達を殺してボイルフロッグを自分自身も受け入れ認め解決する。
以降、ボイルフロッグは自分をぞんざいに扱うと現れることがわかる。ボイルフロッグのおかげで本当の自分を見つける旅に出る。本当のお尋ね者となり困るが気分は良い。ボイルフロッグは自分からのUMA達からのSOSのサインだったのかもしれない。
結 余韻、テーマ定着
力を込めて、ドアを開き老人の亡骸を探し墓を作る。そしてUMA側について人間狩りを行う。
力を込めて
誰も味方がいない、信用できなかった私を
力を込めて立ち上がらせてくれて
愛情を与えてくれたのは
あなたでした
たとえそれが
今までの悲しい記憶、
苦しい記憶だけじゃなく
全ての記憶を消されて
人の輪廻から外れることになるとしても
構わなかった
:力を込めて
これから任務を遂行する
初めての緊張に体が震える
大丈夫、きっとうまく行く
私にできないことなどない
包丁を逆手に持ち振り上げる
握りしめる手に力が込められる
「あっ、あなた、何をする気なの…」
眼光鋭く声を放つ
「キャベツの千切りです」
一瞬沈黙が走る
「そう…なのね…、わかったからいったん
包丁を下に置きましょうか…」
私は静かに指示に従った
「キャベツはそのままでいいから…そうね
玉ねぎの皮を剥いてくれるかしら…」
新たな任務がきた
「はい、お任せください」
私にできないことなどない
少し悪戦苦闘したが…うん、完璧だ
「えぇ~、こっ、これは…らっきょう?」
「義母さんったら、玉ねぎですよ
もしかして、もう少し剥いたほうが
よかったですか?」
「いえ、もう十分よ、ありがとう…」
義母が笑顔を浮かべている
心なしか体が小刻みに震えているが
大丈夫、喜んでいる
任務完了
そう、私にできないことなど、ない
桜月夜
テーマ「力を込めて」
差し伸べた手に力を込めて
精一杯の気持ちで君を引っ張る
狂おしいほどに
力を込めて
ぎゅっとしたら
壊れるくらい
抱きしめるから
彼と私の最後の時間。ずっと続くと思っていた時間が一週間前に一気に短くなった。気づかなくて良いものに気づいてしまった自分が憎かった。
一週間前、彼に伝えていた時間よりも早く帰ることができて、家にいる彼には内緒で帰ることにした。それがダメだった。こっそりと家に入ると彼が他の女の人とハグをしているところを少し空いた扉の隙間から確認することができた。そして私にも言っていた声で愛を囁いて私が見たくないことのはじまりも。それをみた私はまた静かに外に出て予定の時間まで時間をつぶした。
予定の時間に帰ると彼は何も無かったように出迎える彼。私も何事もなかったように彼の出迎えに答える。彼のそんな行動に嫌気が差し一週間後にここを出ていこうと心に決めた。
今日の彼は1日だけの出張で家を出ていたのをいいことに私もキャリーケースを玄関までに持っていく。そして、スマホを取り出して彼との連絡先、写真、彼に関するものはすべて捨てた。ちょっとした置き手紙をダイニングテーブルに残して。
力を込めて扉を開ける。あいつにビンタを食らわせることができない代わりに扉の取手に力を込めてあいつにビンタを食らわせるみたいに、扉を開ける。
「あの人とお幸せに,,,」
あいつのことを純粋に好きな気持ちから溢れた一筋の涙で文字が滲んだ一枚の置き手紙をあいつが見て、後悔してほしいと私の心が言う。
~力を込めて~
力を込めて、拳を握る
悔しさか憎しみか、この思いをバネにして
自分ができる、精一杯を
この一撃に込める
『力を込めて』
両手に渾身の力を込めてぎりぎりと締め付け続けるとやがてぽきりと乾いた音がして相手の体が力無く崩れた。復讐のすべてが終わったと同時に生きる目的を失った私はその場で動けなくなり、呆然と手のひらを見つめる。私に残されたものはひとを殺める感触やそれらのひとが今際に投げかけた恨み言の数々。遺志の込められた言葉は確かな呪いとなり、時には耳鳴りに、時には悪夢となって現れては私を苛ませ続けていた。
私の復讐は私が消え去ることでしか終わることができないのか。ふと湧いた灯火のような答えに突き動かされて、途方に暮れていた私はようやくその場から立ち上がる。私を苛ませ続けていたもののすべてが無くなることに希望を憶え、末永く続くようにと願われた呪いすらも儚く消えることを思うと自然と笑いがこみ上げてきた。
自決用にと母から渡されていた形見の剣が永い時を越えていま正しく使われる。鞘を払った私は渾身の力を込めて柄を握りしめた。
力を込めて
あなたがどこか遠くに行ってしまうと知った時、あなたを私の精一杯力を込めて、引き止めようと思った
(下書きとして一時保存)
20241008.NO74.「力を込めて」
「力を込めて、『いない』ってネタもあるじゃんって気付いてからが発端よ」
物理的にに力を込めて、説得力を込めて、声量の力を込めて。書く引き出しにだけは困らないだろう。
某所在住物書きはスマホを見つめた。「引き出しは」、多いのだ。書けるかどうかは別として。
「力を込めてないのに、ってハナシ、何が書けるだろうって考えてたらよ。何がどうなったって、ツボ押しのネタが出てきちまったの」
ツボ押して悶絶する文章の投稿って、何と何を悪魔合体したんだよっていう。まぁ、書くけどさ。
物書きは「それ」を、「他のネタよりは書きやすい」として、書き進める。 その結果が以下である。
「次も『引き出しは多い』系の筈なんよ……」
どうなる。次回。
――――――
ツボとか薬膳とかに詳しい常連おばあちゃんに、足の裏の腎臓に効くっていうツボを押してもらってたら、外回りから同僚と支店長が帰ってきた。
「たっッだいま戻りました〜!」
「ああ、実に腹立たしい、実に腹立たしい!!」
力を込めてないのに、ちょっと足の裏の真ん中あたりを押されてるだけなのに、バチクソ痛い。
悶絶して絶叫して、和装マダムにあらあらまぁまぁされてる私の横を通り過ぎて、ダンってビジネスバッグを机に叩きつける通称「教授支店長」。
外回り先が相当に相当なモンカス様だったらしく、
バチクソに、不機嫌そうにしてる。
まぁ知ってる(本店在籍時代に噂で聞いた)
「本店案件ってことで、本店の藤森と一緒に、俺ときょーじゅ支店長とで行ったんだけどさぁ」
足の裏の次は腰。ふみふみギャーギャー。
ツボ押し腎ケアで支店長に負けず劣らず声を出してる私に、付烏月さんが説明してくれた。
「やー、藤森、おクソお客野郎様があんまりにも『あんまり』だったから、訪問終えてすぐ俺達に、バチクソ深く頭下げちゃって。かわいそーに」
これからは、あの客は私達本店側で対応するってさ。本当に申し訳ないってさ。 藤森が悪いんじゃなくて、おクソお客野郎様が悪いのにねぇ。
付烏月さんは、
どこからともなく高級そうなボトルと私達従業員&常連さん分のグラスを取り出す支店長と、
どこからそんな絶叫を出してるんだって私を、
交互に見ながらそう付け足して、自分のビジネスバッグからレジ袋を取り出した。
「支店長が1杯ミャ〜千円のジュースのボトル開けるって。それに合う簡単スイーツ作ってくるぅ」
シャルル・ハイヴィーのプレシャスプレミアね。
私の腰を、力を込めていないのに、壮絶な威力でアタックしてくるツボ押し和装常連マダム。
知らないブランドの知らない商品名を、目を輝かせて呟いて、そのジュースと紅茶をブレンドすることで絶品なフレーバーティーになると力説してる。
そうですか(ツボいたい)
紅茶ティーバッグあるんですよ(いたい)
そろそろツボマッサージやめてフレーバーティータイムしませんか(ツボ押しよりお茶しませんか)
ツボいたい(大事二度絶叫)
「完全に、付烏月くんに救われたようなものだ」
腎臓の他に、自律神経にも不調が発覚。
私の手をとり、手首をふにふにし始めた常連マダム。常連マダムのあらあらまぁまぁに、あらあらまぁまぁされる私。 支店長がグラスにボトルの中身を景気良く注ぎながら言った。
「あの無礼極まりない、自意識過剰で自尊他卑の客の家で、完全にいつも通りのペースで、」
いつも通りのペースで、場の空気を調整しようとしてくれたのだから。支店長はそう続けようと、
「場の空気を……」
口を、動かしてたけど、
バタン!!! ダン、ダン!!!
支店長の言葉は途中で、途切れてしまった。
付烏月さんが消えてった小さな調理室のあたりから、何かをバチクソな力を込めて、バチクソな初速で何かに叩きつける音が、聞こえてきたのだ。
「付烏月くん……?」
ダダン、バン!
目が点になった支店長が、音のする方を見てる。
要するに今回の外回り先は相当酷かったらしい。
付烏月さんが「力を込めて」錬成してくれた簡単カップケーキは過去イチの最高さで絶品だった。
教師が嫌いな人いいねしてください🙇🏻♀️🙏
→短編・大事な思い出
山の山頂にある夜景の見える公園で、一組の若いカップルがベンチに腰を下ろし、会話を交わしている。
二人の距離は近く、親密な雰囲気が伝わってくるが、当時に微妙な緊張感も漂っていた。
「えっと……」
男性が口を開いた。もう何度も同じ言葉を呟いては口を閉ざしている。
眼下の町で夕食を食べ、この公園に来てから小一時間ほどが経過していた。
女性は彼の言葉を待ったり、たまに自分から話をふったりしていたが、いずれにせよ二人の会話のやり取りが長く続くことはなかった。
夏の終わり、涼しい風が彼女の薄いスカートの生地を揺らした。
意を決したように男性が膝の上の拳を強く握った。それまで下げていた顔を彼女に向ける。
言葉を待つ彼女の鼻腔がかすかに膨らみ、少し肩が上がった。
「あの……」
男性は、彼女の待ちわびるような素振りに一旦は言葉を詰まらせたが、何度か首を横に降って気合を入れなおした。
「僕と結婚してください!」
周囲に響き渡るようなプロポーズの声に、彼女の瞳が見開かれる。少し頬が緩み、口元がワナワナと震えながら開く。そして彼女の……――
「は……ッブェックション!!」
ション……
ション……
ション……
山に響くクシャミは、彼のプロポーズの声量を遥かに凌駕していた。
「えぅ……、ご、ごめん。我慢しようとしたんだよ! でも、ちょっと冷えちゃって」
「いや、僕こそごめん。僕がマゴマゴしてたから」
最悪のタイミングに返事を聞くこともできず、男性は「体調、大丈夫かな? 帰ろうか」と立ち上がった。不甲斐ない自分に自己嫌悪を抱くあまり、彼女を置き去りに歩きだす。
「ねぇ!」
背後から呼びかけられ、彼は振り向いた。そこには、力いっぱいのクシャミに鼻を赤くした彼女の明るい笑顔があった。
「私たちが家族になる一番最初の思い出、コントみたいだねぇ」
「それって……!」
「力を込めて『イエス』!」
テーマ; 力を込めて
【お題:力を込めて 20241007】
空を飛びたいと思った
鳥のように、自由に
頑張ってみたけど
羽を生やすのは無理だった
テレビで見た
ドラマか映画のワンシーン
傘をさして
空を飛ぶ女の人が羨ましくて
傘を手に階段の途中から飛び降りた
足の骨が折れて痛かった
飛行機
は、ちょっと違う
だって風を感じられない
気球
これも違う
ふわふわ浮きたいわけじゃない
スカイダイビング
落下したいわけじゃない
そして見つけた
空を自由に飛べる方法
簡単では無いし
技術も必要だし
それなりにお金がかかる
でも、すごく魅力的なの
ハングライダー
空を自由に飛べる
その喜びは何物にもかえがたく
時間と天気と懐具合と
相談しながらたくさん飛んだ
たくさん飛んで、落ちちゃった
命は助かった
大怪我しちゃったけど
両親にも兄にも泣かれて
ハングライダーは禁止だと言われた
毎日空を眺めて
ため息を吐き出す日々
空を飛ぶあの感覚が
忘れられなくて
でも、家族を泣かせたいわけでもなくて
うん、でもね
これは私の人生で
好きなことをするためなら
多少のリスクは仕方がないと思う
地上で腐って生きるより
私は私のために空を飛ぶ
力を込めて、大地を蹴って
自由だ
私はやっぱり空を飛びたい
だって、何より一番
生きているって実感できるから
えっ?
ハングライダーじゃないよ
禁止されたから
今はパラグライダーだよ
そして今度、モーターパラグライダーに挑戦するよ
あっちの方が、飛んでるって感じがするからね
さぁ、今日も
力を込めて、大地を蹴って
私は自由になる
━━━━━━━━━
(´-ι_-`) 空を飛ぶ夢を見て、足がビクってなって起きる⋯⋯。もっと見ていたいんです。夢なら死ぬ事はないので
「期待を背負って、決意を背負って」
ボールを追いかける彼を、私がどんな気持ちで見つめているか、彼はきっと知らないだろう。
この辺りでは有名な必勝祈願のお守りを両手で包み込む。
どうか、どうか、あと、一点!
最後の大会を勝利で締めたい、と彼は言っていた。
もしも私に不思議な力があっても、彼は奇跡を望まないだろう。
そんなことわかっているし、私に不思議な力なんて無いけど、祈ってしまうのは仕方がない。
ボールを受け止めた彼が、ゴールに向かって走り出す。
立ち上がりそうになるのを堪える。
昨日、彼とした会話を思い出す。
「優勝したら、話を聞いてほしいんだ」
「それって優勝しないとできない話なの?」
「そうじゃないけど……そうでもしないと言えないっていうか」
期待させる台詞を吐いた彼を恨んでる。
変なフラグ立てないでよ。
話なんて、いつでも、いくらでも、聞くのに。
彼の姿を一瞬でも見逃さないように、唇を噛み締めた。
────力を込めて
かぼちゃの煮物を、よく作っていた。ネットで見た黄金比の味付けで。上手くいく時もあれば、煮すぎて味が濃くなることもあった。
かぼちゃもかぼちゃで、よいときとそうでない時がある。
うちの包丁は安物なので、かぼちゃもすぐには切れない。力を入れる時に、包丁の背が手のひらにくい込んで痛い。
ふきんを背にあてがって何とか切るが、おかげでふきんはかぼちゃ色に染る。
かぼちゃにふきんがつかないように…気にする人は気にするんだと思う。そのあたりの衛生観念が甘い私は、仕事の時だけでもしっかり切り替えねばと思う。
力を込めて
どういうお題だこれは。過去一意図がわからないお題がきたな。
力、力か。でも考えてみたら案外力を込めるシーンって日常にないな。普段筋トレでもしない限り汗かくほど力んだりしない。
そういえば昨日冷蔵庫を買ったからその話がこのお題にぴったりだな。いうほどぴったりでもない気がするけどいいだろ。
いつからか冷蔵庫が不調で中に水がたまるわドアはちゃんと閉まらなくなるわで買い換えないといけないと思っていた。
この不調はいつからかは覚えてないけど少なくとも夏にはもう始まっていた。ただ夏に大型家電を買うのは配達の人に悪いなって気がして買うのを先伸ばしにしていた。
まぁ買わなかった理由は単にめんどくさいのとそこまで致命的な不調ではなかったというのもある。水は毎日雑巾で拭き取ればいいしドアは冷気が逃げない程度には閉まったし。
ただ毎日水を拭き取るのはめんどくさいしドアが閉まらないのも気になる。それで最近涼しくなってきたし冷蔵庫がタイムセールで安くなっていたのもあって買い換えることにした。
買い換えは思っていたよりスムーズに終わってあとは冷蔵庫の位置調整。配達の人が設置してくれた、というかそういうオプションを買っただけだけどとにかく既に冷蔵庫は家の中に置かれていた。
ただそれでも位置の微調整をしたいから冷蔵庫を動かすことにした。中が空とはいえこれだけ大きいと重いだろうなと思いつつ力を込めて冷蔵庫を持ち上げた。
でも冷蔵庫は思ったより軽くて簡単に動かせた。今まで使っていた冷蔵庫は買ったやつより小さいのに買ったやつより重かった。これが技術の進歩かと感動した。という話。
力を込めて
力を込めてぐっと腕を曲げる。
フーッと息を吸ってぐっと唇を真一文字に
結んで歯を食い縛るその内 力が入りすぎて顔の方が熱くなり真っ赤になる
その内苦しくなり力を抜きはーっと息を吐く疲れて呼吸が荒くなり肩で息をする
そんな僕の疲労を見て父親が
「まだまだだなあ!」と笑い
父親が見本を見せる様に同じ様に腕を曲げ
ぐっと力を込めると大きな力瘤がぷくっと
膨らみ腕に貫禄を付けていた。
まだまだ父親は、超えられない
これからもトレーニングを続け様と心に
強く誓った。
力を込めて
「あ」
思わず口を出たせいで、
「あ」
向こうも私に気づいてしまった。改札口。
目が合ったなら、挨拶ぐらいはするべきだ。ICカードをタッチしながら
「お久しぶりです、先生」
「おー久しぶり」
ワンセットの礼儀を終えたところで、きっと離れるのが正解だろう。おかしな期待も幼稚な妄想もいらない、この人には通じないから。
「あ、じゃあ私こっちで−−−」
「大学どう?ちゃんとやれてるん?」
「え」
上手く別れられなかったせいで、駅のホームの端っこに、ふたり並んで立つ羽目になった。先生は相変わらずきっちりとスーツを着こなして、やっぱり背は高いまま。
「えっと、まあ、それなりに頑張ってます」
「うん、ほどほどが1番ええよ」
13時を過ぎたホームに人はほとんどいなかった。
「……結構、忙しくなって」
なんて自分から喋り始めたのは、気まずい静けさが嫌だったからじゃない。ちょっと沈黙があけば、先生は即座に話題を見つけてくれるような人だもの。
あの日で最後って覚悟を決めたのに私、今ものすごく嬉しいから。
「家にいる時間って減ってるんです。帰っても7時近くなってると家事でバタバタで」
風が吹いた。流される髪を片手でおさえる。
「だからそういう面では、楽かもしれないです。……母のこと、思い出すことが減るから」
真っ直ぐ向かい側のホームを眺めていた先生が、こちらに顔を向けた気配がした。私は変わらず足元の点字ブロックを、穴が開くほど見つめていた。
「福井」
「はい」
「お願いがあんねんけど」
「はい」
「目つぶって」
「はい……え?」
つい顔を上げると、視線がぶつかった。どうして先生がそんな表情をしているのかわからない。
「目」
繰り返す。
「つぶって」
悲しそうな瞳で。
おそるおそる目を閉じた。風は少し強くて、空気はちょっと冷たかった。
ふいにその風がなくなった。それと同時に、背中に温かいものが触れた。
手のひら。
その温もりが背骨をなでるように横断する。耳元に布の動く音がする。後頭部にもう片手が添えられる。それから−−−。
いつもかすかに感じていた柔軟剤の香りが、今、こんなに近くに。
私の腰に触れる手に力がこもった。額にワイシャツの感覚がする。頬に鼓動が聴こえている。私に合わせて身体を丸めた先生の、震えるような息が首にかかる。
わけがわからないまま、私は言われた通りじっと目をつぶっていた。
どれくらいそのままでいたのか。それほど長くなかったのは確かだ、次の電車のアナウンスでそれまでの温もりは私を離れたから。
汗をかきそうなほど熱かった身体を、風が冷ましていく。
「もうええよ、目開けて」
ゆっくりまぶたをあげると、ちょうど電車が流れ来たところだった。
「あ、あのっ、せんせ–---」
「先に乗り。わたしは1本遅いのに乗るから」
背中を押されて乗ると、間もなく電車のドアは閉じてしまった。
ホームを振り返る。先生は片手で額を押さえて下を向いたまま、私を見なかった。
『彼女と先生』