わをん

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『力を込めて』

両手に渾身の力を込めてぎりぎりと締め付け続けるとやがてぽきりと乾いた音がして相手の体が力無く崩れた。復讐のすべてが終わったと同時に生きる目的を失った私はその場で動けなくなり、呆然と手のひらを見つめる。私に残されたものはひとを殺める感触やそれらのひとが今際に投げかけた恨み言の数々。遺志の込められた言葉は確かな呪いとなり、時には耳鳴りに、時には悪夢となって現れては私を苛ませ続けていた。
私の復讐は私が消え去ることでしか終わることができないのか。ふと湧いた灯火のような答えに突き動かされて、途方に暮れていた私はようやくその場から立ち上がる。私を苛ませ続けていたもののすべてが無くなることに希望を憶え、末永く続くようにと願われた呪いすらも儚く消えることを思うと自然と笑いがこみ上げてきた。
自決用にと母から渡されていた形見の剣が永い時を越えていま正しく使われる。鞘を払った私は渾身の力を込めて柄を握りしめた。

10/8/2024, 3:21:11 AM