『冬のはじまり』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
咳が止まらない。季節の変わり目は、冬のはじまりは毎年こうだ。子どもの頃は、大人になれば喘息は治るからね、と言われた。そんなことはなかった。ぽつりぽつりと降る雪のように積もってしまった言葉のうちのひとつだ。恨みに分類してもいいようなものだ。大人の無責な願いと祈りと愛を間に受ける子どもだった。素朴な。なあ、治らなかったよ。おまえは治らないよ。今年は特にひどく、加湿器を常時回しながらネブライザーを日に四度回している。薬剤を超音波で細かく霧状に放出して吸引させる医療機器だ。霧が、煙が、この不具の肉体を包んで、薬剤の反作用で心臓は早鐘を打ち、わずらわしい睡眠欲を諌める。子どもの頃、深夜の救急センターで隣り合ったあの喘息の子どもは今頃どうしているだろうか。元気に大人をやれている?それとも煙につつまれながら、何のものとも知れずにくだらない恨みを分類してる?
息を吸う
鼻の奥ガツンとなる
布団を出て
学校に行くでもなく
会社に行くでもなく
ぼんやりと
うちがわに
新しい風を招く
冬のはじまり
「乾燥で本の頁が上手く捲れなかった時」
それだけ言い放って、彼女は返却本を棚へ並べる作業に戻った。
「いまいち共感出来ないな」
「じゃああんたは? どんな時に冬だなって思う?」
どんな時に冬だなと思うだろう。
「コンビニの肉まんが食べたくなった時、かな」
彼女はハードカバーの小説を棚に戻しながら「なにそれ」と笑った。
「でも、嫌いじゃない」
「そうですか」
日焼けして装丁の色が薄くなった小説を、ラベルを頼りに棚へと並べる。
「食べ物じゃないけど、暖かいココアは冬って感じするかも」
ブラックコーヒーを好みそうなイメージが勝手にある。
「今、似合わないって思ったでしょ」
「まさか」
似合わないとは思っていない。意外だとは思ったけれど。
他愛もないことを言い合っている内に作業は終了した。図書委員も楽な仕事じゃない。
返却本を入れていたケースを所定の位置へとかたづけて、ぐっと一つ背伸びをする。どこかの骨が愉快な音を立てた。
「あんた、これから暇?」
「あとは帰るだけ」
「じゃあさ、コンビニ行こうよ。言ってるうちに食べたくなってきた」
財布を確認する。買い食いに付き合うだけの資金はありそうだ。
作業が終わったことを司書教諭へと報告して図書室を後にする。外に出ると、ちらほらと星が顔を出していた。
朝は生徒でごった返しているコンビニも、下校時刻にはわりと空いていた。ホットの緑茶を手に取ってレジに向かい、一つしかなかった肉まんの代わりにピザまんを選んだ。
少し遅れて、肉まんとココアを装備した彼女がイートインスペースへと入ってきた。
「食べ合わせ悪くない?」
「いいの。こうしたいと思ったから」
意志の強いことだ。
「ねぇ、半分こして食べない?」
冷気に晒されて湯気立っている肉まんが、半分に割られてこちらに差し出された。
「急になんで?」
「あんた、私に遠慮したでしょ」
「してないよ。別にどっちでもよかった」
食べたいと思っている人間に食べられた方が、肉まんもましだろう。
「じゃあ、ピザまんも食べたいから、半分交換しよ」
「じゃあ、って……」
譲る気はなさそうなので大人しくピザまんを半分にして渡す。圧力に屈したトレードだ。先進国同士なら国際問題に発展するだろう。
「あんたは、今年サンタさんに何頼むの?」
口に運びかけた肉まんを落としてしまうところだった。隣を見やると、平然とした顔でピザまんを頬張っている。
「冗談」
分かりづらい冗談だ。
「サンタはともかく、欲しいものとかないの?」
「特にないな」
「そう、幸せなのね」
至って普通だよと言い返したかったけれど、口いっぱいにチーズの幸せな味が広がっていたのでやめておいた。
「そっちは? 欲しいものあるの?」
「欲しいもの、はない」
「含みのある言い方だね」
緑茶にそっと口をつける。快適に飲める温度まではまだ時間がかかりそうだ。
「イルミネーション、隣町でやってるじゃない? 毎年。あれ、観に行きたい」
「そっか」
脇腹をつつかれた。
「やり直し」
「は?」
「は? じゃなくて。返事、やり直して」
まっすぐ窓の外を見つめたまま、彼女の表情は伺い知れない。
「一緒に、行く?」
弾けては消える言葉達の中で、唯一残ったのがこれだった。
「ぎりぎりだけど、合格」
満足気に、彼女は合格を言い渡した。冬は始まったばかりで、約束はまだまだ遠い。
適温になったはずの緑茶の味が、何故か感じられなかった。
春は沈黙し、夏への扉は閉ざされた。10月はたそがれの国。闇の左手でさらに奥へ。国境の長いトンネルを抜けると雪国であった
ウィルソンの霧箱で放射線がみえる様に、吐いた息の行方を伺える。すぐに息は霧散した。五十の星と一つの丸い日が空にある。永遠に輝けることを願って、
私は祈祷した。やがて千羽の鶴が空へ羽ばたいた。
あなたを知ったその日から、
私は長い冬のはじまりを迎えた。
その想いが芽吹くことはなく、
その花が可憐に咲くこともなく、
そしてその実が結ぶこともない。
白く染まった視界に映る銀世界。
分厚い氷に閉ざす一面の氷原。
寒さにも慣れ、冷たさにも馴染み、
マイナス60度に凍りつく。
永久凍土のその上で私はひとり静かに佇む。
そしてあなたを失ったその日から、
私の冬の終わりは永遠にないのです。
【冬のはじまり】
もう何もしたくないと思うような朝。重たい瞼を開けて、身体を起こす。
アア、つい最近まではあんなにも温かかったのに。
季節の思わせ振りな態度に苛つきながら洗面所の蛇口を捻る。勢いよく水が出たものだから慌てて調節した。冷たい水を両手で掬って顔にぱしゃりと掛けた。手で感じるよりも冷たく、ブルリと体を震わせた。
冬はまだ始まったばかり。これからが本番だと思うと酷く気が重い。
そうだ、今日帰ってきたらこたつを出そう。そうと決めたら会社への足取りが少しだけ軽くなった。
(ふゆのはじまり)
『冬のおはなし』
冬の訪れ フルートが音を外してお出迎え シジュウカラがそれ見て笑う やがてオーケストラ 指揮者の
タクトが忙しくなって 風が吹く 冷たい風が吹いている
冬のはじまり
朝が起きれなくなること
起きても、ばんざーいってしたくなくなること
だって冬のはじまりは寒い時間のはじまり
起こしてくれる人
ばんざーいってしたら抱きしめてくれる人
冬のはじまるまえに
みんな大切な誰かが欲しいと思うのは
寒さのせいなのかしら?
秋の終わり
もう冬が始まる
私の大好きな季節がくる
でも今年は楽しみじゃない
なぜかって?
君がいないから
朝起きると足先が冷たく、冷えないように靴下を履く。
ホットミルクを作るため、鍋にミルクを入れ火をいれ
温めている間にカーテンを開ける
朝焼けの景色が眩しく、温かい
窓のガラスに結露があるが、キラキラ輝き綺麗な景色を
雫にも移している
ホットミルクが出来たのでマグカップに移し
一口飲むと芯までポカポカ温まる
まだベッドで寝ている恋人の顔を見て
キスして起こす
腕をつかまれベッドに入れられる
ハグされて暖かくなり
うとうとともう一眠りする
いつもきみが着ている、日に透けて柔らかく波打つ布。空の色をまとう様は神秘的で、何度見ても初めてあったときのことを思い起こしてしまう。
そんなきみがこの季節。
少しだけ装いを変えるのを私は楽しみにしている。
色味は変えず内側だけ。
もふっとした、触り心地のよいそれを、普段以上に巻きこむ姿。
今年もこの季節になったんだなぁ。
寒がりなあの子のために、お勤めが終わったら火鉢を出してあげようか。
お気に入りの和菓子屋のあんこを買って、火鉢で炙ったお餅を入れて。疲れて冷えた身体に染み渡るぜんざいを作って待っていよう。
@冬のはじまり
のぼりがけたたましい音を立てながら靡いている。北風が強くなるとは聞いていたが予想以上の靡き方に引かざるを得ない。え、これチャリで帰るの? マジ? 帰るまでに風の機嫌が直りますように、と祈りつつ仕事を熟すが、ごうごう、と外の風はここぞとばかりにイキリ散らかしている。気づかぬ間に紅葉を終えていた枯れ葉が、強風で舞い上がり窓にぶつかる。かさり、乾いた音をさせては落ちていく。何度も、何度も、ぶつかり、落ちる。木枯らし一番なんて優しい表現は改めた方が良い。強い北風が、台風がごとく駆けていく。ああ、いやだな。明日からコートを着なければならないなんて。
「はぁーっ」
吐き出す息が白い。
今日は寒い日だ。いまいち寒さを自覚してなかった体に、ゆるりと冷えた空気がしみてくる。
それまでなんともなかったのに見つけた途端チクチク痛くなる小さい切り傷みたいだ。
「冬限定のイベントエフェクトって考えたらなんか大事にしたくならない? この白い息」
隣にいた幼馴染が言う。ゲームオタクめ。
私は実際に思ったことを口にしたらしい。幼馴染が苦笑した。
「理解してその返答ができるってのも同類ってことだと思うけど」
「まあ。そうだけどさ」
適当に返事をして、意味もなくもう一度息を吐き出す。
ふわりと消えていく息を見つめながら、心の中で小さく祈った。
このゲームオタクな幼馴染と、できればずっとずっとこうしてくだらない会話がしていられますように。
その小さな祈りもすぐに、ふわりと心の中で滲んで曖昧になっていく。
私はきっと、あるかもしれない未来の、幼馴染との別れが想像できていないのだろう。そんな事実に、この時間が当たり前の日常であることに安堵した。
私たちはいつか大人になるだろうけど。
今はまだくだらないことで笑い合っていよう。
隣の幼馴染は私がこんなにも心の中でセンチメンタルになっていることには気づかないだろう。
まだ子供だから。
『冬のはじまり』
毎年のことだけど、この時期のあたし達はちょっと忙しい。
彼氏作って、お互いに紹介して、ダブルデートしてみたり、時には彼氏交換したりして。
年の変わる頃にはお互いの彼氏のいいとこ自慢したり、相手の彼氏のこと気にしてみたり。
キスが上手いとかテクニックがどうとかお金の使い方とか、コタツでみかん頬張りながらそんな下世話な話で盛り上がる。
年が明けたら、また次の冬に逢おうねって約束してバイバイする。
次も同じ彼氏だといいねとか、もしかしたら旦那さんかなとか、今度は彼女かもねって笑い合いながら。
冬のはじまり。
あたしと親友のあの子の大好きで大切な時間のはじまり。
私の部屋は狭いから
寒くなったら実家に服を取りに行く
【冬のはじまり】
雪だ
白だ
寒い
私のお隣、空いてます。
_ ₁₃₆
お題「冬のはじまり」
しまっていたセーターを出した。今日はなんだか寒い気がしたから。洗うのはめんどくさくてそのまま着てしまった。この寒さのせいだ。部屋の中はすきま風で寒い。セーターを着たのは正解だったようで、身体に熱がこもり暖かい。身体が温まると動く気になったから外へ散歩に行くことにした。だが外は日差しが暑く、セーターを着るには早かった。恥ずかしくなる。部屋の中と外は同じだと思っていたが大きな間違いだ。私はすぐ部屋に戻りセーターを脱いで、いつものトレーナーを着た。
すきま風が強くなったように感じた。
空っ風が強くなびくようになった。
高台から摩天楼たちを眺める。ここからでも、都会の喧騒が想像できるようだ。
行ったことはあるが、ここのような住みやすさはないな。やはり、ここがよい。
柵を隔ててこちらは、長らく冷たい時代が続いてきた。もう何度目の冬だろうか、木々は枯れて、人々は焚き火の前で凍えている。
身内同士で争っている場合ではないのに、その激しさは冬を忘れるようだ。
いつか、私が救世主になってみせる。この冬を終わらせるのは、私だ。
冬のはじまり
去年余ったカイロが使えるか、確かめないと
思春期の息子が
みずからマフラーを巻いて学校に行ったら
それが冬のはじまり。
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【3】冬のはじまり