「はぁーっ」
吐き出す息が白い。
今日は寒い日だ。いまいち寒さを自覚してなかった体に、ゆるりと冷えた空気がしみてくる。
それまでなんともなかったのに見つけた途端チクチク痛くなる小さい切り傷みたいだ。
「冬限定のイベントエフェクトって考えたらなんか大事にしたくならない? この白い息」
隣にいた幼馴染が言う。ゲームオタクめ。
私は実際に思ったことを口にしたらしい。幼馴染が苦笑した。
「理解してその返答ができるってのも同類ってことだと思うけど」
「まあ。そうだけどさ」
適当に返事をして、意味もなくもう一度息を吐き出す。
ふわりと消えていく息を見つめながら、心の中で小さく祈った。
このゲームオタクな幼馴染と、できればずっとずっとこうしてくだらない会話がしていられますように。
その小さな祈りもすぐに、ふわりと心の中で滲んで曖昧になっていく。
私はきっと、あるかもしれない未来の、幼馴染との別れが想像できていないのだろう。そんな事実に、この時間が当たり前の日常であることに安堵した。
私たちはいつか大人になるだろうけど。
今はまだくだらないことで笑い合っていよう。
隣の幼馴染は私がこんなにも心の中でセンチメンタルになっていることには気づかないだろう。
まだ子供だから。
『冬のはじまり』
11/29/2023, 4:01:05 PM