いす

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咳が止まらない。季節の変わり目は、冬のはじまりは毎年こうだ。子どもの頃は、大人になれば喘息は治るからね、と言われた。そんなことはなかった。ぽつりぽつりと降る雪のように積もってしまった言葉のうちのひとつだ。恨みに分類してもいいようなものだ。大人の無責な願いと祈りと愛を間に受ける子どもだった。素朴な。なあ、治らなかったよ。おまえは治らないよ。今年は特にひどく、加湿器を常時回しながらネブライザーを日に四度回している。薬剤を超音波で細かく霧状に放出して吸引させる医療機器だ。霧が、煙が、この不具の肉体を包んで、薬剤の反作用で心臓は早鐘を打ち、わずらわしい睡眠欲を諌める。子どもの頃、深夜の救急センターで隣り合ったあの喘息の子どもは今頃どうしているだろうか。元気に大人をやれている?それとも煙につつまれながら、何のものとも知れずにくだらない恨みを分類してる?

11/29/2023, 7:57:14 PM