『冬のはじまり』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「冬のはじまり」
雪積もったよ! あの時みたいに一緒に雪だるま作ろー!約束ね!
「狂気の山脈」
テーマ「終わらせないで」
ショートショート ホラーファンタジー
「こちらの方が温まりますよ」
私は無我夢中でペンを走らせていた、暖を取ることなどどうでも良いと感じるほどに。
「どうも」
私は指し示された位置へ移動した。そこにも机はある、言われてみればたしかに寒かった。
私はことの始まりから、こと細かに自分が見たことを手紙にしなくてはならない。そして、伝えなくてはならない。次の研究活動の計画を中止する必要性を根拠を持って説明しなくてはならない。未知なるものの研究は非常に重要なことなのは分かっている。だが、どうしてガーヴァがこの狂った峰々で行方不明になったのか私は知っている。他の仲間も知ったようだが、私のいる避難所を見回しても仲間たちの姿はない。無事に帰ってこれたのは私だけなのだろうか。
この山脈は甘くない場所だった、特に今日は荒れていたから、不思議ではないのかもしれない。あの未知の存在から逃げ切れただけましなのだろう。
私はペンを進めた。何があったのか忘れてしまわないうちに、気がどうにかなる前に紙に残したい。世界中の研究者に向けて。
•••手紙•••
目の前が見えなかったし早く戻らないと、と思った。もうガーヴァが見つかる気がしなかった。ただただ吹雪の荒れる雪山に狂気のオーラを感じ続けていた。私は捜索のことなど考えられないほどに嵐に翻弄されていた。だが、問題は嵐だけでもない。古代の不可思議な生物がどこにいるのかわからないこと、いつ襲われてもおかしくないことだ。おそらく、ガーヴァは中身を取られたのだろう。ガーヴァの内側はキャンプで発見されたが、不思議なことに外側は無かった。奇妙な形状をした切先の鋭いものでガーヴァは開かれたようだ。おそらく、あの腕のようなものの先端を使ったのだろう。
私たちが研究対象として見ていたものは、私たちを上回る存在だったのだ。あれをネクロノミコンに登場する古代の生き物、旧支配者と呼ぶことにした。
旧支配者は最初、私たち研究チームによって凍結された状態で発見された。発見場所はこの山脈の地層のはるか深く。未だ発見されたことのない大きな空洞のある地層で旧支配者は保存されていた。私たちは近くの石灰岩によってカルシウムが骨や硬組織に取り込まれ結晶化したのだろうと思い、貴重な研究サンプルとしてキャンプに持ち帰ることにしたのだ。
だが、キャンプに持ち帰るやいなや、私たちを乗せるソリを引く役目を担う犬達の様子がおかしくなったのだ。
吠え続け、騒がしく動き回り、檻から逃げようとする犬が出始めた。私たちはそれを、嵐の予兆だと思った。だが、今になって違かったのではないかと思う。
私たち研究チームは研究サンプルを山の麓のキャンプ場に持ち帰った後、それぞれ持ち場のキャンプへ戻ることになった。
冬のはじまり
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2023.11.30 藍
冬のはじまり
冬のはじまりは結露である。うちのマンションは窓だけでなく、壁も濡れてカビが生える。
拭いても拭いても効果はなく、壁紙の下に生えるから、どうしようもできない。
そして私は、結露に悩まされるのが嫌で、エコカラットにした。
そうしたら、効果覿面。結露なんか全くなくなった。
やっぱりお金さえあれば何とかなるもんだ。ボーナス飛んだけど、、涙
ーテレテテテテ、テレテテテ
無意識に手を伸ばし、音の方向を向くこともなく、スマホの画面を適当に押す。
喧しい音は一旦は収まるが、再びやかましくなった。もう一度止めようと試みたが、
もう学校行く時間よーと、母の声が聞こえたので、仕方なく、居心地の良いものを手放した。
「寒い」
寒気に堪えつつ、制服に着替える。
ふと、目に入るゴミ箱には、くしゃくしゃになった十二月という紙があった。
なんだか眼元にじりじりという感覚がやってきたので、洗面所で必死になって顔を洗った。頬から落ちる水滴が、目元の腫れを洗いながし、少しマシな顔になった。
ついでに床にそのままにしておいたルージュをとって、元の場所に戻した。
いつも忙しいのに今日は朝ご飯を作ってくれたみたいだ。母は、いつものスーツに着替え、そろそろ出かけるというところだった。
「おはよう、昨日よりは落ち着いた?」
「また何かあれば、お母さんに言ってちょうだい。私はあなたの味方だから」
「うん大丈夫、ありがとう」
母は靴を履いたところで、思い出したかのように振り返り、一言付け加えた。
「次はきっと良い出会いがあると思うわ」
幼稚園児にでもかけるような優しい声、
ほんの少しだけ、胸にあった重いものがとれたような気がした。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
机の上の目玉焼きとご飯を黙々と食べ、
昨日こっぴどく振られたことを思い出す。
私というものがありながら、別の女を作った男。
本当に、ありえないくらい好きだったけど、今思えば、何が良かったのかわからない。
強引なところ?優しいところ?スポーツ抜群なところ?全部そう見えているだけで、
よくよく考えれば、他の人と大差ない。
優しさなんて、うわべだけで、いつも私は彼に従っていたような気がする。
まだもやっとする。
再びアラームが鳴り響く。
もう学校に行かないと。
「いってきます」
誰もいないけれど、まるで強がるみたいに声を張って、私は走った。
吹く風はとても冷たくて、だけど陽射しはさしていた。
『冬のはじまり』
冷え性なんだ、と両手を差し出してきた君。
そうなんだ、とポケットから手を出す僕。
外の空気に触れた手が、
迷ってしまうくらいに曖昧な関係に
まだ名前もつかないうちに
暖かい季節がドアを開ける。
冬のはじまり
「冬のはじまり」
夏の終わりと表裏一体
秋の顔を覗かせる隙間もなく
ただ夏の背中を追いかける
止まることのない繰り返しの中で
#冬のはじまり
季節の変わり目は、とても曖昧だと思う。気づいたら秋が終わって、冬を連れてきてた。でも、そうだな。気づいたらって言うのかいい。
朝晩の底冷えする寒さとか、暖かいスープが身体の芯にまで染み渡るとか、ふわふわのニットに包まれていつもより何倍も可愛い女の子とか、澄んだ夜空に輝く月とか。
暮らしの中で、当たりまえになって見逃してしまっているものたちの変化に気づいたとき。「あ、いいな」って思うの。
季節を感じることがとても嬉しいような。それがなぜなのかは分からないけど、寒いから嫌だなってだけじゃない良さをふとした時に感じて気づいた時に、心が満たされる感じ。素敵もの見つけちゃった、って。
「ここから冬です」と決まってないのがいい。期限がないのがいい。曖昧で、限りがないから、どう思うのかは自由なところがいい。
冬の夜空を見上げて、身体の中の不要なものを全部一掃するみたいに冷たい空気で呼吸する隣には愛しい人がいて、どんなに寒くても私の心だけは温かいまま。はあ、と白い息をまじえて「寒いね」って笑い合ったら、私より少しだけ熱を持った手に包まれる。濁りのない透き通った冬の空の下では、月の光が辺りを照らしてて、恥ずかしそうにはにかんだ笑顔がよく見えた。
寒いからって言い訳は、しばらく使えそう。
冬はまだはじまったばかりだから。
はじまって、終わるころに、またはじまって。
ぐるぐる回る季節。私たちみたいに。
朝晩の寒さが堪える季節。今日は一段と冷えるし、乾燥も相まって最悪だ。
「おじさん、おはよ」
「おはよう。スープ温めるから、少し待っててくれ」
「ありがと」
彼女はふらふらとした足取りで洗面所へ向かう。そういえば、いつも長袖の体操服を寝巻き代わりにしているが、家においてきてしまっているのだろうか。
普通ならそれで納得がいくが、彼女の家庭環境を考えると、違うような気がする。
「いただきます。暖かくて美味しい」
「それは良かった。そうだ、いくつか聞きたいことがある、いいか?」
快諾してもらったところで、先程考えていた質問をしてみる。
「……ない、よ」
「そうか。わかった」
部屋着だけじゃない。女性である以上、必要なものは多い。これを機に揃えてもらおう。
「買いに行くか」
「え、でも、私はお金そんなに持ってないし……」
「俺が出す。それでいいか?」
「わかった……」
行きは俺の上着を貸し、色んな店を見て回った。彼女も人混みを嫌がるから、手早く済ませて早く帰る方向で進めた。
「ね、どっちがいいかな」
「洗濯するし、二つあってもいい」
「スキンケアだけでもしておいたほうが良い。メイクか?覚えておいて損はない、休みの日に試してみるのもアリだ」
「……おじさん、いつか私にしてくれる?手先が器用だし」
「させてほしい」
「おじさん、重たくない?」
「確かにな。戻って車に積み込もうか」
まぁ色々あったが、目的の衣類系とスキンケア用品は無事に手に入れた。
そして、最後の店に来た。
「すぐ終わるから、もう少しだけ付き合ってくれ」
「いいよ」
コートと帽子を手に取り、彼女を呼ぶ。試着してもらおう。
「これを着てくれないか」
「わかった、終わったら開けるね」
少しして、彼女に呼ばれた。
「素敵だ」
「おじさんのセンスがいいんだよ」
「ありがとう」
もう少しかかるかと思っていたが、そうでもなかった。それに、彼女も満足してくれたみたいだ。
「おじさん、ありがとう」
「あぁ……俺の方こそ。帰るまで時間もかかる。ゆっくり休むといいさ」
しばらくは外の景色を眺めていたみたいだが、久々に歩き回った眠気には抗えなかったらしい。
心地よさそうな寝息が聞こえる。
暖房を入れ、毛布をかけて、家路へと車を走らせた。
『ゼロからの冬支度』
「冬のはじまり」2023/11/30
冬が始まった。
私にとっては記念の季節。
初めて悪いことを知った。
初めてしちゃいけないことをした記念。
後悔はしていないけれど、戻れるならもうしない。
そんな恥を抱えながら生きる1年目。
あれから1年か…
早い、な。
2023/11.30 冬のはじまり
もう冬の気が…
寒くなりましたね。温かい飲み物が入った、マグで手を温めるのが好きです。特にココアか生姜湯は癒やしです。
お弁当の時間にて
イエベの友達
唇の色が似合っていた
そのナポリタン美味しそうだね
歯にのりをはさんだブルベの私が呟く
ケチャップすらお似合いですイエベさん
そこまで言いたかったが別のブルベに遮られた
言ったら面白いと思っていたから残念な歯のりブルベ
今日は一段と気温が低く、寒さで唇が色付く日だった
完
『冬のはじまり』
暑い。何故にこんなに暑いのだ。
今は十一月も後半。世間はクリスマスだ何だと準備を始める時期だ。だというのに、コートも着れないこの暑さ。
私は、冬が好きだ。いろんな上着を着れる。コートでもいいし、ジャケットでもいい。ボア系の服とか最近流行ってるっぽいし、着る甲斐もあるというものだ。中の服も大事だが、冬は防寒具を一つ変えるだけで印象が百八十度変わってくる。上着だけでファッションをするのが好きだから冬が好きなのに。なのに。
「なんでこんなに暑いの?」
「私に聞くな」
現在の日中の最高気温は20℃。上着を着るには流石に暑い。たとえ着て出たとしても、結局脱がざるを得なくなる。そうしたら冬におけるファッションは防寒具と思っている私にとっては裸同然だ。絶対に嫌だ。
「寒くなれ寒くなれ寒くなれ」
「そんなこと思ってるのあんただけよ」
隣で友人が呆れた声を出す。友人は私とは真逆の人間で、夏の薄着こそ至高と思っている。どうしてそんな水と油のような私たちが友人をやれているのかというと、それはわからない。多分相手だってわかってない。
「そんなに寒いのが好きなら、東北に住めばいいじゃない」
「ここから引っ越すとか絶対やだ」
「我儘ねぇ…」
「ねえお願い、逆さてるてるぼうず作って!雨降るやつじゃなく、気温が下がるやつ!」
「別にてるてるぼうず作ったところで雨なんて降りゃしないし気温も下がらない。諦めな」
「えぇ…」
わかってはいたが現実を突きつけられ、泣く泣く机につっぷした。それでも諦めきれない私がうじうじ言っていると、友人がため息をつきながら話し出した。
「あんた、明日休みだったっけ?」
「そうだけど…」
「遊びに行くぞ。あんたの言う着たい上着着て」
「え、でも明日も結構暑いんじゃ…」
「着てこい。んで明日行く場所は私が決める」
彼女が命令口調になると、まず拒否はできない。ハイオアイエス。選択肢はそれだけだ。
「わかったよ…着てくるよ…」
明日は暑いから仕方ないけどちょっと薄めの上着にしよう。そう計画をたてながら、私は頷いた。
そして、次の日。私は膝上くらいまで隠れるロングパーカーを着て友人の家の前にいた。何故かというと集合場所がそこだったから。因みに、時間はまだ昼前だったので、そこまで暑さはなかった。
友人に、家の前に着いた旨を報告すると、エントランスのロックを開けてやるから入って来いと言われた。まだ準備が終わっていないのだろうか。仕方がないなと思いながら、言われる通りマンションに入って行った。
部屋の前まで着いたので、改めてインターホンを押して開けてもらう。友人は、真冬かと言わんばかりのダッフルコートを着ていた。
「あれ、そんな寒い?今日」
「別に。入って」
言われるがまま入り、リビングに来ると、
「さっっっっっっっっっっむ!」
氷点下かというくらい寒かった。え、今一月です?
「なんでこんなに寒いの?」
「あんたそれ昨日真逆のこと言ってたわよ」
「そうだけどそうじゃなくて!なんでこんなに寒いの」
「エアコン馬鹿みたいにつけてる」
「なんで?」
「なんでって、あんたが上着着たいって言ったんじゃない」
いや言ったけども。
「自然現象を操るなんて無理だけどね。室内なら冬を再現できるじゃない」
いやそうだけども。どうしても気になってしまう。
「これ…電気代バカにならない?」
「まあなるでしょうね」
「なんで?いいの?」
「…あんた、忘れたの?」
「何がさ」
「昔、あんたが逆のことをやってくれたんじゃない」
「えーあー」
そういえばあった。薄着したいという彼女のために、私の家の暖房ガンガンにかけて、薄着会したことあった。
「そのお返しをしたまでよ」
友人は少しそっぽを向いて答えた。私は無償に嬉しくなり、思いっきり友人に抱きついてしまった。
「もう!言ってくれればもっと上着持ってきたのに!」
「言ったらサプライズにならないじゃない」
「今から持ってくるから!待ってて!」
「えぇ…まあいいわよ」
急いで玄関に走り、靴を履くのもままならないままマンションを出た。
これから、私たちだけの冬のはじまりだ。
冬のはじまりってなんだと思う?
そうねえ〜冬のはじまりはやっぱり
とっても寒くなった時なのかなあ〜
僕知ってるんだ!
幽世では冬の始まりに咲いて
冬の終わりに溶けて消えるように枯れちゃうお花を
そうなのねえ
でも、あまり“あっち側”の人たちに迷惑かけないでね
わかってるよ。
本当に? 本当だよ‼︎
仲良くなったからってあまり油断しんようにね
食べられてしまうからね?
はーい! それじゃあ行ってきまーす!
はい、気をつけて行ってらっしゃい。
冬の始まり
冬の始まり、私は恋をした。
あなたは氷のように冷たくて、雪のように儚い。
そんな君を好きになって私は後悔してる。
君の沼に入り込んで、もっともっと入り込んだ。
君みたいな冬にはなれない。
「私はずっと真反対の夏のまま。」
冬のはじまり。
寒くて目を背けたくなる。
だけど、凍死するわけにもいかなくて。
体が震えて生きようとするから。
寒くても暑くても体は生きようとする。
私は冬の始まりが好きだ。
朝方の澄んだ空気、ほんの少し肌寒く感じる風、晴れ渡る青空。
こんな日は他の四季の中で1日だけあったとしても幾度も続くのは冬になる前だけだろう。
凛と気高く存在する冬。
その訪れを告げる冬の始まり。
私にとって、冬は大事で特別な季節だ。
鼻の奥をツンとさす
冷たい風が
今年も この街に吹いた
長いような…
やっぱり少しだけ
どこか 短く感じた
暦のページに手をかける
1人で歩く街には
聴き慣れた音楽と
鮮やかなイルミネーションに
恋人達が優しく寄り添って
会いたい 気持ちが
足早に息をする。
人の群れをかき分けて
改札を駆け抜けて
君に会いにいく。
やっと会えたね…
冬のはじまりが
もっと 君を愛しくさせる。
- 冬の足音 -
自分の体の調子が良くなってくると、ついに冬が始まったと心の中でガッツポーズする。
私は夏のあの暑さが大ッッ嫌いであり、夏など無くなればいいと思う。
あの暑さは、呪いのように私の体を蝕み、体力を常に消耗させ、頭のキレを鈍らせる。
ふつうの人は汗をかいて対抗するけれど、私は体質なのか汗があまり出ない。
出る頃には最早手遅れである
私の体は空冷式なのだ
しかし冬は違う
冬の寒さは、体の熱を取り去ってくれる。
体は羽のように軽く、頭のほうも雲ひとつ無い青空のようにクリアなのだ。
そして冬は暖かい食べものにボーナスがつく
肉まん、ホットコーヒー、鍋、出来立ての料理
ああ、そうだ、イチゴも美味しくなる
すべてが素晴らしい
そしてイベントが目白押し
クリスマス、正月、バレンタイン
これから楽しみだ
なので私は、冬のはじまりを祝福したいと思う。
みんな、冬をもっと評価すべきだ
冬をもっと讃えよ
私の熱くなったハートが訴える
冬、万歳
#冬のはじまり
暑い夏が終わり、乱痴気騒ぎの秋を経て冬がやってくる。
里山や山でも収穫の秋を寿ぐ祝祭ムードが高まり、誰も彼も浮かれていた季節がようやく終わりそうだ。暗く長い冬がひたひたと近づく足音が聞こえる。
仲間内では寒くなるのを厭う者もいたが、冬生まれの河太郎は、ピリッとくる朝の空気や、鼻の奥が甘くなる夜の冷気が好きだった。
それに、冬になると陸よりもむしろ川の中の方があたたかい。山より下って滔々と流れる清水は凍らないのだ。
河太郎が川面から頭を出して早朝の村の様子を窺い見た。
誰も起きている様子はない。朝霧に包まれた村は静寂に満ちており、河太郎は一度水に潜って十分に頭の上の皿に水を満たしてから川を出た。
山の方では熊やリスなど、冬眠する動物が籠りだしたと聞く。
水かきのついた両手を擦り合わせながら、河太郎は独り言ちた。
「冬になったら食べ物が少なくなる山の連中は大変だな。河童で良かった」
川の魚は寒さに凍えて川底の石や流木の間に身を潜め、動かなくなる。活発に泳ぐ夏よりもむしろ狩りはしやすかった。
それに、河太郎にしてみたら、夏は村の子供達が毎日魚釣りや水遊びに大人数でやって来てはやかましいことこの上ない。
人間と相撲を取るのが好きな者たちはここぞとばかり子供らにちょっかいをかけているけれど、河太郎はどちらかというと人間が怖い方だった。
あいつらは何をするかわからない。突然残虐なことをすると聞いた。関わらないに越したことはないのだ。
そんな人間嫌いの河太郎だったが、冬のはじまりには必ずやらなくてはいけないことがあった。
それは、村人の源太から敷き藁をもらうこと。
冬の間の、寝床に敷くふかふかの敷き藁がないと、流石に寒くて越せない。
「今年もくれるだろうか」
もう何十年も毎年繰り返していることでも、河太郎はいつも不安になる。
源太と知り合ったのは彼がまだ若衆の時分だった。
川縁で両腕を抱えて凍えていると、芝刈りを終えた背の高い偉丈夫が「河童も寒いのか。この草を置いたら家にある藁を持ってきてやる。ちょっと待ってろ」と言い置き、「これを敷いて寝るといいぞ」と両手に一抱えもある藁をくれた。
「本当はこれで雪の間に暮らすための拵え物を作るんだがな、お前さんがあんまり寒そうだからやろう」
「なんだ、それだとお前が困るんじゃないか?」
「人の心配をしてくれるのか。ふふふ。それじゃあ、何かと交換ことでもするか?」
そこで河太郎はこう提案した。
「それじゃあお前が約束を違えず藁をくれたら、翌日に己が木の人形をたくさんやる。夏の間に作っておいてやろう」
そうして河太郎と源太の物々交換が始まった。
今年も変わらずひょこひょこと歩いて、村外れの源太が住む家を訪ったのだが。
いつも藁が積んである場所に、何もない。
「ありゃ。これはどうしたことか」
河太郎は初めてのことに戸惑い、尻を掻きながらしばし途方にくれてしまった。
季節を何度繰り返しても、源太に子が生まれ、孫が生まれ、緩やかに生きる河童にはわからない人の子の激しい生の中でも、源太は必ず藁をくれていたというのに。
敷き藁がないと今年の冬は寒くなりそうだ。それとも一度も叩いたことのない木戸を叩いてみようか。
空が白々と明けてきた。人間に姿を見られるのは避けたい。
「どうしたもんかなぁ」
その時、背後からいきなり「お前が河太郎か」と声がした。
河太郎は驚いて尻餅をつき、「ひやぁ!」と叫んだ。
「すまんすまん。驚かせてしまったな」
河太郎の緑色の腕を躊躇することなくむんずと掴み、引き起こしてくれたのは源太だった。いや、源太ではない。源太はもう老境のはず。
「だ、誰だ?」
「俺は源九郎。じいちゃんの孫だ。ええと、じいちゃんってのは、お前が知っている源太だ」
「ええ?お前は源太じゃあないのか?そっくりじゃないか。孫?そうか、あのふやふやの赤子がこんなに大きく?」
事態を飲み込めない河太郎は必死に考え、源九郎の顔をしげしげと見つめた。
「呑気で人の好い河童だと聞いていたが本当だな。毎年藁と馬っこ人形を交換していじいちゃんは病に臥せっていてな。藁を用意することができなんだ」
「源太は病気なのか?」
「そうだ。年を越すのは難しいだろう。そこで、俺がじいちゃんからお前のことを言いつかった。藁がないと寒くて大変だろうからと」
源九郎が言い終わるより前に、河太郎の両目から涙がこぼれた。藁をもらえないことが悲しいのではない。会ったのはほんの数回しかない源太だが、この世からいなくなるのが無性に寂しく思えたのだ。
「河童が泣くとは。驚いたな。そうか。ありがとう。じいちゃんももういつお迎えがきてもおかしくない年だ。それは仕方ない。だが、お前が困るのを嫌がっていてな。孫の中から俺を選んでお前に渡してほしいものがあると」
ちょっと待っていろと言って源九郎は一度母屋へ戻り、すぐに暖かそうな新品の布団を抱えて戻ってきた。
「お前がくれる馬っ子人形はとてもよく出来ていてな、町へ行くと高く売れるんだ。冬の間はそれを真似て村中で作り、この村はとても豊かになった。そのお礼だ。これからは藁を取りに来ずとも良い。馬っこ人形も持ってこなくても大丈夫だ」
河太郎が触れたこともないようなふわふわの、藁よりもずっとずっとあたたかい布団を体に巻き付けるように持たせ、源九郎は頭を下げた。
「今までありがとうな」
河太郎は布団に顔を埋めながら、涙を拭いた。
「礼なぞ言われるいわれなんぞない。己と源太で約束したことだ。人形をどうしようとお前らの勝手だし」
「だがおかげで暮らし向きも良くなったんだ」
そうか、そうか。と、河太郎は繰り返し呟き、踵を返した。
「そんならもう己はここへは来ねえ。それがいいんだな?」
「来るなって話じゃない。来られたら困るってことでもないんだ。気を悪くしたら謝る」
今度は源九郎が慌てて河太郎の甲羅を掴んだ。
引っ張られた河太郎は仰向けにひっくり返ったが、布団のおかげで皿を割らずに済んだ。
「わあ!すまない!大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえ!」
声ほど河太郎は怒りもせず、少し笑って「また来る」と言った。
次の日。河太郎は同じく朝霧の出る早朝に源太の家を訪った。
いつも置いておく馬っこ人形の代わりに、十数粒の丸薬を置いて、水かきのある手形を筵に押して帰った。
その丸薬を飲んだ源太の病は家人や医者も驚くほどみるみるうちに良くなり、畑仕事もできるまでになった。
河太郎はもらった布団でぬくぬくと冬を越し、もう冬のはじまりに源太の家に通うことは無くなったけれど、村も栄えて皆楽しく暮らしたそうだ。
2023.11.30 猫田こぎん