『今一番欲しいもの』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「こちらをどうぞ」
ことり、と小さく音を立て、小箱を置いた。
「貴女がお求めになった物です」
その言葉に女性は皺の刻まれた細い腕を伸ばし、小箱を引き寄せ緩慢な動作で蓋を開ける。
中から取り出されたのは、ひび割れ時を刻む事を止めた金の懐中時計。
慈しむ様に震える手で時計を抱きしめ、一筋涙を流した。
「ありがとう、ございます。これで…これで、もう。思い残す事はありません」
一礼し去っていくその背を見送り。
その姿が、気配がなくなった事を確認し、溜息と共に倒れ込んだ。
井草の匂いを堪能しつつ、目を閉じる。このまま少しだけ眠ってしまってもいいかもしれない。
「何やってんの?」
呆れた様な声が聞こえるが、疲れた身では何もする気が起きず。聞こえていない、と寝たふりをする。
「休みが欲しい、って言ってたよね?仕事したくないって、三食昼寝付きを強請ったよね?だから俺さん、現世に置いてきた迷い家《俺》を少し弄ってあげたよね?特別に別荘仕様にしてあげたよね?」
正論。反論を一切許さない程の言葉の羅列。
仕方なしに目を開ければ、こちらを覗き込む屋敷の主の満面の笑みが視界を覆う。
怒っている。我儘を言った手前何も言う事は出来ないが、それでも何か言わなければと焦りが生じ。
不意にその浮かんでいた笑みが消えた。
「何してんの?本当に」
これは非常によろしくない、気がする。
「ここまでお膳立てしてやってんのに何で仕事してんの?休むって意味分かってる?あれなの?本当は仕事するための場所が欲しかったの?だったら最初から言えよ嘘つき」
あまりの恐ろしさに、素早く身を起こし正座する。こんなもので態度が軟化する事はないが、せめてもの態度として。
「いや、仕事、したく、ない、です」
「だったらさっきのは何?」
無表情で問い詰められて答えに詰まる。だが答えなければ誤解は解けないし、この説教はいつまで経っても終わらない。答えに詰まった事でさらに刺々しくなった空気に冷や汗を流しながら、何とかか口を開いた。
「だって…だってさ。あの婆さん、しつこいんだぜ?ここまで憑いてきて、昼も夜もずっとあの時計を探してくれって五月蝿くて五月蝿くて」
「早く言えよ。対策ぐらいするってば」
知っている。
仕事疲れで思わず出た愚痴を、こうして本当にしているのだから。
空調の整った座敷。三食豪勢な和食が出、夜には床が敷かれ。しかも源泉掛け流しの温泉付きときた。常連だからという理由だけで、ここまでの贅沢。それなのに、老婆の霊に憑かれて怖いので何とかして欲しいなんて言える訳がなかった。
それと目の前の屋敷の主が極端な事だというのが少しだけ怖いというのもあるが。
「よし、分かった。隔離しよう。存在ごと隠してしまえば、失せ物探しを依頼する馬鹿もいなくなるはず」
「………ちなみに、どれくらい隠すつもりで?」
「一生」
何故そうなった。
昔からこの屋敷の主は両極端な所がある。それが子供の形をしているために思考もそちらに引きずられているからなのか、人間でないからなのかは分からないが。
「大丈夫。三食昼寝付きだし、欲しいものがあったら言ってくれれば用意できるし」
「いや働かせて?適度には労働させてくれないと困るんだが?」
「え?何で?」
心底不思議だというように首を傾げられる。
何故こうも軽率に人を隠そうとする選択肢が出てくるのか。長い付き合いではあるが、未だに理解ができない。
「そっちだって『マヨヒガ』を閉じて、ここで一緒にいてくれって言われても困るだろ?そういう事だよ」
「…それは……うん。じゃあ最初の約束通り十日だけ隔離しておくね」
にこにこと機嫌良く姿を消した屋敷の主を見送り、畳に寝転がる。
疲れた。本当に疲れた。
ただでさえあの女性の失せ物を探すのに、数日寝ずに式で海の底を探し続けていたのだから。しばらくは何もしたくはない。
ごろごろと寝返りを打つ指先が、煎餅が盛られた皿に触れる。三食以外におやつ付きだ。本当に贅沢である。
体を起こす気にもならず、行儀が悪いと思いながらも寝転がったまま煎餅を齧った。
変わらない味。昔から好きだった醤油味の煎餅。
好きな場所で好きなものを食べる。
これ以上の幸せはないな、と口元が緩んだ。
20240722 『今一番欲しいもの』
”今1番欲しいもの”
セキュリティ高めの綺麗でおしゃれな小さなアパート‼︎
適度な狭い部屋に
必要最低限の家具と電化製品
自分の分だけの家事をして
一人暮らしの生活をしてみたい
『今一番欲しいもの』
空から見れる能力が欲しい
物事を真正面から捉え
ゆとりをもつのが難しい
真摯に向き合おうとするほど
周りが見えなくなり
主観で話してしまう
良い方にも悪い方にもいきやすい
もう少し俯瞰して見れれば
こんなに雁字搦めにはならないのに
鳥のようにそらから見れたら
もう少し気楽に過ごせるだろうか
『今一番欲しい物』
今一番欲しい物:本を読む気力
理由:読みたい本は多いのに読めないから
↓↓創作します↓↓
ポキポキッ♪
いつもの通知音が鳴る。
案の定、バースデースタンプが「おめでとう!」と、ささやかに動いている。そう、今日は私の誕生日だ。
スタンプの後にシュポッと「今一番欲しい物は何?」とメッセージが送られてきた。
私は既読を付けてしまったことを後悔した。返信しなければならない使命に駆られるが、言葉が出ない。
正直を言えば何も要らないのだが、「何もいらない。」と返すのは流石に冷たすぎる上つまらないし、失礼だろうと思い、しばらく考えた後に「あなたが今一番欲しい物が欲しいかな。」と、返してみた。
すると、すぐさま「僕が今一番欲しい物は、君との時間だよ。思い出とか、ね。」と、思いもよらぬ返信がきた。
彼とは会ったことがないのだ。
なんとなく嫌な予感がした。返信の速さといい、セリフといい、女性の扱いに手慣れているのではないか、と心の奥で警鐘が鳴っているのに、私は食事の約束をしていた。約束をしてしまったのである。
─ 1年後 ─
「誕生日おめでとう。今一番欲しい物は何?」
去年と変わらない彼からのメッセージだ。
今年は、すかさずに返信をする「独身のあなた」と。
「今、一番欲しいものはなんですか?」
年金を貰った帰り道、そう質問を投げかけられた。
「まあ強いて言えば、お金じゃないかな」
なにかのロゴTシャツを着た青年はうなずいた。
「なるほど。そうですね、お金は大切です。でも、本当にそれが一番欲しいものですか?」
確かに一番と問われれば、そうではない気がする。貯金と年金でそれなりの生活はできているし。
「たとえば、ですけど。僕が人生に彩りが欲しいんです。それが僕にとっての今一番欲しいものです」
にこやかに笑う彼に、つられて笑ってしまう。
「彩りか。それはいい」
「そうですよね。僕もそう思います」
彼は振り向いて、後ろにあるテントを指差す。そこには人がちらほらいてなにかを囲んでいるように見える。
「絵を描いているのか」
「はい。よかったら見て行きませんか」
俺は首を縦にふり、そのテントに近づく。
俺と同じか、少し歳上の年寄りたちが集まっていた。
「ちょっと俺もやっていいか」
それから2時間くらい黙々と描いた。我ながら満足するものができた。
「いいですね。すごく上手です」
先ほどの彼が俺のデッサンを褒める。鼻が高くなった。
「いいよな。俺もそう思う」
片付けはじめた彼の背に向けて言う。
「わかったぞ。俺が今、一番欲しいものは生きがいだってな」
「今一番欲しいもの」
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。
きょうだいのカウンセリングの付き添いがてら、久しぶりにニンゲンくんと話をしたんだ。いつも通り話がしたかったけれど、そんなことはできなかった。
ボクの心は、ボクの気持ちは紛れもない本物だと信じて欲しかったけれど、受け入れてはもらえなかった。
機械のボクはもう、キミに信じてもらえないみたいだ。
……まあまあ、ボクの話はこのくらいにして!きょうだいが受けたカウンセリングの様子でも見てみようか!
────────────────────────────────
「今日は私とお話ししましょうね。」
「んー!」
「それじゃあ、あなたのことはどうお呼びしたらいいかしら?」
「えっとねー!う〜ん……。」
「あのね、こーにんうちゅうかんりちはね、おちごとしゅるとこーどねーむ?ていうおなまえもらえるの!でもね、ボク、おなまえもらうまえにダメなこになっちゃったから、おなまえないの。」
「ボクもこーどねーむほちかったなぁ。」
「そうだったのね。辛いことを思い出させてしまってごめんなさい。」
「んーん。こーどねーむはほちいけど、ボクにはおとーしゃんがくれただいじなおなまえがあるからさびちくないよ!」
「でもね、ほんとのおなまえ、おちえちゃだめみたい。」
「あ!しょーだ!ボクのだいしゅきなこと!おねーしゃんによんでもらうおなまえにしゅる!」
「大好きなこと?」「ん!」
「ボクねー、おとーしゃんにだっこしゃれるのだいしゅきだったのー!だから、おねーしゃんにだっこちゃんってよばれるー!」
「分かりました。だっこさん、でいいのね?」「んー!」
「抱っこさんは、ウイルスに感染してから今まで、ずっとひとりぼっちだったのね。」
「んー。ボクね、いちゅもみたいにね、おとーしゃんと⬛︎⬛︎ちゃ……おとーとにね、あえるとおもってたの。また、あちたね!ておやしゅみちたのに、ずっとあえなかったの。」
「ボクね、とってもかなちくてねっ、さびちく、って、ね。」
……こんなふうに泣く機械は初めて見た。体は機械だけれど、この子にはちゃんと心も感情もある。
「ずーっと、みんなに、あい、たくてっ。ここからだちて、って、いっぱいいった、のにっ、だれも、きてくれ、なくてねっ。」
「くらくて、しぢゅかで、せまいの。こわかったのっ。」
「ひとりぼっち、きらいなのっ。」
「でもねっ、ボク、おにーちゃんだからねっ、がんばってこわいの、がまんちたの。おとーしゃんにっ、いっぱいいいこいいこちてもらいたかったのっ。」
「あたまもいたくてっ、いっぱい、わしゅれちゃってねっ、とってもこわかったの。」
「でもねっ、おとーしゃんと、おとーとのことはねっ、だいしゅきだったからぁ、わしゅれないようにねっ、おててにもってたほんに、みんなのこと、いっぱいかいたの。」
「じも、よめなくなっちゃった、かいてあること、わかんなくなっちゃったのっ。でも、だいしゅきだったから、おぼえてたの。」
「おかえりー!って、いってねっ、だっこちてもらいたかったの。」
「でもねっ、でもねっ……!おとーしゃん、しんじゃったんだって!おとーともねっ、いっぱいわしゅれちゃったボクのこと、きらいになっちゃったのっ!」
「ボクはっ、みんな、だいしゅきなのにっ……。」
大粒の涙を流しながら頑張って話をしてくれている。
私も何か、この子に言えることは……。
「お父様は亡くなられたかもしれないけれど、弟さんはまだ生きているでしょう。それに、もしあの子が抱っこさんのことが嫌いなら、一緒にここには来ないはずよ?」
「おとーと、ボクきらいじゃないの?」
「きっと、また会えてとても嬉しいんじゃないかしら。だからこそあなたに厳しい言葉をかけた。」
「なんで?しゅきならしゅきって、いってほちいの!」
「また一緒に暮らして、お仕事をするには、厳しいことをたくさん乗り越えなければいけないの。」
「これからも一緒にいたいから、あなたが大好きだから、わざとそんなことを言ったんじゃないかしら。」
「ほんと?」「きっとね。」
「ボク、もっといいこになるー!」
「あのね、おとーとがおちえてくれたの!おとーとのうちゅうにはね、くりしゅましゅっていうおまちゅりがあるんだって!」
「いいこにちてたらね、ぷれぜんとがもらえるんだって!」
「素敵ね!あなたが今一番欲しいものはなあに?」
「んーとねー!おとーとといっちょにいられるじかん!」
「きっとあなたなら大丈夫ね。」
「わー!」
「今日はもうお疲れでしょう?また今度、もっとお話を聞かせてくれるかしら?」「んー!」
「それじゃあ、今日はありがとうございました!」
「おねーしゃん、またねー!」
私は面会室を後にした。
機械の子だと聞いていたけれど、生命体とそう変わらない。
本当に、普通の小さな子だったわ。
この子なら、きっと更正できる。私はそう信じているの。
今一番欲しいもの
今回は創作ではなくエッセイとしての投稿になりそうだ。今回のテーマを見て物語らしいものがまるで思いつかない。それだけ私の中で何か欠けているのか?
今一番欲しいもの。私は今、濁り気のない純粋すぎるくらいの「楽しい」が欲しい。
最近どんなに楽しいことがあっても漠然とした不安や自己嫌悪が心の内に巣食っている。私はここで何をしているのだろう?と思う。どうせこのワクワクも長く持ちやしないだろうと思う。社会の中で生きていることに申し訳無さがある。
好きなことをしているときも、テーマパークなんかに行っているときもいつもそうで、いつしか私は純粋な「楽しい」を信じられなくなった。小さな「楽しい」でさえも失われていく現状が恐ろしくて、気づけば「楽しい」という感情そのものを避けるようになった。
これが「大人になる」ということならば。受け入れろと言われるだろうか。だったら私は「過去の時間」を求めようか。何もかもが新鮮で楽しかった幼き日々に戻りたいと思う日々である。
何か欲しいものあるか、と連絡が入った。
片付け途中の部屋の中で、ふむ、と口に手を当てて考えるポーズをとってみる。
暑くて外に出る気にはならないので、来る途中に買い出しを申し出てくれたのだろう。客用にソフトドリンクも酒類も購入してあるし、食器類は相手と自分だけの自宅での飲み会となると使い捨てのものは使わなくても良い。肴もそれなりに作ったし、足りなければ材料もある。
飲みたい酒があればそれと、と画面に打ち込んで、もう少し考える。
氷もあるし、ウェットティッシュの在庫もあったはず。何か欲しいものあっただろうか。
ウェットティッシュ……と口にして、そういえば別のものが足りなくなかったか。トイレに向かう。
やはり在庫が少なくなってた。
買ってきて欲しい旨を送ると、少し経ってからシュールな猫がデフォルメされたイラストで返された。
その後、カレンダー、とひとことメッセージ。
カレンダー?と壁にかけてある猫の写真が大きくプリントされたカレンダーに目をやる。
あ
タイミングが悪い。誕生日プレゼントの希望くらいきてから聞け。
来客が買ってきた酒類とトイレットペーパーを受け取り口を尖らせる。
メモがわりだと面倒くさがりの答えに、相手の頭を軽く叩いた。
「今一番欲しいものはなに?」
そう聞かれると、どうにも即答出来ない。
理由は分かっている。無欲だから、ではない。
むしろ、欲張りなのだ。
あれもこれも欲しいと思っているからこそ、一番と聞かれてしまうとあれもこれもと迷ってしまう。
しかし、同時に思うのだ。
欲しいと即答出来ずにいるあれやこれらは、本当に欲しいものなのだろうかと。
その瞳が欲しい。
ふと欲しいものを尋ねてきた彼に、うっかり本音が漏れてしまった。
「いやごめん、ま、間違えた。忘れて。」
横並びで歩いていたが、恥ずかしくなって彼を追い越す。
…あなたの瞳が欲しい。熱のこもった視線で見つめられたい。視界を独り占めしたい。本当はずっとそう、想っている。
でも、彼がこれに気づいたら怖がられないか気が気じゃなくて、伝えられずにいた。長い間隠してきた、なのに。
彼は見逃がしてくれないようだ。
『先輩待って。僕は誕生日プレゼント聞いてるんですから、遠慮しないで言ってください』
「違うんだ、遠慮とかじゃなくて……」
彼は、俯いてもごもご言う私の手を引き留めたまま話し続ける。
『…そんな真っ赤になるほど欲しかったものって、なんですか?』
恐る恐る顔を上げる。そこには、私が手に入れたいと願って止まない熱視線があった。
『欲しいもの』
今一番欲しいものですか?お金がほしいです。…え?聞いただけですか?あーそうですか。わかってましたけどね。ええ。じゃあ急いでるんで。アデュー。
今一番欲しいもの
何もいらない
欲しい色はすべて手に入れた
ねるねるねるねは練りつくした
強いて言えば糸が出るねるねるねるねが欲しいが
もう売っていないのだ
過去の自分たちに言いたいことがあるとすれば『恋心なんて秘めて蓋をしていても健康に悪い』だろうか。
だけどこんなふうに言えるのも今、私の一番近くに彼が居てくれるからだろう。
どんなに努力と研鑽を重ねてもヒトの気持ちだけはどうにもならないことを考えれば、私たちはきっと、とても運が良かったのだ。
陽射しが真夏みたいに強い日だった。
いつもみたいに芝生の上でお菓子と飲み物を広げたはいいものの、暑さにとても弱い彼は眩しい太陽に向かって溜息をついた。
心配になって日傘に入れてあげたら、思っていたよりも彼の顔が近くて。
子どものころ内緒話をしたときと同じくらいの距離だと思うのに、子どものころ無邪気に彼のお嫁さんになりたいと言っていたときより、遥かにドキドキして、クラクラと眩暈が止まらなくなった。
「好きよ」
二人だけに聞こえる声でそう囁いて、彼の濡れた鼻先にそっと口付けた。いつもは鋭くて涼やかな金の瞳が、思い切り見開かれたのを憶えている。
「あ、ああ。知ってる。お嬢は。俺のこと、好きだよな」
「そうよ。大好きなの。……だから。そろそろ、本気のお返事を……ちょうだい?」
確信も何も無くて、怖くて怖くて蓋をしたはずの感情だったのに。
あのときの私は、何を思っての行動だったのか……急にきた夏の暑さにでもやられてしまったのか。
ああでも、今となっては褒めてあげたいわね。
「キスを返してくれたまでは良かったけど……そのあと押し倒されて顔じゅう舐め回されたのは流石にびっくりしたわ」
「し、仕方ねえだろ。あのときは、なんか盛り上がっちまったんだよ、こう……溜まってたもんがよ」
膝枕の上で恥ずかしそうに唸った彼の頭を、私はくすくすと笑いながらそっと撫でた。
「今1番欲しいもの?」
がやがやと騒がしい休み時間にあなたは突然聞いてきた。
「私はね〜、やっぱりお肉一生分!」
「あんたらしいね」
「桜ちゃんは?」
「私?ん〜秘密」
「えー!教えてよ〜」
絶対にこのことは言えない。
あなたのきらきらした笑顔、ちっとも怖くない怒っている顔、はらはらと泣いている顔、あなたの全てが欲しい、だなんて。
あのおもちゃが欲しい
あの漫画が欲しい
昔は、おもちゃや漫画が欲しかった
ハマっているもの、流行っているもの
物が欲しかった
昔はお金が欲しいっと言う大人が理解出来なかった
物が欲しいなら物が欲しいっと言えばいいのにっと
家が欲しい、お酒が欲しいって物が欲しいって言えばいいのにって思っていた
でも大人はお金が欲しいっと言う
お金が欲しい
それを理解したのはいつだったか…
一人暮らしを始めてからか、それとも社会人になってからかは分からないが理解してしまった
物が欲しい
でもその物を買うためにはお金がいる
だからお金が欲しいっと
昔はもう少しお金があったのかもしれない
でも今の日本では生活するので手一杯だ
昔みたく物価が低ければ旅行にも行けたかもしれない
昔みたく給料が多かったら好きな物を食べられたかもしれない
今はほんの少しだけしか好きな事が出来ない
長く我慢してようやく少しだけ好きな事が出来る
お金が足りないのだ
気がつけばいつの間にか口癖のように言っている
いつかの大人のように
「お金が欲しい…。お金があればなぁ………」
私が1番欲しいもの
『月とクジラ』
今は深夜か早朝か、午前4時前に家を出た。
ビルの谷間にポーンと花火が打ちあがった。
けれどこの花火ちっとも消えないなと思ったら、沈みかけのお月さまだった。
夕日に似た橙のグラデーションを宿していたので花火と見間違えたのだ。
私はじんじんとする瞼をこすりながら急いでいた。
浜に入道クジラが出たらしい。
海の友達が言っていた。
夜明け前の入道雲がザパーンと身を翻したかと思えば、クジラだったという話だ。
この入道クジラ、朝マヅメに姿を見せるのだが日が照り出すと消えてしまうらしい。どこに消えてしまうのかは誰にも分からない。
今日明日が最後だろうな、と海の友達は言っていた。
私はいてもたってもいられなくなって浜に向かったのだ。
家を出る前に同棲中の彼女と喧嘩をした。
そろりそろりと静かに家を出るつもりだったが、押入れから望遠鏡を探す物音で彼女を起こしてしまったのだ。
「どこに行くの?」
彼女は明らかに不機嫌だった。
深夜、あるいは早朝の外出について私は彼女に話していなかった。
けれど、それだけの話でもないらしい。
私が現在無職で求職活動中であること、彼女の実家への挨拶を渋っていること、部屋の片づけを疎かにしていることなどなどが積み重なって眉をひそめている。
私は向き合って、彼女をなだめてから家を出るべきだった。
けれど、クジラはそんな私を待ってはくれない。
私は何やかんやと中途半端な説明だけ済ませ、シューズのかかとを踏んだまま足早に家を出た。
もういい、と彼女の声が聞こえた。
私は取り返しがつかないことをしてしまったのではないか。
不安と焦りと期待を胸に、車のエンジンをかけた。
未だ知らぬ入道クジラの姿と彼女のことが交互に脳裏をよぎった。
沈みかけの満月から目を離せなかった。
既に月は半分以上沈み、夜の終わりを告げている。
サイドミラーに映る対角の地平線は既に白んでいる。
考えなければいけないことが幾つもあった。
けれど今考えることはただ一つ。
海へ海へ、クジラが去る前に。
バイパスに出る。
目的地の浜まで30分。
海の友達から、まだかまだかとラインが届く。
お腹の底が切ない気持ちできゅーっと鳴る。
入道クジラを見た者は、それから一年幸福に過ごすことが出来るのだという。
けれど、私はクジラを見ることで自分を幸せにしたいわけではなかった。
ただ、入道クジラをこの目で見たいだけだった。
一昨日まで入道クジラについて考えたことすらなかったのに。
彼女の冷たい視線を置き去りに、私は海に向かっている。
アクセルは止まらない。
浜に着くと、既に大勢の人がごったがえしていた。
車を停めるスペースはなく、駐車場をぐるぐると旋回するはめになった。
途方にくれていた時、浜に並ぶ椰子の木の上空に巨大な白い紡錘形の塊を見た。
正確な大きさは分からないが、東京タワーと同じくらいの大きさだろうか。
グォーンっという鐘の音に似た鳴き声が夏空に響いた。
入道雲が白波のごとく前後左右に飛び散った。
巨大な白い腹をそらせて、円盤の様なヒレを高々と掲げて旋回している。
そして再び、グォーンという声をあげて入道雲の中に飛び込んだ。
そしてゆっくりゆっくり、雲の合間をたゆたいクジラは静止した。
数分待ったがクジラはもう動かなかった。
よくみれば、それはクジラの形をした入道雲だった。
路上に一時停止した車内でしばらく呆然としていた。
わざわざ引っ張り出してきた望遠鏡は手に取ることすらせず、助手席に置きっぱなしだった。
人だかりが少しずつ帰路につき始めている。
やっと駐車スペースに停めて、目的もなく浜をうろついた。
海の友達を探したが既に帰宅したようだった。
子供が浮き輪を手に砂浜を走っている。
海の家がガレージを開けて、開店の準備をしている。
ありふれた夏のビーチだった。
まるですべてが幻だったかのように。
仮眠をとってから帰路についた。
今朝の彼女との会話が憂鬱に蘇った。
鍵をあけてただいまと言うも、返事は無かった。
溜息混じりに冷蔵庫を開けると、華奢な三日月がコロンと転がり落ちた。
この三日月あまり光らないなと思ってよく見ると、バナナだった。
バナナの皮を剥くと、白く冷え切った彼女の顔が出てきた。
彼女はバナナの皮に包まれて寝息を立てていた。
慎重に彼女を取り出し、抱き上げてベッドに運んだ。
数分して彼女が目を覚ました。
「帰ってたの?」
「ついさっき」
彼女は憑きものが落ちたように穏やかな顔をしていた。
「私ね、夢をみたの」
「どんな?」
「冷蔵庫の冷えたりんごとぶどうが、おいでおいでをしてきてね。一緒に眠ろう、冷えた果実になろうって。私は未熟なバナナになって彼らの隣で眠りについたの」
おかしいよね、と君は笑う。
そうだね、きっと夢なんだろうけど。素敵な夢だと思うよ。
その時、私は改めてクジラに想いを馳せた。
幻だって良いじゃないか。
私の、私たちの幸不幸がそれぞれの意志によるものだとしても、クジラが振りまくという幸福の一片を願わずにはいられなかった。
お題〈今1番欲しいもの〉
微百合注意⚠︎
あと1週間で私の誕生日。
「ねぇねぇ!!あと1週間で誕生日よね!今1番何が欲しい?」
素直でストレートな彼女が聞いてきた。
「ちょっと…それ本人に言う?笑 特にないなぁ…」
「強いて言えばでもいいから!!!」
「えー家欲しい〜」
「い、家…お小遣いで足りるかな……」
ネタを真剣に捉えてしまうのもこの子の可愛い所だ。
「冗談だよ!笑プレゼントはセンスに任せるよ〜笑」
「えぇ!!それが1番難しいの!!」
「えぇ、何がいいかなぁ…」
真剣に考えてくれている彼女を前にして私は何が欲しいか考える。
今1番欲しいもの…私の前で真剣にプレゼントを考えてくれている貴方が欲しい。
私だけのものにしたい。
きみが視線を向けているものが
きみが声をかけているものが
きみが体温を預けているものが
全てぼくが独占できたならいいのに
# 今一番欲しいもの
今一番欲しいものは何か?
ん〜なんだろうね。
君は、何が欲しいんだい?
お金?ははは、君らしい回答だね。
本当にないんだよ。
もうとっくに叶ってるからね。
そんな不服そうな顔しないで。
とっくの党に叶ってしまってるよ。
これ以上望むのは罰当たりだ。
そいえば、君は貰ったお金で何を買うの?
生活費にする?現実的な回答だね。
でも、そんな君も好きだよ。
僕を愛してくれてありがとうね。
今1番欲しいもの
あなたの体温
あなたからのキス
あなたからのハグ
あなたを感じられる
全部が
ほしい…
------------------------------今1番欲しいもの