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過去の自分たちに言いたいことがあるとすれば『恋心なんて秘めて蓋をしていても健康に悪い』だろうか。
だけどこんなふうに言えるのも今、私の一番近くに彼が居てくれるからだろう。
どんなに努力と研鑽を重ねてもヒトの気持ちだけはどうにもならないことを考えれば、私たちはきっと、とても運が良かったのだ。
 

陽射しが真夏みたいに強い日だった。
いつもみたいに芝生の上でお菓子と飲み物を広げたはいいものの、暑さにとても弱い彼は眩しい太陽に向かって溜息をついた。
心配になって日傘に入れてあげたら、思っていたよりも彼の顔が近くて。
子どものころ内緒話をしたときと同じくらいの距離だと思うのに、子どものころ無邪気に彼のお嫁さんになりたいと言っていたときより、遥かにドキドキして、クラクラと眩暈が止まらなくなった。
「好きよ」
二人だけに聞こえる声でそう囁いて、彼の濡れた鼻先にそっと口付けた。いつもは鋭くて涼やかな金の瞳が、思い切り見開かれたのを憶えている。
「あ、ああ。知ってる。お嬢は。俺のこと、好きだよな」
「そうよ。大好きなの。……だから。そろそろ、本気のお返事を……ちょうだい?」
確信も何も無くて、怖くて怖くて蓋をしたはずの感情だったのに。
あのときの私は、何を思っての行動だったのか……急にきた夏の暑さにでもやられてしまったのか。
ああでも、今となっては褒めてあげたいわね。


「キスを返してくれたまでは良かったけど……そのあと押し倒されて顔じゅう舐め回されたのは流石にびっくりしたわ」
「し、仕方ねえだろ。あのときは、なんか盛り上がっちまったんだよ、こう……溜まってたもんがよ」
膝枕の上で恥ずかしそうに唸った彼の頭を、私はくすくすと笑いながらそっと撫でた。

7/22/2024, 9:54:36 AM