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8/29/2024, 8:46:11 AM

私は彼からお誕生日プレゼントを貰ったことがない。

『そういえば今日だったか? ヒトの誕生日って今まで気にしたことなかったな。自分の誕生日もいつか知らねえし』
 
彼が屋敷に住むようになって三ヶ月とちょっと経った、夏の終わりの頃だ。

『つーか、お嬢は俺なんかが何かあげるより良いモン、家族とオトモダチから貰ったろ? それでいいじゃん』

当時幼かった私はその言葉に「そうじゃない」とも「そうだね」とも言えなくて。
自分からプレゼントをねだるなんて二度と出来るわけがなくて、それから十年以上が経った。

大きな丸いケーキ。
ハッピーバースデーの歌。
たくさんのプレゼント。
みんなの気持ちがとても嬉しくて。
だけど今年も、彼からのプレゼントは無かった。

今年はもしかしたら……って思ってなかったわけではないから。だから夜寝る前、ほんの少しだけ自分の部屋の中でだけ落ち込んでた。ほんの少しだけ。
だから突然の彼の訪問は、とても意外なもので。

「あー、えーっと。たまたま街ぶらついてたら、悪くねーの見かけてさ。そういえばお嬢そろそろ誕生日だったなって、たまたま思い出してさ。……ほれ。誕生日オメデト」

綺麗にリボンのかけられた小さな箱を、ぶっきらぼうに渡された。
中には綺麗なネックレスが入っていた。
ペンダントトップに太陽と月が寄り添うようにモチーフされた、とても綺麗なネックレス。

「いや、別に。店員にやたらオススメされたから何となく買ってみたっていうか。気に入らなかったら、そのへんに仕舞っといたらいーし……ッ、て! なんで泣いてんだよお前!?」

やだ、どうしよう。
ごめんなさい、みんなごめんなさい。
今まで貰ったどんなプレゼントよりも、これは──。

8/17/2024, 7:30:26 AM

「誇らしさ」

(これはとても書きたい)
(けど8月は本当に、本当に時間が……ということで一応ピン留め。別のテーマで置き換えられそうなら9月以降そっちで書くかもしれません)

8/7/2024, 5:33:49 AM

La(太陽)とLuna(月)。
ハワイアンジュエリーの有名なモチーフであり、どちらが欠けても世界は成り立たないことから、かけがえのないもの、存在を表すとされている。
長年連れ添った、もしくはこの先連れ添いたいと願う大切な人へのペアジュエリーとしてお勧めされることが多い。

「大切な人に贈るには良いモチーフですよ!ずーっと一緒にいられるって意味もあるんですっ!」
「へえ。カッコイイしキレイだな、この模様」

店員が勧めるままに太陽と月が寄り添ったモチーフのペンダントを目の前にぶら下げながら、狼は脳裏に一人の少女を思い浮かべた。
好き。大好き。ずっと一緒にいたいな──小さな頃からそう言ってくれていた彼女に贈るにはピッタリではないだろうかと考える。
それに太陽はポカポカしていて暖かいし、月は白くて優しくて静かで美しい。彼女にはこれ以上なく似合っていると思う。

「今月、相手が誕生日でさ……そういうので贈っても、おかしくないか?」
「えー!すごーい!大丈夫ですよ!私ならキュンとしちゃいますゥ」
「そ、そっか。じゃあこれ、ペアで」
「ありがとうございまぁーす!」

十年近く使い所もなく貯めていた手持ちの有り金をはたいて、狼はペアネックレスを購入した。

太陽と月。
夫婦の、そして深く愛し合う恋人の象徴となるモチーフである。
逆に付き合いたての恋人に贈るには少々重たいのかもしれないが、そこは意見の分かれるところだろう。
……重くても贈られた相手がそれを喜ぶのなら、きっとそれでいいのだから。

7/30/2024, 7:36:59 AM

空が一瞬白く光って数秒の後、大きな雷鳴が轟いた。

「あれ。近いかも……大丈夫?」
「あ? 何がだよ」

言葉に余裕と覇気が無い。なんとかポーカーフェイスを保とうとしているけれど、耳は周囲を気にするように忙しなく動いているし、尻尾はしなしなに萎れている。
幼い少女はそんな狼を隣から見上げて眉尻を下げ、外に視線を移した。
午前には快晴だったはずの空には黒い雲がうねり、今は激しい雨が窓を叩いている。

「こんな雨のあとには少しだけ涼しくなるって、おばあちゃまが言ってたわ」
「そうだったらありがてえな。最近暑すぎてしんどかったし──」

再び空が一瞬光ったかと思うと、数秒後にドンと先程よりも大きな音が鳴った。二人の肩が同時に跳ねる。

「おわっ!?」
「ひゃあっ。凄く大きな音だったね……」
「な、なんだお嬢。雷が怖いのか? 仕方ねえなこっち来いよ。俺が守ってやるからな、大丈夫だ」
「え? えっと……う、うん」

少女は促されるまま狼に抱き包まれる。
今や銀色の尻尾は彼の脚に巻き付かんばかりだったけれど、少女はそれをチラりと確認した上でこっそり微笑むと、ギュッと狼の体に擦り寄った。

「ありがとう。こうしてれば怖くないよ」
「おう」

たとえ嵐……もとい、ゲリラ豪雨が来ようとも。
二人でいれば、大丈夫。

7/22/2024, 9:54:36 AM

過去の自分たちに言いたいことがあるとすれば『恋心なんて秘めて蓋をしていても健康に悪い』だろうか。
だけどこんなふうに言えるのも今、私の一番近くに彼が居てくれるからだろう。
どんなに努力と研鑽を重ねてもヒトの気持ちだけはどうにもならないことを考えれば、私たちはきっと、とても運が良かったのだ。
 

陽射しが真夏みたいに強い日だった。
いつもみたいに芝生の上でお菓子と飲み物を広げたはいいものの、暑さにとても弱い彼は眩しい太陽に向かって溜息をついた。
心配になって日傘に入れてあげたら、思っていたよりも彼の顔が近くて。
子どものころ内緒話をしたときと同じくらいの距離だと思うのに、子どものころ無邪気に彼のお嫁さんになりたいと言っていたときより、遥かにドキドキして、クラクラと眩暈が止まらなくなった。
「好きよ」
二人だけに聞こえる声でそう囁いて、彼の濡れた鼻先にそっと口付けた。いつもは鋭くて涼やかな金の瞳が、思い切り見開かれたのを憶えている。
「あ、ああ。知ってる。お嬢は。俺のこと、好きだよな」
「そうよ。大好きなの。……だから。そろそろ、本気のお返事を……ちょうだい?」
確信も何も無くて、怖くて怖くて蓋をしたはずの感情だったのに。
あのときの私は、何を思っての行動だったのか……急にきた夏の暑さにでもやられてしまったのか。
ああでも、今となっては褒めてあげたいわね。


「キスを返してくれたまでは良かったけど……そのあと押し倒されて顔じゅう舐め回されたのは流石にびっくりしたわ」
「し、仕方ねえだろ。あのときは、なんか盛り上がっちまったんだよ、こう……溜まってたもんがよ」
膝枕の上で恥ずかしそうに唸った彼の頭を、私はくすくすと笑いながらそっと撫でた。

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