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私は彼からお誕生日プレゼントを貰ったことがない。

『そういえば今日だったか? ヒトの誕生日って今まで気にしたことなかったな。自分の誕生日もいつか知らねえし』
 
彼が屋敷に住むようになって三ヶ月とちょっと経った、夏の終わりの頃だ。

『つーか、お嬢は俺なんかが何かあげるより良いモン、家族とオトモダチから貰ったろ? それでいいじゃん』

当時幼かった私はその言葉に「そうじゃない」とも「そうだね」とも言えなくて。
自分からプレゼントをねだるなんて二度と出来るわけがなくて、それから十年以上が経った。

大きな丸いケーキ。
ハッピーバースデーの歌。
たくさんのプレゼント。
みんなの気持ちがとても嬉しくて。
だけど今年も、彼からのプレゼントは無かった。

今年はもしかしたら……って思ってなかったわけではないから。だから夜寝る前、ほんの少しだけ自分の部屋の中でだけ落ち込んでた。ほんの少しだけ。
だから突然の彼の訪問は、とても意外なもので。

「あー、えーっと。たまたま街ぶらついてたら、悪くねーの見かけてさ。そういえばお嬢そろそろ誕生日だったなって、たまたま思い出してさ。……ほれ。誕生日オメデト」

綺麗にリボンのかけられた小さな箱を、ぶっきらぼうに渡された。
中には綺麗なネックレスが入っていた。
ペンダントトップに太陽と月が寄り添うようにモチーフされた、とても綺麗なネックレス。

「いや、別に。店員にやたらオススメされたから何となく買ってみたっていうか。気に入らなかったら、そのへんに仕舞っといたらいーし……ッ、て! なんで泣いてんだよお前!?」

やだ、どうしよう。
ごめんなさい、みんなごめんなさい。
今まで貰ったどんなプレゼントよりも、これは──。

8/29/2024, 8:46:11 AM