空が一瞬白く光って数秒の後、大きな雷鳴が轟いた。
「あれ。近いかも……大丈夫?」
「あ? 何がだよ」
言葉に余裕と覇気が無い。なんとかポーカーフェイスを保とうとしているけれど、耳は周囲を気にするように忙しなく動いているし、尻尾はしなしなに萎れている。
幼い少女はそんな狼を隣から見上げて眉尻を下げ、外に視線を移した。
午前には快晴だったはずの空には黒い雲がうねり、今は激しい雨が窓を叩いている。
「こんな雨のあとには少しだけ涼しくなるって、おばあちゃまが言ってたわ」
「そうだったらありがてえな。最近暑すぎてしんどかったし──」
再び空が一瞬光ったかと思うと、数秒後にドンと先程よりも大きな音が鳴った。二人の肩が同時に跳ねる。
「おわっ!?」
「ひゃあっ。凄く大きな音だったね……」
「な、なんだお嬢。雷が怖いのか? 仕方ねえなこっち来いよ。俺が守ってやるからな、大丈夫だ」
「え? えっと……う、うん」
少女は促されるまま狼に抱き包まれる。
今や銀色の尻尾は彼の脚に巻き付かんばかりだったけれど、少女はそれをチラりと確認した上でこっそり微笑むと、ギュッと狼の体に擦り寄った。
「ありがとう。こうしてれば怖くないよ」
「おう」
たとえ嵐……もとい、ゲリラ豪雨が来ようとも。
二人でいれば、大丈夫。
7/30/2024, 7:36:59 AM