『世界の終わりに君と』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「世界の終わりに君と」フィクション
世界は別に終わってもいい。
君との思い出があるから。
でも、世界の終わる時には、
君との思い出だけではなく、君のすぐ隣にいたい。
そして、世界の終わりに君と
永遠の愛を伝え合いたい。
『世界の終わりに君と』
「「はじめまして」」
──初めて会ったその時から、僕は君のことが好きだったんだ。
──────────
「今日でこの世界が終わるらしいよ」
頬杖をつきながら君が言う。
心底つまらなそうな表情で、最近黒く染めた髪の毛を指でクルクルといじる君。
ぼーっとスマホを見るばかりで、視線をこちらに向ける気力もないようだ。
──よくある都市伝説の話題だろうか?
それにしたって楽しくなさそうだ。
少し考えを巡らせる。
「何か嫌なことでもあったかな?」
「別に……なんでもない。
ただ仮にこれが本当の話だったら、私とあなたは今日、いったい何をするのかなって。
……ほんの少し気になっただけ」
「そっか……そうだね、少し考えてみようか」
「そこまで真剣にならなくてもいいよ。
何となく思っただけなんだから」
君は少し躊躇いがちに僕を見る。
ようやく視線が重なって、それだけでじんわりと心が暖かくなった。
いつまで経っても僕は君が好きらしい。
「僕は君と話すのも好きだからね。
せっかくだから一緒に考えてみようよ。
それとも……あまり気分じゃないかな?」
「そんなことはない……けど」
「けど?」
「言い出しておいてなんだけど、やっぱり少し怖いかな。
私はあなたと過ごす今が幸せだから……それが終わっちゃうなんて嫌だよ」
そうしてまた目を伏せる君を見て、僕は愛おしさが込み上げる。
「……初めて僕達が出会った日のことを覚えてる?
お互いの挨拶が被ってしまって、気まずい空気が流れたよね」
「もちろん覚えてるよ。
あの時は緊張して……でも、私にとっては大切な思い出だから」
「僕も同じだよ。
あの日は僕"達"にとって大切な日なんだ」
──だから。
「仮に今日世界が終わったとしても、また次の世界であの日を繰り返せばいいんじゃないかな?
その後に今日の続きを過ごそうよ。
僕が生まれ変わったら、必ずまた君を見つけるから」
「……ありがちな台詞だね。
でもそっか……そう、ありがとう。
そういうことなら安心だね」
そう言って照れ臭そうに、君はにこりと微笑んだ。
──────────
『『はじめまして』』
──初めて会ったその時から、僕達はお互いのことが好きだったんだ。
世界の終わりに君と/
僕は告げなかった。
君に最後まで笑っていてほしかったから。
なんて。
君の笑った顔を僕が見ていたかったんだ。
恐怖で歪んだ顔なんて見たくなかった。
それが最後だなんて、、
僕は逃げるように君を恐怖から遠ざけた。
君は子供のように僕のあとをついてきたね。
必死だったんだ。
君の笑顔を守るために。
君の望むことは何でもやったよ。
射的がやりたいとはしゃぐ君に
僕は何度でも付き合った。
どうしても倒したいという駄菓子を
無我夢中で狙う君を僕は眺めていたんだよ。
歌うのが苦手な僕だけど何時間でも付き合えた。
君と居ると時間が泡のように消えるんだ。
リズムを取りながら踊る君を
楽しそうに歌う君を
僕は気付かれないよう横目で見ていたんだ。
電車に揺られながらうとうと眠る君を
僕の手を繋いで眠る君を
抱きしめて壊したいと思った。
壊したいけど壊したくない。
そんな矛盾を抱えながら僕は
一睡もせずに君の横顔に見とれていた。
気付かれないように
細心の注意を払いながらチラチラと
目に焼きつけていたんだ。
君の仕草に、言動に、表情に、
全て、なにもかもに、夢中だった。
電車に揺られてどのくらい来ただろう。
窓の外にはどこまでも海が広がっていて
君はここで降りる!と突然言って。
君の気まぐれさには困ってしまうよ。
僕は行く先々、すみません、と頭を下げているのだけれど、君は全くそんなことお構いなしに踊り続けて行ってしまうんだ。ひらひらと。
今日だって今だって。
走り出す寸前のバスを君は
すみませーん!と小さな体と比例しないほどの大声で、
乗ります乗りますー!と両手をあげ
全身で訴えかけている。
そして閉まったドアをもう一度開けさせるという
荒技をいとも簡単にやってのけてしまった。
君は魔法使いか何かなんだろうか。
こんな場面を僕はもう何度も目にしてきた。
そこに厚かましさが無いというのがなんとも不思議で。
僕は普通の人間なので
すみません、と顔を隠したくなるのだけれど
隣に座る当の本人は
ふぅー。乗れてよかったね!
なんてとびきりの笑顔で
呑気なことを言うもんだから参ってしまう。
そして君はしばらく窓の外をうっとりと眺めてたかと思うと、はたと突然、
降ります!ここで降ります!
なんて言うもんだから僕の心臓は飛び上がりドクドクと鼓動を速める。
そしてまた僕はすみません、と顔を隠しながら足早にバスを降りるのだった。
ふたりで海沿いをとぼとぼと歩いていく。
どこまで続いてるのかなー?
なんて君は無邪気に言いながらくるくると回る。
潮の匂いや鳥の鳴き声
心地よい風の音、そして君のぬくもりを
繋いだ左手から静かに感じていた。
僕はこの幸せが永遠に続くような気がしたのだけれど
世界は君みたいに忙しないみたいだ。
それは突然のことだった。
もやもやと怪しい雲が立ち込め
ぽつりぽつりといよいよ雨が降り出した。
そのうち豪雨となりけたたましく
雷の音がごろごろと鳴りだした。
君は驚いていたけれど、
旅にハプニングは付き物だよね、と
笑顔でびしょ濡れになった前髪をかきあげ
お化粧が取れちゃう、なんて顔についた
大粒の水滴を払うのであった。
僕はね、気付かなかったんだよ。
君は無邪気に見えて、何も考えてなさそうに見えて
何でも知っていたんだね。
やっぱり君には敵わない。
底しれない君の魅力は何なんだろうと
思っていたけれど、それは弱いところを誰にも見せない強さだったんだ。
最後の最後まで君は笑っていた。
木々が次々なぎ倒されても、
耳をつんざく様な音に苛まれても、
吹き飛ばされそうな豪雨に見舞われても、
君は自分よりも他の人の為に笑っていたんだ。
それが君の生き様だったんだ。
最後の最後にわかったんだよ。
遅かった。遅かったね。
君の肩が震えるからさ。
僕はこれまで以上に強く願った。
君から恐怖が無くなりますように、と。
強く抱きしめたんだ。壊れるくらいに。
君を抱きしめながら感じていた。
君は笑いながら泣いていたんだ、と。
顔は見れなくとも、最後に君の心を
抱きしめてあげられたのかな。
なんて。
そんなのは僕のうぬぼれかな。
だけど確かに君の心を感じた。
世界の終わりに、君を理解したんだ。
君の肩の震えが止まりふぅと魂が抜けたような
安堵の息を漏らした時、
僕の心も安らいで、笑みがこぼれた。
僕たちは泣きながら笑っていた。
最後の瞬間に安らぐなんてさ、笑ってしまう。
世界が終わった瞬間、
僕たちは最も美しかったんだ。
この世は、創作されたマトリックスの世界なのだろうか。
私たちはゲームの中の登場人物の一人一人みたいなものなのだろか。
だれがマトリックスを作ったの。
マトリックスは、1つなのか、2つなのか、3つなのか。終わりはあるのか。
わからないことだらけ。
世界の終わりに君と
一緒に居られればいいのに
何百年何千年経っても
変わらずに寄り添い合っていたいのに
「愛してる」が「愛してた」になる日が
ずっと来なければいいのに
いつか世界が終焉を迎える時でも
ただ君と共に過ごして
最期まで愛を伝えられればいいのに
世界の終わりを君と
見えるかい?■■■さん。
あんはにも蒼く眩しいほど輝いていた空が今や紅や黄金色に染まっている。
……しかし残念だ、オレとしてはアンタと話しながら眠りたかったんだがね、まぁ間に合わなかったのはしょうがない生の終わりだ後悔しないほうがマシだろう?
やっとオレもそっちに…
happy end?〈終〉
この瞬間を
切り取り永久に
出来たなら
待ちに待ちたる
三千世界
【世界の終わりに君と】
世界の終わりは いつと知れない
いまこの時を
胸いっぱいに吸い込んで
目に映るもの
心打つものを
絶えず分かち合うのだ
「世界の終わりに君と」
#438
崩れたビル。折れた電柱。どこからともなく風で飛ばされてきたゴミ。
かつての面影が残る…と言っても文明が滅んだのはもう50年も前の事らしい。50年も前となってしまえば面影もクソもないと思うんだがなぁ…
僕たちはなくなってしまった文明を探す旅をしている。僕はお酒が好きだし、あいつは本が好き。色んなところで色んなものを探す。毎日違うものを探して。そうして一日が終わって行く。
今日も旅に出よう。2人終末旅行に出かけよう。
「『明日世界が終わるなら』みたいなお題なら、先月書いたな。『明日終わる店』の話ってことで」
今回は何終わらせようか。某所在住物書きは過去投稿分の物語をスワイプで探しながら、ため息をつき、物語の組み立てに苦労している。
6月3日頃の「失恋」のお題では、旧デザイン紙幣の終わりに関する物語を書いた。
さすがに短期間での二番煎じは避けたい。
「……ソシャゲの世界の終わり、サ終に、誰かと?」
そういえば某レコードが世界終了発表してたな。
物書きは考えるに事欠き、別の話題に逃げた。
――――――
インストして、アンストして、時が経って恋しくなって再インストールしようとアプリ名を検索したら、ピンポイントで配信停止になってたこと、ありませんか、そうですか、云々。
という物書きのアプリ世界終了事情は置いといて、今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社近くの茶っ葉屋さん、「稲荷の茶葉屋さん」のお得意様専用飲食スペースで、
今にも泣きそうな化け子狸が、個室のテーブルにメモ帳を一冊広げ、ボールペンくっつけた手を悲哀に震わせておりました。
まさしく、お題どおり「世界の終わり」に立ち会っているような悲壮っぷり。
この化け子狸、茶っ葉屋のご近所の和菓子屋さんで、最近初めて、売り物として自分の練り切りをショーケースに入れてもらったのです。
この化け狸、修行中のお菓子屋さんなのです。
で、お客さんからのフィードバックが欲しいので、
お友達の狐の茶っ葉屋さんで、お得意様に食べてもらってご意見頂きたいと突撃取材をしたところ、
丁度そこのお客さん、「昨日、ウチの上司が買ってきて、私と上司とあと1人で食った」と。
お得意様は、名前を藤森といいました。
なんだか前回投稿分で見たような名前と展開ですが、気にしない、気にしない。
で、そのお得意様が子狸に伝えた「練り切りを食った上司の感想」が、子狸の悲壮の理由でした。
「批判しているんじゃない。期待しているんだ」
自分のメモ帳に「つまり おいしくなかった」と記す子狸を、藤森、懸命になだめます。
「私は美味しいと思ったし、ウチの緒天戸も『見習いが作ったにしては大したもんだ』と言っていた。最終的に高評価だった。自信を持ってほしい」
子狸と一緒に個室に入ってきた子狐は、お得意様が子狸をいじめていると勘違い。ぎゃぁん、ギャァン!
寄るな触るなこれ以上いじめるなと、牙むき出しで本気になって、藤森を威嚇しました。
少し塩気が多い、生地の口当たりがまだまだ、でも一生懸命丁寧に作ったのがよく分かる。
今後の成長が楽しみだから、これからも買う。
お得意様が伝えた上司の感想は、つまり上記のコレでした。要するに、子狸のお菓子は好評でした。
だけど一生懸命、これ以上無いほど自分の全部を注ぎ込んで作った和菓子に、欠点が2個もあったことが、子狸、ショック過ぎたのです。
師匠たる父狸の仕事は、全部メモしました。
アズキの蒸し方も、その時の室温と湿度と蒸す時間も、塩の量も、全部、ぜんぶ、勉強しました。
ポンポコ子狸、メモに従いキッチリと、正確に量と時間と温度とを計測して、初めて商品用の練り切りを作り、満を持してケースに並べたのでした。
その練り切りに、欠点があったのです。
ポンポコ子狸、それが悲しくて悲しくて、世界の終わりみたいな顔をしておるのです。
「子狸、」
ダメ!おとくいさん、触らないで!いじめないで!
ギャギャギャッ、ギャンギャン!
「聞いてくれ、こだぬき、」
ダメったらダメ!おとくいさん、キツネの大事なともだちに近づかないで! ギャァアン!
「あの……」
ギャン!ギャン!ぎゃぁん!!
子狸の世界の終わりに、子狐が寄り添います。
子狸の世界の終わりに、藤森が弁明します。
「私は、塩気が鹿児島のゆたかみどり品種の新茶によく合うから、あれで完璧だと思ったんだ……」
カンペキ?よく合う?
ポンポコ子狸、藤森の弁明に即座に反応。
ちょっと元気が出た様子。
涙を拭き、ボールペンを持ち直し、耳をピンと立てて、練り切りの感想インタビューに戻りました。
世界の終わり規模に落ち込んじゃう菓子職人見習いに、友達と友達のお得意様とが寄り添うおはなし。
後日見習い子狸は気を取り直し、更に腕を上げて、リベンジ2作品目を出しまして、
感想を勿論聞いたのですが、以下略。
おしまい、おしまい。
もしも今日世界が終わるなら―
また貴方と過ごしたい
かけがえのない毎日を取り戻したい
最後くらい幸せな1日でありたい
世界があっというような美しい日々を
今日もまた溜息を。
そして偽りの笑いを
いつまでも君の隣で笑っていたかった
世界の終わりに君と(命の還る場所)
―――世界滅亡までのカウントダウン。
巨大彗星が衝突するという眉唾な噂話が確実な定説へと変貌を遂げ、世界中を駆け巡った騒動から早数年。
“その時”はもうすぐそこまで迫っていた。
騒動が広まった当初はまだ人々に余裕があり、信憑性にも疑問があったため特に目立った混乱は起こらなかった。
―――良くも悪くも変わらない明日を信じてやまない人の性が、同調圧力をさらに強化させていたといえる。
だが、それも暫くすると一変する。
いよいよ彗星が地球に到達すると報じられると、人々は一斉に自我を剥き出しにして凶暴さを現した。
店を襲撃して欲しいものを片っ端から奪い合う。
食料は元より、欲望の糧となるあらゆるものが標的にされた。
この時既に働くという概念は人々から消え去り、店員はおろか警察官もいなければ自衛隊も居ない。
法治外国家を極めつくし、世界は崩壊の一途を辿っていった。
そして。
“その日”が来る。
「………。誰もいねーな」
―――都会のど真ん中でおーい、と呼んでみるも、人っ子一人見当たらず彼は天を仰いだ。
………本当に誰もいない。やはりどうやら皆ここを離れたらしい。
多少はそうなるだろうと薄々予測は立てていたが、これほどまでとは想定外だった。
誰かしらいるだろうと踏んでいたのだが。
いや………こうも簡単に築いたものを捨て去るとはな。
俺は溜息をつき、適当に日陰になれる場所を選んで腰を下ろす。
「………結局みんな、最後に考えることは同じってことか」
ぽつりと呟いてみるも返事はない。
―――寂しい? まさか。
ただ人々の似たりよったりな思考に、感心の念が湧くだけだ。
『もし世界が終わるなら、最期の瞬間まで綺麗な夜景を見ていたいわ』
―――生前彼女がよく話していた。
ああ。俺も一緒だよ。
でも人はどうしてか、自然を求めてしまう生き物らしい。
みんな最期の瞬間は文明の利器など見向きもしない。
海へ山へ草原へ、還れると信じて足を向ける。
―――けどきっと君は、ここにいるよな。
ほんの数日前までネオンで溢れていたこの街に。
「………世界の終わりを、二人で目に焼きつけたかったけどな」
人が去った街で、夜景など見れはしなかったのだけど。
それでも君ならここを離れなかったろう。
―――空が朱く染まり、やけに大きな太陽が沈んでいく。
ああ、時代が築き上げた大いなる廃墟と共に。
俺はやっと、君に還る。
END.
#28『世界の終わりに君と』
温かいスープを飲んで
隣に並んで手を握って
今日も楽しかったね、なんて言って
笑っていられたなら
他に何もいらない
なんだか今日はなにも思い浮かばない。
あなたのどこが好きだったのか、わからない。
あなたが何者なのか、わからない。
鼻も目も声も別人みたいね。
/『世界の終わりに君と』
きっと話したいことは
まとまらないし
言いたいことすべてを
伝えられないから
あの日見た映画を一緒に見よう。
一緒に空を見上げよう。
隣を歩いて
急な坂を上って
高台から街を眺めよう。
同じ景色を見ていられたら
それだけでいい。
「世界の終わりに君と」
私の世界にはあなたがいないと成り立たないの。
だからね私の世界はそろそろダメだと思うの。
最後にあなたに伝えたくて……
いつでも一緒だよ。
「世界の終わりに君と…」
Z級映画のクライマックス。今は地球が隕石の落下と同時にエイリアンに襲撃され、未曾有の死に至る感染症が拡大し、異常気象によって全海面水位の急上昇と全火山の大噴火と大陸レベルの台風が発生し、AIを搭載したロボットが暴走し、各国が核戦争を始め、神が君臨して地球を滅ぼそうとしているところだ。
世界が終わり過ぎてる。もうなんかむしろ始まってる。ヒロインを抱きしめながら叫ぶ主人公の演技が頭に入ってこない。もうこれ以上情報量を増やさないでくれ。心の中で嘆いていると、中盤に出てきたゾンビとサメと恐竜と悪霊が台風で打ち上げれているのがチラチラと背後に映り込んで私は逆にこの映画を愛することにした。
どいつもこいつも
みんなみんな 消えてしまえばいい
怒りに任せて言った言葉が
現実になった
だんだんと人が消えていく
私の周りの人が
私に無関心だった家族も
いじめっこだったクラスメイトも
自分のことしか考えてなかった担任も
みんな消えちゃった
大好きだったあの人も
もう隣で冷たくなってるな
あ…そうか
これが私の望んだ世界だったんだ
誰もいない自分の自分だけの世界
こんなにむなしいものだったんだ
そうだまだ終わりじゃない
自分がいるじゃない
これでやっと終わるんだ
じゃあね…
お題:世界の終わりに君と
得てして大抵のことは、始めるのは難しいけれど、終わるのは容易いものだと個人的には思う。
この世の始まりは本当に奇跡的なものだったらしい。洗濯機の渦の中に時計のパーツを投げ入れて、時計が組み立てられるほどの確率だとか聞いたことがある。だから、平穏な日々が続いてきたのもある意味、薄氷上を歩くように奇跡的な日々の連続だったのかもしれない。
「なーんか、今日が最後って気がせーへんなぁ」
幼馴染の日比野祭(ひびの まつり)がぼんやり空を見上げて言った。
「ほんまやな。普段の一日と何も変わらへんやん」
「なんや隕石が落ちてくるとか聞いたけど、あれ何時頃やったっけ」
「夕方の六時半頃やったかなー」
「えー、サザエさん観られへんやん」
「せやな、じゃんけんしたかったわ。
サザエさん強すぎて滅多に勝てへんかったし、最期くらい勝って終わりたかったなぁ」
「まぁ、そもそもテレビの放送自体最近ほとんどやってへんしなぁ」
今日でこの世が終わると報道されてから、世界中が荒んでいる。
テレビ番組もほとんどまともに作られなくなったし、新聞もページ数がかなり減っている。皆、まともに働くのが馬鹿馬鹿しくなったらしい。
あちこちのお店も大体開店休業というか、閉店に近い感じだ。電車はダイヤ通りには絶対来ないし、学校も殆ど先生は来ていないから、それぞれ思い思いに好きなことをやっている。
私も祭も、学校まで本来なら電車で通っていたのだけれど、今日はたらたら時間をかけての徒歩通学を選んだ。
日曜でも学校に自由に入れるのは、生徒思いの先生が奇跡的に私たちの学校にはいて、職員室に常駐しているからだ。
小林先生はラインで生徒たちに「最終日に学校に来たい奴は好きに来い。職員室の茶菓子と茶が余ってるからそれ目当てに来てもいいぞ」とメッセージをくれた。飲み食い目当てなら先着30名くらいまで、俺は9〜17時までいるぞ、とも。
担任の先生ではなく、私たちのクラスの数学を担当していた人だ。担任の加山先生に比べたら接点は少なかったのに、言葉の端々にさりげない優しさや思いやりが滲んでいて、好ましく感じていた先生の一人だった。
「瑞穂(みずほ)、この道で合うてるか?」
「ググれカス」
「ふっる! そんなん死語通り越して最早ミイラになってる言葉やろ」
けらけらと軽快に祭が笑い飛ばした。
「せやな。
ウチもリアルで初めて使うたわ。
まあええやん、死語もたまには使ってやらんと可哀想やし」
「何やそれ」
スマホのアプリは軒並み(アップデートはされないままではあるが)一応まともに使えていて、地図アプリの導きによって私たちは無事目的地へと辿り着いた。こういう状況下においては、人間よりも寧ろよほど、機械の方が役に立つのかもしれない。
人間には感情というものがある。
機械ならどんな時でも淡々と働き続けることができるが、人間は希望を抱くことができる分、どうにもならない状況に陥ると、その反動かのように、深く絶望することもできるのだ。
今がまさにその時で、人々は本当に勝手気ままにふるまっている。
享楽的に過ごしてこの世の終わりを心地よいまどろみの中で迎えようとする者もいれば、終わりを待てずに一足先に自ら世を去る者もいる。それだけに限らず、謎の新興宗教に身を置いてこの世の終わりの果てに新たな世界に転生を果たそうと試みる者もいるし、隕石に壊されるくらいなら、と平穏な人生をかなぐり捨てて自暴自棄に他人を巻き込む不逞の輩もいる。
心理テストで「もしもこの世が終わるなら、貴方は最後に何をする?」と昔友人に問われたことを今更になってふと思い出した。私は有り金を全部使ってやりたかったことをやり尽くす、と答えたものである。
いやはや、こういうあり得ないほど追い詰められた状況になると、人間の本性が出るよなぁ。明日以降の人生が存在しないのだと突きつけられたことによって、倫理観や常識がぶち壊されて、その陰に日頃隠していた願望が露わになったのだろう。
地域によっては暴漢や通り魔が頻繁に出没するところもあるらしい。SNSにそういう情報が散見された。
私たちの住む辺りはほどよく田舎で顔を知らない人が歩けばすぐ気づけるくらいには皆互いを知り尽くしているので、外出をしてもそういう危険に遭遇するリスクが低いのがありがたいところだった。おかげで、近場であれば、行きたいところに自由に出かけられる。
「祭、なんか食べたいものとかあらへん?」
「なんやねん唐突に」
祭が胡乱な者を見る眼差しをこちらに向けている。失礼な奴ちゃな。
「ほら、宵越しの銭は持たない、って言うやん? 有り金使って最期にいい思いしとこうかなーって」
辺りの景色を見納めとばかりにじっくり眺めて、子どもの頃よく二人で遊んだ公園に寄り道したりして学校に辿り着いたので、残念ながら先生の言っていた先着30名の枠からは漏れてしまっていた。
そろそろお腹の虫も騒ぐ時間帯である。
「さよか。
にしても瑞穂、お前いつから江戸っ子になったんや? 関西の誇りはどないしたん」
「そんなん別にどうでもええわ。
そないなこと言うなら何も奢ったらへんで」
「瑞穂に奢られんでも、俺もそれなりに持ってんで」
「ほんなら二人の有り金合わせたら何でもできそうやなぁ」
「まぁそれも、店がやってればの話やけどな」
「せやなぁ」
少なくとも、学食は随分前から機能していなかった。校内の自動販売機も当然ながら軒並み全滅である。
金は普遍的な価値を持つ資産だとか親が前に言っていた気がするけれど、この世の終わりに至ってはその価値もきっと形無しなのだろう。専門家などに調べてもらった訳ではないから本当のところは分からないけれど、少なくとも、お金をいくら持っていても使いどころが簡単には見つけられないのだから、いわんや金をや、というところである。
普段なら使われていない屋上も、この世の終わりを迎えるにあたり解禁になっていた。その恩恵に与って街並みを味わっている私たちはかなり真っ当な人間だと思う。中にはここから飛び降りた子や先生もいるのだから。
まだ太陽は私たちの真上にある。けれど、じりじりと眩しい日差しを避けるように、二人して給水塔の陰に隠れて僅かばかりの涼をとっていた。
「なぁ瑞穂。今更やけど、ほんまにええんか?」
「何がや」
「地球最後の日やろ。やりたいこととか無いんか? 会いたい相手もおらんのか?」
隣で不思議そうに目を細める祭の背を軽く音を立てて叩く。
「そんなんお互い様や。祭こそどないなん」
「そう言われたら、まぁ俺も上手いこと言われへんなぁ」
「せやろ」
今日が最期の一日だということを、目の前を飛んでいく烏は知っているのだろうか。悠々と、気持ちよさそうに風を切って青空を泳いでいる。
「まぁ、でも」
遠くの山を眺めていた祭が、くるりとこちらを向いたので、私も空から彼へと目を移した。
「最期になるからこそ、瑞穂といつもの日常を送って、あぁ、今日もええ日やったなぁって終わりたいなぁとは思っとるよ」
ぐっ、と言葉にならない思いが込み上げてきて、思わず咳き込んだ。
そうだった。私の幼馴染は時折、こんな風に無自覚で人をたらすところがあるのだ。
この世の終わりのカウントダウンが始まってからは会える相手がぐっと減ったからたぶらかされる人は減っていたけれど、往時はそれこそ行く先々で誰も彼もを魅了していたものであった。
「最期の日でもブレないなぁ、祭は」
いっそ感心してしまう。
「最期だからこそ、や。どうせなら、気持ちよくあの世に行きたいしな。
ここで変にヤケになって、人殺しでもしてみぃ。地獄行き確定やんか」
「この世が滅びた先に、あの世なんてあるんやろか」
「身も蓋もないこと言いなや。
信じる者は何とやら、言うやろ。要は気の持ちようやで」
「さよか」
「全て無ぅなってまうと考えたら、なんや無性に当たり前が恋しくなってな。せやから瑞穂と一緒にいたいんや」
またさらりと、とんでもないことを言う幼馴染である。
「もうええわ」
無性に気恥ずかしくなって、思いきり祭の後頭部をチョップした。
「そんなん言うたらウチもやし」
口の中でもごもごと呟くように口にすると、ごまかすように大きく伸びをした。
あと何時間彼の隣に当たり前のようにいられるだろう。腕時計や壁の時計、スマホの時計は敢えて見ていなかった。
最後の瞬間まで、彼とくだらない話をしていたい。けらけら笑って、できれば美味しいものを食べて、ああ満ち足りた一日だったと振り返って終わりたい。
終わりよければ全てよし。そういう風に人生を締めくくれたら、それって最高だ。
***
執筆時間…1時間半くらい
職場の昼休憩で冒頭の文章をざっと書き、帰宅後に肉付けした。
もしも、世界の終わりが来たら
私はすぐに、あなたのもとへ
駆けていくでしょう。
あなたも同じ気持ちだったら
どれだけ嬉しいことか。
だけどあなたには
別に会いたい人が
きっと、きっといるでしょう。
でも
あなたの最後が私でなくとも
私の最後があなたならば
私は、それだけで
それだけで
嬉しくなれる。
お題「世界の終わりに君と」