「『明日世界が終わるなら』みたいなお題なら、先月書いたな。『明日終わる店』の話ってことで」
今回は何終わらせようか。某所在住物書きは過去投稿分の物語をスワイプで探しながら、ため息をつき、物語の組み立てに苦労している。
6月3日頃の「失恋」のお題では、旧デザイン紙幣の終わりに関する物語を書いた。
さすがに短期間での二番煎じは避けたい。
「……ソシャゲの世界の終わり、サ終に、誰かと?」
そういえば某レコードが世界終了発表してたな。
物書きは考えるに事欠き、別の話題に逃げた。
――――――
インストして、アンストして、時が経って恋しくなって再インストールしようとアプリ名を検索したら、ピンポイントで配信停止になってたこと、ありませんか、そうですか、云々。
という物書きのアプリ世界終了事情は置いといて、今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社近くの茶っ葉屋さん、「稲荷の茶葉屋さん」のお得意様専用飲食スペースで、
今にも泣きそうな化け子狸が、個室のテーブルにメモ帳を一冊広げ、ボールペンくっつけた手を悲哀に震わせておりました。
まさしく、お題どおり「世界の終わり」に立ち会っているような悲壮っぷり。
この化け子狸、茶っ葉屋のご近所の和菓子屋さんで、最近初めて、売り物として自分の練り切りをショーケースに入れてもらったのです。
この化け狸、修行中のお菓子屋さんなのです。
で、お客さんからのフィードバックが欲しいので、
お友達の狐の茶っ葉屋さんで、お得意様に食べてもらってご意見頂きたいと突撃取材をしたところ、
丁度そこのお客さん、「昨日、ウチの上司が買ってきて、私と上司とあと1人で食った」と。
お得意様は、名前を藤森といいました。
なんだか前回投稿分で見たような名前と展開ですが、気にしない、気にしない。
で、そのお得意様が子狸に伝えた「練り切りを食った上司の感想」が、子狸の悲壮の理由でした。
「批判しているんじゃない。期待しているんだ」
自分のメモ帳に「つまり おいしくなかった」と記す子狸を、藤森、懸命になだめます。
「私は美味しいと思ったし、ウチの緒天戸も『見習いが作ったにしては大したもんだ』と言っていた。最終的に高評価だった。自信を持ってほしい」
子狸と一緒に個室に入ってきた子狐は、お得意様が子狸をいじめていると勘違い。ぎゃぁん、ギャァン!
寄るな触るなこれ以上いじめるなと、牙むき出しで本気になって、藤森を威嚇しました。
少し塩気が多い、生地の口当たりがまだまだ、でも一生懸命丁寧に作ったのがよく分かる。
今後の成長が楽しみだから、これからも買う。
お得意様が伝えた上司の感想は、つまり上記のコレでした。要するに、子狸のお菓子は好評でした。
だけど一生懸命、これ以上無いほど自分の全部を注ぎ込んで作った和菓子に、欠点が2個もあったことが、子狸、ショック過ぎたのです。
師匠たる父狸の仕事は、全部メモしました。
アズキの蒸し方も、その時の室温と湿度と蒸す時間も、塩の量も、全部、ぜんぶ、勉強しました。
ポンポコ子狸、メモに従いキッチリと、正確に量と時間と温度とを計測して、初めて商品用の練り切りを作り、満を持してケースに並べたのでした。
その練り切りに、欠点があったのです。
ポンポコ子狸、それが悲しくて悲しくて、世界の終わりみたいな顔をしておるのです。
「子狸、」
ダメ!おとくいさん、触らないで!いじめないで!
ギャギャギャッ、ギャンギャン!
「聞いてくれ、こだぬき、」
ダメったらダメ!おとくいさん、キツネの大事なともだちに近づかないで! ギャァアン!
「あの……」
ギャン!ギャン!ぎゃぁん!!
子狸の世界の終わりに、子狐が寄り添います。
子狸の世界の終わりに、藤森が弁明します。
「私は、塩気が鹿児島のゆたかみどり品種の新茶によく合うから、あれで完璧だと思ったんだ……」
カンペキ?よく合う?
ポンポコ子狸、藤森の弁明に即座に反応。
ちょっと元気が出た様子。
涙を拭き、ボールペンを持ち直し、耳をピンと立てて、練り切りの感想インタビューに戻りました。
世界の終わり規模に落ち込んじゃう菓子職人見習いに、友達と友達のお得意様とが寄り添うおはなし。
後日見習い子狸は気を取り直し、更に腕を上げて、リベンジ2作品目を出しまして、
感想を勿論聞いたのですが、以下略。
おしまい、おしまい。
6/8/2024, 3:59:37 AM