『上手くいかなくたっていい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
上手くいかなくたっていい
部室に行くと先輩が不機嫌そうにしていた。分かりやすく頬を膨らませて、俺から視線を外す。こんなに自己主張の激しい「私は機嫌が悪いです」を初めてこの目で見た。どうやらフィクションの中だけの概念ではなかったらしい。
さて、どうして常にご機嫌でご機嫌大使と書かれたタスキを肩にかけていそうな先輩がご機嫌を45°ぐらいにしているのかと言えば、先輩唯一の後輩であるところの俺と喧嘩をしたからである。思い返してみれば、原因も覚えていないぐらいのささやかな喧嘩ではあったのだが。一つ、問題があった。
先輩の見目は贔屓目に見なくとも麗しい。黙っているとちょっと声を掛けにくい高嶺の花タイプなのである。口を開けば、ぺらぺらと喋る陽気な人間であることを知っている俺ですら、先輩が無言で空を眺めていると気後れしてしまうのだ。あと、実は少しだけ人見知りなところもあるので、知らない人間に自分から話しかけることも少ない。今はこういう役を演じます、と己に言い聞かせればひどく社交的な人間にもなれるのだけれども、わざわざ日常生活でそれを持続させるのも面倒くさいらしい。
そういう訳で先輩には友達がほとんどいなかった。数少ない友人とやらも年上の人間が多く、同年代の親しい人間はほぼゼロ。それがどういう事態を引き寄せるかというと――喧嘩に慣れていない人間が出来上がってしまうのだ。
僕は謝りませんという態度の先輩は、それでも仲直りをしたいのかチラチラと俺の様子を伺ってくる。あまりの不器用さに幼稚園児かなと思い始めてきた。俺がここで譲歩して、先輩と仲直りをしても良いのだが、それだと先輩の情緒の成長につながらない気がする。などと、先輩に知られたら怒られそうなことを俺が考えていると、先輩がじわりじわりと近付いてきた。
相変わらず無言の先輩は口をはくはくとして、言葉を搾り出そうとしている。先輩の謝罪の言葉が、どれだけ下手だとしてもまずは仲直りをしてあげようかなと思いながら、見守った。俺を練習相手にして、この妙なところで不器用で世間知らずの先輩が、少しでも楽しく生きてくれたら良い。
【上手くいかなくたっていい】
ピリ辛の蓮根のきんぴらなるものを作ってみた。
料理に慣れない春歌は、レシピサイトを開いたスマホを片手に、材料の用意から始める。
鷹の爪を一本。まな板の上に乗せたそれは小さくて、蓮根の量に対してなんだか心許ない。レシピ通りに輪切りにしてみる。ぱらぱらと散らばって、頼りない気がした。
ちょっとぐらい辛い方が美味しいよね。そう思って春歌は、全部で五本の鷹の爪をフライパンにぶちこんだ。
結果。
当然のことながら、辛かった。
辛すぎた。
経緯を聞いた夜雨は爆笑している。
辛くてわたしには食べられない、嘆く春歌に、夜雨は笑いの名残を残したまま箸を取る。
「牛乳飲みな。大丈夫、おれ辛いの好きじゃん。むしろおれ向き」
夜雨は、きんぴらを完食してくれた。
辛い。でもウマイよ。もうちょい辛くても平気なぐらいかも、なんてうそぶきながら。
ごちそうさま、と言ってくれた表情を、声を、ずっと覚えていたいと思った。
テストが返却された後、夜雨は少し荒れる。
破れそうなほどに握り締められた答案用紙の隅には、赤く大きく「98」の数字。
「なんでこんなミス……くそ、今見たら間違わないのに。見直しが足りなかった。詰めが甘いんだよっ! だからお前は駄目なんだ。本当、全然駄目だ。もう少しで満点、なんて何の価値もない。こんな問題も解けないぐらいなら死んだ方がいい」
ぶつぶつと自分を責め続ける夜雨に、どう声をかければ正解なのか、春歌はいつもわからないでいる。
鞄にしまわれたままの春歌のテストは、62点だった。平均点は78点だと先生が言っていた。
ヨウはすごいよ! わたしの点数なんてさぁ、笑って話すのは違う気がした。
「こんなことやってる場合じゃない……勉強しないと……」
参考書とノートを取り出した瞬間に、もう周囲の何も目にも耳にも入らない、集中した夜雨の隣で、春歌も静かに勉強道具を広げる。
ミスなんて誰にでもあるよ。充分だよ! 次間違えなきゃいいじゃん!
こんなにも頑張って、こんなにも追い込まれている人に、そんな気休めの言葉は言えなかった。
上手くいかなくたっていい
そう、最初から上手くいくわけない
こんな当たり前のことを忘れていた
けれど、いつかは上手くなりたい
だから、上手くいかなくても続けるのだ
瞬く間に染まった夕暮れは遮るもののない澄み切った青い光が広がっていて、彼女と見たネモフィラ畑のような懐かしさと、涼しさを含んでいた。
一瞬のうちに色を変えてしまう空は心が空っぽになってしまうくらい綺麗だ。ようやく彼女はこちらを見つめてくる。遅すぎるだろうとか、文句をつけてやった。
彼女はぽろぽろと涙をこぼしていて、小さく独り言のように呟く。
「ほら、泣くなって」
人差し指で彼女の目尻に触れようとしてその指先は彼女の涙を透かした。そのまま色のない指先は簡単にすり抜けて体温も感じることはない。生ぬるい微風と騒がしい虫の音。汗が目に入って染みる痛みと少し酸っぱい夏の香り。
どれもが鮮明に実感できて、感じ取ることができるのに彼女に触れることだけは出来なかった。
瞳を真っ赤にさせながら、堰を切ったように彼女は焼けるコンクリートへと崩れ落ちる。足元は雨だれのような濡れた跡と、暮れの空に消えてしまいそうなひとりのぶんの影だけがのこった。
上手くいかなくて失敗してもほとぼり冷めたら大丈夫だから今やれるとこまでやろう
「ごめん」と彼はそう言った。
それがあまりにも消え入りそうな声で、あまりにも申し訳なさそうで、私は慌ててへらへらと作り笑いをして誤魔化した。
「いやっ、わかってるって。大樹はさ、吉岡先輩が好きじゃん?」
彼は肯定も否定もせず、申し訳なさそうな態度はそのままに、こちらの目を真っ直ぐに見た。
いつもの茶化すようなふざけたトーンではなかった。
私はそれで更に焦った。早口で続ける。
「いやぁ、本当気にしないで。てか、こっちこそごめんね。なんかさ、ほら、もうすぐ卒業だし?そろそろ会える機会も減るからさぁ、せっかくなら告っとけ、みたいな?勢いっていうか。そんな感じだからさ、気にしないでホント。」
彼は黙ったままだ。私だけバカみたいに明るい声で取り繕っている。
「めっ、迷惑だよね〜。ごめんね。」
へへ、と力なく笑ってみせたが、そこで彼は初めて怒ったように「迷惑なんかじゃない」と言った。
「俺、バカだ。井口が俺のこと好きでいてくれたの、気づかなかったよ。」
私は動揺し、二の句が継げなくなった。彼がそのように真面目に捉えるのは完全に想定外だったからだ。
彼、山本大樹は部員のけして多くない部の同級生で、気を置かずにふざけあえる友達でもあった。
いつもお互いを茶化したり、くだらないことで張り合ったりして、時間を潰した。
それがいつのまにか恋心に変化していると気づいたのは、もうお互いに進路も決まりつつあった秋のはじめのことで、私はかなり悩んだ。
それがただの友情でなくなってしまったとは、もうあえて言わなくてもいいのではないか。
そもそも、大樹は以前部に1年先輩として入部していた吉岡由希が好きなことは、なんとなく部全体で周知の事実だった。
だから「俺、先輩と同じ大学に行く」と大樹が真剣な目で口にするまで、私ももう何も言うつもりはなかったのだ。
だが、その時初めて笑わずに、眉間にしわを寄せて言った彼の顔を見ていると、どうしようもなく悲しく、悔しい気持ちになってしまった。
「私が、大樹を好きだって言ったらどうする?」と、まるで目をつぶったままボールを放るみたいに、後先考えずに彼の背中にその言葉をぶつけてしまった。
彼は、ショックを受けたように固まった。
「謝るなよ。流石に俺でも、井口がそんなこと適当に言ったりしないってことぐらいわかる。」
彼は今度ははっきり顔を歪めていた。そんな顔をさせるつもりはなかった、と言いたかった。
「ごめん」
下を向いたときに、自分の声に涙が滲んだのがわかった。そこでようやく、ああ、私は悲しかったのだ、と気づく。
振られて泣くなんてかわいくてずるい女の子がやるようなことだと思っていた。
ボロボロとあとからあとから涙がこぼれて止まらない。
「好きだったよ。」
くしゃくしゃに歪んだ顔でそう告げると、彼は「うん」と言った。
夕日のあかりが一筋だけ空に残っているのが窓の端に見える。
上手くいかなくたっていい、なんて嘘だった。
「上手くいかなくたっていい…」
そう言ってけれた君は
僕にとって"神様"と言ってもいい存在
本当に悩んでいた
男友達に相談しても、ただ笑ってかえされるだけだった
でも、ただつぶやいていただけの言葉を
君は真面目に返答してくれた
「上手くいかなくたっていい」
その一言で僕がどんなに救われたか、
君にはわからないよね
でも、君を"神様"だと思うほど
僕は救われたんだ…
[上手くいかなくたっていい]
上手くいかなくてもいい
私が私のことを一番知ってるもん
他の人になんてわからない
自分なりに上手くいってるならそれでいい
どれだけ頑張っても上手くいかないことなんてこの世にはたくさんある。
その度に誰かに責められて辛い思いを数え切れないほどしてきて心が何回折れたことだろう。
だけど、君が言ってくれた。
「上手くいかなくたっていい、僕は君が頑張っているのを知ってるから。」
その言葉に救われて今を生きられている。失敗することなんてたくさんある。
でも、誰かが必ず頑張りを見ていてくれる。
だから上手くいかなくたっていいのだ。
『上手くいかなくたっていい』
「手強いお題、最近、ちょっと来過ぎだろ……」
前回は「蝶よ花よ」、前々回は「最初から決まっていた」、その前は「太陽」に「鐘の音」。
さぁ面白くなってまいりました。エモ系の題目を不得意とする某所在住物書きは、ひとつため息を吐き、己の引き出しと構築力の無さを嘆いた。
「そろそろ箸休めというか、筆休めと言うか、ラクに書けるお題が欲しいんよ」
でもきっと、この2時間後に配信されるお題も、その次のお題も、「何をどう書けってよ」だぜ。
物書きはうなだれ、題目配信から22時間後にようやく仕上がった文章を投稿する。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、職場の上司からデータで送られてくる膨大な量のタスクを確認しつつ、気象情報などをスマホで確認していた。
名前を藤森という。
台風、降雨災害、フェーン現象による日本海側の猛暑酷暑。故郷であるところの某雪国も、クーラー保有率下位地域とは思えぬ高温。すなわち灼熱の予報。
縮まってきた東京と北国の気温差に、藤森は晩夏の足音を聞いた気がして、すぐ勘違いと断じた。
最高気温≦体温が晩夏であってたまるか。
『お久しぶりです』
雪国ってなんだっけ。
故郷の今日の最高気温をスマホで見て、段々己の認識が揺らいでくる藤森。
『覚えてますか?3ヶ月くらい前までお世話になってた新人です』
久しく見ていなかった相手からダイレクトメールが届いたのには、少々だけ、驚いた様子。
それは5月いっぱいで離職した新人。メタい話をすれば5月25日、藤森に辞める旨を伝えてきた、「たまたま一瞬人生が交差しただけの誰か」であった。
『新しい職場が決まりました。8月から少しずつ、頑張ってます』
『それは良かった』
わざわざ前職の人間に報告するようなことでもあるまいに。藤森は形式的なメッセージを返しながら、しかし3ヶ月前までの仲間の再起を喜んだ。
『仕事はどうだ?上司や先輩には恵まれているか?』
『まだよく分かりません。頑張ってはいますけど、「また上手に、完璧に仕事をしないと上司にいじめられる」って思って、どうしても怖くなります』
『まだ2週間も経っていないんだろう?完璧を目指す必要は無いし、上手くいかなくても良いと思う。
何か心配事でも?今の職場の人間に相談は可能か?』
『違うんです。職場に変な人がいて、その人が藤森さんのことを「ブシヤマさん」って呼んで、しつこく勤務先と住所聞いてくるんです』
『私をブシヤマと呼んで勤務先聞いてくる変な人?』
『ストーカーみたいな執着で怖かったので、ブシヤマじゃなくて藤森ってことも、勤務先も教えてません』
藤森は己の舌先から、そして唇から、さっと血の気が引いていくのを知覚した。
藤森を「附子山(ブシヤマ)」と呼ぶ人物に心当たりがあったのだ。
詳しくは過去作7月18日〜20日投稿分に説明を丸投げするものの、要約するに、藤森は過去散々な目に遭わされ、ゆえにずっとこの人物から逃げ続けていたのである。
『藤森さん、気をつけてくださいね』
かつての新人のメッセージは、それで終わった。
藤森は今後の己の逃亡劇が上手くいくように、
仮に上手くいかなくとも、最悪の事態だけは回避できるように、誰となく、天井を見上げ祈った。
上手くいかなくたっていい
そう自分に言ってあげられないのは
上手くいかない自分を受け入れてもらった事がないから
優しい自分じゃなければ
親切な自分じゃなければ
ニコニコしてる自分じゃなければ
きっと人は離れていく。独りになる。
私はそれが怖い。
上手くいかなくたっていい。そのままでいい。
そう自分に言ってあげられるのは自分だけなのにね。
[題 上手くいかなくたっていい]
うまくいかなくてもいい。自分が思うようにならない日は誰にでもある。どんな人でも自分のおもうように
いかなくてイライラして周りに当たって、泣いてしまう人もいると思う。うまくいかなくて、自分を責めないで欲しい。自分を責めてしまうと憂鬱になってしまうから。泣きたいならば泣いてもいい
あなたが泣きたい時、一緒に泣いてくれる人は
必ずいる。大丈夫。あなたはあなたらしくいきていてほしい。誰かの心の花になりたい。
せいら
上手くいかなくたっていい?
上手くいったほうが良いに決まってる。
でも、
だけれども、
人生なんて理不尽クソゲーで、
その他扱いのモブキャラで、
コネも財産も才能も良き隣人も何も与えられず、
得る努力もせず。
こんな所に成功も幸運も来ちゃくれない。
それは、わかっている。
それでも
上手くいかなくたっていい
なんて
わずかでも上手くいく可能性が残っていることを
今日も星に祈ってみたりする。
// 上手くいかなくたっていい
いつも失敗ばかり
不器用な自分が嫌になる
若い頃に憧れていた大人には程遠い
勇気や覚悟というものをどこかに置き忘れてきたようなので探しに行ってみようかな
失敗と成功
皆さんは失敗と成功を繰り返していますか?私は両方多いです。だけど、失敗してももう一度挑戦すれば、絶対成功すると思って、何回も挑戦しています。失敗を恐れてもいいことはありません。失敗するからこそ強くなれるんです。成功したいと思うのではなく、自分は失敗しても強い人間だということを思わないとやっていけないと思います。だから、皆さん
「上手くいかなくったっていい」
上手くいかなくったっていい
出来なくったっていい
あなたがすることに意味があるから
『上手くいかなくたっていい』
応募ボタンを押した。押してしまった。
もう逃げられない。私はこの夏、大きな一歩を踏み出すのだ。
怖がることはない、どうせ上手くいかない。上手くいかないことが既にわかっているんだから何も気を負うことはない。
軽やかなものだ。丸1年ぶりの社会参加。
右も左もわからぬまま航海に出るのだ。舵を取る技術もなく、地図もなく、ただ風だけを頼りにこことは違うどこかへ向かう。
船に乗り込んだ時点で、この勝負、私の勝ちだ。
青空、雲が流れる様をずっとずっと見ていた。
「また ここかよ」
自分の叔父が河川敷に寝っ転がる自分を覗き込むとそうやって呆れた声を出した。
叔父の家は、川の近くにある。
ウチの家とは違って、近くには自然が広がっている空気が美味しい場所だ。
「子供のくせにいっちょ前に憂鬱って雰囲気出してんじゃねぇよ」
そう言いながら、叔父は手に持っている釣り竿の準備を進める。
生き餌をはりに通す。
叔父は釣りが好きでここに住んでいるという。
私は、夏休みにこの家に預けられた。
「うっさい」
この人は嫌いだった。
親よりも私に近いことを言うけど尊敬できない。
ヒゲモジャだし、金には困ってるし、なのに、みんなが言う、先生や大人が言う良い人じゃないのに先生や大人よりも楽しそうに笑う。 良さそうな声でからかう。
この人に対してどんな評価が正当なのかわからない。
『おーい。 おきとんのかぁ? 蚊に刺されるぞそんなところで寝てたら』
起き上がると、辺りも少し暗く変わっていた。
釣りバケツからはたまに水が飛び跳ねてるのが分かる。
今日は釣れたみたい。
「そういえば、おじさんってなんでそんなに楽しそうにできるの?」
「久しぶりにちゃんと会話だなぁ? ん〜そうだな。 諦めてるからじゃないか?」
そう言って私には視線を向けずに釣り竿の先をみなおす。
「人生がうまくいかなくてもいい。 生活がうまくいかなくてもいい。 そうやって、少しづつ少しづつ削っていった先には意外と光があったんだよ。 彫刻みたいな話かもな」
「なにそれ」
やっぱり、私はこの人が嫌いだった。
上手くいくとかいかないとか
いったい誰が決めるの?
自分の人生なんだもん
自分で決めていいんだよ
その方がきっと楽しい
その方がきっと嬉しい
少し不恰好でも歪でも
味があって愛おしい
上手くいかなくたっていい
上手くいかなくたっていい。
ただその言葉をかけてほしかっただけなのに。
潮風が頬を撫でた。
「失敗って何なんだろう。」
私の問いかけは、波が崖にぶつかりくだける音にかき消された。
そんな問いも、今となってはどうだっていい。
だって今から私は人魚姫の様に海の泡になるんだから。
私が地面から足を離そうとしたその時。
「待って!」
そう叫ぶ声が聞こえた。
「待って、まだ、いかないで」
驚いて振り返ると、イツキが必死な顔でこちらに走ってきていた。
「上手くいかなくたっていいじゃん!」
だからいかないで、そう言ってイツキは私の腕を掴んだ。
地面にポタリと雫が落ちた。
はずだった。
途端に消えるイツキの手の感覚。
あれ、私、なにを見てたの?
そこにいたはずのイツキはいなくて。
全部、私の幻覚、
口から笑みが零れた。
私はそのまま暗い海の泡になった。