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 瞬く間に染まった夕暮れは遮るもののない澄み切った青い光が広がっていて、彼女と見たネモフィラ畑のような懐かしさと、涼しさを含んでいた。
 一瞬のうちに色を変えてしまう空は心が空っぽになってしまうくらい綺麗だ。ようやく彼女はこちらを見つめてくる。遅すぎるだろうとか、文句をつけてやった。
彼女はぽろぽろと涙をこぼしていて、小さく独り言のように呟く。
「ほら、泣くなって」
人差し指で彼女の目尻に触れようとしてその指先は彼女の涙を透かした。そのまま色のない指先は簡単にすり抜けて体温も感じることはない。生ぬるい微風と騒がしい虫の音。汗が目に入って染みる痛みと少し酸っぱい夏の香り。
 どれもが鮮明に実感できて、感じ取ることができるのに彼女に触れることだけは出来なかった。
 瞳を真っ赤にさせながら、堰を切ったように彼女は焼けるコンクリートへと崩れ落ちる。足元は雨だれのような濡れた跡と、暮れの空に消えてしまいそうなひとりのぶんの影だけがのこった。


8/10/2023, 9:21:48 AM