上手くいかなくたっていい。
ただその言葉をかけてほしかっただけなのに。
潮風が頬を撫でた。
「失敗って何なんだろう。」
私の問いかけは、波が崖にぶつかりくだける音にかき消された。
そんな問いも、今となってはどうだっていい。
だって今から私は人魚姫の様に海の泡になるんだから。
私が地面から足を離そうとしたその時。
「待って!」
そう叫ぶ声が聞こえた。
「待って、まだ、いかないで」
驚いて振り返ると、イツキが必死な顔でこちらに走ってきていた。
「上手くいかなくたっていいじゃん!」
だからいかないで、そう言ってイツキは私の腕を掴んだ。
地面にポタリと雫が落ちた。
はずだった。
途端に消えるイツキの手の感覚。
あれ、私、なにを見てたの?
そこにいたはずのイツキはいなくて。
全部、私の幻覚、
口から笑みが零れた。
私はそのまま暗い海の泡になった。
8/10/2023, 6:16:36 AM