『ハッピーエンド』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「そして二人は幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
楽しそうに笑い合う二人の姿を遠くに見ながら呟いた。
とてもお似合いの二人だ。一緒にいるのが申し訳なくなるくらいに。
小さく息を吐いて、二人に背を向ける。約束を破ってしまうことになるが、急に予定ができてしまったとでも言えば、深くは追及されないだろう。本音では、ずっと三人でいたいと思っている。けれど、それは自分のわがままでしかないことも理解していた。
じわりと目元が熱くなるのを、歯を食いしばって耐える。自分が決めたことで泣きたくなどなかった。
「よしよし。頑張りましたね」
甘やかされて、じわりと涙が込み上げる。
泣きたくない。そうは思っても、優しく降る言葉たちが簡単に自分の中の強がりを解かしてしまう。
「頑張ったのだから、存分に泣きなさい。ここには私しかいないのですから、気にする必要はありません」
「でも……だって……」
「ほら、泣いているところを隠してあげましょう。これなら誰にも見られませんよ」
ぐるりと巻きつかれ、辺りが暗く、何も見えなくなっていく。
暗闇と、抱きついた場所から伝わる白蛇の冷えた体の感覚に、小さく息を吐いた。吐息と一緒に、堪えていた涙も溢れてしまう。
「ふ……っく……」
「いい子ですね。たくさん泣いて、また明日から頑張りましょう」
白蛇の穏やかな声が痛くて、次々と涙が溢れて止められなくなる。
しゃくりあげながら、さらに強く抱きつく。
泣きたくはなかった。けれど白蛇が泣けと言ったのだから、仕方なく泣いている。
誰にでもなく言い訳を繰り返し、ひたすらに声を上げて泣いていた。
柔らかな朝の日差しに目が覚めた。
いつの間に眠ってしまったのだろうか。まだぼんやりとする頭でそんなことを考えながら体を起こす。
いつもと変わらない自分の部屋。けれどどこか落ち着かない感じがするのは、これからこの家の家主は自分になるからだろうか。
祖母が亡くなり、この家の全てを継ぐと親戚たちに宣言した。誰もが顔を顰め、快く思ってはいないようではあったが何も言わなかった。皆この家に欲しいものはいくつかあっても、全てを継ぎたくはないのは丸わかりだった。
「――頑張らないと」
覚悟を声に出して、ベッドから抜け出す。
身支度を整えながら、まずは朝食にしようと部屋を出た。
「呼び鈴?こんな朝から誰だろ」
朝食後、呼び鈴が鳴る音がして玄関に向かった。
首を傾げつつ戸を開ける。しかしそこにいた二人の姿に声にならない悲鳴を上げた。
「おはよう。昨日約束したのに来なかったから、心配で来てみたの」
笑顔を浮かべてはいるものの漂う空気の鋭さに、体が硬直する。
「とりあえず、ここから出ましょうか」
動けない自分に、彼女が手を伸ばす。けれど触れられる寸前、体が強く後ろに引かれた。
「あ……」
「おはようございます。どうぞお上がりください」
静かに白蛇が告げる。
途端に、二人の表情が険しくなった。恐ろしさに逃げ出したくなるものの、体が白蛇の尾が巻き付いている状態では、何もできない。
「――おい」
こちらを見据え、彼が呼びかける。低い声音に、反射的に体を震わせながら彼を見る。
「それを手放せと言ったはずだ。今すぐ荷物をまとめてここから出ろ」
「それは……」
「そうよ。この家を出て、私の所に来たらいい。蛇憑きになるのはやめなさい」
彼女の言いたいことは理解できる。
親族の誰もが、この家を継げない理由が白蛇にあるほど恐れられているのも知っている。
「ごめん……」
二人から目を逸らし、白蛇へと手を伸ばした。
全て理解して、それでも家を継ごうと思ったのだ。二人が知らない白蛇の優しさも悲しみも知っているから、側にいたいと強く願った。
それに、と昨日の二人の姿を思い出す。
離れた方が二人のためなのだろう。自分は二人にとって、ただの邪魔者でしかない。
早くに両親を亡くし、先日祖母を亡くした自分を、優しい二人は放っておけないだけなのだ。
「えっと、わたしは一人でも大丈夫だから……」
二人の顔が見れない。
擦り寄る白蛇の頭を撫でながら、二人が去っていくのを待った。
「なら、私がここに住むわ。それと一緒になんてさせられないもの」
「――え?」
思ってもいない彼女の言葉に、目を瞬いた。
どういうことだろうか。振り返ろうとした時、巻きついていた尾を剥がされ、暖かな腕に抱きしめられた。
「そうだな。それに関わって悲惨な末路を辿らせるくらいなら、一緒に住んで見張った方がいいだろう」
力強く頭を撫でられる。
何が起こっているのか。恐る恐る視線を向けると、どこか恐ろしさを感じさせる笑みを浮かべた二人と目が合った。
「ひっ……」
「どうしたの?心配しなくても、ちゃんと守ってあげるからね。それに好きなご飯、何でも作ってあげるから」
「こんな広いだけの家に一人でいるよりいいだろ」
自分を置いて、話が進んでいく。
困惑して、助けを求めるように白蛇に視線を向けた。静かな赤い瞳がゆるりと細まって、溜息を吐かれる。
「この子を寂しがらせるだけの貴方方を住まわせるのは、あまり好ましくはありません。ですが妥協致しましょう」
それはつまり、これからは二人も一緒に住むということが決定したということなのか。
「なんか含みはあるし、寂しがらせてるってとこに引っ掛かりはあるけど、まあいいか。準備をしないとね」
「物理的に離れてたから、そう感じさせてたんだろう。とりあえず最低限必要なものだけ持ってくるから、少し待ってろ」
呆然とする自分を置いて、二人は慌ただしく去っていく。
何が起こっているのだろう。この短時間の出来事が何一つ理解できない。
「そして三人と一匹はいつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。ということですよ」
それはハッピーエンドを迎えた物語の締めの言葉。
あの二人だけでなくて、自分と白蛇もそのめでたしに含まれるのか。
突然のことで実感が薄い。戸惑いながらも、白蛇に擦り寄る。
「よく、分からないけど……今まで皆に幸せをくれた分、ちゃんと幸せにするからね」
長い間、この家に幸せを与えてくれていた白蛇に告げる。
「はい。一緒に幸せになりましょうね」
嬉しそうな声音に、自然と笑みが浮かんだ。
「そこ!距離が近いから離れて」
「そ、そうかな……?」
「気にすんな。そう言って離れさせて、自分の側にいさせる気だろう」
ここ数日の似たようなやり取りに、密かに息を吐いた。
どうして二人は言い争っているのだろうか。この家に住むまではとても幸せそうに見えた二人だったというのに。
助けを求めて白蛇に視線を向けるが、穏やかにこちらを見るだけで助けてくれる様子はない。
めでたしで終わった先が、こんなにも賑やかだとは思わなかった。しかし戸惑いはあるものの、嫌な感じではない。
「こっちおいで。髪を結い直してあげるから」
「後でもいいだろ。それより、こっちのチョコも美味いぞ。ほら、口開けろ」
本当に賑やかだ。
年上だからなのか、前々から二人は何かと気にかけてくれていた。
前はそれが二人の負担になっているのではと怖かった。周囲から刺さる言葉が痛くて堪らなかった。
だからこの家を継ぐのを理由に二人から離れようとしたのに、今では二人の間にいるのが不思議で仕方ない。
最近はさらに過保護になった気がする。このままでは、一人で何もできなくなってしまいそうだ。そんな危機感を覚えるが、心のどこかではもう手遅れだと諦めてもいる。
仕方がない。何度目かの言い訳をしながら、おとなしく口を開ける。
ふわりと香るチョコの匂いと、口の中に広がる甘さ。
まるで、この二人のようだ。
どうやらハッピーエンドとは、胸焼けがしそうなほど甘いものらしかった。
20260329 『ハッピーエンド』
『ハッピーエンド』
幸せに終わる
ハッピーエンド
よりも
幸せが続く
ハッピートゥービーコンティニュー
を
提唱する人が1人くらい居ても良い
貴方の脚本を
貴方の解釈で
貴方が主演で
貴方が監督をするのだから
終わらない物語という矛盾に対しても
堂々としていれば良い
そんな潔い1人の人に
勇気づけられる1人が居ても良い
ハッピーエンドで終えた。
この場合別ルートをわざわざ回収するべきか悩む。
バッドエンドは言うまでもないがトゥルーエンドだってハッピーエンド以上の幸せは見込める訳ないのだから、主人公としてはifルートに引き摺り回されるより1の世界でハッピーエンドで終わらせたいところだろう。
僕の一存が強すぎるあまり、選択できるせいで、正解がわからなくなる。
正解なんてないと言ってしまえばそれまでではあるけれど、そんなに割り切ってしまえる人間性をしていたらこんなところで文字を叩いていないだろう。僕もあなたも。
日々悩むことが多くて、選択することが疲れるけど、それ以上に鮮やかな物も多く見られているはずだから、たくさん息をしようと思っている。
僕なりのハッピーエンドで終われるように。
『ハッピーエンド』
そんなもの、存在してはいけない。
ハッピーエンド
終わりよければ全てよし
でっ
終わりっていつなん?
------
人生を思い返して…
自分が楽しかった瞬間でカットする
自分が編集するリアルハッピーエンド
どんなにちっぽけな幸せでも
沢山集めておくの
走馬灯のようにそれらを思い出しながらね
集大成は
いい人生だったと
あの世に旅立つ時
この世はハッピーエンド
終わりよければ全て良し
私の死顔は
微笑みをたたえてそう語るだろう
『ハッピーエンド』
観ていた冬ドラマ“再会〜Silent Truth〜”
人が人を想って行動する姿は素晴らしいと改めて思いました。
初恋を実らせるのがストーリーの芯の部分だったと思うので綺麗な終わり方でした。
まず断っておくと、この話の結末はハッピーエンドではないの。
見せていないだけで、そこにあるのは長い長い旅模様。
箱の中で繰り返すリアルは金魚鉢を水面から覗いているみたい。美しくて残酷な、箱庭の幸せ。
私はそこに辿り着きたいだけ。
─────
「世話になった」
真っ黒なシルクハットにハニーブロンドをしまって男はふり向き様に言った。
「いいえ」
黒いレースで腕までを覆った手をひらひらと蝶のように挙げて女は笑った。
「もう逢わないことを祈ってるわ」
影に隠れた新緑に惜しいという気持ちを抑えて女は扉の向こうへ踏み出し光に溶け込む男の背を見送った。
いつからか、時間の概念というものがないこの空間に居るせいか、終わりという始まりから一体どれほど経過したのか、女は忘れてしまった。
もう大事な人間の声も姿も思い出せない。
自身の存在も記憶までもが危うくなっても諦めきれないのはなぜか。
生温くなってしまったコーヒーを口に運ぶとなぜだか舌打ちが出た。
やっぱりあの男に淹れさせれば良かったか。
再び冷めてしまったそれを口に運ぶと一匙の後悔は苦味の中に溶けてしまった。
喧騒が鳴り止まなかった。
空が崩れていくのが見えた。
テレビの画面は世界の終わりを叫んでいた。
「…ぁ……あ…ぁ…っ…」
小さな存在が女の腕の中で震えていた。
ただ抱きしめることしか彼女にはできなかった。
そんなときそばに置いていた電話が震えた。
虫の知らせというべきか。誰がかけてきたのかすぐにわかった。
慌てて受話器を手に取り耳に当てた。空風のような音が聞こえて、しばらくしてそれが呼吸音であることがわかった。
「────?」
ぜー、ぜー…と音が続いてそれが何度か聞こえて電話の向こうで激しくなにかが倒れる音が聞こえ、そして通話はそこで途絶えた。
女が二杯目の紅茶を飲み干す頃には時計の短針は南を指していた。その下で揺れている振り子が1つ2つと往復したその時女はティーポットへと伸ばした手を引っ込めた。
すぐさま椅子から立ち上がりアラベスクが彫刻されたくすんだ飴色の扉の前にあと少しといったところで女が止まると、間髪入れず傾いた扉の横で備え付けられたベルが鳴った。
──────
扉を開けると全身を漆黒に包んだ女が立っていた。
青年が口を開く前に女はゆったりした動作で真っ黒なドレスの両裾を持ち上げ軽々とお辞儀した。
「ようこそ 時の方舟《タイム・アーク》へ」
──────
本当にこれでよかったのかと辿った道の後ろを振り向く時があるでしょ。
ふとしたとき唐突に訪れるとっかかりはその頃の感情を記録という記憶にして掘り起こし、まるで動く写真を見ているようでも合わせ鏡を通して見ているようでもある。
不思議よね。
時として葬り去ってしまいたくなるようなそれらはその時の感情に問わず自らを励ましもするし腑に落ちない納得を胸に落とすこともある。ひとつひとつ薄いガラスのような歪な欠片は触れると粉々になって白い砂になったり万華鏡のようにコロコロと姿を変える。
それはとても美しいと感じることもあるでしょうけど、永遠なんてものはないの。
……一瞬よ。
それはここも同じ。
もしかしたら次瞬く頃には私もあなたも消えてるかもしれない。
私達はそれほどまでにあっけなく不安定な存在なのよ。
例えどんなに焦がれた図柄(パターン)があってどれだけそれを求めようとも二度と同じ情景にはたどり着けはしない。
そんな寂しさがこの世界を構築し、あの世とその世を繋いでいる。
もしよく似たモノを手に入れたとしてもそれはあなたが臨んだものではない。
そのことをよく肝に銘じることね。
それじゃあ──もう遭わないことを祈ってるわ。
─────
少し前に考えていた小説。途中なのでここに投稿。
お題【ハッピーエンド】
「大好き」
「僕も」
これで結ばれるのがハッピーエンド
なら、秘めた好きを気付かれないまま結ばれた場合は
ハッピーエンド?
きみは僕のことが好きだけど
僕がきみのことを好きなことは
バレてはいけない
3/29『ハッピーエンド』
【ハッピーエンド】
人生は、ハッピーエンドだろうか。
バッドエンドでもいいような気がする。
ハッピーエンドの選択肢。
何が幸せなんかなんて人によってそれぞれだ。
おれはこの男の手を取ったけどそれは本当に幸せだったのか。
なんてことを考えてたら顔を覗き込まれて呆れたように笑われる。
「またなんか難しいこと考えてる?」
「いや、きみはおれと居てしあわせ?」
見上げて問いかけると「おや?」というように不思議な顔をしてそれから笑った。
「なにおかしな質問してんの?当たり前だろ」
くしゃりと髪を乱暴に撫でられる。
「お前が居る、それだけで幸せだけど?」
「それならいいんだ」
おれだって。
きみが居てくれてすごく幸せだけど、
本当にホントにほんとーにきみはおれと居てしあわせで居てくれてるのか。
それだけがずっと気になるんだ。
ちゃんときみはしあわせになれてる?
(ハッピーエンド)
『またね』と言ってお別れすること。
『ハッピーエンド』
なつ
ハッピーエンド
■短編(時代劇ぽく)
今日は、間に合った(^^)
いつもより赤い夕陽が、広がる。
錆びた鉄の匂いが、風に乗る。
鼻の奥が、わずかに熱を帯びた。
一歩、身を乗り出す。
足元の小石が、ぱらりと落ちた。
「…血か」
ふ、と。
口元が、わずかに歪む。
「…そうか」
笑いそうになるのを、飲み込んだ。
ひとつ、息を吐く。
それでも。
「…ク、ハ」
指先で、前髪を押し上げる。
こめかみが疼く。
角(かく)に触れる風が、やけに冷たい。
視界が、ひらけた。
「――さて」
崖を背に、踵を返す。
手探りで、口の欠けた徳利を引き寄せる。
戻ると、赤がいっそう濃くなっている。
崖が、暮れる。
縁に立ち、
「…待っておるぞ」
瓶を掲げる。
影が、背に落ちた。
「――祝杯だ」
擦り切れた布が、かすかに鳴る。
(後書き)
クローゼットの奥に眠る黒歴史を引っ張り出して直してみた。
尖ってて楽しかった(^^)コメカミガウズク…
こんな夢を見た。弁当を早々に食べ終え、私は図書室に向かっていた。図書室に入ると、カウンターで図書委員が暇そうに座っている。話しかけ、借りていた本を返却した。それから目当ての本を見つけ、貸出の手続きをする。さて、休み時間の暇つぶしは確保した。腕時計を見れば、まだ時間はある。何を読もう。背の高い本棚の間をふらふらと歩き、今日の気分に合った本を見つけた。本を手に取り、机に向かう。いつもなら課題やおしゃべりする生徒で座れないが今日は早く来たおかげで誰も座っていない。その内誰か来るかもしれないし、隅っこに座っておこう。本のページを開き、活字を目で追う。読書は、面白みのない現実と自分から逃避できるので良い。物語に没頭していると、隣に誰かが座った。
「やっぱり、ここにいた」
誰か来るかもしれないと言ったが、一番会いたくない奴が来てしまった。横目で見ると、同じクラスの委員長がこちらを見ていた。彼は私にとって、天敵のようなものですごく苦手だ。
「教室にいなくて心配したんだ。すぐに見つけられて良かった」
彼は私に微笑みかける。
「昼休みなんだから、教室にいなくてもおかしくないでしょ」
「それはそうだけど」
「好きで通ってるんだから、放っといて」
彼は頭をかき、苦笑する。
「居場所がないから、ここに来てるんじゃなくて?」
「誰のせいで…!」
「騒ぐと怒られるよ。俺、君との時間邪魔されたくないんだ。何が言いたいか、分かるでしょ?」
彼は、しーっと人差し指を私の口の前に立てた。相変わらず腹の立つ奴だ。彼は同じクラスになってから、やたらと私の世話を焼いて来る人だった。世話焼きな人なんだと思っていたが、すぐにそれは違うと確信する出来事が起きた。ある時から、他のクラスメイトと話をするだけで注意してくるようになった。変だと思い、距離を置くようにした。すると、どうだろう。他のクラスメイトたちが、私と距離をとるようになってしまったのだ。授業も話し合いの時も、私は彼としかペアを組めない。彼が皆に何か吹き込んだとしか思えないが、証拠がない。理由を聞こうにも、私を見ると皆逃げてしまうから。
「あー、でもここ良いかも。人目がなくて二人きりになれるし」
何か言っているが、無視だ、無視。貴重な昼休みがなくなってしまう。
「今日は何を読んでるの?…ふうん、冒険ものか。そういうのじゃなくて、主人公とヒロインが最後にくっつく話が俺は好きかな」
ハッピーエンドって良いよね、と彼は顔を覗き込んできた。私は納得出来れば、どんな結末でも良いと思う派だ。彼の言葉に、私は首を横に振る。彼は傷ついた様子はなく、言葉を続けた。
「物語の中の主人公とヒロインのように、俺たちの関係もハッピーエンドなら良いよね」
「あんたとのハッピーエンドなんて、望んでないよ」
切り返すと彼はキョトンとしたが、すぐに相好を崩し私の手首を掴んだ。
「俺、君のそういうとこに惚れたんだよね。本当、大好きだよ。絶対に俺しか見えなくしてやるから」
彼は不敵に笑った。
『ハッピーエンド』
彼女は乱読家ではあるが、好みはある。
自身で本を購入するときは、主に自己啓発本、小難しい専門書、近代文学作品、装丁が凝ったハードカバーの書籍を手に取ることが多かった。
近くの大型書店で手に入る範囲で洋書も好む。
そんなリアリストな彼女が、女児向けアニメを毎週録画しているだけでなく、毎年のようにシリーズ上映されているアニメ映画を観るために苦手な映画館に通おうと計画していたのだから驚きだ。
シリーズのマスコットキャラクター、ハムスターの見目をした妖精さん、ハムハムちゃんを推しているとはいえ、優しい世界と善人たちで成り立っている物語の沼にどっぷり浸っている。
ちなみに、映画館は照明の明るいキッズ向けシアターを狙っていたらしいが、大人のみでは入れないと知り、泣く泣く諦めたとのことだ。
「……映画館に入れなかった代わりに、特装版のパンフレットとぬいぐるみにアクスタですか」
「えへへ」
リビングのローテーブルに並べられた戦利品に、彼女はバツが悪そうに笑ってごまかされる。
ほかにも、食べもしないクセしてハムハムちゃんのポップコーンバケットやドリンクホルダー、ブラインドのミニフィギュアに缶バッチなど、金にものをいわせてなかなか派手に買い込んできた。
グッズを集めたい気持ちはわからなくいし、彼女がテンションに任せて勢いで物を買ってきたことに対して、とやかく言うつもりはない。
しかし、だ。
そのハムハムちゃんたちの配置について俺たちは少し揉めている。
「テレビの前にアクスタとミニフィギュアを置くのは反則では?」
「だ、だって本棚に収まらなくなっちゃって……」
彼女は3段式の小さな本棚のうち、2段もハムハムちゃんのエリアに拡張したが、収まりきらずテレビの前にハムハムちゃんとヒロインたちのアクリルスタンドを置いたのだ。
ハムハムちゃんにいたっては3体もミニフィギュアが鎮座している。
俺にはショーケースにキッチリ収めろ、作業部屋からグッズをはみ出させるなと要求したクセに。
元々の彼女のエリアが狭いから俺だって打診するつもりでいたが、だからってテレビの前はずるすぎる。
リビングの一番目立つところだぞっ!
俺だって置きたいっ!
「それなら俺もベッドボードに推しのアクスタ置きたいですし、寝室のカーテンも推しのカーテンに差し替えたいです」
「その推しって私だよな??」
「当然です」
「絶対ヤダ! なんでわざわざ自分の顔で1日を締めくくらなきゃいけないんだよ!? 冗談じゃないからな!?」
「その見た目で自己肯定感激低なの意味わかんないんですけど、どうなってんすか。自己肯定感の高さって実は身長に比例するんですか?」
「はぁあああ!? そっちの厚かましさのほうが身長に比例してんだろっ! どさくさに紛れてマグネットも作りやがって! 実用性兼ねてくるほうが卑怯だかな!? 寝室とか耐えられない! てかどんだけカーテン作ってるんだよ!? 自重しろっ!」
「してますよ」
「どこがっ!?」
「カーテンは年イチで我慢してます。そもそもあなたの魅力が青天井に更新されていくのが悪くないですか?」
「知らないよっ! 私はなんも悪くないっ!」
「それはそう! あなたのかわいいは正義です」
レスバトルの強い彼女にらちがあくはずもなく、俺は仕切り直すつもりで息を吐いた。
「本棚と同じ高さの収納棚とかどうです?この高さなら2重スライドできるタイプもあるみたいですよ?」
「んえっ?」
「テレビの前だけは譲れません。つーかその量はスペースを広げたほうがよくないですか?」
「い、いいの?」
「いいもなにも、元々あなたの荷物は少なすぎるくらいですし。もっとでかい収納棚にしますか? ハムハムちゃんはしばらく活躍するでしょうから、この先グッズも増えますし、どうせ円盤も揃えるつもりでしょう?」
「う、うん。でも、大きいのはいい……。サイズ、本棚と揃える」
「そうですか? 我慢しなくていいですよ?」
「おっきいハムハムちゃんのぬいを上に置きたい」
「あぁ、あれですか」
同棲前に、ハムハムちゃんの等身大ぬいぐるみを持ち帰ってきたことを思い出した。
「この棚の高さがちょうどいいの」
彼女の身長なら確かに、扱いやすい高さだろう。
再度、彼女の地雷を踏む勇気はなく、ここは黙っておいたほうが得策だ。
「まぁ、あなたがそう言うなら。色は白で揃えます?」
「うんっ」
上機嫌に揺れる彼女の頭を撫で、収納棚の購入ボタンをポチッと押す。
ハムハムちゃんの置き場をめぐったいさかいは、これでなんとかおさまったのだった。
今日は、ちょっと嫌なことがあった。仕事でうまくいかないことがあった。大切な人たちに迷惑をかけた。なんだか気分が乗らない。ちょっと転んだ。電車に乗り遅れた。その人を仕方なく横切っただけなのに「ちっ」と言われた。
なんだかなと思う日の夜の、帰り道に咲く桜が満開だった。立ち止まって木の下に入る。街頭に照らされる花は、薄ピンクのモヤみたいで本当に美しかった。誰もいないその場所を、独り占めした。それだけで、今日はハッピーエンドだ。
「ハッピーエンド」
物語の結末はハッピーエンドとは限らないけど
トゥルーでもビターでもバットも
ハッピーエンドになるには
どうすればよかったのかを考える
逆に、ハッピーエンドならその幸せの続きを考える
大体自分の中では終わりにならない
シンデレラも、白雪姫も、美女と野獣も。
さもハッピーエンドのように飾り立てられたお伽噺のそのどれもが、真にハッピーエンドとは言えないのだ。
王子がプリンセスと幸せなキスをして、めでたしめでたし。
本当に?
昔から、こんなことばかりを考えている子供だった。
保育園の読み聞かせの時間、先生に何度もこの質問を投げかけて困らせたことは数しれず。
親にだって呆れられた。
『お姫様も王子様も、想いあって結婚できたんだから幸せでしょ。』
溜息混じりに言われた言葉が、どうしても僕には信じられなかった。
ヴィランとして登場するキャラクターにだってそれぞれの人生があって、考えがあって、そうやって生きているはずなのだ。
それらを全て切り捨てて、「悪役を成敗してお姫様は幸せに暮らしました。」なんてエンドがハッピーだとは、僕は思えない。
誰かのハッピーエンドは、別の誰かから見たらバッドエンドなのだ。
そんな僕の人生は、この考えにいつも振り回されている。
他人の幸せを傷付けるのを恐れるあまり、自分の人生のハッピーエンドを選び損ねている。
結局この世界は、誰かがバッドエンドにならないとハッピーエンドは勝ち取れないのか。
そんな冷めた絶望を半ば抱きつつあった。
そんな折、僕は王子様に出会ってしまった。
ありとあらゆるバッドエンドを全て鼻で笑うような、そんな傲岸不遜な男の子。
僕が他人を傷付けるのを恐れて何かを諦めようとすれば、その選択を笑い飛ばして、僕が諦めた何かを別の所から持ってくる。
持ってきた先の子は、別のものを貰って、幸せそうに笑っていた。
誰より傲岸不遜で、傲慢で、けれど皆の太陽みたいな王子様。
僕は初めて、他の誰がバッドエンドになったって、彼と見るハッピーエンドが見たいと、彼なら、こんな僕と一緒でも誰も傷付けずハッピーエンドを見せてくれると、そう思ってしまった。
テーマ:ハッピーエンド
ハッピーエンドって
なんなん
ハッピーなのに
エンドなん
エンドって終わり
幸せの終わり?
ひねくれた解釈する私
eternal happinessが
ほしい夢見る私
最高のハッピーエンドを。
最高の結末を。
いつかじゃなく、今を。
いつでも、胸を張って幸せだと言えるように。
ハッピーエンドは、自分から創っていく。
ハッピーエンド
ハッピーエンドが
どこか
なにか
いつか を
決めるのは自分でしょう?
間違いだとわかっていても、
信じていたい瞬間の今日を生きていく
来たるべき終わりに向かって