『ところにより雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「海月ちゃんって天気で表したら絶対晴れだよね!」
そう言われたことがある。
自分から明るく人と接することを心がけているし、
どちらかと言うと笑い上戸だから
間違ってはいないのだけれど。
でもなんとなく、悲しさもある。
この人はまだ私のことをよく知らないんだって。
だって中身を知ったら、
到底そんな風には思ってもらえないだろうから。
空気が読めすぎるからなんとか取り繕ってるだけ、
ツボは浅いけど愛想笑いはお手の物、
1人になれば後ろ向き反省会。
こんな私を見て、
まだ晴れみたいだねって言う人はきっと居ない。
ずっと雨が降っている感じではなくて、
どちらかと言うとゲリラ豪雨。
けれどゲリラ豪雨みたいな私なんて見られたくない。
だから今日も今日とて仮面を被って、
信頼できる人の前ではちょっとだけ仮面を外す。
例えるならそう、ところにより雨。
『ところにより雨』
という言葉、釣り人にとっては
なんとなく、なんか釣れる気がする魔法の言葉。
大チャンス。なんとなくだけど。
ところにより雨
1.自転車も
自動車も
人を優先なんかしない
ちょっとの隙間も
先に走り抜けようと
遮二無二なって
2.まるこいせなかに
なって
可愛がられると
思って
いるの?
指が曲って
しまうだけだよ
# ところにより雨
『今日は全国的に晴れ模様ですが、ところによりギフトが降る予報です。傘のご準備をお忘れなく。また、防護スプレーの有効期間をしっかりとお守りください。それでは、よい一日を』
画面の中のお天気キャスターが晴れやかな笑顔で天気予報を読み上げる。いつも通りの朝だ。
「うわ、またギフトかよ。最近よく降るな」
寮の同室の友人がそうぼやく。
「そろそろ梅雨だからね」
「それにしたって多すぎだろ。はーあ、また今日の体育バドミントンだぜ。そろそろサッカーやらせろよ」
派手に顔を歪めて、彼は悪態をついた。
ギフト。
それはこの世界に降る雨のことだ。
しかし、ただの雨ではない。なにせギフトには、人間にだけ悪影響をもたらす化学物質が含まれている。植物や人間以外の動物──例えば犬や猫──には何の影響もないが、人間が一度触れれば皮膚は溶け、吸い込めば全身に回って様々な体調不良を引き起こす。長時間ギフトに晒されれば命の危険だってある。
有体に言えば、毒だ。ギフトとはドイツ語で“毒物”を意味する言葉。本来は天からの恵みであったという過去の雨が有害なものに変わったことを皮肉るように、英語で“贈り物”を意味するそれが使われた。
ちなみに、ギフトに含まれる毒性の物質は自然界には存在しないと言われている。ではなぜ雨に含まれているのか。研究者はある国が生み出した生物兵器との説を出した。その最有力候補がドイツだ。だからドイツ語が使われたのだと、人々の間ではまことしやかに囁かれていた。
ギフトが降り始めてから、もう何年になるだろう。短くはないことだけはわかる。傘や靴、靴下の類はその全てが国の認証を取得した特別性の防毒加工の施されたそれだし、その更に上から防護スプレーを吹きかけて使用しなさいというお達しももう聞き飽きている。繰り返し降るギフトのせいで外に出れなくなる生活にも、みんな随分と慣れた。
あまりにも日常的に、普通の雨のように降るものだからその危険性を忘れてしまいがちになるが、ギフトは紛れもなく毒である。実際、ギフトによる健康被害の報告や死者数は年々増加していると言う。動物や植物に影響がないとは言え、外で作業できない日が続くと作物も育てられない。食料不足も騒がれ始めている昨今、ギフトは深刻な環境問題と言えるのだった。
僕は友人と朝飯を食べながら、今日一日の流れを予想する。傘を持って学校に行って、授業をして、三限の体育は体育館でバドミントンをして、昼食を食べてまた授業、そして下校する。なんてことない一日、だけれど。
ギフトが降るというだけで、僕は頬が緩みそうになるのを必死で抑えなければならなくなる。
別に、外で運動したくないわけじゃない。僕だってサッカーは好きだし、晴れた日のグラウンドで砂埃が舞うのを見るのは清々しい。けれど、それ以上に僕は雨が好きだった。
空から何かが降ってくるなんて、こんなにも神秘的なことはない。雨が降るといつもそんな風に思う。
ギフトは普通の雨とは違い、青のような緑のような不思議な色をしている。透き通った、ビー玉みたいな色。緑青色と言うらしい。それが梅雨の時期、紫陽花の葉っぱに弾かれて跳ねる様子を見るのが、小さい頃から大好きだった。ギフトの降る時に外に出るのは基本的に良くないと言われているから、見れる機会は少ないけれど。
世間は、ギフトを疎んでいる。ドイツが世界から孤立して今にも戦争が起きそうなくらいには、ギフトの存在は世界にとって悪いものだった。
だから僕は、そんなギフトが好きだなんて、口が裂けても言えないのだった。
表は晴れ
裏は雨
ぼくの中では 所々が晴れで 所々が雨なんです
《ところより雨》
田中パラレルワールドシリーズ1
快晴。コバルトブルーの絵の具を空に直接塗りつけたような青空が広がる中。……とは言うものの、これといって突飛なことが起きる前兆ではない。
あるとすれば田中。田中のみ。
地上では、田中は自室に引きこもってメイクに初挑戦していた。
ボロアパート2階の左から数えて2番目の部屋。
部屋の狭さは目に余るが、棚にきっちりと揃えられたペンライトや限定ブロマイドに推しの海口百恵の壁紙ポスターがまだ安心を誘う。
メイクをするのは、初めてオタク友達と出会うからだった。
さて、ここまで来て田中は女だと思ったことだろう。
希望を打ち砕くようで申し訳ないが、田中は男である。
気弱だけどオタ活と仕事だけはシャウトが出来る男である。
ちなみにメイク道具一式は会う予定のオタク友達に教えて貰ったものだ。すべて高かった。財布と田中がワンと泣いた。
話は戻り、メイク初挑戦に至る。
(まずは……眉毛、か?)
眉は四方八方に伸びすぎているところをスクリューブラシで整え、少しずつ切っていく。
「あ」
しかし失敗した模様。
眉尻を切り過ぎた。これではコウメ太夫になってしまう。
改めて、今度は眉頭の方を切る。
「お……おおおおお」
今度はちゃんと切れたようで、ハゲマルドンを観た並みに感動した田中。
その調子で左右どちらも整えたあと、産毛も髭も剃った。若干毛を剃った所に青さが残ったが、そこは後でファンデーションでカバーするとしよう。
膝に手を付き、よっこらせと立ち上がる。
顔についた眉毛を落としに洗面所で洗顔をした。
……が、田中は気づいてしまった。
洗面所の鏡に恐る恐る手を伸ばして、そっと映っている自分に触れた。
「右眉と……左眉の高さが……違う」
空は晴れているが、ところにより雨でしょう。
特に田中の心は。
──ぱち、ぴち、ぱちぱち
にわかに、瓦屋根に水の弾ける音が響きだす。
(なんで今…)
ゆっくり瞬きしてから、鋭く睨むように左を向いた。
28m先の円形の的に突き刺さる、3本の矢。
(雨が降ると、的中率が極端に落ちる…)
経験則から学んでいる、自分の悪い癖だ。
ふぅー、と深呼吸をひとつ。
会場は静まり返っている。
聞こえるのは憎らしい水音と、自分の鼓動だけ。
矢をつがえる手が震える。
じめっとした汗が、道着に、下がけに、張りつく。
笑う膝を力でねじ伏せて立ち上がった。
弓を引く、肩を開いて、均等に均等に均等に。
(いつもより、少しだけ右上を狙う)
対峙するのは、ほんの数ミリにしか見えない白と黒。
(いつもより、少しだけ右上を狙う…ここだ!)
いっぱいに引かれた弦から放たれて、矢は真っ直ぐ飛んだ。
雨に打たれ、軌道はわずか下にカーブを描く…
パァン!
的を突き抜く破裂音と共に、辺りは歓声に包まれた。
衝撃で、私はまだ残身から体を動かせないでいる。
瓦屋根に弾ける音が、祝福に思えた。
▼ところにより雨
「ところにより雨」
ありのままの私を認めてほしかったんだ。
しなちゃんおはよ!!あっ、あいちゃんもおはよー!!先生おはようございまーす!
いつも太陽みたいでいいな。あのコ。
…まるで私は雨みたい。
あれ、れんかちゃん居たんだ!おはよう!休みだと思ってた。ごめんねー
…。
そう。私は「無愛想で存在感全くないヤツ。」
なんだってさ
_じゃあ、私が変わったら皆も認めてくれるかな。
私が喋りかけると苦笑いして。
、、笑
みんな私のことを避ける 。
なんでかな?
上手に演・じ・れ・て・ると思うんだけど…
_でも、私が認めてほしいのはそういうんじゃなくて
天気は天気予報では晴れでも一部分の地域では
雨が降っていることはあるように
人も完全に晴れはないし心の中は曇っている
それだけ表の顔と裏の顔には
少々違いがある
そこがいいとこであったり悪いとこだったりする
貴方の心は、晴れだろう
だが、
私の心は、"ところにより雨"
#ところにより雨
【ところにより雨】
私は主の足元で、溜息を吐いた。
主は大変成績の悪い悪魔で、座学は良い点が取れるものの、奪魂学という実技の授業は最低どころか判定不可の烙印を押されてしまった。悪魔というのは、この世で罪を犯した魂を奪い、それをエネルギーにして生きるものだ。その魂を、期間中に一つも手に入れられなかった。
「うーん、ダメだ……」
シュルシュルと音がする。レコードと呼ばれる魂の記録は一本の帯状になっており、悪魔はその善行や悪行をピックアップして見つける能力があった。
「悪行の前に悲劇がある、この強盗犯は両親からの虐待があった……学校に行けていない。それに、助けを求めた先でも、正しく伝えられなかったばかりに追い返されている。……うう、なんて、酷い……」
独り言を言いながら、ぐしゅ、と鼻をすする音がする。パタパタと頭に落ちてくるものがあって、また溜息。
「本当の悪人なんてそういないよ、可哀想に、どうして天使達は彼がまだ救えるうちに手を差し伸べなかったんだろう」
袖で涙を拭いながら、レコードから手を離す。しゅるるる、と音を立てて、目の前に昏倒している強盗犯の中にレコードが戻った。とあるアパートメントの一室、殴られて気を失った住人と、悪魔に意識を麻痺させられた男。確かに強盗犯は人を殺めたり金を盗むところをやる前に止まったが、それをやったのは他でもない主だ。まだ行くなと止めたのに、住人を助ける形になってしまった。
「はぁ……警察に連絡して、次に行こう……」
また、ポタポタ頭に雫が落ちてくる。
「今日の天気予報は、曇だったんだが」
自慢の三角の耳も、鈎尻尾もへにゃへにゃとしてしまう。悪魔の涙は感情を伝染させる。困ったものだ。
「ところにより雨、だな」
その悲しみに、自分が昇級できないことへの不安もあるのに。彼は自分のために人間の魂を奪うことができないでいるのだ。
通常運行
私は極めて冷静だった。
体調は整っていたし、腹は減っていなかった。
しっかり眠れたし、これといって問題は全くない。
ただ、目の前に広がる光景だけは受け入れ難い。
赤。
部屋一面真っ赤の。
それは本当に美しく、残酷な通常運行。
【ところにより雨】
ある日のワタシの
心の天気予報
ところにより雨
失恋の予感
失恋と言えるほど
恋していた訳ではないし
最初から諦めていた微かな憧れ
祝福するその時には
快晴の天気と
心からの笑顔を送れますように。
わたしの心は雨
ざあざあ びちゃびちゃ
あなたの心は晴れ
さんさん ぽかぽか
ずうんと重いこの雲は 一人で持ち上げられない
あなたにもずうんと雲がかかれば 同じだね
あなたとわたしで
ざあざあ びちゃびちゃ
重たい雲が弾けたら
『ところにより雨』
私の友人には雪女がいる。
彼女はとっても綺麗だが表情が氷のように無表情だ。
おまけに纏う雰囲気も凍て付いて、周りを寄せ付けない。
近づけばマイナス100℃の空気によって手も脚も微動だにすることはできないのだ。
そんな彼女の前に今、実に疎ましい男がいる。
彼女にとって唯一の友人である私とともに都会に来た際、声をかけた茶髪ピアス。チャラチャラした見た目の彼はこちらには振り向くこともせず隣の雪女に声をかけた。
無論、雪女は気にすることもなく恐ろしいほどの無表情で相手を見据えていた。それでもなお挫けずアタックする茶髪ピアス。彼女は限界を迎えていた。
いい加減退いてください、そう自分が言いかけた瞬間、彼女の身体から鋭い冷気が噴する。それをまともに食らった彼は一瞬理解の及ばないことに瞳をぱちくりと瞬いた後、急ににかっと笑い出す。
「俺ちょうど暑いと思ってたんでありがたいっす!」
冷房の故障なんじゃなんだと宣う彼。
そしてその彼を無表情に、否若干頬を染め相手を見る雪女。
それに気づいた私…。
つい先程までの吹雪く雪が一変、雨漏りする。
凍てつく彼女の心をふにゃりと溶かした彼を素直に賛辞を胸の内で唱える。感動的な場面だ、そうなるはずだ。
ただしかし、これだけは言わせてほしい。
雪女、ちょっとちょろすぎやしないかな。
とけたこころはあまい雨となって二人に降り注いだ。
今日は私の出番あるかなぁ。
きっとお天道様次第なんだろうけれど。
でもお天道様が出ているときに降る雨もあるよなぁ。
題『ところにより雨』
#ところにより雨
私は一昨日卒業式だった。
入学式も卒業式も雨だった。
不運じゃなくて雨が降るといい事が起こる、と
考えることにしよう。
『今日は、関東地方はところにより雨でしょう』
テレビでお天気お姉さんが言っていた。最悪。今日バイトなのに。バイト先までは徒歩10分。そこまで傘を差して歩かなければならない。雨は寒いし濡れるし大嫌い。でも雨だからって理由じゃあバイトは休めない。それに親が送ってくれる訳でもないし。親からの私への当たりは他の姉妹にするより強く、「お姉ちゃんはこうじゃなかった」、「あんたお姉ちゃんでしょ」ずっとこんな事ばかり言われてストレスが溜まっている。バイト先まで送って欲しい。これを言うだけで文句が来る。
そんなことを思いながら家を出た。空を見ると暗く分厚い雲があって、今の自分みたいだと思った。そんなら雨は私のくらい気持ちを流してくれるシャワーかもしれない。傘をくらい気持ちに見立てると、だんだん気分が晴れていく。
今日は雨だ。雨は嫌いだった。でも気分の晴れるこんな雨は嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。
#ところにより雨
『…――次に××です。曇のち晴れ、ですが、
マークには無いんですけど、正午過ぎから夕方にかけて、ところにより雨となる時間帯がありそうです。折りたたみ傘をカバンに……』
その日の都内某区周辺は、上空の寒気の具合と、意地の悪い低気圧が結託して、
昨日に比べて気温はやや下がり、朝の天気もぐずついていて、聞こえる挨拶には「寒いね」がチラホラ混じっていた。
予報によれば、どこか特定の場所でひと雨、という。
どうせ私の/アタイの/俺の/ぼくの地域ではない。
思いたがるのは正常性バイアスの仕業と言えそうで、
しかし、小説や漫画にドラマ等々、物語の世界では得てして、「そこ」に降るのがお約束である。
見よ。この短文世界でも、お約束に降られた元物書き乙女がひとり。
「わぁ。来た……」
かつての薔薇物語作家にして、現在概念アクセサリー職人の彼女は、雨降らぬ間に買い出しをと、外に出て近所の店を転々と渡り、食料と日用品といくばくかの嗜好品――すなわち菓子と菓子と炭酸飲料と菓子でエコバッグをいっぱいにして、
さて帰宅、最後の某安値スーパーから出た矢先、
待ってましたと言わんばかりの「ところにより雨」に強く降られた。
雨雲レーダーの動向を見るに、当分この雨は居座るらしく、おまけにわずかに風もあって、元薔薇物語作家は、服の汚れとエコバッグの濡れを覚悟した。
これは濡れる。確実に濡れる。仕方がない。
激戦の中獲得した激安卵と、本日賞味期限半額肉を、このまま気温2桁の外気にさらし続けてなるものか。
仕方が、ない。この状況を見越しての、汚れてもへっちゃらコーデである。
「お肉のため、卵のため、ケーキのため……!」
服は汚れれば洗濯をすれば良いが、生鮮食品が温度や雑菌等で汚れてはどうにもならぬ。
乙女は覚悟を決め、卵のパックの位置を入念に直し、それが割れぬ程度の懸命さで、傘を広げ水たまりを踏み散らし、降雨の帰路を走った。
ぽつりぽつりと所々から雨が降っている。傘を忘れた俺は駄菓子屋で雨宿りをしている。
ふと駄菓子屋内部に目がいく、幼い頃に買っていた沢山の懐かしいお菓子がぎゅうぎゅうに並んでいる。