Werewolf

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【ところにより雨】

 私は主の足元で、溜息を吐いた。
 主は大変成績の悪い悪魔で、座学は良い点が取れるものの、奪魂学という実技の授業は最低どころか判定不可の烙印を押されてしまった。悪魔というのは、この世で罪を犯した魂を奪い、それをエネルギーにして生きるものだ。その魂を、期間中に一つも手に入れられなかった。
「うーん、ダメだ……」
 シュルシュルと音がする。レコードと呼ばれる魂の記録は一本の帯状になっており、悪魔はその善行や悪行をピックアップして見つける能力があった。
「悪行の前に悲劇がある、この強盗犯は両親からの虐待があった……学校に行けていない。それに、助けを求めた先でも、正しく伝えられなかったばかりに追い返されている。……うう、なんて、酷い……」
 独り言を言いながら、ぐしゅ、と鼻をすする音がする。パタパタと頭に落ちてくるものがあって、また溜息。
「本当の悪人なんてそういないよ、可哀想に、どうして天使達は彼がまだ救えるうちに手を差し伸べなかったんだろう」
 袖で涙を拭いながら、レコードから手を離す。しゅるるる、と音を立てて、目の前に昏倒している強盗犯の中にレコードが戻った。とあるアパートメントの一室、殴られて気を失った住人と、悪魔に意識を麻痺させられた男。確かに強盗犯は人を殺めたり金を盗むところをやる前に止まったが、それをやったのは他でもない主だ。まだ行くなと止めたのに、住人を助ける形になってしまった。
「はぁ……警察に連絡して、次に行こう……」
 また、ポタポタ頭に雫が落ちてくる。
「今日の天気予報は、曇だったんだが」
 自慢の三角の耳も、鈎尻尾もへにゃへにゃとしてしまう。悪魔の涙は感情を伝染させる。困ったものだ。
「ところにより雨、だな」
 その悲しみに、自分が昇級できないことへの不安もあるのに。彼は自分のために人間の魂を奪うことができないでいるのだ。

3/25/2023, 2:27:27 AM