『いつまでも捨てられないもの』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
フォロワーさんが私のために手に入れてくれた、当時好きだったキャラのアクキーがいつまでも捨てられない。
ご当地物で、そこにしか売ってなかった。そこに行こうと思ったら、新幹線に乗るしかなかった。今なら好きに行けるけど、当時は子どもが乳幼児で出かけることも自分の時間を作ることもままならなかった。そのキャラクターだけが、荒んだ精神の支えだった。
アクキーが手に入らないことが本当に悲しくて辛くてTwitterで嘆いていると、フォロワーさんが買ってきますよ!と声をかけてくれた。その場所で生活をしている方で、気さくに快く請け負ってくれた。
キャラクターのアクキーが手に入ることも嬉しかったけど、こんな自分に声をかけてくれたことが本当に救われた気持ちだった。かわいいイラスト付きで送ってくれた。本当に嬉しかった。
今は違うキャラクターが好きで、違うジャンルに沼っているけど、そのアクキーとイラストは捨てずに取っている。
これやるよ
お前みたいだろ、お前泣き虫だから
なにこれ気持ち悪い、こんなのどこで見つけてきたのよ
わたしは泣き虫かもしれないけど
鳴き虫じゃないのよ、もう
と、いって二人で笑った
君が初めてくれたプレゼント
セミの携帯ストラップ
それからたった1週間
たったの1週間で君はぽっくり逝ってしまった
どっちかって言うと君がセミじゃない
わたしは夏が来る度、鳴きながら過ごす
スマホに無理やり繋げたセミのストラップを眺めながら
『いつまでも捨てられないもの』
【お題:いつまでも捨てられないもの/創作/散文/お題を、ネクロマンサーのお嬢さんのセリフに】
そんなんじゃ仕方がないじゃない
あつめた貝殻を骨にして
こぼした葡萄を肉にして
やっとここまで来たんだもの
貴方がダミーで 私がオリジナル
嫌だ 嫌だ と 喚いても
そんなんじゃ 仕方がないじゃない
あなたの魂だけは
いつまでも捨てられないもの
思い出になってしまった「あの日」を抱えて生きていた。過去に縋りつき、未来を見ないふりして後ろ歩きで進んでいた。過去の栄光は私をにせものの光で飾り立ててくれたし、私を好いたともだちは今だって私を友達と呼んでくれるはずだった。
あのとき輝いていた夕焼けや、たいせつに拾い集めた貝殻や、貴方と交わしたちいさな約束は、私の不甲斐ないポケットからすぐに落っこちてしまうのに、誰にも効力を示さない虚栄だけはいくら振り払おうとも剥がれそうにない。
わたしはいつも、大切なものを見定め損ねる。
こんなに遠くまで、捨てきれずに歩いてきてしまった。それならもういっそのこと、これを正解にしてしまおうか。否定されたわたしだけの正義を信じ込み、正解にしていく人生だって悪くない、君となら。
No.13【いつまでも捨てられないもの】
5年くらい前から、身の回りのいらない物を整理して捨てている。
半分くらいは捨ててしまった。
残している物は、今使っている物や将来必要な物、替えのきかない物が多い。
たとえば、アルバムや思い出の品を置いている。
アルバムは整理して、子供達に残すようにしたが、思い出箱はそのままにしている。
銀色の箱の中に、肩たたき券や母の日のお手紙。
将来、足腰ダメになって歩けなくなった時には、この箱の中を楽しんで、ごきげんでいるためである。
『 いつまでも捨てられないもの』
ごみ箱の前に持っていってわ迷う。
父の手紙。
父は私には興味がなく、いつも放っとかれていた。
話なんて続く訳もなく、家がいつの間にか落ち着かない場所になっていた。
父の言葉なんて一言も信じたことがない。
そんな人が亡くなる前に残した手紙。
ほんとうはこの世でいちばん愛している。
こんな父ですまなかった。
涙の染みた跡とともに書かれていた。
絶対うそだ。
綺麗事を言うんじゃない。
そう思い、ごみ箱の前に立つ。
でも、母がいない私。
どこにも信じられるものがなく、1人孤独に生きてきた。
心の底で、この言葉に縋りたいと思う私がいたんだ。
決心なんて言葉がないように、いつまでも捨てられない。
死ぬまでダメなんだ。
私は貴方を心のなかに、おいて置きすぎたのかもしれない。
心の奥の「私」に一番近いところに。
だから、貴方を特別だと思ったのかな。
とっくにすぐ、捨てられたかもしれないのに、
今でも、貴方は特別だったのよってどこかで聞こえる。
バイト代で、貴方の特別のために出かける予定だったけれど、もう行かないのかな。
私は私の中で崩れる貴方に、妄想と想像の真実を探す。
何故か百均のコスメが捨てられない恐怖は、恐怖は君をどう変化させる?
『いつまでも捨てられないもの』
我ながら、実に愚かだった。
僕はクローゼットの前でため息をついた。
この間、彼女と行った旅行で、
自分の土産として買ったTシャツ。
店で一番派手で、
一番訳のわからない柄のヤツを
二人でゲラゲラ笑いながら買ったのだ。
だけど、こんなTシャツじゃあ、
宅配便を受け取ることすら恥ずかしい。
……じゃあ、何で買ってんだ、って?
そんなのこっちが聞きたいくらいだ。
とはいえ、捨てるにはもったいない。
部屋着にするしか、ないだろう。
その後、彼女が僕のうちに遊びに来た時だ。
彼女は僕の部屋着を見て、
あの旅の時と同じくゲラゲラ笑った。
やかましいのに、まぶしくて、
こっちまで笑い出したくなるような、
その彼女の顔を見て、ようやく僕は気がついた。
なるほど、だから僕はこのTシャツを買ったのか、と。
※いつまでも捨てられないもの
もう1ヶ月お世話になってる
咳き込む体と痛い横隔膜かな!!!
捨てて新しいのに変えたいよね!
とりあえず月曜日に呼吸器内科行くから
進展することを願っている
頭が重い。
捨てそびれたゴミ袋が、真っ先に目につく。
布団の中からスマホを引き寄せて、SNSを起動する。
テキトーにリテラシーの範囲内で、コメントを投稿してから、布団の中で寝返りを打つ。
今日の配信予定時間はあと二時間後だ。
まだ眠れる。
赤らんだ日を遮光するカーテンを眺めながら、そう思う。
積み重なったプラスチックの空容器と、丸めて捨てられたティッシュ。
ぐちゃぐちゃに重ねた雑誌の雪崩と、乱立する空っぽのペットボトルの間に、錠剤のゴミがぐしゃぐしゃに握りつぶされて落ちている。
足の踏み場もない狭い部屋に、すっきりと片付いた一角がある。
配信器具とカメラとマイク、それから編集用のパソコン。配信用のものを固めた、配信テーブルだ。
手元カメラの画角に入るそこだけは、きちんと片付けている。
手元のスマホの画面を見やる。
さっきのコメントに対して、さっそく返信が流れている。
取るに足らない喧嘩、誰でも書けそうな薄っぺらい一文、面倒で自己中な絡み、本人以外には全く面白さが分からない怪文書…
見るだけですえた匂いが漂いそうなコメントが、今日もネットの中を漂っている。
足首が痒い気がする。
そういえば、この布団を最後に洗ったのはいつだっただろうか。
最後に布団をあげたのはいつだったろうか。
エゴと欲でゴミ屋敷のようなSNSを閉じて、飲食店の配達アプリを立ち上げる。
閉店までに夕食を注文しておかなくては。
最近は、あんなに好きで、頼りになる存在だったはずの実家の両親からの連絡ですら、鬱陶しい。
まだかろうじて細々と縁が続いている彼氏や、学生時代あんなに一緒にいた同級生も鬱陶しい。
自分の今の生活がどうしようもなくダメな事は分かってる。
昼夜逆転、人間不信、不健康な生活、ネットびたりで区切りなしの虚の毎日…
それでも。
それでも私は、この世界を捨てられなかった。
同級生の半数が子持ちになったとSNSで気づいたあの夜も。
両親が連絡を取るたびに私を怒鳴るようになったあの夜も。
私は捨てられなかった。
布団から這い出して、パソコンの前に座る。
動画サイトを立ち上げる。
たくさんのコメント。たくさんの登録者。たくさんのいいね。
SNSを立ち上げる。
たくさんのコメント。たくさんのフォロワー。たくさんのファンアート。
だるい絡みがほとんどだけど、体にも心にも毒だけど、それでも。
それでも私はこの生活を、この世界を捨てられなかった。
スマホを横に置いて、夕飯を注文しながら、パソコンに届いているメールとコメントに目を通す。
薄暗く閉め切った部屋に、画面の光が目に眩しい。
ブルーライトを体に浴びる。
日光浴より毒々しく、でも私が一番欲している光。
これが私のいつまでも捨てられないもの。
今までもこれからも、いつまでも捨てられないもの。
正しさも、真っ当さも、幸せも、人間性すらも捨て去った私の人生の中で、ただ一つ捨てられないもの。
無機質な白い光が、顔を照らす。
カーテンの向こう側には、夜の帳が下りていた。
【いつまでも捨てられないもの】
(魔女と弟子)
師匠は魔女で、僕は魔女の弟子……のはずが、一度死にかけた僕に師匠が新しい身体をくれた。今では僕は魔女の使い魔。人間だった頃の姿にもなれるけど、本性はコウモリの羽がある大きな猫だ。
「家事を手伝ってくれるのはありがたいけど、無理に人の姿でいようとしなくてもいいのよ」
皿洗いをしていた僕に師匠が言った。
「今のあなたの本性は猫なのだから、四つ足で過ごした方が楽でしょう?」
師匠が気遣ってくれるのは嬉しい。でも。
「確かに僕は猫かもしれませんが、自分が人間だったことも忘れたくないんです」
僕にとって、人としての姿はきっといつまでも捨てられないものだと思う。
「何より、僕は師匠の役に立ちたいんですよ」
「そう? それならそれで構わないけど……」
あれ?
師匠がちょっと残念そうな顔をしている。ほとんどの人間は魔女を敵視しているし、やっぱり師匠は人間が好きじゃないのかなぁ。
次の日。
掃除をしていた僕は、師匠の部屋である物を見つけてしまった。真新しいそれは何故か本棚に隠されていた。
なるほど。師匠はこれを使いたかったのか。思わず顔がにやけてしまった。
『師匠、少し休憩しませんか』
僕は猫の姿で、身体の大きさを本来の半分くらいに小さくして、薬を調合している師匠に声をかけた。
「あら。今日はその姿なのね」
『たまには良いかと思いまして』
僕が猫の姿をしていると、師匠は頭や背中をよく撫でてくれる。
師匠の手は優しくて、器用で、ほっそりとした指は可憐で愛らしい。その手で触れてもらえるのはとても嬉しい。
でも、そうじゃないですよね、師匠?
『ブラッシングはしてくれないんですか?』
「えっ」
『僕のために新しいブラシを買ってくれたんでしょう?』
僕が師匠の本棚で見つけたのは動物用のブラシだった。
「……なんだ、知ってたのね」
師匠はほんのちょっとだけ、顔を赤くした。
ブラシを持った師匠が僕の毛並みを整える。頭の天辺から背中は羽の間、腰まで丁寧にブラッシングされた。
……ああ、気持ちいい。
自然に喉がゴロゴロと鳴った。尻尾は遠慮しているみたいだけど、僕は師匠になら触られても良いですよ?
『師匠は、人間の僕がお嫌いですか?』
「まさか。そんなことないわよ」
『でも、猫の姿の時しか触ってくれないでしょう』
「人の姿のあなたにベタベタ触れるわけにはいかないじゃない」
師匠の顔がまた少し赤い。
ちょっとは意識してくれていると思ってもいいよね、これは。
『師匠。やっぱり僕と結婚しませんか』
問題だった寿命の差だって、解消したわけですし。
「…………まだそんなこと言ってるの」
『そりゃあもう。これからも言い続けますよ』
僕はこの想いも、いつまで経ったって捨てられそうにありませんからね。
お盆に帰省して祖母に会ってきた。
祖母は今年で92歳になるが一人暮らしだ。
押入れに長年置いてあった段ボールを数十年ぶりに開封した。という話を
2日で8回ほど初めて話すテンションで聞かされた位には記憶力に陰りが見える。
本人はあまり乗り気ではないが、近い将来介護施設のお世話になることだろう。
そうなると祖母がいつまでも捨てられなかった物を家族の誰かが片付けなければならない事になる。
いつまでも捨てられない物も、いつかは捨てられる
思い入れも、価値ある物も、永遠に留まることなんで出来ない。
それはそれとして、今回の帰省時、亡くなった祖父が集めていた大量の古銭と記念硬貨をどうにか処分してほしいと祖母から依頼された。
調べたがコインショップやフリマサイトでもそれ程価値が上がっていない。しかもずっしりと重い。
私はこれをクローゼットに突っ込んで忘れてしまおうかと、ここ数日考えている。
捨てるには惜しいが、動かすのも面倒で...
部屋の中にひとつ、特別な箱がある。この箱には彼からもらったものが全部入っていた。
最初に貰ったものは、この箱に入らない少し大きなもので、クローゼットに立て掛けてある。それはスケートボード。
あれから何度も使ってボロボロになっていて、新しいものを買っている。それでもこのスケートボードは宝物で、いつまでも捨てられないものだ。
時々、恋人がこのスケートボードを見て苦笑いする。
「こんなボロボロになったの、取っておかなくて良いよ。また買ってあげる」
そう言ってくれるが、彼女は断っている。
「これが良いんです」
そう返して、スケートボードを優しく撫でた。
おわり
お題:いつまでも捨てられないもの
テーマ「いつまでも捨てられないもの」
そういえば、いつまでもなぜか取っておいているものってある。別に捨てたって後悔はしないはずなのに、これは、なんのために?
特別思い出が詰まっているとかなら分かるが、何となく捨てられない。
そうして物が片付かない。不思議である。
丁度今日小さい頃に遊んでたおもちゃとかを、
お母さんに粗大ゴミに捨てられました…笑
小学生の時の私は着れなくなった服1枚捨てることも出来なくて、まとめて捨てられた時は1週間はずっとショックで泣いてました
今は捨てることも新たに生まれ変わる1歩なんだなーって思えるから、そんなにショックはないんだけど、今日捨てるものの中に私の使ってたランドセルが元々あって、それだけはめちゃくちゃ拒否して言い訳して捨てられるの逃れた あぶねー…
だからランドセルは捨てられないな多分
ピーターパン症候群な私にとってはランドセルは大切なものですね
ランドセルを前に背負って机替わりにしながら宿題したり、暑くてイライラして投げたり(行儀悪い)、友達にランドセル叩かれすぎて凹んでたり…
もうランドセル使わなくなってからしばらく経つし、記憶が薄れる度に自分が本当に昔を生きてきたのか分からなくなって戻りたくなるけど、そういうトリガー?笑 的なものがあると安心する
うーん将来ゴミ屋敷なりそうだな………((
大切な人からの手紙はこれからもずっと残しておきたい。
中学、高校の頃の親友。
会社の同期。
毎日を共に過ごしているパートナー。
読み返すと、その時代のその瞬間が鮮明に浮かんでくる。
進学、就職、結婚、出産、引越、退職など人生のイベントを経て会う機会は減ってしまったけど、この人たちがいたから今の自分ができあがっている。
あなたはなぜ書く
本当らしく
もっともらしく
なぜそこにいる
ほかの何処でもないそこに
なぜいる
なぜ
(破裂)
蠕動している大地の撓みに
片脚をもぎとられた話者を
引き摺って歩く街は泥の河
頭の燃えた蛍を呼びつけ
水溶性の悪を孕ませる
矮小な理念の遺構に
死の光の穂が地平まで揃って波をうって
ひかりになれぬものに
ひかるものをみいだす心はつくられた
あさましく、こどもの純な渾沌がまろびいで
おれは救われぬ
破裂した ばらばらの意味となって
生きがたいとさけんだ
鏡の口角を撃ち抜いた
馬鹿なことには耐えられぬ
救われぬ
破裂
破裂続きの
幸福な物質に
あさましい温もり宿り
死は
閉め切られた
剣の礎石になるを得ず
豚を食う塵が舞う
おれはどこ
どこに
光を知ればいい
だれか
だれか
救われぬのなら
おれを
おれを
(破裂)
#いつまでも捨てられないもの
私の仕事 支援員話す。
しえんいん支援員 仕事内容わかりますか?
知的障がい者をサポートする
区立の福祉作業所で働いています。
知的障がい者の中には身体の障がいある人もいます
5つの仕事内容を話します
①気持ちに寄り添い、コミニュケーション
②働く良い状況を作る
③個性 尊重し、見守る。
④能力にあった仕事をあげる
⑤作業の補充 点検し。期間まで品物をあげます
私には幼馴染がいた。
過去形なのは、もう二度と会うことはないから。
小2の夏、彼は遠い場所へと旅立った。
あの日私と彼は海へ行った。思い返せば「子どもだけで行ってはいけない」と何度も言われていたのに、私たちは気にも留めていなかった。
午前中はあんなに晴れていたのに急な雨。慌てて近くの空き家の軒下に入った。数分待っても雨は止まない。すると彼が突然「あっ」と声を上げた。忘れ物をしたらしかった。
「雨止みそうにないし、とってくるから、これ持って先帰ってて!」
私が何か言う前に、彼は海岸で拾ったイカの骨を私に押し付けて走り出した。私はそれを落とさないよう握りしめて、反対方向へと駆け出した。
夜になって、電話が鳴った。彼がまだ帰らないと。不安になった私はアイスを食べる手を止めて父親たちの会話に耳を澄ました。電話を切った後、父は私にどこで彼と別れたか訊いた。私ははじめ例の空き家の場所を答えたが、すぐに思い直して海へ行ったことを伝えた。父は私に「絶対に家から出るな」と言い置いて、目にも止まらぬ速さで家を飛び出して行った。
アイスは溶けて床に落ちたが、私の体は動かなかった。
今日、先生が私の部屋でイカの骨を見つけた。普通にしていればよかったのに私は、思わず過剰反応してしまった。古いものだから、下手に触ったらボロボロに崩れてしまうのではないかと思ったのだ。
先生はすぐに手を離したし、事情を知って謝ってくれた。骨も無事だった。でも私はその時の先生の申し訳なさそうな顔を見て、胸が苦しくなった。
あの頃の私はぼんやりと、でもたしかに、彼のことが好きだった。ずっと一緒にいたいと思っていた。大人になってもずっと。結婚はできなくとも。
それが友情だったのか、家族愛だったのか、はたまた恋心だったのか、それは定かでない。
でも心からの気持ちだった。
そんな人との思い出の品を、未だに大切に持ち続けている私を、先生はどう思うだろう。
ホッとする?
私から解放されたと喜ぶ?
その後は?
このまま過去を大切にしろと励ますか。
同年代との未来を考えろと説き伏せるか。
先生が、私から離れていく……?
彼はただの幼馴染で、骨は昔しまってからずっと忘れていたと、言っておいたほうが良いだろうか。でもこの人に嘘はつきたくない。
考えるほどに胸が締め付けられて、うまく息ができない。気づいた時には溢れた雫が頬を伝っていた。
先生は優しく私の名前を呼び、ハンカチを差し出した。
「せんせぇ、すきです……」
「……」
視界が滲んで先生の表情が見れない。
「せんせぇ、ごめんなさいっ……」
「なぜ謝るんですか」
「だって、せんせぇのことすきなのに、ほかのひとの、だいじにして、」
「何も謝ることはありません。私は嬉しいですよ」
あ、やっぱり。先生は私を手放すんだ。
「やだ、せんせぇいっちゃやだぁ」
「どこにも行きませんよ」
先生はとめどなく溢れてくる涙を拭くのを中断して、私の手を包んだ。
「君がまた、人を好きになれたことが嬉しいんです。その相手が私であることは、この上なく光栄です」
私の態度で先生は察したのだ。
「せんせぇ……」
「過去の想いを捨てる必要はありません。それが今の君を創っている。私の……尊敬する君をね」
言いたいことがたくさんある気がするのに、言葉にならない。私は先生にしがみついて涙が止まるのを待った。
先生が帰った後、私の泣き腫らした顔を見た父が血眼で追いかけようとしたのは、また別の話。
テーマ「いつまでも捨てられないもの」