『好きな色』
通信環境が整い、友達のアバターがゲーム画面に現れる。
「おぉ〜、今回は水色だ。なぁなぁ、好きな色ってある?」
あまり自分を語らない友達に、思いきって質問したことが好きな色についてって小学生かよ。
「……考えたことない」
聞かれたことに対しての驚きか、目が合った。少し考えたっぽい? それから、ぽつっと言った。
「俺はさ、赤! このシューズとか、赤のラインがかっけぇって思って買った」
「……へぇ」
「逆にさ、嫌いな色は?」
「目立つ色?」
答えんの早っ! 思いつきで言っていた会話は、ゲーム用語を交えた会話へと移る。制限時間があるから余計なこと、無駄なことはできない。
「ごめん! 体力尽きた」
「いいよ。装備ミスったから変更してくる」
装備の選択ミスなんて珍しい。改めて合流すると、目立つ色の装備になっていた。
俺の好きな赤色だけど、「目立つ色、嫌いって言ってたよな?」
「……剣のデザイン、かっこいいから。それと一式揃えないと効果が発動しなくて。色に濃さとか、淡さがあればよかったのに、それが無いからただ々目立つんだよね」
急によく喋る。自分を語ってくれたかも?
『相合傘』
しとしと、降り続く雨。それと、傘。その二つの事柄はいつも、あいつとの思い出に繋がる。
幼稚園のとき、あいつはいつも傘を忘れる。親は持たせようと必死だったのを覚えてる。どんなに濡れても風邪をひかないんだから、すごいよねってなぜか盛り上がった。
小学生のとき、小雨のときは傘を持ってこないあいつ。よく走って帰ってるのを見た。
中学と高校は自転車だったから、傘を必要としなくなった。
ちいさい頃は、小さい傘に二人で入って帰ってたね。
小学生になると、黒板に相合傘を描くのが流行ってて、注目されるのを避けるためにお互い何も言わなかったね。
中学では話すのにきっかけを探してたんだよねー。あいつはどう考えてたのか知らないけどさ。
降り続く雨、空を見て立ち尽くす人がいた。傘を忘れたのかもしれないね。
「あれ、ここで何してんの」
「おー、久しぶり。傘、車にあってさ。急に降ってきたじゃん?」
「梅雨なのに。折りたたみ傘くらい持っときなよ。走って車まで行けば?」
「この年齢になって、それはアホすぎるだろ」
あたしの手から傘を取ったと思ったら、「近くまで入れて。どこのコインパーキングに停めた?」
「この建物の裏」
「まじか、同じだわ」
いつ振りだろう。相合傘っていうのを気にしてるのは、あたしだけか。
『初恋の日』
無口な子と付き合うことになってしまった。
ここだけの話、クラスのやつと遊んでて、その罰ゲーム。ノリで告って来いよってやつ。
成功してしまったら、真剣に付き合うよ。クラスのやつにもはっきり言う。
展開的には、フラれるほうがよかったけど。
好きです、付き合ってくださいと言ったあとは、頷いたんだ。OKってこと? そう聞いたら、また頷いた。
付き合えてしまったから、一緒に帰る? 一応聞いた。相手の教室前まで行って、出てくるのを待つ。
なかなか出て来ないから、驚かさないように近づいた。
手帳、スケジュール帳か。かわいい字が見えた。初恋の日なんていう可愛すぎる日があった。
付き合ったらいろんな記念日があると思う。それについて俺は、めんどうだと思ってた。たくさんあると覚えられないし。
つーか、初恋ってことはさ、俺がはじめての彼氏という……?
俺に気づいたきみは、スケジュール帳を隠す。
「み、みた……?」
「かわいい記念日。なにする?」
「で、デート?」
「よし、行こうか」
絶対、幸せにする。
『耳を澄ますと』
視界に入った知らない手。
ノイズキャンセリングイヤホンを外して、相手の口に集中する。
「あー、悪い。音楽聴いてた? 今日課題の提出日なんだけど、出せる?」
「あっ……うん」
机から筆箱が落ちた。慌てぶりに男子は笑っていた。
「急ぎすぎ」
私の机で課題を整えたら、男子は教室を出た。
耳へ一気に流れ込んでくる、いろんな音。イヤホンをつけて、私だけの世界に浸る。
授業では必要と感じないからつけてない。それでも、担任に許可は取っている。
私から言ったりしなければ、周囲は、イヤホンで音楽を聴いているんだろうと思ってくれてるみたい。
視界にまた、手が入る。
「良いイヤホンしてるよな。音とかこだわってんの?」
課題の回収をしてた男子だ。髪も染めてて、なんか怖いな。そんなに男子が好みそうなデザインのイヤホンかな……?
「ほら、かっこよくね?」
そう言うと、比べるようにイヤホンを並べてくる。どちらも黒いし、光沢もあるし、同じじゃない?
「ていうか、いつも何聴いてんの?」
「……何も」
「何も?」
「うん。何も聴いてない。これ、ノイズキャンセリングイヤホンで、音に敏感な人が付けるやつなの」
「ふ〜ん」
思ったより早く相槌がきたけど、そのあとは沈黙で、チャイムが鳴る。
日直で残ることになった放課後、静か過ぎる教室。引き戸が開いた。
「やっぱな真面目っぽいから残ってた」
どんどん距離を縮められて、「ちょっとついて来てほしい。あ、鍵閉めと日誌持って行くの、俺にさせて」
髪も染めてて怖い人じゃないの? なんか、変なの。
体育館へ続く渡り廊下。真ん中のところで、座る。立ってるのも変かと思って、真似して座った。
「俺の好きな曲流すわ」
ほんの一瞬、イヤホンを片方借りることになるんじゃないかって考えた。
もう少し音を大きくしてくれたら、ちゃんと聴こえるんだけど。言ってもいいのかな。
「休憩時間の教室の音って、嫌い?」
「音が刺さるっていうのかな、痛いから」
「今いるここの音は?」
「ここは静かで、大丈夫……?」
好きな曲を流すといって、聴こえるのは、結構派手だな……叫び声も混じってない?
「全部の音を聴かなくてもいいんじゃね? 耳を澄ますっていうか。好きな音を拾いに行けば、いつもつけてるイヤホンも必要なくなるだろ」
これは励ましてくれてる? 別に誰かに嫌味を言われてるわけじゃないんだけどな。
「フフッ、んー……ありがとう?」
「笑うのかよ、俺、すっげぇ考えたのに」
『善悪』
彼は言う、「何も知らず聞いただけじゃ、酷いこと考えてるって思うんだろ? 誰しも否定するだろうな。けどその考えにどれだけ共感できるか、うまくいけば踏み止まれるんだよ……」
同じ顔の彼は言う、「みんな良いところあるし、無くなってしまったら、その人じゃなくなってしまうんじゃない? 良いねって言ったほうが気分いいし、笑顔を向けられて嫌な思いになる人なんていないでしょ」
私の人生で初めて出会った双子の男性は、見事に考え方、価値観が違う二人だった。
昔テレビで見たか……育った環境が大きく違えば、双子であっても違う考え方になってしまうのだと。
白黒はっきりとも言える考え方になってしまっているのに、どうして一緒に居ようと思ったんだろう。
喧嘩、まではいかなくても、揉め事は毎日のように出てきそう。いろいろ言って、丁度いい考えに出来たら素敵ね。