No.257『あの日の温もり』
小さい頃、迷子になったことがある。
家族とはぐれてどうしていいかも分からず、その場に座り込んで泣いていた。
周りの人は私を見て目を逸らして声をかけてくれる人はいなかった。
「大丈夫?」
その時、優しい声が聞こえた。
顔を上げれば制服を着たお姉さんがいた。
ひとりぼっちの中で声をかけてもらえたことに安心したからか、お姉さんの質問には答えられずただ泣き続けた。
お姉さんは困惑しながらも背中を優しくさすってくれた。
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私はあの日の温もりを忘れられない。
だから今度は私が温もりを与えたいと思った。
目の前で泣く小さい子の目線に合わせるために腰を落とす。
「大丈夫?」
この勇気をくれたあのお姉さんにありがとうと言いたくなった。
No.256『cute!』
愛されるわけがない。
可愛いどころか醜いとさえ言えるこの顔だ。仕方がない。
顔で色々と決まってしまうこの世界で人生負け組の私に何ができる?誰が愛してくれる?
別にみんなから好かれたいわけじゃない。
だけど、たった1人でいい。
それもきっと我儘なんだろう。
だけど私はその1人の1番になりたい。
No.255『記録』
記録や勝敗にこだわる人たちに思い出を奪われた。
他のレーンよりも一周遅く走る私たちは見世物にさせられた。
でも誰を恨むことだってできなかった。
彼らの考える楽しさはいつだって勝ちと同義だった。
それが1番だと考える彼らは正しいわけでもないが間違っているわけでもない。
じゃあ、私たちが悪いのか。
それだって違うだろ。私たちは望んでこんな風になったわけじゃない。
これはどうしようもないことだったんだ。分かってる。そうやって自分に言い聞かせた。だけど……うん、やっぱり苦しかったなあ。
No.254『さぁ、冒険だ』
「さぁ、冒険だ!」
輝かしいほどの笑顔で僕の手を差し出してくる君。
なんで僕なんかに構うのか理解できない。
君の隣にいるべきやつは僕じゃないだろう。
そう思って目の前にある手を払う。
それでも諦めずに僕の背中をぐいぐい押して歩かせようとする君。
ああ、もう!!僕がいても君の邪魔にしかならないんだよ!!なんで分からないんだ!!
そうやって叫ぼうと思ったのに、
「お前とじゃないとこの冒険は楽しくない!」
ああ…もう……なんなんだよ……これで断ったら僕が悪役じゃないか…。
No.253『一輪の花』
あなたは私に一輪の花を渡してきた。
それは見るからに綺麗で道端で咲いていたものではない。
……お金がないって言ってたじゃない。「僕は今日のご飯を買うにも必死だ」ってそう言ってたじゃない。
それなのになんで…、そう尋ねたらあなたは笑顔で言った。
「僕は言葉を伝えるのが苦手だからこの一輪の花を君に渡したかったから」
……嬉しかった。とっても。
その気持ちが溢れかえって、私の手の中にある一輪の薔薇をそっと撫でた。