ななせ

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6/1/2024, 12:02:51 AM

子供は無垢で良いねえ。
子供が無垢なのは頷ける。けれど、無垢とは良いことだろうか。無邪気であるとか、そういった事は全てプラスであるのだろうか。
私なりに、幼い頃を振り返ってみる。
ある雨上がりの日のことだ。学校から帰っていた私は、道に蛙を見つけ、何も考えず傘の先で潰した。
結果、蛙はくきゅ、と音を立てて無惨な姿に変貌し、私は顔を顰めた。
あれは無垢だ。
罪の意識もなく、純粋な興味のみで行われた行為は無垢そのものであり、到底咎められるものではない。悪意を持って起こった事ではないからだ。
もう一つ。
私の小学校には、気の弱い生徒がいた。
自分の意見を全く言わず、人に合わせる、早い話が引っ込み思案だった。その子はいつもオドオドしていて、幽霊みたいにふらついていた。
そのことを、誰かがこう言った。
「あの子って、おかしいよね」
『おかしい』この言葉に、大した差別意識や嘲笑などは含まれておらず、ただ自分が感じたままに言っただけである。
しかし、それ故に周りも賛同した。
お前、おかしいって。ねえやっぱりさあ、おかしくない?おかしいよね。うん、分かる。
それはどんどん伝染して行き、耐えられなくなったその子は、担任の教師に訴えた。
教師はクラスメイトを叱ったが、誰一人として心に響いてはいなかっただろう。
何故なら、悪意を持った行動でないからだ。
いじめてやろう、嫌がらせてやろうと思って笑っていた者は一人もいないのだし、むしろ面白いネタが増えたくらいの気構えだったのだ。
これも全く無垢である。
どんなに善い行いをしても、その根源に欲があればそれは無垢ではなく、打算の上の行動だ。
逆に、悪逆非道の限りを尽くしても、その根源に欲望がなければそれは無垢なのだ。
心に濁りのない者は、ひとたび道を間違えると独裁者にもなりかねない。小さいうちならまだ叱咤で済まされるだろうが、年齢を重ねるにつれて負う責任の重さも増していく。
そう考えると、大人になる前に無垢を失うのは良い設計と言えるのかもしれない。


お題『無垢』

5/30/2024, 10:37:47 PM

これは、永遠に続く道。
終わることのない物語。
僕は罪を償い続け、その道を歩んで行く。
右、左。右、左。
踏みしめる道の静けさ切なさ。
あすこに見える綺麗な霧は、
僕を惑わす為の罠。
あれに捕まると、もう戻れない。
脇目も振らず何も考えず。
右、左。右、左。
それでも時たま、あの霧に包まれるのも悪くないと考える。
一人きりの暗闇に、耐えきれなくなる。
この道を延々と進んだところで、何になろうか。
僕が自らの罪を悔い改めたところであの子が救われる訳でもないのに。
馬鹿々々しい。
頭を振る。また歩み出す。
右、左。右、左。
何故かそれだけで身体は前に進む。
確かに刻まれる皺。
それは宇宙に続く道。
未来を告げる、砂の声。
右、左。右、


お題『終わりなき旅』

5/30/2024, 7:19:54 AM

ごめんなさいごめんなさい
私みたいなのが生きててごめんなさい
死ぬ勇気もなくてごめんなさい
優しくしてくれるのにごめんなさい
生きててごめんなさい
ごめんなさい
すぐ謝ってごめんなさい
責任逃れしようとしてごめんなさい
なんの取り柄もなくてごめんなさい
育ちが悪くてごめんなさい
教養のなさが滲み出ちゃってごめんなさい
不快にさせてごめんなさい
許されるために謝ってるわけじゃないんです
すみません
誰に許されれば安心できるのか分からないんです
もう言葉の意味も分かってないんです
喉の通りが一番良い言葉を使ってるだけです
ごめんなさい
心を込められなくてごめんなさい
きっと、明日も生きてごめんなさい
いつか死ねるように頑張ります
ごめんなさい
ごめんなさい
殺して


お題『ごめんね』

5/28/2024, 10:39:38 PM

あいつは、頭が良かった。小狡いとか、世渡りが上手いとかではなく、知識の分野でずば抜けて頭が良かった。
ただ、ちょっとズレてる所があって、誰かといるところを見たことはそんなに無かった。
でも俺にはあいつが誰より面白くて、最高の友達だったから、毎日話しかけに行っていた。
生真面目に見える癖に、考えてるのは俺と変わらない、時には俺より馬鹿なことも考えていた。あいつの武勇伝(?)に、こんなのがある。
「冬服の限界って、どこまでなんだろうな」
と呟いたのが全ての始まり。俺は特に気にせず流していたけど、案外あいつは本気だったようだ。次の日から、あいつは上着まで着こんで登校するようになった。
教師にも咎められていたのに、どこ吹く風で聞く様子もない。最初は俺も笑ってたけど、夏も真ん中になると呆れてきた。
見てるこっちも暑苦しいし、熱中症になるだろ。そう言ってもあいつは笑って、「でも、知りたいから」と言った。流石に開いた口が塞がらなかった。
そして数ヶ月、あいつはとうとうこの夏を冬服で乗り切った。あの根性には、俺も拍手喝采を贈るしかない。
そんなものすごい伝説を持つあいつが大好きだった。
テスト前に、ノートを貸してもらったことがある。そこには単語とメモくらいしか書かれてなくて、本当に『自分だけ分かる』って感じの。
借りる相手間違ったかもな〜なんて思いながらページをめくってると、丸いシミを見つけた。
そこだけ紙がよれよれしてたから、水でも零したのかと思ってた。
数日後、風呂場で何気なく思い出した時に気付いた。あれは汗だ。
考えてみればなんて事はない、そりゃあ夏だし汗もかく。何より、あいつは長袖で過ごしていたんだから。
そうかそうか、とうんうん頷いたら、何だか笑ってしまった。あんなに人間味のない奴も汗をかくってことが、何だかおかしかったんだ。
うん。ごめんな。嘘だ。
みんな嘘だ。
あいつと仲が良かったのも。冬服で過ごしてたのも。
俺な、あいつが好きだったんだよ。
でも、俺とあいつが仲良くなれるわけ無いんだよ。ちょっととズレてるところなんてない。見た目通りの真四角だった。
騙してごめんな。でも、ノート借りた時に、シミがあったのは、本当だよ。
嬉しかったんだよ。ごめんな。



お題『半袖』

5/27/2024, 10:39:03 PM

ここは天国です。
ここに娯楽はいっさいありません
幾星霜が経とうと、何も変化はありません
ここは静かで、話し声さえ静寂に溶けるよう
料理も出はしますが、満足できる量ではありません
お盆になれば、あなたは後悔するでしょう


ここは地獄です。
あなたが望むものは全て手に入ります
毎分毎秒生まれ変わるような、そんな気分になります
鳥の鳴き声はどこへ居ても聞こえます
食べ物も、夢中になってかぶりつくほどです
お盆になれば、あなたは笑みを浮かべるでしょう


「先生、これ天国と地獄が逆になってますよ。」
「ん?合ってるよ」
「え、でもホラ、」
そう言って問題の文に指を差す。
「ああ。これはね、天国に行けるような人は、どんな場所でも娯楽を見つけられる人だからだよ。飢餓も悩みも無くただ安らかな気分でいられる。そこが天国だ。
地獄では全ての物が手に入る。そして一瞬のうちに消えていく。何故ならその方が絶望が深いからだ。罪人に夢を見させて奪い取る。そこが地獄だ。」
「天国に行く程の善人は、己の死を悼む者を見て、死んだことを後悔するだろう。しかし、悪人の死を悼む者などいないのと同じ。地獄から出られて清々するのみだ」
「へえ…何だか、悪魔の契約みたいですね」
「実際に、見てみなければ分からないのさ」


お題『天国と地獄』

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