彼は駆けていた
とても美しかった
その姿は溶けた人々の心を固め、明日への勇気を授けた
彼は歌っていた
とても美しかった
その歌は耐える人々の耳を清め、綺麗な涙を流させた
彼は踊っていた
とても醜かった
その足の運びが不快であり、その口の上がり方が気分を害した
美しい歌とのアンバランスさが、より彼を不気味にさせた
ただそれだけで人々の期待は打ち砕かれ、彼を必要としなくなった
彼は踊り続けた
足の皮が擦り切れようと
唇を噛み締め痛みに耐えた
その行為は人々に滑稽に映った
彼は踊るのを辞めた
ついでに、生きることも放棄した
彼の骨は盗まれ、
ひとつの杖となった
その杖は、いつも揺れている
ゆらゆらと
全ての者を惹き付ける
ふらふらと
リズムを取って
まるで、
お題『踊るように』
時を告げるオウムが
東の空を舞っている
綺麗な円を描いて
力尽きることなく
西の下水の中の出来事
汚いねずみがたくさん
家族を引き連れ
どこかへ行った
片耳のないうさぎに
南を向けと囁いた
そちらには耳も無いのに
そちらには何も無いのに
北の国に住む老人は
ひと言も話さない
ちっとも動かない
老人を皮切りに
そして世界は静かになった
お題『時を告げる』
今日のぼくにも何かが足りてな気がする
まにち何か1つが欠けてるぼく
昨日は右手の小指、おととは味覚、その前は感情だったこともある
しんた的なものであればすぐに気付けるのだが、感覚的なものは中々気付きにく。
友人からは怪訝な顔をされたから、顔から何かが欠けてるのかと思ったが、それもな。
った、今日のぼくには何が足りなのだろう。
お題『不完全な僕』
海にいきたいですねえ
海に行って、人魚に足を攫われたいですねえ
あなたは波打ち際の砂の
あのずぞずぞした動きをなんだと思ってるのです
波のせいではないのです
あれは、人魚のしわざです
人魚は食べると長生きできます
無病息災と言われます
ですが人魚の世界では逆なのです
人間を食べると長生きできるのです
互いが互いを食おうとしているから
人魚はわれわれの前に姿を現さないのです
子分の波に足を掬わして
それからがぶりとやる気なのです
ではなぜ私は海に行くのでしょう
人魚に攫われるのに
食べられてしまうかもしれないのに
あの日あの時あの海中で
見たにじいろの人魚のうろこが
忘れられないとでも言うのでしょうか
さもありなん
誰にも分かりはしませんでしょうが
お題『海へ』
もしも空が飛べたら
鳥になれたら
あなたの魂が天国に昇るその前に
私が攫って行けるのに
その魂を誰にも渡さず
お腹にしまっておけるのに
私が産む卵は全部無精卵だけれど
あなたの魂と私の魂とが混じって
いつか出来損ないの子が生まれないかと願ってる
出来損ないの子を私は抱えて
あなたの姿を映して
その子が巣立つその時に
私はやっと死ねるのに
私に空が飛べたなら
鳥のように、あなたの魂と一緒に空へ上がれたら
お題『鳥のように』