「昔、貝の中から波の音が聞こえるって言うの、あったよね」
「あれは外からの音の中で、潮騒の音と同じような周波数以外が遮られちゃって聞こえなくなるだけなんだって」
「二人で海の音が聞こえる、って、言ってたのにね」
「ねえ、知ってる?貝殻以外にもあるんだよ、そういうの」
「霜ってね、虫の声がするの」
「何言ってるか分からない?ふふ、教えてあげる」
「霜がどうやって降りるか、知ってる?急激に冷やされた物体が、周りの水蒸気まで凍らせちゃって、物体の表面に付いちゃうの。」
「秋の終わりには、結構起こりやすいんだって。その時にね、虫の声も一緒に閉じ込めちゃうんだよ。すっごく綺麗でね、霜が溶けないように聴くのが大変なの」
「聴いたことない?だろうね。霜が溶けるのなんてすぐだもん、ほとんどの人が聴けないよ。」
「ねえ、今からさ、聴きに行こうよ」
「どう、聴こえた?…そっか」
「…あのね、虫の声って、告白なんだよ」
「秋に泣いてる虫のほとんどはね、冬になる前に死んじゃうの。だからその前にメスに求愛して、自分の子供を産んでもらおうとするんだよ」
「…君は、冬まで生きられないって分かったら、告白するのかな」
「私は、しないかも」
「一人で気持ちを抱えて生きるよ、ずっとね」
「何、その顔。想像と違った?馬鹿みたい」
「君ってさ、ずっとそんなんだよね。欲しい言葉を投げかけてもらえるって思ってる。初めて会った時からそうなの。自分がそうできるから、私もそうするべきだって思ってる。多分、無意識でしょ」
「何でそれが私を余計に苦しめてるって分かんないかな」
「君はいつも欲しい言葉をくれるね。でも、今度は間違えちゃったみたい」
「じゃあね、君は、元気でね」
お題『秋恋』
9/21/2024, 11:10:24 AM