ななせ

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あいつは、頭が良かった。小狡いとか、世渡りが上手いとかではなく、知識の分野でずば抜けて頭が良かった。
ただ、ちょっとズレてる所があって、誰かといるところを見たことはそんなに無かった。
でも俺にはあいつが誰より面白くて、最高の友達だったから、毎日話しかけに行っていた。
生真面目に見える癖に、考えてるのは俺と変わらない、時には俺より馬鹿なことも考えていた。あいつの武勇伝(?)に、こんなのがある。
「冬服の限界って、どこまでなんだろうな」
と呟いたのが全ての始まり。俺は特に気にせず流していたけど、案外あいつは本気だったようだ。次の日から、あいつは上着まで着こんで登校するようになった。
教師にも咎められていたのに、どこ吹く風で聞く様子もない。最初は俺も笑ってたけど、夏も真ん中になると呆れてきた。
見てるこっちも暑苦しいし、熱中症になるだろ。そう言ってもあいつは笑って、「でも、知りたいから」と言った。流石に開いた口が塞がらなかった。
そして数ヶ月、あいつはとうとうこの夏を冬服で乗り切った。あの根性には、俺も拍手喝采を贈るしかない。
そんなものすごい伝説を持つあいつが大好きだった。
テスト前に、ノートを貸してもらったことがある。そこには単語とメモくらいしか書かれてなくて、本当に『自分だけ分かる』って感じの。
借りる相手間違ったかもな〜なんて思いながらページをめくってると、丸いシミを見つけた。
そこだけ紙がよれよれしてたから、水でも零したのかと思ってた。
数日後、風呂場で何気なく思い出した時に気付いた。あれは汗だ。
考えてみればなんて事はない、そりゃあ夏だし汗もかく。何より、あいつは長袖で過ごしていたんだから。
そうかそうか、とうんうん頷いたら、何だか笑ってしまった。あんなに人間味のない奴も汗をかくってことが、何だかおかしかったんだ。
うん。ごめんな。嘘だ。
みんな嘘だ。
あいつと仲が良かったのも。冬服で過ごしてたのも。
俺な、あいつが好きだったんだよ。
でも、俺とあいつが仲良くなれるわけ無いんだよ。ちょっととズレてるところなんてない。見た目通りの真四角だった。
騙してごめんな。でも、ノート借りた時に、シミがあったのは、本当だよ。
嬉しかったんだよ。ごめんな。



お題『半袖』

5/28/2024, 10:39:38 PM