ぼくの大好きな、可愛いあの子。
お母さんのまねっこで、つばの広い帽子を被ってる。
白いワンピースを着て、あの子より大きいひまわりに守られて、ぼくを待っている。
ひまわりの中でかくれんぼしたり、水やりをして自分も水をかぶったり、ぼく達の夏の記憶は、大半がお互いで埋まっていた。
その日、ぼくは走っていた。おばあちゃんが倒れて、お母さんと病院へ一緒に行っていたからだ。
約束の時間はとっくに過ぎているのに、約束の場所へはまだまだ遠かった。あんまり暑いから、足を止めて水筒のお茶を飲んだ。体の上半分がいっきに冷えていく感覚が気持ち悪い。
呼吸を整えていると、モンシロチョウがぼくの目の前を横切った。
真っ白に黒いぶち模様がおもしろくって、何だかあの子に似てる気がして、手の中にそうっと入れる。
あの子にも見せてあげようと思って、さらに急いで走った。あの子を見付けてから、しまった、と思った。あの子は虫がきらいだったのだ。
このまま逃がしてしまおうかとも考えたけど、せっかく捕まえたのを今さらナシにするのは気が引ける。それに、今までの道のり、ずっと潰さぬように苦労して運んできたのだ。
モンシロチョウは可愛いし、ちょうなら綺麗だから大丈夫かもしれない。
気を取り直して、あの子に話しかけようとした。
でも、あの子はぼく以外の子と遊んでた。
茶色い髪の毛のその子は初めて見る子で、たぶんぼくと同じくらいの歳だ。
楽しそうに笑うあの子を見て、何だか嫌な気分になった。
あの子を幸せにできるのはぼくだけなのに。
お前なんかに、できっこないのに。
何で嬉しそうに笑うの。君はぼくのものなのに。ぼくだけの可愛い君なのに。その場所は、ぼくと君だけの秘密なのに。
そんなやつに。そんなやつに。
くしゃり、
と、てのひらの中で音がした。
お題『モンシロチョウ』
子供の頃は、一年がもっと長かった気がする。
僕のそんな呟きに、「相対性理論だよ」なんて返すようになった君がつまらない。前までは何でだろうと膝を交えて議論していたのに。
人は少しずつ変わっていくものだし、僕だって変化しているけれど、やっぱり寂しい。
君から見れば、僕も昔の僕とは違っているのだろうか。
爪や髪が伸びるのも変化だけど、それは切りそろえてしまえば元通りになる。考え方はどうしても、前と同じにはならない。
変化を喜べないのは子供だから、とか、何も変化がないのは生物として退化だ、とか。
自分が塗り替えられていく感覚を喜べだなんて、無茶振りだ。
一年前の僕と今の僕と比べて、何か変わっていないか探してしまう。そうして、前の僕の未熟さに気付いて頭を抱える。
無駄なことだ。嫌な気分になるのなら尚更、やめておけばいい。
けれど、どんどん短くなる一年を、自分の変化に気付く為と銘打って振り返らなければ、忘れてしまいそうなのだ。
薄れる記憶を呼び起こして、変化に気付かなければ、また自分が変わっていく気がする。今この瞬間にも、手指の先からじわじわと変わっている錯覚に陥る。
生まれた頃とは細胞も感受性も、何もかもが違うのなら、それは果たして自分と言えるのだろうか?
哲学的な分野になると専門外だ。もう、やめにしよう。
お題『一年後』
私は惚れっぽい方だ。
クラスでかっこいいと言われている子はそれだけで気になるし、プールの監視員のお兄さんにも一目惚れしてしまうくらい。
でも、それが恋かと聞かれると首を傾げる。
付き合えるなら付き合いたいが、どうしても、というわけではない。それに、その人が誰かを好きという噂を聞けば諦める。
その感情はお菓子みたいに目移りするもので、数ヶ月すると別の人を好きになっているのだ。
相手を見初めて、体を貫くような衝撃を、未だ受けたことがない。
相手のことを考えて頭を悩ませる夜を経験したことがない。
思わず吐いてしまうような胸を掻き毟るほどの愛を感じたことがない。
何だか辛そうだなんて楽観的に考えている。
あれは恋の一つ前、どちらかと言うときっと憧れに近いものだと思う。そうすると、私は初恋すらまだと言うことになる。
このままだと、恋をしないで死ぬ可能性も出てきた。
人は恋のみによって生きるわけでも無いが、どうせなら体験してみたい。こういう話を書く時、リアリティも出るだろうし。
どこかに邪悪なくらいの重い愛の持ち主はいないだろうか。私と対局にある存在だ、きっと面白い文が書ける気がする。
お題『初恋の日』
明日世界が終わるなら。
何だか、あのゲームを思い出して笑ってしまった。
でも、きっと何も出来ないんだろうと思う。
絶対に成し遂げたいこともないし、最後もこうやってスマホを見ながら終わるんだろう
どうせ死ぬのに変わりはないし、死ぬための準備もしなくて良くなったし、むしろ感謝するかもしれない。
でも、嫌いなあいつと一緒に死ぬのは何だか嫌だから、少し前に死んでしまおうか。
どうせみんな死ぬのだからと、犯罪も横行するのかもな。警察はそれを止めるだろうか。被害者も、それを止めるだろうか。
どうせ、みんな死んでしまうのに
その日は誰か、働くだろうか
給料も払われないだろうけど、誰も困らない
だって明日にはいないから。
バスも電車も遊園地のアトラクションも
何も動かないのだとしたら、何をして過ごすのだろうか。
車で海へ行く?
最後まで働く人もいるだろうし、そこで何か買って食べるのも良い。
そもそも、世界が終わるなんてどんな状況だろう。
日本という国が終わる、ならまだ考えようもあるが、世界が終わるとなるとちょっと考えようがない
粉々に砕けてしまうのか
ばっかり二つに割れるのか
隕石やら何やらがぶつかってしまうのか
そんなの、中々に貴重な経験になる
太古の人間には考えもつかなかった…ああ、ノストラダムスの予言で身構えていた人もいるかもしれない
そうなると、ノストラダムスは世界滅亡を少し早く言ってしまっただけになるのか
たった一言だけで、こんなにも書いてしまう
私はもしかすると、世界が滅亡するのを待ち望んでいるようだ。
お題『明日世界が終わるなら』
愛は何より綺麗な物で、恋はキラキラしている物。
とにかく、僕のイメージはそんなものだった。今までの彼女だって、話しているだけで心が暖かくなったし、泣いていたら大慌てで慰めた。家族に向けるのとは少し違うけど、やっぱり綺麗なものだった。
君と出逢って初めて、執着に似た愛を感じた。腸がぐつぐつ煮える音を聞いた。
何で僕以外を見て笑ってるんだ
どうして僕は貶されても彼から目が離せないんだろう
その癖、君は僕を見ると嬉しそうに笑うんだ
僕を詰っている時の顔が一番輝いていることに気付いているんだろうか
僕の方が背も高くて力も強いのに、
押さえ付けられたらひとたまりもないのに、
何で彼はこうも高慢そうに振る舞えるんだろう?
そこまで考えてハッとする。
駄目だ、こんな事を考えてはいけない
これが愛と言うつもりはないけれど
それなら一体、
愛じゃないなら何なのだろう
愛は古くなると執着になると言う。
こんな感情、手遅れになる前に捨てておけば良かった。
君に言ったら、「出来ない癖に」と笑われた。
本当に何でもお見通しだ
しかもそれさえ嫌では無いと思っている
ああ本当に、君と出逢ったそのせいで!
お題『君と出逢って』