ぼくの大好きな、可愛いあの子。
お母さんのまねっこで、つばの広い帽子を被ってる。
白いワンピースを着て、あの子より大きいひまわりに守られて、ぼくを待っている。
ひまわりの中でかくれんぼしたり、水やりをして自分も水をかぶったり、ぼく達の夏の記憶は、大半がお互いで埋まっていた。
その日、ぼくは走っていた。おばあちゃんが倒れて、お母さんと病院へ一緒に行っていたからだ。
約束の時間はとっくに過ぎているのに、約束の場所へはまだまだ遠かった。あんまり暑いから、足を止めて水筒のお茶を飲んだ。体の上半分がいっきに冷えていく感覚が気持ち悪い。
呼吸を整えていると、モンシロチョウがぼくの目の前を横切った。
真っ白に黒いぶち模様がおもしろくって、何だかあの子に似てる気がして、手の中にそうっと入れる。
あの子にも見せてあげようと思って、さらに急いで走った。あの子を見付けてから、しまった、と思った。あの子は虫がきらいだったのだ。
このまま逃がしてしまおうかとも考えたけど、せっかく捕まえたのを今さらナシにするのは気が引ける。それに、今までの道のり、ずっと潰さぬように苦労して運んできたのだ。
モンシロチョウは可愛いし、ちょうなら綺麗だから大丈夫かもしれない。
気を取り直して、あの子に話しかけようとした。
でも、あの子はぼく以外の子と遊んでた。
茶色い髪の毛のその子は初めて見る子で、たぶんぼくと同じくらいの歳だ。
楽しそうに笑うあの子を見て、何だか嫌な気分になった。
あの子を幸せにできるのはぼくだけなのに。
お前なんかに、できっこないのに。
何で嬉しそうに笑うの。君はぼくのものなのに。ぼくだけの可愛い君なのに。その場所は、ぼくと君だけの秘密なのに。
そんなやつに。そんなやつに。
くしゃり、
と、てのひらの中で音がした。
お題『モンシロチョウ』
5/11/2024, 7:04:51 AM