あなた全然わたしのこと見ないわねわたしはこんなに見てるのにもしかしてわたしのことそんなに好きじゃなかったのねえ
あっ見たわよね今見たわよね
何だやっぱりあなたもわたしがいなくなって悲しかったんでしょ辛かったんでしょそうなんでしょうね?
でもあなたと関わりたくないのそうよ話したくもないの
あなたが謝ってきてもだめよ
だってあなたはだめなんだもの
ああもう上手く言えないわねこれだから嫌よこんなわたし
あなたがいなくたってわたし平気よほら見てこんなに友達もいるわあなたなんかいてもいなくってもおんなじなのよ分かったかしら
なになんなのなんであなた
いやよごめんなんて今更聞いたってどうにもならないのよわたし言ったわ
あなたなんか嫌いなのよこっち来ないでよ
あなたの一言一句に喜んで嘆いてわたしバカみたいじゃない
希望なんか持たせないでよ
やめて
謝らないで
ねえ
分かってるのよあなた悪いことなんかしてないのひとつも
いつものリセット癖よわたしの悪い癖よあなたいつも巻き込まれてるのもうわたしに愛想尽きたでしょ
やめて
なんであなたが謝るのよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
いやよ
もう、
好きなのよ
お題『バカみたい』
この白い部屋の中で、あなたとわたし、二人ぼっち。
きっかけは、分からない。気が付いたら、あなたがいて、わたしもここにいた。
あなたは喋らない、わたしが懸命に話しかけても。
最初は、あなたも話していたのに。もう、喋らない。
きっと、言葉が通じないの。
つまらない。
これじゃ、一人と同じ。
それでも、あなたは時々ぽつりと呟く。まるで、自分の声が枯れていないか確かめるように。
わたしには意味が分からないけれど、きっと、わたしに話しかけているんだと思う。
それが嬉しくって、わたし、何回もあなたに話しかけるの。
あなたは口を噤んでしまうけれど、わたし、諦めないわ。
いつか、あなたとお喋りできるようになるの。
ヤツは悪魔だ、魔女だ、鬼女だ。
俺がどんなにここから出せと叫んでも、首を傾げて微笑むばかり。
ヤツの甲高いのにずぶずぶした、沼のような声を聞くのはもう嫌だ。何を言っているのかも分からない、俺はヤツの家畜にでもなったのか。
この真っ白い狂気の部屋から逃れようと、ヤツがいる限りはそれも出来ないだろう。
ヤツはあの濁った目で俺が逃げ出さないか見張っているんだ、そうに違いない!
初めはここからの脱出を試みもしたが、数週間でそれは無駄な足掻きだと理解した。
その間、ヤツは俺の行動を見て嘲笑っていたのだ。
ああ、故郷に帰りたい。
頭がおかしくなりそうだ。
ズボンのポケットの中から、シワだらけの写真を取り出す。妻はまだ生きているだろうか。
写真の中にいるのは、俺と妻の二人ぼっち。俺にも妻にも家族はいない。
俺は、妻の顔をそっと撫ぜると、ここから出ることを決意した。
お題『二人ぼっち』
カナが死んだ。
私はその報せを聞いた時、体がずぶずぶと溶けていく気がした。
カナは私の親友だ。幼なじみで、幼稚園の頃からずっと一緒だった。
気の弱いカナは、優しさゆえに損をする事が多かった。そんな時、助けるのは決まって私の役割だった。カナはいつもおどおどしていて、面倒に思う事もあったけど、私達は親友だった。唯一無二の存在だった。
そのカナが。
半身を失うような気持ち、という表現があるけれど、まさにその通りだった。私達は家族よりも仲が良くて、二人で一人だったのだ。
黒い額縁の中のカナは、左目が少し歪んだ不格好な笑みを浮かべていた。
カナ。
カナ。
慈愛に満ち溢れた笑顔。
重たい一重瞼。
常に一歩引いていて、自分よりも他人を優先するところ。
好きな人ができても、私を一番でいさせてくれたこと。
助ける、なんて言っておいて、本当は、私の方が依存していたのも知っている。
カナがいないと生きていけないのは、私。
その日は中々寝付けなかったけど、目を閉じたらいつの間にか眠っていた。
夢の中に、カナが出てきた。
カナは生きていた時と同じ姿で、まるで学校帰りにわたしに会ったような気軽さで話しかけて来た。
夢から醒めるのも、嫌ではなかった。カナは、夢から醒める時いつも「またね」と返すからだ。
「またね」という言葉が、まだカナに会える事を示しているように感じた。カナがまだ私の中に居ることを伝えた。
その日、私はいつものように眠りについた。カナは少し浮かない顔をしていて、心配になったけれど、話しているうちにいつもの調子に戻ったようだった。
空が白んでくる頃、カナが気が付いたように言った。
「あ、もうすぐ朝だ。もうこれで終わり。じゃあね」
「え」
カナが「じゃあね」と言った。もうこれで終わりだと。もう、もう会えない?
嘘だ。だって今までずっと一緒だったじゃない。一緒にいる時間が前より減っただけじゃない。これからだってそうなんでしょ?居なくなるなんて嘘なんでしょ?
顔に出ていたのか、カナは申し訳なさそうに目を伏せた。
ああ、本当なのか。
じゃあさ、夢から醒める前に、一言だけ言わせてよ。
「カナ、今までありがとう」
その言葉を聞いたカナは、桜貝のような髪留めを一つ残して消えてしまった。
お題『夢から醒める前に』
整えられていない黒髪に、少しがに股気味の短い脚、お世辞にも高いとは言えない背丈。
私は、あの人を見た時に初めて、心臓の拍動する音を聞きました。
ふつふつと沸く血液が体内に流れて、身体中が熱くなったのを覚えています。
あの人は普通の人でした。目を引くような容姿をしていた訳ではありませんでしたし、一般的に見ると少し選り好みされる方でした。ああ、けれど、やはり顔は整っていたようにも思えます。少なくとも、悪く言われる貌では無かったと思います。
あの人は詩人でした。
綺麗な詩人でした。
綺麗な世界を書いているのでは無いのに、全ての詩が耳に美しく聞こえました。
あの人の声が耳に入る度に、私はこの人に尽くそうと思いました。他人の私が尽くそうと思っても、何もできはしませんけれど。
恋では無いのです。
恋のようなものではありません。
それは、キリスト教徒が神に拝謁するようなものなのです。自分が根本から作り変えられていくような、不思議な感覚がしました。
けれど、嫌悪感はしませんでした。今までの人生全てを失っても、この人に捧げられるのならば良いと本気で考えていました。
私はあの人を崇拝しています。あの人は神なのです。
あなたが分かってくれなくとも構いません。あの人の神聖さは、私だけが知っていれば良い。いえ、そうでなくてはならないのです。
ああ、あなたは可哀想な人!
あの人の美しさも知らないまま、死んでゆく!
私はあなたよりも早く死ぬのです
こんなにも心臓が早鐘を打っているのだから、私は誰よりも早く死ぬのと決まっています
それでも私は良いのです。あの人のために死ぬのなら、死ぬ理由があの人であるのなら、私は何にも構わない!
お題『胸が高鳴る』
この世は不条理だらけだ。
と、端的に決め付けてしまえる程には生きていない私。
それどころか、そんな事を言える歳まで生きていられるのかも曖昧な私。
世界にはたくさんの子供がいて、優しい親に育てられる子も、親もおらず住む家もなく、自分の体が腐るのを待つ子も、親はいても殴られた挙句命を奪われる子もいる。
けれど、それは不条理ではないのだと思う。
そんな事を言うと、糾弾されそうな気もする。けれど、やはり不条理ではない。
不条理とは、無知に殺される事だ。
例えば、恵まれている私達が、恵まれない人に何を言おうと、それは偽善であり、その人達に取って何の得にもならないのだ。
あなたは、辛くとも懸命に生きているのに「可哀想だ」なんて言われたらどう思う?
自分の人生の一欠片も知らない相手が、自分を憐憫の目で見つめてくるのを見てどう思う?
その時のあなたにとって、きっと相手は、理解のできない化け物だ。
何も知らない善人面した者の慰めなんて、その人の人生を馬鹿にしているのと同じだ。
そう考えるのは、私がひねくれているからだろうか。
お題『不条理』