ななせ

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整えられていない黒髪に、少しがに股気味の短い脚、お世辞にも高いとは言えない背丈。
私は、あの人を見た時に初めて、心臓の拍動する音を聞きました。
ふつふつと沸く血液が体内に流れて、身体中が熱くなったのを覚えています。
あの人は普通の人でした。目を引くような容姿をしていた訳ではありませんでしたし、一般的に見ると少し選り好みされる方でした。ああ、けれど、やはり顔は整っていたようにも思えます。少なくとも、悪く言われる貌では無かったと思います。
あの人は詩人でした。
綺麗な詩人でした。
綺麗な世界を書いているのでは無いのに、全ての詩が耳に美しく聞こえました。
あの人の声が耳に入る度に、私はこの人に尽くそうと思いました。他人の私が尽くそうと思っても、何もできはしませんけれど。
恋では無いのです。
恋のようなものではありません。
それは、キリスト教徒が神に拝謁するようなものなのです。自分が根本から作り変えられていくような、不思議な感覚がしました。
けれど、嫌悪感はしませんでした。今までの人生全てを失っても、この人に捧げられるのならば良いと本気で考えていました。
私はあの人を崇拝しています。あの人は神なのです。
あなたが分かってくれなくとも構いません。あの人の神聖さは、私だけが知っていれば良い。いえ、そうでなくてはならないのです。
ああ、あなたは可哀想な人!
あの人の美しさも知らないまま、死んでゆく!
私はあなたよりも早く死ぬのです
こんなにも心臓が早鐘を打っているのだから、私は誰よりも早く死ぬのと決まっています
それでも私は良いのです。あの人のために死ぬのなら、死ぬ理由があの人であるのなら、私は何にも構わない!


お題『胸が高鳴る』

3/19/2024, 12:23:35 PM