ななせ

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カナが死んだ。
私はその報せを聞いた時、体がずぶずぶと溶けていく気がした。
カナは私の親友だ。幼なじみで、幼稚園の頃からずっと一緒だった。
気の弱いカナは、優しさゆえに損をする事が多かった。そんな時、助けるのは決まって私の役割だった。カナはいつもおどおどしていて、面倒に思う事もあったけど、私達は親友だった。唯一無二の存在だった。
そのカナが。

半身を失うような気持ち、という表現があるけれど、まさにその通りだった。私達は家族よりも仲が良くて、二人で一人だったのだ。
黒い額縁の中のカナは、左目が少し歪んだ不格好な笑みを浮かべていた。
カナ。
カナ。
慈愛に満ち溢れた笑顔。
重たい一重瞼。
常に一歩引いていて、自分よりも他人を優先するところ。
好きな人ができても、私を一番でいさせてくれたこと。
助ける、なんて言っておいて、本当は、私の方が依存していたのも知っている。
カナがいないと生きていけないのは、私。
その日は中々寝付けなかったけど、目を閉じたらいつの間にか眠っていた。

夢の中に、カナが出てきた。
カナは生きていた時と同じ姿で、まるで学校帰りにわたしに会ったような気軽さで話しかけて来た。
夢から醒めるのも、嫌ではなかった。カナは、夢から醒める時いつも「またね」と返すからだ。
「またね」という言葉が、まだカナに会える事を示しているように感じた。カナがまだ私の中に居ることを伝えた。
その日、私はいつものように眠りについた。カナは少し浮かない顔をしていて、心配になったけれど、話しているうちにいつもの調子に戻ったようだった。
空が白んでくる頃、カナが気が付いたように言った。

「あ、もうすぐ朝だ。もうこれで終わり。じゃあね」
「え」

カナが「じゃあね」と言った。もうこれで終わりだと。もう、もう会えない?
嘘だ。だって今までずっと一緒だったじゃない。一緒にいる時間が前より減っただけじゃない。これからだってそうなんでしょ?居なくなるなんて嘘なんでしょ?
顔に出ていたのか、カナは申し訳なさそうに目を伏せた。
ああ、本当なのか。
じゃあさ、夢から醒める前に、一言だけ言わせてよ。

「カナ、今までありがとう」

その言葉を聞いたカナは、桜貝のような髪留めを一つ残して消えてしまった。


お題『夢から醒める前に』

3/20/2024, 12:22:22 PM