この白い部屋の中で、あなたとわたし、二人ぼっち。
きっかけは、分からない。気が付いたら、あなたがいて、わたしもここにいた。
あなたは喋らない、わたしが懸命に話しかけても。
最初は、あなたも話していたのに。もう、喋らない。
きっと、言葉が通じないの。
つまらない。
これじゃ、一人と同じ。
それでも、あなたは時々ぽつりと呟く。まるで、自分の声が枯れていないか確かめるように。
わたしには意味が分からないけれど、きっと、わたしに話しかけているんだと思う。
それが嬉しくって、わたし、何回もあなたに話しかけるの。
あなたは口を噤んでしまうけれど、わたし、諦めないわ。
いつか、あなたとお喋りできるようになるの。
ヤツは悪魔だ、魔女だ、鬼女だ。
俺がどんなにここから出せと叫んでも、首を傾げて微笑むばかり。
ヤツの甲高いのにずぶずぶした、沼のような声を聞くのはもう嫌だ。何を言っているのかも分からない、俺はヤツの家畜にでもなったのか。
この真っ白い狂気の部屋から逃れようと、ヤツがいる限りはそれも出来ないだろう。
ヤツはあの濁った目で俺が逃げ出さないか見張っているんだ、そうに違いない!
初めはここからの脱出を試みもしたが、数週間でそれは無駄な足掻きだと理解した。
その間、ヤツは俺の行動を見て嘲笑っていたのだ。
ああ、故郷に帰りたい。
頭がおかしくなりそうだ。
ズボンのポケットの中から、シワだらけの写真を取り出す。妻はまだ生きているだろうか。
写真の中にいるのは、俺と妻の二人ぼっち。俺にも妻にも家族はいない。
俺は、妻の顔をそっと撫ぜると、ここから出ることを決意した。
お題『二人ぼっち』
3/21/2024, 12:12:54 PM