踊り場

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10/11/2025, 3:08:05 PM

『未知の交差点』

…ここはどこだろう。
あたりは霧で覆われていて何も見えない。
どうやら僕は、死んでしまったらしい。
ここは俗に言う「あの世」のようだ。
なぜ死んで、どんな姿で生きていたのか全く思い出せない。
上に大きな看板があるのに気付いた。
…ん?『未知の交差点 来世に続く道』?
前後左右に道が分かれている。
それぞれの方向に、何やら説明書きがされてある。
その道の良い点(⚪︎)と悪い点(⚫︎)について書いてくれているらしい。

東:虫
⚪︎空を飛べる。鳴き声や羽音に個性がある。
⚫︎大きめだと人間に怖がられる可能性が高い。

西:動物
⚪︎人間に可愛がられ、飼ってもらえることもある。
⚫︎野生だと自力で生きていく必要がある。

南:植物
⚪︎綺麗な色の花や葉を持ち、見栄えが良い。
⚫︎毒や花粉を持つ植物は、動物や人間から敵対視される。

北:人間
⚪︎夢や目標を持つことができる。感情表現ができる。
⚫︎生きるのが辛くなるときがある。傷つけ、傷つけられる。

…どの説明もポイントを押さえていない気がする。
そしてどれも抽象的で判断し難い。
でも、人間の『夢』『目標』ってなんだろう。
なんだかとても素敵なもののように感じる。
生きるのが辛くなるのは嫌だけど、それも人間の醍醐味なのかな。楽しいこともたくさんあるのかな。
…なんか、おもしろそう。
気付けば僕は北に向かって進んでいた。
この景色、前にも見たような気がする。
しばらく歩いて行くと、あたりは真っ白な光に包まれた。

気が付いたときには、僕は病室で力いっぱい泣き叫んでいた。
こうして、僕の新たな人生が幕を開けた。

10/11/2025, 9:27:55 AM

『一輪のコスモス』

おばちゃん家の庭には、いつも四季折々の花が植えられていた。
まだ幼かった私に、おばちゃんは庭の花を眺めながら言った。
「お花ってね、とても繊細な生き物だから、大事に育ててあげないとすぐに枯れてしまうの。私たちもお花と同じ。だから、周りの人や自分のことを大事にしてあげてね」
そして庭に行き、たくさんある花の中から一つ選び、ハサミで切り取った。
「大事にしてあげてね」
と、一輪、花をくれた。

今日は、おばちゃんの命日。
お墓参りに向かう途中に花屋に寄り、あのときくれた花と同じ花を選んだ。
線香をあげ、お花をお供えし、手を合わせる。

おばあちゃん。毎日いろんなことがあるけど、元気に頑張っています。周りの人も自分のことも、大事にできています。私が笑っていられるように、元気に咲いていられるように、明るい陽の光で照らしていてね。いつもありがとう。

また来ます、と約束をし、私はその場を去った。
お墓の前には、色とりどりのコスモスが、気持ちよさそうに風に揺られていた。

10/9/2025, 1:39:30 PM

『秋恋』

秋がきた。
私とあなたは結ばれた。
これからどんなに素敵な未来が
私たちを待っているだろう。

飽きがきた。
いろんなことがマンネリ化。
一緒にいるのが苦しくて
2人の気持ちはすれ違う。

空きがきた。
私の隣は誰もいない。
失ってから初めて気付く。
あなたの偉大さ、優しさに。

早く秋来い。私のもとへ。
あの秋恋を、もう一度。

10/8/2025, 2:12:16 PM

『愛する、それ故に』

生まれて初めて、恋をした。
Tくん。私のクラスメイト。
初めて話したときからTくんの魅力に心を掴まれ、Tくんのことをもっと知りたいと思うようになっていた。
声も、仕草も、匂いも、何気ない表情も、全てが愛おしく、どうにかなってしまいそうなほど大好きだった。
いつかこの想いを伝えよう、そう思った矢先の出来事だった。

Tくんには彼女がいた。

夢であってほしかった。
嘘って言ってほしかった。
私の中にある何かが、一瞬にして崩れ落ちた。
こんなにも残酷な結末、誰が望んだだろう。
Tくんを見る度に痛む胸。
愛してしまったが故に味わう苦しみは、想像を絶するものだった。
人を好きになるって、こんなに辛いんだ。

10/7/2025, 3:28:18 PM

静寂の中心で

明るい夜の街。
飲み屋はいつもに増して賑わっている。
そうか、今日は金曜日。
最近仕事が忙しいので、1週間が早く感じる。
今日も残業で、気がつけばもう22時を回っていた。
店の灯りたちを横目に、家路を急ぐ。
この飲み屋街を抜けた先にある橋の向こうは、閑静な住宅街へと続いている。
夜も遅いため、辺りはしんと静まり返っている。
まるで別世界に来たかのような感覚に襲われる。
外からのノイズがなくなると、たちまち私の思考が働き始める。

この休日は何をして過ごそう。久々に家族で遠出でもするか。行き先はどこがいいかな。いや、家でゆっくりするのもありだな。本を読むのもいい。いっそのことずっと寝ているのも大いにありだ。でもそれだと妻は怒るだろうな…。

自分の顔がにんまりしていることに気づき、慌てて表情を戻す。
静寂は、心の声だ。
今日も私の脳内は、飲み屋に劣らぬほど喧しい。

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