れもんしゅがー

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5/9/2026, 1:27:07 PM

忘れられない。いつまでも

私は子供の頃食べたパンの味が忘れられない。
まあるいパン。
茶色い焦げ目がついていた。
綿みたいにふわふわだった。
半分に割るといちごジャムが顔をのぞかせる。
そのいちごジャムの甘い匂いと、焼きたての匂いがたまらなく好きだった。
特別なパンではない。
ごく普通のジャムパンだ。
おばあさんとおじいさんが2人で経営している店の。
しわしわの手がパンを上手にこねるのは見ていて夢中になった。
「また来てねぇ」と、
2人のくしゃくしゃの笑顔は誰だってまた行きたくなるだろう。

大人になった今、ふとそのことを思い出した。
そのパンが食べたい。
いや、またあの頃の温かさに触れたい。
猛烈にそう思った。
ふらふらと街を歩けば子供の頃を思い出して足が勝手に進む。
あの時の焼きたての匂い。
ふわっと香るパンの匂い。
パンをこねるしわしわの手。
忘れられない。いつまでも

5/9/2026, 4:52:10 AM

一年前

一年前の春、私は目の前で電車を見た。
色あせた赤色の車体と鈍く動く車輪
踏切が赤色を点滅させて降りてくる。
桜の花びらが音と共に危険を知らせる。
踏切を越えた先には私が想っている人がいる。

―けれど私は迷いなく―


私は今、
想っている人を一番近くで見ている。
隣に歩くのは私じゃない。
けれど私は隣を歩いている。
繋いだ手は気づかれることはないけれど。

5/5/2026, 12:08:26 AM

耳を澄ますと

耳を澄ますと、いろいろな音が聞こえてくる。
教室で僕はずっと耳を澄ましている。
楽しそうに笑う声
嬉しそうに話す声
今日の夕飯がどうとか、
お母さんのお弁当がどうとか、
ゲームとか推しの話。
もちろん悪い話も聞こえてくる。
あの子がうざい、あの子が嫌い。
噂話だって毎日だ。
けれども僕はずっと耳を澄ましている。
誰にも気づかれずみんなの話を聞くのが好きだ。
誰にも気づかれず。
教室の端で、みんなを眺めている。

5/3/2026, 5:10:16 PM

「二人だけの秘密」

僕は1時間目の数学の授業を初めてサボった。
きっかけは隣の席の少女だった。
黒くて綺麗な髪をまっすぐに下ろして、
白くて雪みたいな肌の少女だ。
今は8月。僕と少女の席はエアコンが当たらない席だから、暑くて暑くて仕方がなかった。
僕は頬に次々と落ちてくる汗を手で拭っていた。
少女も額の汗をハンカチで拭っていた。
するとふと少女が言った。
「授業を抜け出してアイスでも食べない?」
僕は授業を抜け出すことに抵抗があったが、この暑い中ではアイスという言葉がとても魅力的だった。
先生にはバレないようにするから。と少女は笑って、迷っていた僕の手を引いて屋上へ向かった。
先生や周りの生徒にはバレなかった。
今思い返せばなぜだかわからないが、
その時の僕はそんなの気にしていなかった。
屋上に着くと青い空に入道雲。絵に描いたような景色だった。
少女と僕は屋上の冷たい床に座り込んだ。
少女はどこから持ってきたのかわからないソーダ味の棒アイスを2つ出した。
「二人だけの秘密。」
そう笑った少女の顔は誰よりも美しかった。

5/2/2026, 1:55:35 PM

「優しさだけで、きっと」

私の夢は裁判官でした。
小さい頃にテレビドラマで見た裁判官はとても
かっこよかった。
悪い人から良い人を守る。
それが、小さい頃憧れるには充分な要素でした。
裁判官は皆、優しくて正義感があって、いつでも正しい。
そう、思っていました。
私は、気づけばもう32歳になっていました。
毎日なんの変哲もない日常、家、会社、社会。
子供はいません。妻もいません。家には私だけです。
毎日上司の顔色を伺っています。
毎日嫌々、印刷機の前に立っています。
社会の闇に触れ、ドロドロな人間関係、孤独、序列、差別、政治。
気づけば裁判官になるという立派な夢は、いつしか社会への希望とともに消えていました。
優しさだけで、きっと。
私はここしばらく、テレビなんて見ていません。

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