エリィ

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12/15/2024, 12:23:50 PM

お題 雪を待つ

物心ついた頃から、雪はまるで私に会いに来てくれたのだと嬉しくて、いつも空に手を差し伸べて迎えていました。
2月のある日にはいつもよりもたくさん降って、私の足もとに積もったことが嬉しくて、よく遊んだことを思い出します。
そんな日は、雪だるまを作ったり、雪うさぎなどを作ったりしました。
懐かしいですね。
それから私は冬になると、雪が降るのはいつかと待ちこがれるようになりました。

その後十年がたち、私は大人になりました。
大人になると、子供の時のように何も知らないままでは居られなくなり、寒い日の雪がつらいことも知りました。

さらに十年たちました。
この頃になると、一つ一つが大きくてふんわりと降ってくるぼたん雪は、いつの間に冬風に踊る粉雪に変わりました。

さらに時が過ぎ、私も年を取りました。
年々、体の衰えを感じるようになりました。
歳を重ねることで、見たくないものを見てきました。
雪が降ることによっていろいろと困ったことが起きることも知っています。

それでもなお、子供の頃のように無邪気に雪で遊ぶなどということができるかどうか。もう、心と体もついてこないのに。
それでも冬の時期になると、ついつい雪が降るのを待ってしまうのです。

ここ数年、粉雪が姿を見せることも少なくなりました。
雪そのものに会えることもあるかどうかさえ、わからなくなりました。

それでも待って、待って待ち続けて。
今年の冬も、つもらないのかもしれない。
それでも私は、この冬も待ち続けるのでしょう。

=====

私が住んでいるところはめったに雪がふりません。

12/13/2024, 12:52:35 PM

愛を注いで

窓の縁に置いてある、ずっと前に買ってきた小さな多肉植物の鉢。
ふと目をやると、ほんの少し葉っぱがしなびていた。

『今お水をあげるからね』

弱った小さな鉢に、たっぷりとあふれんばかりに水を注いだ。
少しやりすぎたかな?
鉢から水があふれている。
私はこれで元気になる、と満足していた。

数日後。
葉はぶよぶよになり、色が変わってしまった。

何がいけなかったのか?
どうして?
いくら考えてもわからなかった。

もっと元気になるように。
そう願って愛を込めて水を注いだのだけど。

私の愛は押し付けだったと知るのは後日のこと。

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多肉植物に水をあげすぎると根腐れすることを知らなかったとはいえ、枯らしてしまうと心苦しいのです。

12/8/2024, 6:33:25 AM

お題 部屋の片隅で

突然、昔購入したエッセイ上達法(武田輝著•監修:加藤康夫 敬称略)という本を読みたくなり、自宅のゴチャついた部屋をゴソゴソと探した。
部屋の片隅で埋もれているのかと思ったが、本棚の隅に追いやられているのを見つけるまでに約30分。

いい加減部屋の片付けをしなければと分かっているが、部屋が寒いから仕方がない。
誰にするわけでもない言い訳をしながら、モソモソとベッドに入って本を開く。

今までエッセイというものを書いたことはほとんどないため、非常に参考になる点が多い。
読み進めるうちに、著者の文体が非常に新鮮であり、引用されていた数々の例文から、多種多様な文体に触れる機会に開かれていった。9000作の添削をされていたという著者はあらゆる文体を駆使して、例文を作成されている。
ただ、著者のもとの文体が非常に固いため、読み始めたときは少々馴染むのに時間を要した。
なお、現在書いているこの文体は、この著者に半ば影響を受けているのではないかと推測している。
もしも興味のある方は図書館等で借りられると良いかもしれない。発行年が今から約20年前。かなり手に入りにくいと思われる。

内容がとても興味深かったため、思わず読みふけること一時間以上。
その間、当然のことながら部屋が片付くことはなく、本棚をひっくり返したことにより、本を探す前よりも状況は悪化している。
また本を並べ替えてもとの場所にに戻すため、あたたかい布団の中から出ることを想像しただけで憂鬱になってしまう。

=====

こんなに硬い文章初めて書いたような気がします。

12/5/2024, 9:20:55 AM

私はいま、布団の上に横になっている。その周りには3人の息子と2人の娘が、私を取り囲んでいた。
もう顔を見ることができない。
いなくなったあとも、子供たちが心配で悲しくなる。たとえ立派な大人になっても、やはり子供は子供だ。
今後、どうして行くのかが心配でならない。
「私が亡くなっても、皆仲良くやっていって欲しい」
息子や娘から、すすり泣きの声がする。
「お父さん、そんな事言わないで」
「お願いだから−−−」

息子や娘の声がだんだん遠くなっていく。

ありがとう。
今までの人生に悔いはない。妻に恵まれ、こんなに親孝行な子供たちに恵まれ、孫の顔もひ孫の顔を見ることが出来た。
周りに集まってくれている子供たちの顔を見渡してから、
「少し疲れたな、もう寝るよ」
俺はそっと目を閉じた。

−−−−−

しつこいアラームの音で、俺はがばりと身を起こした。
時計を見ると朝の6時。
寝たのは確か、夜更かしして2時回ってたはず。だからたったの4時間しか寝ていない。
それなのに、なんだかやたら長い時間が過ぎたように思えた。俺が大学を卒業して、起業して、大金持ちになって、子供たちに恵まれて、天寿を全うする、一つの人生を歩んだような気がしたのだが。
たったの4時間だったのか。などと考え事をしていたら、またアラームが鳴った。
6時半だ。

今朝は俺が食事担当なので明らかに遅刻である。
慌てて着替え、ダイニングに向かう。
そこではすでに起床した兄が、自分の朝ごはんを食べていた。ちなみに朝食は焼鮭に味噌汁と白米、漬物と定番である。我が家は和食派なのだ。

朝食の席で、さっそく夢の話をした。
「なんか俺の半生の夢を見たんだよ。はぁ。現実でも金持ちだったらよかったのにな〜」
現実の俺はバイトをしているのに金が無い。自分でも何に使っているか分からない。

そうか。
兄はもぐもぐと口を動かしながら頷いたあと、いったん箸を置いてお茶を飲む。

「こうして俺と会話していることのほうが、実は夢だったりしてな」
兄は焼き鮭をきれいにくずしながら口に入れる。

「そんな事ないだろ〜だってこんなに味噌汁アツアツだし。さっきの話なんてもうぼんやりしてる」
味噌汁に手を付けながら、俺は何だか不穏な兄の言葉を打ち消すように思わずそう言っていた。

「そうだな」
兄は時計をちらりと見て、食器を片付けるために席を立った。
「今日は会議に遅れそうだ。今朝当番遅刻したから今晩の夕食こそは頼むぞ」
そう言い残して兄は自室に向かった。今日はリモート会議らしい。

俺は食器を片付けると、講義まで時間があるからとゆっくりした。
そして、また夢を見るのだった。

−−−−

夢と現実といえば、
胡蝶の夢という発想しか浮かばかったのです。

10/16/2024, 3:04:34 PM

やわらかな光


黒の中に浮かぶ
ほのかに光る衣のすそからは
ほそくしろい足がのぞき

足首には金の輪が幾重にも巻かれ
ひとつひとつの輪につらなる

鈴の音とともにそっと
地にかがむ

この深い闇の床を
しろく華奢な手のひらがすくうと
手の上でやわらかな光をまとう
しろがねの粒となり

それは
天を貫く塔の真上から
さらさら
さらさらと
星の海へ注ぎだされました

それは
またたく流れ星となり
わたしたちの祈りを受け止めるのです

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