エリィ

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私はいま、布団の上に横になっている。その周りには3人の息子と2人の娘が、私を取り囲んでいた。
もう顔を見ることができない。
いなくなったあとも、子供たちが心配で悲しくなる。たとえ立派な大人になっても、やはり子供は子供だ。
今後、どうして行くのかが心配でならない。
「私が亡くなっても、皆仲良くやっていって欲しい」
息子や娘から、すすり泣きの声がする。
「お父さん、そんな事言わないで」
「お願いだから−−−」

息子や娘の声がだんだん遠くなっていく。

ありがとう。
今までの人生に悔いはない。妻に恵まれ、こんなに親孝行な子供たちに恵まれ、孫の顔もひ孫の顔を見ることが出来た。
周りに集まってくれている子供たちの顔を見渡してから、
「少し疲れたな、もう寝るよ」
俺はそっと目を閉じた。

−−−−−

しつこいアラームの音で、俺はがばりと身を起こした。
時計を見ると朝の6時。
寝たのは確か、夜更かしして2時回ってたはず。だからたったの4時間しか寝ていない。
それなのに、なんだかやたら長い時間が過ぎたように思えた。俺が大学を卒業して、起業して、大金持ちになって、子供たちに恵まれて、天寿を全うする、一つの人生を歩んだような気がしたのだが。
たったの4時間だったのか。などと考え事をしていたら、またアラームが鳴った。
6時半だ。

今朝は俺が食事担当なので明らかに遅刻である。
慌てて着替え、ダイニングに向かう。
そこではすでに起床した兄が、自分の朝ごはんを食べていた。ちなみに朝食は焼鮭に味噌汁と白米、漬物と定番である。我が家は和食派なのだ。

朝食の席で、さっそく夢の話をした。
「なんか俺の半生の夢を見たんだよ。はぁ。現実でも金持ちだったらよかったのにな〜」
現実の俺はバイトをしているのに金が無い。自分でも何に使っているか分からない。

そうか。
兄はもぐもぐと口を動かしながら頷いたあと、いったん箸を置いてお茶を飲む。

「こうして俺と会話していることのほうが、実は夢だったりしてな」
兄は焼き鮭をきれいにくずしながら口に入れる。

「そんな事ないだろ〜だってこんなに味噌汁アツアツだし。さっきの話なんてもうぼんやりしてる」
味噌汁に手を付けながら、俺は何だか不穏な兄の言葉を打ち消すように思わずそう言っていた。

「そうだな」
兄は時計をちらりと見て、食器を片付けるために席を立った。
「今日は会議に遅れそうだ。今朝当番遅刻したから今晩の夕食こそは頼むぞ」
そう言い残して兄は自室に向かった。今日はリモート会議らしい。

俺は食器を片付けると、講義まで時間があるからとゆっくりした。
そして、また夢を見るのだった。

−−−−

夢と現実といえば、
胡蝶の夢という発想しか浮かばかったのです。

12/5/2024, 9:20:55 AM