しぎい

Open App
11/19/2024, 12:53:53 AM

たくさんの想いで

脳のゴミ

11/17/2024, 1:17:33 PM

家族が一人でも長期入院していると、心がけていても自然と食生活は自堕落な方に向かっていくものだ。
冬になると必ず身体を崩して入院する子供のためにも、ここで自分も倒れるわけにはいかない。身体が資本というのも身にしみてはいるが、いつもお見舞いの帰りに寄るスーパーで売られている弁当や惣菜に手が伸びる。期限切れ間近で安売りされる弁当と同じように、自分も命を易く削る。
たまには気分を変えて手を加えようとしたこともある。だがどんなに飾りつけても、結局は出来合いの弁当にインスタントの味噌汁が一品加わるだけだ。沸かした湯を注ぎいれるだけである。
真冬は日が暮れるのが早い。この慣れた病院からの帰り道も、だんだん闇に染まる時刻が早くなっていった。今では私が帰る時間には完全に暗闇だ。いつにも増して憂鬱になりやすく嫌になる。
いつも隣にいるはずの存在が数ヶ月いないだけでこんなにもか、とぼんやり回る頭をそのままに、自宅への帰り道を急ぎ足で進む。家路はずっと冷たい風が吹き荒び続けていた。
帰り着いた自宅は外とたいした寒暖差はない。玄関でスニーカーの紐を解いていると、いきなり腹が間抜けな音で鳴った。
落ち込んでいてもお腹は減る。当然の人間の摂理になぜか泣きたくなった。
さっそくビニール袋から取り出した弁当をこたつの上に置く。寂しさを紛らわすためにテレビの電源をつけて、粗末なゆうげを開始した。
ニュース番組を流し見ながら、冷めた弁当をもそもそと咀嚼する。
(歯磨きまで終わったかな。あとで電話しよ)
温めなおした乾燥ワカメだけの味噌汁をずずっと音を立てて啜る。味噌汁を全部飲みきりふと目を落とすと、弁当がほとんど手付かずの状態だった。
「ああー……しんど」
食欲を失った声は、自分のものとは思えないほどとても乾いていた。

11/16/2024, 2:40:11 PM

あの男のもとに来てから、もう何日経つだろう。
自発的に来たわけではない。強制的に連れてこられたのだ。それも〝自分から〟の体を装わされて。
『了承しなけりゃ、こいつら全員殺すぜ』
こちらの側近の首に刃を当てながら、そう言ってのけたあの男の顔に嫌気が差した。なまじ整った顔立ちをしているぶん、嫌悪感はいや増す。
自分が言えた義理ではないが、なんてこずるい男だと奥歯を噛みしめた。要求を飲んだときの、側近の絶望した顔が忘れられない。
扉の前の気配に気を配る。見張りの男が扉の両隣に二人。屈強な男の空気がする。よほど逃げられるのが怖いらしい。
悟ったわけではないが、今のところは脱走を諦めて、切り取られた窓を見る。時間が分からないが、外はもう暗く、空に星が瞬いていた。ちらちらとひらめく星を見ていると、男のもとへ行くことを許諾したときの、側近の絶望の顔を思い出す。
あんな顔をさせるくらいなら、要求を飲まないほうが正しかったのかもしれない。だがあの男の言う通りにしなければ、側近を含めその場で皆殺しにされていた。そう考えると、やはり正しい選択だったと思う。
けど、と寂しく思う自分もいた。
(最後に見る顔があんな顔なんて、やっぱりやりきれないわ)

11/15/2024, 1:15:15 PM

私は目の前の人物に対する無礼も構わず、思わず眼前の光景を凝視してしまった。
(宰相が……小さき生き物を抱いている)
目を剥きながら視線を逸らせない私を、宰相は氷のように冷たい瞳によって射抜いた。
「なんだ」
たった一言。それだけなのに、まるでその一声で世界を支配できてしまうのではないか、と錯覚を覚えるほどの重たい音。
聞く者の意思を捻じ曲げるような低い声は、逞しい喉を震わせて発せられる。宰相補佐に着いてからもうずいぶん経つというのに、私はふいに聞くその声にいつまでも慣れることができない。
「その、猫」
私は口を間抜けにあけたまま、宰相の膝の上に寝転がっている小さな黒猫を指さした。彼は「ああ」と極めてめんどうくさそうに答えた。
毛玉やほつれというものを知らないその黒猫の艶々とした毛並みのなかに沈む宰相の武骨な指は、いっさい毛に絡みつくことなく、すいすいと泳ぐように梳かれてゆく。黒猫を愛でる手つきは恭しいを通り越して、もはや淫靡なものに思えてならなかった。
「あいつに」
「は」
我ながら間の抜けた声を出してしまった自覚を持った直後、宰相がいきなりまだ小さな黒猫の首を片手で掴み上げた。それまで腿の上で安らいでいたはずの猫は、突然の暴挙にたまらず鳴き声とも取れない悲鳴を上げる。
「似てるだろ、あいつに」
彼は自身の整った相貌にぐっと黒猫を近づける。猫が持つ爪で傷つけられることも厭わないらしい。だが意外にも、黒猫は首根っこを掴まれたまま静かにしていた。睨んでいた、という表現のほうが正しい。
だが表面上は文字通り借りてきた猫のように大人しくしている黒猫を見て、宰相は自嘲するように言った。
「ま、こいつはオスだけどな」
「……メスも揃いにしてはどうですか」
「言われなくてもそうすらあ」
黒猫をゆっくり地面に着地させると、猫はさっさとあらぬ方向へ逃げていった。
その光景を見届けた宰相は、愉悦を含んだ表情を歪ませて笑った。

11/14/2024, 11:21:50 AM

秋風が似合う美人。そう言われてさっと思いつくのは、佐々木希。
もしもあの薄茶がかった瞳に秋波を送られたら、面食いの私はきっと卒倒してしまう。
彼女はたしか秋田出身では。
秋田美人とはよく言ったものだが、秋がちなんでくる人や土地には、なんとなく美しい人や景勝地が多い気がする。

Next