しぎい

Open App

あの男のもとに来てから、もう何日経つだろう。
自発的に来たわけではない。強制的に連れてこられたのだ。それも〝自分から〟の体を装わされて。
『了承しなけりゃ、こいつら全員殺すぜ』
こちらの側近の首に刃を当てながら、そう言ってのけたあの男の顔に嫌気が差した。なまじ整った顔立ちをしているぶん、嫌悪感はいや増す。
自分が言えた義理ではないが、なんてこずるい男だと奥歯を噛みしめた。要求を飲んだときの、側近の絶望した顔が忘れられない。
扉の前の気配に気を配る。見張りの男が扉の両隣に二人。屈強な男の空気がする。よほど逃げられるのが怖いらしい。
悟ったわけではないが、今のところは脱走を諦めて、切り取られた窓を見る。時間が分からないが、外はもう暗く、空に星が瞬いていた。ちらちらとひらめく星を見ていると、男のもとへ行くことを許諾したときの、側近の絶望の顔を思い出す。
あんな顔をさせるくらいなら、要求を飲まないほうが正しかったのかもしれない。だがあの男の言う通りにしなければ、側近を含めその場で皆殺しにされていた。そう考えると、やはり正しい選択だったと思う。
けど、と寂しく思う自分もいた。
(最後に見る顔があんな顔なんて、やっぱりやりきれないわ)

11/16/2024, 2:40:11 PM