ときどきあんたはかんしゃくを起こす。
あんたは寝たきりで、僕の助けがなければ日常生活を送れない。
それでもあんたは僕の星だ。
たまに殺したくなる。
あんたはそれを敏感にかぎとって、「殺して」とねだってくる。
弟を殺人者にしようとしていても、あんたは僕の星だ。
「なんで殺してくんないのお」と僕をなじってくる顔は、醜悪そのもの。
それでも唯一の家族だから、あんたは僕の星だ。
叶えたいほどの願いは持っていない。
つくづく枯れてるなと思う。
それも仕方ない。だって病気なんだもん。
……でも、こうやって病気を盾にする人。現実にいたら絶対に嫌だよなあ。
「私は絶対にいや。友達になれない。ていうかなりたくない。むかつく」
私を外着に着替えさせていた彼は、驚きと呆れがないまぜにされたような顔をした。
「あんた、自分の今の状況わかって言ってんのか」
もう感覚が通っていない腕も脚も、あなたに触れられると熱い気がする。
なんだか分からないけど、涙が出てきた。
(飼ったことないけど、犬がうれションするのってこんな感じかな)
昔はおっそろしいことしてた。雪食べたり。子供って平気で汚いもん食うんだな。子供に限らずだけど。
雪食おうとしてる子供見るとオエエってなる。でも具体的に雪の何が汚いのかは分からないまま。雪は汚いってイメージを持ったまま大人になった感じ。
もしかして雪が汚いのって私の偏見で、実はきれいなのかもしれない。
雲の中を通ってくるからうんぬんかんぬん教えられたけど、そんな大昔に聞いた言葉なんか遥か彼方だし。
食ってみようかな。雪。あ、でももう降らないんだ。北の方に行けば食えるかな。
早く帰ってきて。急がず。ゆっくりと。でも早くね。なるべく。
寂しくなる。寂しい。いつもこの時間は。もうすぐあなたが帰ってくる時間は。だからこそ寂しいんだろうな。
寂しい。寂しい。こたつが熱いのに消せない優柔不断すぎる性格が寂しい。熱くなれない自分が寂しい。痛み止めに依存して濫用する自分が寂しくて虚しい。虚しいのはなんで。ねえなんで。
明日から生理だ、多分。お腹っていうかなんか腰が痛いから。無駄に流す血も虚しい。体重が三十キロ切ってたときには生理来なかった。でもまた……………つまる。
考えが煮詰まったときって、お風呂場の流れるところに髪の毛が溜まって、流れなくなるのと似てる。黒い髪ね。
雨が止んできた。鍵が開く音がする。誰かしら?
いつだろうねえ。いつだ。いつ芽吹くのか。もういい大人なのにまだ芽吹かない。
そもそも芽吹くってなんだ。花から芽が出る以外にあるのか。人から芽が出るもんか。人から芽が出たらグロホラーだわ。比喩だとしても怖すぎる。
よく考えたら比喩のほうが何万倍も恐ろしかった。子供部屋の悪夢。待っても待っても来ない芽吹きのときを待つこと。
芽といえばつくしがすきだった。でもあれ下処理がすごいめんどい。近くの野っぱらから摘み放題だったからタダ。でもあれすっごい怖いことしてた。どこに散歩中の犬のションベンかけられてたか分からないんだから。
この前久々にもらって食べたら、えぐくておいしくなかった。ああいうのってむしろ子供のときは苦手で、大人になるにつれ好きになっていくんじゃないの。私逆行してる?逆行ていうか退化?
最近はなんでもおいしくない。おいしくないってのは言いすぎだけど、何を食べても楽しくない。でも出すもん出すために食べてるって感じ。好きなものはやわらかいパン。噛む力も退化してんのか。