『善悪』
いつもありがとうございます。
体調を崩してしまってスペースのみです。
善悪なんてどうでもよくなるくらいに彼女ちゃんに溺れてほしいという、ドロドロ彼氏くんを書きたかったのです……😭
『流れ星に願いを』
デートから帰宅した休日の夜。
風呂に入り、寝支度を整えて、彼女とふたり揃ってベッドに入った。
「れーじくん……」
同棲を始めて季節が一周したにもかかわらず、彼女が1日の終わりを惜しむように俺の名前を呟く。
「どうしました?」
不安そうにする彼女の背中に手を回した。
たったそれだけで、寂しげに揺れていた大きな瑠璃色の瞳が、安堵の色に塗り替わる。
「んーん。なんでもない。おやすみ」
無欲な彼女は一切の含みなく、心の底から幸せそうに口元を緩めて俺の腕からすり抜けた。
俺に無防備に熱の孕んだ眼差しを向けておいて、彼女は平気で「おやすみ」とのたまう。
たった今、俺は「おやすみ」どころではなくなったというのに、だ。
これが無意識だというのだから、タチが悪い。
「あ、ちょっと。おやすみは少し待ってください」
「え?」
無意識に煽り散らかす彼女に焚きつけられた俺は、意図的に対抗する。
「おやすみのチューがまだですよ?」
わざとらしく唇を突き出して顔を寄せていけば、彼女はケラケラと声をあげた。
「それはさっき、リビングでした」
「リビングでのそれは、歯磨きじょうずにできましたね♡ のチューだったはずです」
「ウソだぁ??」
チュッチュと彼女の頬や唇に冗談めかした軽やかなキスを繰り返す。
くすぐったさそうに穏やかな笑い声をあげて、彼女は俺の戯れを受け入れた。
だが、一向にキスをやめる気配のない俺に、彼女は苛立ちを見せ始める。
「んもっ、しつこいっ」
「なら、今日はあと1回したらおしまいにします」
「えっ」
その言葉を待っていたとばかりに、俺は上半身を起こして彼女に覆い被さった。
「ねえ、寝るん……だよね?」
今さら警戒レベルを高める彼女だが、もう遅い。
弛緩していく口元を隠すことなく、俺は彼女を見下ろした。
「ええ。俺が満足したら」
「なにそ……っ、ん!?」
彼女の言葉を強引に遮り、性急に深く舌を絡める。
彼女の呼吸はすぐに乱れて、頬も赤く染まった。
自分で「最後の1回」という発言を反故にするわけにもいかない。
心ゆくまで彼女の口内を堪能した。
そうしているうちに、酸欠になった彼女の目元からはらり、と生理的な雫がが溢れる。
頬を伝って常夜灯に照らされた涙の軌跡は、さながら流れ星だ。
本当はもう少し堪能したかったのだが、さすがに彼女が苦しそうでかわいそうになる。
後ろ髪をひかれながら唇を離して、ポロポロと溢れる彼女の涙を、祈るように指で拭った。
「おやすみなさい」
「ん、え……?」
熱を失った口元に、彼女は切なげに俺を見上げた。
「……」
理性をぐらつかせながら、俺は必死に取り繕う。
「キスしたら、寝る約束だったでしょう?」
「……違う」
唇を尖らせた彼女は、見透かしたように俺をにらみつけた。
彼女を焦らして求めさせる作戦は、どうやらバレていたらしい。
「れーじくんが、満足したら……、だったもん」
「なら、もう少しつき合ってくれますか?」
はにかみながらもうなずいてくれた彼女に、俺はもう一度キスをした。
『ルール』
彼女と俺とでは住む世界が違う。
俺にとっては、彼女と出会えたことすら奇跡とすら感じていた。
そんな彼女と恋人という関係に進展したあと、俺の大学卒業という一大イベントを利用して同棲を始める。
他人との共同生活に慣れているせいだろうか。
プライベート空間に俺という異物が紛れていようが、彼女は器用に振る舞ってその存在を受け入れていた。
緊張の糸を張るほどでもないが、完全に緩んでいるわけでもない。
彼女は俺に甘やかされてくれるし、繊細で柔らかな心にも触れることを許してくれた。
一方で、頑なに触れさせてくれない場所もある。
絶妙に不安定な彼女の心を土台に、俺は恋という感情を植えた。
容赦なく水をあげ続け芽が出てきたところで、同棲という肥料を与えて彼女の逃げ場を塞ぐ。
遅かれ早かれ、いつか彼女は限界を迎えるはずだ。
どうせダメになることがわかっているのに、せめて彼女がのびのびと過ごせるように共同生活にあたっての大雑把なルールを決める。
悪あがきにしかならないが、少しでも彼女側にいたいと願う俺にできることなど、たかがしれていた。
具体的には家事や生活費のやりくり、レシートや領収書の整理である。
彼女にとって煩雑な部分は全て俺が引き受けた。
「ねえ」
しかし、今。
絶対零度の眼差しで俺を睨みつける彼女によって、新たなルールが追加されようとしていた。
「今後一切、こういうことするのはやめてくれる?」
「…………はい……」
甘く幸せの余韻に浸るはずのピロトークは、彼女の冷ややかな声で崩れ去る。
ベッドの上で全裸で正座する俺をよそに、彼女は脱ぎ捨てられた服を素肌の上に纏っていった。
*
ことの発端は1時間ほど前に遡る。
互いに理性を溶かし合っていたときに、突如、俺の携帯電話が鳴り響いたのが原因だ。
集中力を欠いた彼女が電話に出ることを許してくれたから、俺はそれに応じる。
そこまではよかった。
おそらく、繋がったままの状態で、俺が赤の他人と会話したこたがよくなかったのだろう。
携帯電話を投げ捨て、仕切り直しと言わんばかりに心ゆくまで彼女の体温を堪能した。
その後、ベッドに雪崩れ込もうとしたタイミングで、彼女は強引に理性をかき集める。
「おい、そこ座れ」
「はい」
彼女の怒りの原因に心当たりしかない俺は、すぐさま正座をした。
それが今である。
「そもそも、あなたが電話に出ていいって言ってくれたんじゃないですか」
「だって!? ……ぬ、抜いてくれると思ったんだもんっ!」
「なにをですか?」
あんまりにもかわいく照れるから、言わせようと欲張ったバチが当たった。
ドゴンッ、とそこそこ本気の力で小突かれる。
「あだっ!」
「……」
これも彼女の愛の重みだと都合よく変換して受け止めた。
「ちゃんと約束して」
「わかりました」
俺の返事に満足した彼女は俺に背を向けて、薄手になったばかりの毛布に包まった。
彼女の気がすんだところで俺も隣に潜り込む。
「あ、あと……さ」
そっぽを向いてしまった彼女を抱き寄せるために腕を伸ばしたとき、手の甲の皮膚を指で摘まれた。
「……な、なんでしょう?」
まだなにか言い足りないのか、どこかふてくされた彼女の声音に冷や汗が流れる。
「できたら、き、キスもちゃんと、してほし、い……」
「わかりました。って、あー……?」
あー……、あぁ?
あああぁぁーーーー……??
言われてみれば、確かに?
「今日は途中から、してませんでしたね?」
そっぽを向いたままいじけている彼女の耳は、真っ赤に染まっている。
にぎにぎと俺の手を握る彼女の指先はまだ熱いままだった。
俺は、そのいじらしく赤くなった耳朶を食む。
「でも、そっち向いてたらできませんよ?」
「み゛ゃ!?」
弱い耳を刺激されて、勢いよく振り向く彼女の唇をそのままさらっていく。
うれしそうに俺の唇を受け止めてくれる彼女に、俺はもう一度、跨った。
『今日の心模様』
ちょうど風呂からあがったのか。
調子のはずれた鼻歌を刻む彼女と、俺の帰宅が被り、玄関先でバッティングする。
ホカホカになってほんのり頬をピンク色に染めた彼女と目が合った。
彼女は湿り気を帯びた目元と、血色のよくなった唇をヘラッと緩める。
「あ。おかえ」
ダンッ!
彼女の言葉を玄関の扉を閉めることで遮った。
俺はその場でジャケットと鞄を捨て置き、手を洗う。
それから、呑気にも俺の様子を見守っていた彼女の手を引いて、寝室に連れ込んだ。
あえてベッドを視界に入れないようにして、彼女を衣装ケースの前に立たせる。
洗濯が苦手な彼女に代わり、アウターからインナーまで、彼女の洋服を管理しているのは俺だ。
3段あるうちの1番上の引き出しを開けた俺は、丁寧に並べて整えた彼女の下着を吟味する。
「今日のあなたの気分は……」
あれ?
ズラッと鎮座するスポーツ用の下着に、眉間に皺が寄っていくのを自覚した。
スポーツを生活の軸に置いている彼女は、シンプルなスポーツ用の下着を身につけることが多い。
だからこそ、時々身につけてくれる華美でエッチな下着姿はたまらなく興奮する。
だが、その彼女の華美でエッチな下着が見当たらなかった。
見ているだけで俺の気分が上がるし、ワンチャン彼女から夜のお誘いを期待して手前に並べているのに、毎回ケースの奥底に追いやられている。
今日もこのパターンのようだ。
素っ裸で玄関前を闊歩することは照れないクセに、下着は恥ずかしがるのなんなんだ、本当に。
とりあえず、俺は奥にいるピンクのヒラヒラな下着目がけて腕を伸ばした。
その腕に彼女の両腕が絡まる。
「それは着ないからな?」
ぎゅうぎゅうと締めつけるが、彼女は今、服を着ていないことを忘れているのではないだろうか。
奥ゆかしく膨らんだ胸の感触に天を仰いだ。
はあああぁーーーーーー。
生殺しにもほどがある。
「パンツを並べ替えたついでに、服は着れましたよね?」
「だって、暑くなっちゃったんだもん」
なにが「だって」で、なにが「もん」だ。
かわいいな?
俺の目があるゆえか、彼女は普段身につけているスポーツ用の下着ですら羞恥でいっぱいいっぱいになり、選べなくなってしまった。
彼女に代わり、黒の下着を手に取る。
「今日はこっちなんじゃないですか?」
「へっ!?」
「違いました?」
機嫌がいいとき、彼女は黒色の下着を好む傾向がある。
図星なのか、彼女は真っ赤な顔で眉毛を下げた。
「な、なんでわかるのぉ……」
「まあ、あなたのことなんで?」
何年も彼女に恋焦がれてきたのだ。
ざっくりとした彼女の心模様くらいなら把握できる。
楽しそうにしているときは特にわかりやすかった。
「俺も風呂してくるんで、その間に、ちゃあんと服を着てくださいね?」
「……」
本当に暑いのか、彼女は無言で拒否を示しやがった。
この期に及んで……。
まだ渋るか。
「俺、これでもめちゃくちゃガマンしてるんですよ?」
据え膳を放置するほど、俺も男は捨てていない。
というか放置なんて無理だ。
許されるなら今すぐしゃぶりつきたいくらいなのに。
「下着だけで俺の目の前をチョロチョロしたら、さすがにどうなるかくらいはわかりませんか?」
俺なりの執行猶予を言い渡して、俺は寝室を出るのだった。
『たとえ間違いだったとしても』
いつもありがとうございます。
仕事が終わらずスペースのみです😭