すゞめ

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『今日の心模様』

 ちょうど風呂からあがったのか。
 調子のはずれた鼻歌を刻む彼女と、俺の帰宅が被り、玄関先でバッティングする。
 ホカホカになってほんのり頬をピンク色に染めた彼女と目が合った。
 彼女は湿り気を帯びた目元と、血色のよくなった唇をヘラッと緩める。

「あ。おかえ」

 ダンッ!

 彼女の言葉を玄関の扉を閉めることで遮った。
 俺はその場でジャケットと鞄を捨て置き、手を洗う。
 それから、呑気にも俺の様子を見守っていた彼女の手を引いて、寝室に連れ込んだ。
 あえてベッドを視界に入れないようにして、彼女を衣装ケースの前に立たせる。
 洗濯が苦手な彼女に代わり、アウターからインナーまで、彼女の洋服を管理しているのは俺だ。
 3段あるうちの1番上の引き出しを開けた俺は、丁寧に並べて整えた彼女の下着を吟味する。

「今日のあなたの気分は……」

 あれ?

 ズラッと鎮座するスポーツ用の下着に、眉間に皺が寄っていくのを自覚した。
 スポーツを生活の軸に置いている彼女は、シンプルなスポーツ用の下着を身につけることが多い。
 だからこそ、時々身につけてくれる華美でエッチな下着姿はたまらなく興奮する。
 だが、その彼女の華美でエッチな下着が見当たらなかった。
 見ているだけで俺の気分が上がるし、ワンチャン彼女から夜のお誘いを期待して手前に並べているのに、毎回ケースの奥底に追いやられている。
 今日もこのパターンのようだ。

 素っ裸で玄関前を闊歩することは照れないクセに、下着は恥ずかしがるのなんなんだ、本当に。

 とりあえず、俺は奥にいるピンクのヒラヒラな下着目がけて腕を伸ばした。
 その腕に彼女の両腕が絡まる。

「それは着ないからな?」

 ぎゅうぎゅうと締めつけるが、彼女は今、服を着ていないことを忘れているのではないだろうか。
 奥ゆかしく膨らんだ胸の感触に天を仰いだ。

 はあああぁーーーーーー。
 生殺しにもほどがある。

「パンツを並べ替えたついでに、服は着れましたよね?」
「だって、暑くなっちゃったんだもん」

 なにが「だって」で、なにが「もん」だ。
 かわいいな?

 俺の目があるゆえか、彼女は普段身につけているスポーツ用の下着ですら羞恥でいっぱいいっぱいになり、選べなくなってしまった。
 彼女に代わり、黒の下着を手に取る。

「今日はこっちなんじゃないですか?」
「へっ!?」
「違いました?」

 機嫌がいいとき、彼女は黒色の下着を好む傾向がある。
 図星なのか、彼女は真っ赤な顔で眉毛を下げた。

「な、なんでわかるのぉ……」
「まあ、あなたのことなんで?」

 何年も彼女に恋焦がれてきたのだ。
 ざっくりとした彼女の心模様くらいなら把握できる。
 楽しそうにしているときは特にわかりやすかった。

「俺も風呂してくるんで、その間に、ちゃあんと服を着てくださいね?」
「……」

 本当に暑いのか、彼女は無言で拒否を示しやがった。

 この期に及んで……。
 まだ渋るか。

「俺、これでもめちゃくちゃガマンしてるんですよ?」

 据え膳を放置するほど、俺も男は捨てていない。
 というか放置なんて無理だ。
 許されるなら今すぐしゃぶりつきたいくらいなのに。

「下着だけで俺の目の前をチョロチョロしたら、さすがにどうなるかくらいはわかりませんか?」

 俺なりの執行猶予を言い渡して、俺は寝室を出るのだった。

4/24/2026, 9:20:02 AM