『祈りを捧げて』
しんど。
職場のデスクでコーヒーをあおる。
パソコン画面のブルーライトが目に刺さり、眼鏡の下から目頭を押さえた。
彼女の、年内を締めくくる試合が今日から始まる。
彼女の出る試合チケットを全て取ったのに、どうにも仕事の調整がうまくいかなかった。
結局、現地にも行けず、配信を見ることもできていない。
大会2日目を終えたであろう彼女のメッセージで試合結果を知ったくらいだ。
『勝ったよ』
シード枠から危なげなく2回戦を勝利したらしい彼女の文章は、シンプルにまとめられている。
『お疲れさまでした。初戦から見に行けなくて残念です』
彼女のシンプルなメッセージに対して、俺は負担にならないようにお気持ち表明だけしておいた。
仕事の調整に失敗した俺が、直接、彼女の勇姿を目に焼きつけることができるのはよくて大会の最終日。
昨年の不調が嘘のように、今年の彼女は好調だ。
だが、相変わらず危なっかしい彼女が、決勝戦まで勝ち上がることができるのか。
祈るような気持ちで、彼女とのトーク画面の前で手を組んだ。
俺が祈ったところで結果が変わるわけでもない。
それでも、祈らずにはいられなかった。
「がんばれ」
溢れた言葉は頼りなくメッセージアプリの画面に落ちていく。
『決勝で待ってる』
ぽこん、と、勝利しか見ていないギラついた文面が送られてきた。
なんで俺が戦うみたいに……?
暗に、さっさと仕事を終わらせろという意味なのだろう。
俺としても、彼女を待たせるのは本意ではなかった。
『かんばります』
それだけ打って、メッセージアプリを閉じる。
再びパソコンに向き合って、俺はキーボードを叩くのだった。
『遠い日のぬくもり』
いつもありがとうございます。
今日もスペースのみです。
12月14日のお題『星になる』を更新しました。
お足元が悪いですがご自愛してお過ごしくださいませ。
『揺れるキャンドル』
家に帰ると、嗅ぎ慣れない匂いがほんのりとリビングに広がっていた。
燻した香りに不快感はない。
とはいえ、なにをしているのかは気がかりなので、ローテーブルに突っ伏している彼女に声をかけた。
「なにしてるんです?」
「んー……」
上から覗き込んでみると、小さな陶器でなにかを炙っていた。
アロマポットみたいなものだろうか。
優美で華やかなフレグランスとは違う系統の香りだが、陶器の中にはロウソクが立てられていた。
ぽやぽやとひとりの世界に浸っていた彼女が体を起こし、すぐ横に置かれた空箱を寄越す。
「茶香炉って言うんだって」
「ほお?」
箱の説明書きにザッと目を通すと、茶葉に熱を加えて香りを楽しむ香炉だそうだ。
ちなみにアロマオイルも焚けるようで、俺にはますます違いがわからない。
とりあえず、リビングに漂うほのかな香りは、煎茶の茶葉を燻したものだということは理解した。
「どなたかからの頂き物ですか?」
身だしなみの一環で香水をつけてはいるが、彼女は香りで個性を出すことを好まない。
控えめで穏やかな香りではあるが、彼女らしからぬ行動には違和感を覚えた。
俺の疑問に、彼女は茶香炉の小さな窓からキャンドルの火を静かに覗き込みながら答える。
「ガラガラで当たったの」
「ガラガラ……」
ショッピングモールに寄った際、年末商戦の一環で行われた福引で引き当てたそうだ。
ポケットティッシュ以外のものなんて、当てた試しがない。
彼女の引きの強さに素直に感心した。
「こういうの、れーじくんが好きそう」
「どういうことですか」
「だって、いつもいい匂いがするもん」
彼女がいきなり鼻先を俺に向かって近づけてくるので、慌てて距離を取る。
「ちょ!? さすがに今は勘弁してくださいっ」
まだ風呂にも入っていないのだ。
日中はけっこう動いたから、汗もかいたに違いない。
「ケチ」
「ばっちいからダメです」
頬を膨らます彼女の幼い仕草に、フッと息が溢れた。
「風呂、入ったあとならいいですよ?」
「じゃあ、待ってる」
からかい混じりに言えば、彼女がふにゃふにゃとした笑みを浮かべる。
「待ってるから、早くギュウってしてね?」
はにかみながらも素直に甘えてくる彼女が愛おしすぎて、胸の奥が苦しくなった。
ギュウでもチュウでもいくらでも……っ!
キュンキュンと胸の高鳴りが収まらないまま、俺は立ち上がる。
「速攻ですませてきます」
「いってらっしゃいー」
まろやかな笑みで見送られたあと、俺は爆速でシャワーを浴びた。
風呂を終えて再びリビングに戻れば、彼女は健やかな寝息を立てている。
最後の力を振り絞ったのか、茶香炉の火は消えていた。
……うん。
知ってた。
なんか既に眠そうだったもんな。
ちょっと起きたりしないかな?
なんて期待をしながら、ふわふわなほっぺたを突いてみるが微動だにしなかった。
泣く泣く、俺は彼女を抱えて寝室に向かう。
彼女に弄ばれた分は、翌朝に取り返してやろうと誓うのだった。
『光の回廊』
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いつもありがとうございます。
表現には気をつけていますが、露出が多いです。
普通にいたしておりますので、苦手な方はスクロールして「次の作品」をクリックするなどして自衛をお願いいたします。
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寝室の常夜灯が彼女の背中を優しく照らす。
律動に合わせて肩甲骨や腰が艶かしく揺らめき、影を作った。
背中にできた流動的な光の回廊を指でなぞる。
刺激に我慢しきれず小さな口から溢れる甲高い嬌声に、俺の熱も昂った。
「気持ち、ね?」
「ぁ、うっ……、ンんっ」
彼女は涙ぐんだ声をあげながらも、健気に俺と言葉を交わそうとする。
浅くなった呼吸のまま、彼女は身を捩ろうとした。
乱れた青銀の髪の毛に隠れた頸を掴む。
「ダメ」
彼女の小さな背中に照らされていた光を、全て俺の影で塗り潰した。
彼女と限界まで密着したせいで、ただでさえ狭い彼女の奥がきつく締め上げられる。
「つっ……!」
確実に迫り上がってくる吐精感を、彼女の細い腰を掴むことでごまかした。
ゴリュッと品のない水音を立てながら彼女の逃げ道を塞ぐ。
「んぅううっ」
彼女は、枕に顔をキツく埋めて抑えられない声をあげた。
今、汗と涙でぐちゃぐちゃになった彼女の顔を見たら耐えられる気がしない。
もう少しだけでいいから、彼女の一番火照った場所で繋がっていたかった。
「もうちょっと、だけ、堪能させて?」
震える彼女の頸に跡が残らない程度に歯を立てて、皮膚を舐る。
「愛してる」
彼女の背中の清艶な美しさを知り得るのは俺だけだ。
きっと、彼女ですら自覚していない。
光を覆い隠した独占欲を、1枚の薄膜を隔てて吐き出した。
*
下着を履き直して彼女の隣に潜り込む。
横になった瞬間、全身を倦怠感が襲った。
彼女の頭の下に腕を差し込み、抱き抱える。
モゾモゾと収まりのいい位置を探した彼女は俺に体重を預け、大きな瑠璃色の瞳を閉じた。
無防備にキスをねだる彼女の期待に応えて、唇の上で軽やかなリップ音をたてる。
キスを受け止める彼女に、先ほどの色香はなかった。
唇を離したあと、彼女の乱れた髪の毛を横に流す。
「すみません。最後、無理させました」
枕で強く擦ったのか、赤く腫れた彼女の目元に触れた。
微かに震える睫毛の感触が指先をくすぐる。
「謝るくらいなら、後ろからするのやめて」
ここは「気持ちよかったから大丈夫♡」なんて、かわいく恥じらう場面のはずでは?
あれだけ敏感に反応していたのにもかかわらず、彼女のふてくされた物言いに俺は目を見張った。
がっつきすぎて痛かったり怖い思いをさせてしまったのか、一気に心配になる。
「もしかして、よくなかったです?」
「え? あ、ち、違う」
あけすけな俺の言い方に、彼女の頬に熱が集まった。
「ちゃんと、気持ちかったけど、そうじゃなくて……、ね?」
いったいなんの同意を求められているんだ?
チラッと上目遣いで見つめられても困る。
かわいさの破壊力が凄まじく、賢者タイムも合わさって思考がうまく回らなかった。
吐き出したはずの熱がぶり返しそうになる。
「私だけ、れーじくんにギュッてできないのずるいじゃん」
子どもっぽく俺の胸元で額をグリグリと押しつける彼女の頭から腕を引き抜き、押し倒すように覆い被さった。
「なら、もう1回します?」
「えっ」
目を見開いた彼女の首筋から鎖骨のラインをなぞれば、余熱を残した肌が燻り始める。
そのまま下腹部まで指を滑らせて内腿を開かせた。
素直に脚を開く彼女に期待をしながら、俺は狡い聞き方をする。
「俺はつき合えますけど、どうしますか?」
しばらく無言で彼女は俺を見つめていた。
その瞳は徐々に熱を孕み、恍惚とした表情へと変わっていく。
先走る心音がうるさく耳奥で響き始めたとき、躊躇いがちに彼女の両腕が背中に回された。
彼女の下腹部が物欲しげに揺れ、俺は都合よく合意を得たと解釈する。
「好きなだけ、ギュッてしてくださいね?」
小さくうなずいた彼女の唇を塞ぐ。
寝室に舞う艶やかな彼女の声に翻弄されながら、俺は再び、彼女との境界線を曖昧にしていった。
『降り積もる想い』
いつもありがとうございます。
スペースのみです💦
楽しみにしていたチョコファッションドーナツを家族に食べられてしまっていじけてました😇
まとめるのが難しそうな『時を結ぶリボン』を先に更新しています。
お題が既に詩的でこれは放置するといつまでも書かないだろうなってなりまして、勢いで仕上げました。
「リボン」とは少し異なりますが、ご興味がありましたら目を通してくださるとうれしいです。
本日もご自愛してお過ごしくださいませ。